東京喰種 【GLF】喰種解放戦線   作:トミナカ・ビル

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episode14:革命の始まり

 

 夕暮れが迫り、海が赤く染まり始めている。アリサは指揮車両として使っているトレーラーから出て、港湾部に立っていた。

 

 このあたりは11区の中でも、まだあまり開発が進んでいない地区で空地が散在している。CCGの捜索から逃れて指揮をするには、持ってこいの場所だ。

 

『――準備は出来ているな』

 

 ノートパソコンのディスプレイ越しに、清水の声がした。

 

『今回の作戦には一般の喰種も多く参加している。だが、まともな武器さえあればCCGに遅れはとらん』

 

 テレビをジャックした清水の扇動に乗せられて、GLFへの参加を希望する喰種が急増していた。

もちろんこれも計画の内である。清水たちは最初から大量の喰種を動員して、“民主的”な革命を達成する算段であった。

 

 そのためには、訓練されていない喰種を戦力とする手段―—武器の大量供給が必要条件だった。

 

「大丈夫っすよ。今まで何のために、時間と金かけて東南アジアの麻薬組織とか、ロシアンマフィアなんかとコネ作ったと思ってんですか」

 

 アリサの返事に、清水が満足そうに頷く。その口元には笑みが浮かんでいる。

 

「俺はこの日を、ずっと夢見て生きて来た。たとえ生き恥を晒すことになろうと、な」

 

 

 清水たちが蜂起を宣言してから半日と経たないうちに、東京に住む喰種の約半数が「解放戦線」と共に戦う道を選んでいた。

 

 ここまで大規模な動員が出来たのには理由がある。今回の蜂起に参加している喰種のほとんどは、清水たちの“顧客”だからだ。

 

 

 つまりGLF――喰種解放戦線は清水たちの組織の一面でしかない。裏の顔は広範囲にわたる喰種と犯罪組織のシンジケートだが、表向きは喰種向けの様々なサービスを取り扱うコングロマリットだ。

 

中でも金融・保険といったサービスは重要な地位を占め、戸籍や定職を持てない喰種たちの唯一といっていい受け入れ先にもなっている。

 

 

 清水は組織力に優れ、それまでの「暴力によって力の強い喰種が弱い喰種を従える」という弱肉強食の風潮を否定した。

 

 互いに足を引っ張り合えば利益も減るし、CCGにも睨まれる。そうならないよう争いをなくして目立たず、潜在化することが利益に繋がるという清水の思想は中小の喰種グループの間に広まり、清水は彼らの頂点に君臨することになる。

 

 

 清水はさっそく入り乱れていた喰種グループの縄張りを固定し、無用な争いを避けるべく定期的な会合を設けることにした。

 

 その一方でCCGやシンジケートに加わらない喰種グループへからの防衛、組織に害を与える者への制裁機関として「喰種解放戦線」を組織する。この運営は合議制とし、清水自身も権力を誇示することなく、互いの公平な立場を強調した。

 

 

 こうして地方にある小規模な喰種の一犯罪組織に過ぎなかった「解放軍」は、清水がボスの地位についてから急速に規模を拡大する。

この躍進を陰で支えたのが、参謀としてマネジメントを一手に担ったアリサの存在だ。

 

 

 アリサの価値観の根底にあるのは「合理性」で、彼女は新時代を代表する喰種だった。

 

彼女は古いしきたりにこだわらず、それまでの血縁関係や仲間意識に従って動いていた喰種グループを、現代的なビジネス組織へと作り変えていった。

 

 彼女はすぐに喰種同士のコネクションが犯罪に応用できることに気付き、様々な裏ビジネスに手を染めていった。

 

清水と同様にアリサもまた、犯罪組織同士の共存共栄こそが利益につながると考えており、ヤクザや暴力団、といった人間の犯罪組織とも積極的に手を組んだ。

 

 

 たとえば武器などを扱う「警備部門」はロシア系マフィア、賭博やマネーロンダリングなどを扱う「金融部門」は中国系マフィア、ドラッグや水商売などを扱う「製造部門」「営業部門」はヤクザなどがそれぞれ主に担当し、横の連携を重視した緩やかな同盟関係を構築している。

 

 

 規模が拡大するにつれて民間企業を買収も行うようになり、ビジネスのノウハウを持った高学歴キャリア組のヘッドハンティングも行われた。

 

 こうしてアリサたちは恐喝や窃盗、売春のような小さな犯罪から、薬物売買、武器の密輸、競馬にパチンコといったギャンブルまで幅広く手掛け、ビジネスを多角化することで組織の安定化と繁栄に勤しんだ。

 

 その一方でアリサは慎重に事を運び、徐々に活動の中心を犯罪ネットワークの管理へと移していく。

たまに動く際も「不満を持つ者に技術や人員、資金や情報を提供する」という形をとるようになる。

 

さらにCCGの追跡をかわすべく、得られた利益を警官の買収、政治家への賄賂、役人の天下り先の提供などに使う事も忘れなかった。

 

 

 

「忘れるな。俺たちはただ破壊するわけじゃない。日本を、この世界を変えるんだ」

 

 清水の声には誇らしげな響きがあった。

 

「へぇ……結構ロマンチストなんですね」

 

 

 清水の目には、何が見えているのだろう。正直な話、アリサは清水が自ら現場に参加するとは思わなかった。それだけ、清水は今回の作戦を重視しているのだろう。 

 

「誰だって一度や二度ぐらい、理不尽な世界の壁にぶつかる事はある。その時に思わなかったか? 世界が変わればいいのに、と」

 

 言われてみて、アリサの脳裏に嫌な記憶がいくつも過ぎる。貧乏であること、純潔の日本人でないこと、女であること……社会の歪みは、いつだって弱者に向けられる。

 

 喰種は、ある意味ではその最底辺の存在だった。保護を受けられない、などという甘ったるいものではない。生きているだけで、常に命を狙われ忌み嫌われる存在だからだ。

 

「最初はただ、許せなかった。俺たちを否定するような社会なんて壊れてしまえばいい。だから若い頃の俺はテロを繰り返した」

 

 だが、テロでは何も変わらなかった……自嘲するように、清水がふっと息を吐く。

 

「社会は、そう簡単には変わらない。仮にCCGを潰したところで、放っておけばすぐに新しい第2のCCGが出来上がるだけだ?」

 

「いや、現在進行形で自分らがやってる事を、今さら否定されても困るんですけど……」

 

「いいか、アリサ。CCGの殲滅は目的じゃない、手段だ。俺たちはCCGを潰すことで、今まで奴らが隠蔽してきた『真実』を白日の下に晒す」

 

 そして『真実』が知れ渡った時、人間どもは絶望し喰種達は希望を抱く事になるだろう

 

「……俺はな、見せてやりたかったんだ」

 

 この社会に抗い、もがき苦しむ全ての同胞たちに。

 生まれながらにすべてを否定された、仲間たちに。

 

 彼らに決して与えられなかったモノ。それをこの手で与えるのだと。

 それは即ち――。

 

 

 『夢』と『希望』

 

 

 革命の全ては、その為にある。

 

 

 **

  

 

 アリサとの通信を切ると、清水はふっと苦笑した。

 

(……らしくない事をしたな。俺も齢をとったか)

 

 ネクタイを正し、バルコニーへと向かう。窓を開けると、爆発したかのような歓声が響き渡る。長年に渡って虐げられてきた者たちの、歓喜の声だ。

 

 熱気と狂気を肌で感じながら、清水は喰種達の前に立つ。

 

 

 

 清水たちの組織は「あんていく」のように表向きは通常の企業として活動する一方で、喰種向けの様々なサービスも展開している。

 

 今では、関東に住む喰種の大部分が「解放戦線」系列のサービスを利用しているといってもいい。

だから清水がCCGとの戦争を決めた時、ほとんどの喰種も自らの生命線である「解放戦線」と共に戦わう道を選んだのだ。

 

 目の前にいる喰種たちこそが、彼の兵士たち。彼の軍隊だ。

 

 

「戦争だ!!」

 

 喰種を人間の支配から解き放つべく、清水は唸るように吠えた。嚇子を頭上に掲げ、振り回して仲間を煽る。

 

 まるで何かに憑りつかれたかのように、喰種たちも口々に叫び始めた。

 

 ――戦争だ!大戦争だ!

 

 清水は血気はやる自分の軍隊を眺め、次に煙をあげる東京の街を指さす。

 

「人間どもを根絶やしにしろ。新しい時代の始まりを、連中に教えてやれ――!」

 

 再び、歓声。銃を空に向けて乱射する者もいた。誰も彼もが喜び、待ち望んでいた瞬間。

 

(……これでやっと、人間どもに復讐できる!)

 

 溢れんばかりのエネルギーを、怒りと殺戮衝動へと変えて。

 

 喰種の軍隊は、進撃する。

 

 ついに、人間の脅威を終わらせるときが来たのだ――。




なんとなくイスラム国っぽい雰囲気がしないでもない解放戦線
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