東京喰種 【GLF】喰種解放戦線 作:トミナカ・ビル
「くそっ、暗闇のせいで何も見えねぇ」
見張り台の縁に篠原と並んで立っている准特等捜査官・鉢川 忠は、双眼鏡を覗きながら忌々しげに呟いた。
敵発見の報告から数十分が経ったが、いっこうに喰種の軍勢は姿を見せようとしない。遠くから聞こえる喚き声や爆発音は着実に大きくなっているが、暗闇のせいでどこから来るのか特定できないのだ。
「仕方ない、作戦変更だ。照明灯をつけさせよう」
篠原の決定に、鉢川は難色を示した。丸眼鏡が鋭く光る。
「篠原さんよぉ、それじゃこっちの位置が敵にバレるだろうが」
「だとしても、だ」
明かりがなければ自分たちの居場所は隠せるかもしれないが、それは敵も同じ。そうなれば暗闇での戦いに慣れている喰種たちのほうに軍配が上がってしまうだろう。
それに―—と篠原は思う。喰種捜査官はともかく、ここにいる人間の大半は一般の警察官だ。特殊な戦闘訓練を受けていない彼らを少しでも戦力として活用するには、これしか方法は無いのだ。
しばらくして、篠原の命令に従って照明灯がぽつぽつと点き始めた。数合わせの為に車のヘッドライトなども混じっていたが、なかなか悪くはない。
(……いた!)
喰種の叫び声が一段と大きくなり、恐ろしいほどの速度で接近してくるのが見えた。単に道路を走ってくるのではなく、強靭な身体能力を生かしてビルの上をジャンプしながら移動している個体もいる。
喰種たちの方もこちらに気づいたらしい。叫び声が大きくなったかと思うと、暗がりの中から銃弾と羽赫の赫方が射出される。
「っ―—―—!」
喰種たちの銃撃は新宿駅の壁に穴をあけ、窓を割り、砂袋を積んだバリケードを叩いた。
「―—まだ反撃しちゃダメだ。十分に引き寄せてから撃つんだ」
篠原が待機を命じる間にも、喰種たちは彼らは休みなく撃ち続けいる。彼らの攻撃はぐんぐん近づき、標的が見えるようになるとますます激しくなった。
やがて輪郭がはっきり分かるぐらい喰種たちが近づいたとき、篠原は大音量で叫んだ。
「撃て!撃て!」
次の瞬間、人間たちの銃が一斉に火を噴く。続いてグレネードランチャーから催涙弾が発射され、喰種たちの一段が足を止めた。その隙に集中砲火が叩き込まれ、傷ついた喰種たちの甲高い悲鳴が響く。
「いいぞ! 皆殺しだァ!」
鉢川が叫んだ。羽赫クインケからガラス片のような嚇子を次々に射出し、近づく喰種を蜂の巣にしていく。
最初の一斉射撃で、多くの喰種たちが倒れていた。喰種は狙いにくい的だが、動きが止まれば話は別だ。こちらの方が喰種たちよりも位置が良い上に、銃を使い慣れている。
篠原は続けて、無線でビルに隠れていた捜査官の一隊に合図した。彼らは用意してあった火炎瓶に火をつけると、それを次々に道路へと投げ込む。
道路に落ちた火炎瓶は高い音を立てて割れると、瞬く間に燃え上がった。
「今だ!喰種たちの動きが止まったぞ!撃て、撃て、撃てぇ!」
火炎瓶によって生じた炎の壁に阻まれ、動きを止めた喰種たちに銃弾が降り注ぐ。
喰種たちの先頭部隊は炎と銃弾に囲まれ、パニック状態に陥っていた。煙で周囲が見えないためか、あらぬ方向に赫子を出しては警官隊の集中射撃によって倒されていく。
それでも何人かの俊敏な喰種たちはジグザグに移動しながら、銃弾の雨を掻い潜って近づいてくる。
「くそ!」
新人捜査官たちが、銃を連射しながら悪態をつく。必死に照準を合わせようとするも、すばしっこい上に動きが不規則なので弾がまるで当たらない。
すると見かねた様子の鉢川が新人に近づき、「そのライフルを貸せ」といって銃を受け取った。
「無駄弾は使うな。こういう時は、面で制圧するんだ」
鉢川は銃床をしっかりと肩につがえると、大型トラックのタイヤ付近にある燃料タンクに照準を定める。あれを狙った方が簡単だ―—平子が引き金を引くと同時に、トラックの燃料タンクから大量の燃料が噴き出す。
―—―が、爆発は起こらない。
「おい、鉢川……」
こういう時はトラックごと吹き飛ぶような大爆発が起きるのがセオリーだろ、思わず篠原は内心でツッコむ。残念なことに、現実の燃料タンクは映画より安全性が高いらしい。
だが次の瞬間、タンクから流出した燃料が火炎瓶に引火して炎上した。炎は燃料の流れに逆流していき、タンクまで達すると大爆発を起こす。近くにいた4、5体ほどの喰種が巻き込まれて消し炭になっていく―—。
「………」
何か言いたげに、無言で篠原を見つめる鉢川。
「……よくやった鉢川、その調子だ」
喰種たちの進撃が止まったのを見て、篠原はガッツポーズをとった。
最初の攻撃を食い止めれば、こちらが有利になる。防衛拠点を維持し続ける以外に、守り切る道はないのだ。
◇◆◇
その頃、アリサたちの基地ではオペレーターたちが各地にいる部下から連絡を受けていた。
「CCGは大部隊を3区および4区に移動中です。こちらの被害も多数出てる模様!」
「それは何より♪」
アリサは満足そうにうなずくと、執務室とは反対側のドアを見る。開け放たれたドアの先には、武装した迷彩服の兵士たちが整列していた。
「さぁ、第2幕といきましょうか」
その号令にあわせ、オペレーターたちがキーボードのリターンキーを叩く。途端に彼らの前のモニタ上に映し出されていた大量のデータが消失、それに合わせて日本中で騒ぎが拡大していた。
すべての金融情報が消去され始め、銀行の口座情報、株式市場の取引情報、先物取引の情報などありとあらゆるデータが次々にかき消されていく。
アリサたちの前では、ハッキング済みの警備会社の監視カメラの映像から、日本中で繰り広げられている騒ぎの様子が映し出されていた。
**
その日、日本中で緊急警報が同時に発せられた。
――名古屋の鉄道管制室では、全てのモニターが突然フリーズした。
――成田空港の司令塔では、航空管制ネットワークがシステムダウンを起こした。
国土交通省のサーバがダウンすると同時に、東京都内のすべての信号が消えてしまっていた。高速道路のETC、東海道新幹線、JR山手線……いまや日本中の交通網が麻痺していた。
とある銀行の窓口では、受付嬢が顧客から強い口調で詰め寄られていた。
「申し訳ございません。システムにエラーがあったようで……」
必死に弁解しながらキーボードを叩くが、画面はフリーズしたまま動かない。仕方なく上司に連絡を取るべく受話器を手に取って顔を上げた途端、とんでもないものが目に入った。
「な、何なの……あれ」
ロビーにある電光掲示板には、日経平均をはじめ株式市場の代表的な株価指標が表示されている。それが何の前触れもなく、乱高下を始めていたのだ。
あまりの事にあっけにとられた彼女は、呆然と掲示板を見つめて立ち竦む。不審に思った顧客がその視線の先を追うと、日経平均は更なる値下げを示す。異変が全員に知れ渡り、取り付け騒ぎに発生するまで長い時間はかからなかった。
サイバー攻撃は基本
個人戦ならグールの方が強いので、情報の遮断は有効なり