東京喰種 【GLF】喰種解放戦線   作:トミナカ・ビル

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episode23:決戦

 

「――大した娘だな。真戸」

 

 通信が切れる前、暁は逆上したアリサに殴られていた。人質としての価値が残っている以上、すぐ殺されることは無いだろうがゼロとも言い切れない。

 

 とにかく、1秒でも早く娘を救い出さねばならい。真戸はクインケを手に取ると、そのまま部屋を後にした。

 

 

 **

 

 

 その頃、CCG司令部は絶望と混乱の中にあった。

 

「渋谷防衛線、各地で突破されています!このままでは1区(千代田区)にある司令部まで蹂躙される恐れが……!」

 

「一般の警官をかき集めて西新宿に予備陣地を構築させろ!渋谷の部隊はビルなどに立て籠もらせて交戦を続行――今更対比させても間に合わん!」

 

「海上保安庁のヘリ部隊、到着まであと15分!」

 

 局長は無言でこの光景を見つめていた。防衛ラインが崩壊しつつある今、残された選択肢はすべてを諦めて後退を命じるか、玉砕覚悟で踏みとどまるかの二者択一。

 

「局長!このままでは壊滅します!この司令部もいずれ……撤退の許可を!上野まで司令部を退避させれば、北関東地区にある支部の応援を受けることも可能です!」

 

 額に血管を浮き上がらせ、オペレーターの一人が叫ぶ。

 

 

「これ以上の後退は許可できない」

 

 

 和修局長は決然と首を振った。

 

「我々CCGが守るべきは市民の命だ。上野まで後退すれば、都心から副都心にいる全ての市民を見捨てることになる!それだけは断じて許されない!」

 

 和修局長の怒声に司令部が静まり返るも、すぐにアラートが鳴り響く。

 

「今度は何だ!?」

 

「西新宿に多数の武装した喰種を確認!」

 

 青ざめる職員たち。防衛ラインを浸透突破してきた部隊が、司令部まで迫りつつあるのだ。

 

「局長!司令部が壊滅すれば、全部隊の統制が失われてしまいます……」

 

 最悪の事態を想像し、司令部の空気が凍りつく。そして――。

 

 

「こ、これは……!」

 

 

 一人のオペレーターが驚くような声を上げた。

 

「連中の動きが止まって……いる?」

 

 和修局長は目を向くように叫ぶ。

 

「間違いないか!」

 

 

 

 指令を出していた清水たち幹部が殺された影響が、ここに来て前線まで出始めていた。

 

 個々の兵士としてみれば、喰種は優れている。単純に力が強く、持久力も耐久力も人間の比ではない。

 

 だが軍隊は指揮統制によって個をまとめ上げることで、単純な足し算以上の戦力を発揮する。それが無ければ、ただの暴徒と変わりはない。

 

 そして清水の死によって、喰種解放軍は烏合の衆に戻りつつあった。指揮統制を失った喰種たちは、どうやって戦えばいいのか分からなかった。

 

 未だ兵士としては圧倒的なスペックを誇っているが、その運用は稚拙を極めた。その総数は変わらなかったが、まとめ上げる者が消えた結果、1つの巨大なバケモノは小さな狂人へと分解されていく。

 今や喰種解放軍は超人兵士の集団から、力持ちの暴徒へとランクダウンしていた。

 

「よし……やるぞ」

 

 和修局長が口を開いた。その声音には、再び生気が宿り始めていた。

 

「全部隊に通達!これよりCCGは敵に対し、反転攻勢を開始する!」

 

 

 **

 

 

「篠原特等―—!」

 

 

 捜査官が指さす方角を見ると、装甲車が通りを下ってくるのが見えた。機動隊が暴徒鎮圧用に使う、特殊車両のひとつだ。

 

「バケモノ共め……これならどうだ!」

 

 バリケードを守っていた一人の一等捜査官が羽赫クインケを構え、装甲車を狙い撃つ。

 

 被弾した装甲車はがくんと揺れ、向きを変えた。速度も少し落ちている。

 だが、それでも致命的な損傷は免れたのかじりじりと近づいてくる。

 

「ダメです! 羽赫でも止まらない!」

 

 一等捜査官が装甲車を指さして悲鳴を上げた。そうしている間にも装甲車は通りを横切り、駅入り口の前に作られたバリケードへとまっすぐ向かってくる。

 

 やがて装甲車は車や廃材で作られた間に合わせのバリケードを突破し、防衛ラインの一角を突き崩した。そこで応戦していた警官たちは散り散りになり、喰種たちは装甲車を盾にしてその後ろに従ってくる。

 

 やがて装甲車は瓦礫の山に突き当たって止まったが、その頃には喰種の一団が突破口を広げにかかっていた。防御力の高い甲赫の喰種が赫子を盾のように突き出し、ローマ軍団兵よろしく密集隊形を組んで後続が突破できるよう盾になっている。

 

「っ……!」

 

 もう駄目だ―—―篠原が退却を叫ぼうとすると、聞いたことのない音がした。

 

 その一瞬後、喰種たちが狙撃に使っていたビルが崩壊し、地上にいた多くの喰種をも道連れにした。倒壊したビルは大きな土煙をまきあげ、衝撃波で隣接するビルの窓ガラスを粉々にする。

 

「――篠原特等! ま、丸手特等から通信が入っております!」

 

「なんだって!?」

 

 篠原が通信手からヘッドフォンを借りると、懐かしい丸手のしゃがれ声が聞こえた。

 

『――よぉ篠原、元気にしてたか? さっきのは洒落たプレゼントのつもりだが、気に入ってくれたか?』

 

「丸ちゃん!今のは―—」

 

「ああ、ありゃ軍艦……じゃなくて護衛艦の砲撃だ!」

 

 再び、大砲の着弾音。着弾個所からあがる炎が煙に混じった。今度の砲弾はロータリーを大きく掘り返し、ひび割れた地面がクレーターを形成していく。喰種の千切れた赫子が空中から降りてきて、捜査官たちの歓声が大きくなる。

 

「いいぞ!撃て、もっと撃て!」

 

「喰種どもを皆殺しにしろ!」

 

 このままでは嬲り殺しにされるだけだと気づいた喰種たちは、ビルから飛び出して一斉に駅に向かって突撃を始めた。

 

 もろに防衛部隊の十字砲火を浴びることになるが、突破さえすれば勝ち目はある―—人海戦術で一気呵成に押し切ろうとしたその時、耳をつんざくような甲高い音が立て続けに響いた。

 

「篠原さん、見てください!CCGのヘリです!味方です!」

 

 駅全体から歓声があがる。ついに待ちに待った増援が到着したのだ。

 

「やった! これで助かったぞ!」

 

「俺たちの勝ちだ! 連中を蹴散らせ!」

 

「CCG!CCG!CCG!」

 

 捜査官たちの歓喜の声に答えるように、CCGの武装ヘリは50mm機関砲から火を噴き、通りの喰種をミンチにしていく。

 

「俺たちも反撃するぞ!」

 

 バリケードと駅ビルのライフルと羽赫クインケが一斉に火を噴いた。狙いは正面突破を図る喰種だ。

 

 遮蔽物のないロータリーをまっすぐに突っ込んでくることもあって、適当に撃っても喰種に当たる。

 

 まもなくバリケードの前は、負傷ないし死亡した喰種たちで埋め尽くされた。烏合の衆となった喰種解放軍は、徐々に包囲殲滅されていく。

 

「突撃! 喰種どもを蹴散らせ!」

 

 CCGの上級捜査官が盾となり、下級捜査官と武装した警官、自衛隊員が火力で支援する。国の大事の前には止む無しと、戦車や攻撃機まで投入された。

 

 それでもなお喰種解放軍は、個々としては強力な敵だった。しかし軍隊としての「頭」を失った彼らは、手足でしかない。CCGや自衛隊は一対多数の状況を作り出しながら、ひとつひとつ敵の部隊を殲滅していく。

 

 破滅へと通じる市街戦、そして消耗戦が始まった。

 

 

 ――ただし、今度は喰種にとってのだ。   

 

 

 **

 

 

 現場で喰種を率いていたGLF幹部の一人、草薙は唖然とするばかりだった。

 

 あきらかに味方の勢いが落ち、統制を失った喰種解放軍はCCGという巨人に踏みつぶされようとしている。

 

 

「――クソッ、どうして無線が繋がらないんだ!」

 

 先ほどから、無線通信が絶えている。何度も清水に連絡をしてみたが返事はない。

 

(政府の連中、自衛隊まで投入してきやがった……このままじゃ本当に負けるぞ!?)

 

 砲撃や爆撃が降り注ぐたびに、蜘蛛の子を散らすように逃げていく喰種たち。忠誠心も覚悟もあったものじゃない。所詮は即席出会集めた烏合の衆、という事なのだろう。

 

「役立たず共め! どいつもこいつも使えねェ!」

 

 草薙は吐き捨てた。

 

 ついにCCGが反撃に出た。喰種捜査官を前衛に押し出し、その後ろから自衛隊と武装した警官が重火器を撃ちまくっている。

 

 どうやら政府は民間人の保護や都市機能の保全より、喰種の殲滅を優先する決定を下したらしい。東京を火の海に変える勢いで、CCGは徹底した殲滅戦に乗り出す。街は瓦礫が散乱し、炎とともに黒煙が舞い上がり、見るも無残な状態だった。

 

「チッ、何がどうなってやがる!どうしてオレばっかりこんな目に――!」

 

 清水たちに何があったか知らないが、蜂起は大失敗だ。戦線は崩壊し、敗北は確定したと言っても過言ではない。

 

 今までの苦労が水の泡だ……逃げ出そうとした草薙だったが、次の瞬間には首と胴が離れていた。

 

 最後に彼の目に映ったものは、眼鏡をかけた白髪白衣の捜査官だった。

 




 「CCG!CCG!CCG!」
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