東京喰種 【GLF】喰種解放戦線   作:トミナカ・ビル

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episode4:不可解な襲撃犯

   

 丸手たちに起こった異変は、真戸親子のいるビルの3階からも見えていた。

 

「やれやれ、これは厄介な事になったようだねぇ」

 

 重要参考人が殺されてしまった。これで11区における警察と喰種の黒い繋がりを握る鍵は、また失われてしまった。

 

「父よ、諦めるにはまだ早いぞ。この喰種には尋問をして、知っている情報を全て吐いてもらう』

 暁はそう言うなり、喰種の頬に蹴りをくらわせた。 ICレコーダーを作動させ、悶絶する喰種を壁に寄りかからせる様に座らせる。

「まず、これが誰の指示なのか話してもらおう」

 

 喰種は泣きべそをかきながらも気丈に暁を睨みつける。暁は呆れたように溜息をつくと、銃で躊躇いもせず喰種の足の甲に風穴を開けた。

 

「散々いたぶられてから死にたいか?」

 

 喰種は撃たれた部分をおさえ、叫んだ。

 

「本当に誰なのか分からないんだ! やりとりは全部電話でしていた!」

 

 喰種の話は意外なほど収穫の多いものであった。

 

 どうやら黒幕は相当に用心深い性格らしく、身元がバレないよう口封じには見ず知らずのチンピラを雇ったらしい。それが目の前の喰種だという訳だ。

 

「なぜ銃を使った?」

 

「……敵は上位捜査官だと聞いていた。下手に接近戦を挑むより、遠くから銃でターゲットを撃ち殺した方が確実だと思ったんだ……」

 

「銃はどこから手に入れた? 他に仲間はいるのか?」

 

 暁が問うと、喰種は再び口をつぐんだ。謎の依頼主の事はあっさり吐いても、仲間の事は守りたいらしい。

 

 暁は「くだらん」と呆れたように吐き捨て、喰種の傷口を靴で踏みつけた。喰種は絶叫し、痛みで泣き叫びながら命を乞う。

 

「暁、もういい」

 

 それでも話そうとしない男に見切りをつけた真戸は、気絶寸前の喰種を残したまま、外へ娘を連れ出した。

 

 

「放っておくのか?」

 

「今はな」

 

 首を傾げる娘に、真戸は車をとってくるように言う。

 

「どんな組織にも、それぞれ特徴というものはある。あの喰種からは、死んでも『仲間は売らない』という決意が感じられた。つまり」

 

 あの喰種が属する組織全体が、そういう方針をとっているという事だ。

 

「奴の仲間は、必ず奴を回収しに来る。そして奴を回収した仲間は、そのままアジトへ帰るはずだ。私たちはそれを尾行し、連中のアジトもろとも全貌を突き止める」

 

 それを聞いた暁は納得したように頷いた。暁が車をとってくるまでの間、真戸は電話で篠原に連絡をいれる。

 

「真戸だ。これから少し、捜査に出かける」

 

『――何か手がかりでも?』

 

「ああ。襲撃犯の生き残りが一人いる。そいつを、泳がせてみようと思う」

 

 しばらく沈黙した後、確認するような篠原の声。

 

『……私たちも、応援に?』

 

「いや、その必要はないよ。無駄足に終わるかもしれないからねぇ」

 

『わかりました。では、必要な時に連絡して下さい。すぐに駆けつけます』

 

「ありがとう、篠原君」

 

 篠原は、真戸にとっても初めてのパートナーだ。それだけに、仕事で2人の間に余計な会話は無用。真戸は携帯電話を閉じると、暁の到着を待った。

 

 やがて暁が車をとってくると、2人でそれに乗り込む。ラジオを聴きながら待機すること15分、1台のバンがビル沿いの道に止まった。3人の私服姿の男たちが、慌てた様子で出てくる。

 

「来たか」

 

 敢えて先ほどの喰種の携帯電話を未回収のままにしていたのが功をなしたようだ。先程のバンはやはり襲撃犯トラックの仲間であった。

 

 しばらくして、生き残っていた喰種を回収したと思われるバンが走り去ってゆく。

 

 気付かれる事の無いように多少の距離をとりながら追跡すると、バンは4区のとある輸入代理店前で停車した。

 

「ここが連中のアジトか」

 

 近くのコンビニに車を止め、暁はCCGに連絡を入れる。セオリーに従うなら増援到着まで待つべきなのだが、そうは問屋が降ろさなかった。

 

「――暁、あれを見ろ」

 

 不意にトーンを低めた父の声。その視線の先を追うと、1台のトラックが自動車解体場の出口を塞ぐように駐車した。ゆっくりと荷台が開き、何人もの男たちが出てくる。全身黒ずくめで、統率のとれた動きだ。

 

 恐らくは、彼らが真の雇い主。最初から襲撃犯たちを、使い捨ての駒として排除するつもりだったのだろう。

 

(さて、どうするべきか……)

 

 暁の見たところ、敵の数は10人ほど。無駄のない動きをする手練れの喰種10人を敵に回すなど、常識で考えれば自殺行為だ。

 しかし増援が到着するまで待っていれば、せっかく手に入れた手がかりを失うことになる。

 

 あるいは襲撃犯の口封じが終わってから、アジトへ戻る黒幕たちを追跡するという手もあるが……。

 

「やめておけ。――あれを見ろ」

 

 娘の内心を呼んだかのように、真戸呉夫は解体場の反対側を指さした。

 

 その先にいたのは、自動販売機の前に立つ2人のサラリーマン風の男たち。さりげなさを装っているが、時折見せるリアクションの中には周囲を観察する動きがある。

 

「……やはり、待つしかないか」

 

 

 **

 

 

 そのころCCG本部に戻った丸手は、死亡した襲撃犯たちの身元分析を行っていた。ホワイトボードには死んだ喰種たちの写真が貼られ、捜査官たちがPC上の要注意喰種データベースにリストアップされた写真と照合している。

 

「見つけました。三島雄二、25歳。Cレート甲嚇の平凡な喰種です」

 

 捜査官の一人が、風穴の空いた喰種の死体が映った写真を丸手に渡す。

 

「Cレートか……道理で弱いと思ったぜ。もしかすると、銃を使っていたのはそのせいかもしれないな」

 

 Cレートといえば、喰種の中では弱者に位置する。嚇子を使うという「正攻法」では、戦っても勝ち目は薄い。

 

「まぁ実際、喰種の厄介な点は身体能力の高さだからね。嚇子も無いよりはあった方が厄介だけど、下手な嚇子よりは銃の方が怖いかな」

 

 丸手の推測に、篠原が頷いた。「喰種の武器といえば嚇子」というのはCCGでも、あるいは喰種の中でも常識だが、これは元々、「治癒能力が高い喰種でも赫子によって受けた傷は治癒が遅れがちになる」という特性から、喰種同士の抗争で有利であったためだ。CCG捜査官がクインケを使うのも、同様の理由である。

 

 しかし今回のように「喰種が捜査官を相手する」というケースでは、相手は捜査官いえど生身の人間。普通の銃弾でも傷は負わせられるし、むしろCレート程度の喰種の嚇子より銃の方が殺傷能力は高いぐらいなのだ。

 

「それで、三島は何をやってた奴なんだ?」

 

「『蒲田製作所』という小さな喰種グループで用心棒をしていたとか」

 

「なんだ? その『蒲田製作所』ってのは? 聞いたことねぇな……ネジ作ってる町工場か何かか?」

 

 眉を顰めた丸手は、背中をかがめてモニター画面を覗きこむ。データベースの情報によれば、『蒲田製作所』は構成員20人ほどの小さなグループだという。

 

(このチャチな連中が、石井とつるんでいた喰種グループなのか……? にしては規模が小さすぎる……)

 

 石井は喰種と取引することで、11区の人的被害を最小限に抑え込んでいた。たった20人の小規模集団に、人口70万をほこる11区をコントロール出来るとは思えなかった。

 

(だとすると考えられる線は2つ。石井が複数の組織と同時に取引していたか、襲撃してきた連中はただの雇われで本命が別にいるかだ)

 

 丸手自身は、後者の可能性が高いと睨んでいた。

 

(前者は有り得ない。なにせ相手はあの野蛮な喰種どもだ。仲間割れに内ゲバ、共食いは日常茶飯事。そんな連中が作った組織の利害調整をしつつコントロール出来るんだったら、石井は今頃とっくに警視総監まで上り詰めてる)

 

 ――だとすれば、石井と取引していた喰種グループが別にいる事になる。

 

 面倒なことになったな、と丸手は大きな溜息を吐く。

 

 喰種は社会的に存在が許されない立場から、様々な理由で組織を形成している事が少なくない。

 

 喰場の管理や捕食の隠蔽、自殺者を利用した食材加工と分配……どれも一人で行うには荷が重い作業だ。喰種たちは数人から数十人単位のグループを形成し縄張りを持つことで、CCGから巧妙に隠れて暮らしている。

 

 

 しかし時にはそれが数百人にまで拡大することもあり、『アオギリの樹』のようなCCGでも手のつけようがない大規模集団へと変貌する。

 

 

 嫌な想像を打ち消すべく丸手が頭を振った時、一通の緊急通報が届いた。

 

 携帯の画面に映ったのは、「着信:真戸 呉緒」の文字。丸手が出ると、珍しく焦りをあらわにした真戸が電話越しに叫ぶ。

 

『緊急事態だ! ――暁が、暁が!』

 

「落ち着け、呉緒! 娘がどうしたって?」

 

 

『暁が――連中に攫われた!』

        




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