東京喰種 【GLF】喰種解放戦線   作:トミナカ・ビル

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episode6:新発見

 

「――? おい、これもコカインか」

 

 

 不意に、モニターを見ていた丸手が呟く。

 

「それがどうしたんだね? コカインなんて、あり触れた麻薬の一つだろうに」

 

 真戸の問いに、丸手は「いや」と渋い表情になる。頭に疑問符を浮かべる真戸と篠原に、丸手は自身のノートPCを見せた。

 

「これを見てみろ。今さっき麻取から届いたメールだ」

 

 麻取――麻薬取締局から、押収麻薬の分析結果を報告するメールが届いている。2人に良く見えるよう文字サイズを拡大すると、分析結果の一覧表示が画面を埋め尽くす。

 

「ヘロイン、ヘロイン、コカイン、マリファナ………ほとんどがコカインかヘロインだ。しかも純度のかなり高い高級品だ。どうもあの輸送代理店、単なる喰種どものアジトじゃないようだ。どうも海外から麻薬を密輸していたらしいな」

 

 覚せい剤のような合成麻薬と違って、コカインやヘロインなどは原料となるコカおよびアヘンの栽培地がある。日本でも栽培は出来るのだが、大半は海外からの密輸。

 

 これは原料となるアヘンの生産には何千もの小さなケシの花の岳に小さな傷をつけて樹液を採取する必要がありため、人件費の安い海外の方がコストを削減できるからだ。

 

 こうした海外産の安い麻薬は、タンカーや小さな貨物船で日本全国へと届けられる。細かく分けて運ぶのは、運搬中の事故や不測の事態による被害を最小限に抑える為だろう。

 

 

「ひょっとすると……手がかりを掴んだかもしれない」

 

 何か閃いたように、丸手が呟く。

 

「考えてみろ。国内でチマチマとLSDでも作ってんならともかく、たかが15人のちっぽけなチンピラ集団が、単独で海外から麻薬を密輸するなんて真似が出来ると思うか?」

 

 企業に置き換えてみると、分かりやすいかも知れない。企業が海外に進出する理由は、主に2つ。

 まず第1に生産コストの削減や逆輸入を目的とした「国内生産代替」としての海外進出。そして第2に、進出先の需要を取り込むことを目的とした「現地市場獲得」としての海外進出だ。

 

 しかしどちらにしても、国内に比べてハイリスクハイリターンの感は否めない。カントリーリスクやグローバル規模での競争に耐えるだけの体力、そして世界を股にかけるマネジメント能力のある人材層が大量に必要になる。

 

 となれば、必然的に大企業がその中心にならざるを得ない。

 

 もちろん現実には海外進出をしている中小企業も存在するのだが、それでも大企業との提携やメインバンクからの融資を受けているケースがほとんどだ。

 

「あの『蒲田製作所』って組織には、間違いなくバックに巨大な組織が付いている。だから15人ぐらいの小規模組織でも海外の麻薬を取り扱えたんだ」

 

 つまり――。

 

「警察とグルになって11区を抑え込めるだけの人員を持ち、その上で海外にもパイプを持てる規模の巨大組織――」

 

「そんなものがあるはず……」

 

「“あった”だろ?」

 

 真戸の目が見開かれ、篠原が息を飲む。

 

「まさか……」

 

 彼らには思い当たる節があった。それだけの規模を持った、巨大な喰種の組織の存在に。

 

 

「“あの男”、まだ生きていたのか……ッ!?」 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「う……」

 

 暁は固いベッドの上で、目を覚ました。どのぐらい昏睡していたか分からない。頭は重く、響くような頭痛がする。恐らくは麻酔の類を吸い込んだ副作用だろう。

 

 強張った体をほぐそうとしたが、手錠が嵌められていて思うように動かせない。

 

「あっ、起きた起きた。 おはよーございまーっす!」

 

 声がした方に視線を向けると、ソファーの上でしゃがんでいる女の姿が見えた。

 

 肩胛骨の辺りまで伸びたストレートの栗色の髪、その髪に縁取られた小さな輪郭、はっきりとした眉に長い睫、透き通る様に綺麗な褐色の瞳、高く通った鼻筋、艶のある口元。恐らくは自分と同世代ぐらいの女。

 

(白人……いや、ハーフか?)

 

 そういえば気絶する前、ロシア語が聞こえたような気がしないでもない。まだ頭のすっきりしない暁がぼんやり見つめていると、女はこちらの瞳を覗き込むようにして口を開く。

 

「おーい、どっか具合でも悪いんですか? もしそうなら遠慮なく言ってください。死なれちゃ困るんで」

 

 心配するような口調ではあるが、それは表面的なものだ。あくまで人質としての価値を保つのが目的であり、暁は改めて自分が人質にされたという事実を認識する。

 

「……誰だ?」

 

 暁が尋ねると、目の前にいる女は首を傾げながらクスクスと笑う。

 

「美人捜査官さん、自分の置かれた状況分かってます? 拉致った相手に本名なんか教えるワケないじゃないですかぁ~?」

 

 それもそうか、と暁は女の返答に妙な納得を覚えてしまう。

 そこで暁は質問を変えてみることにした。

 

「お前たちの目的は何だ?」

 

 もし女の目的が口封じであるのなら、自分はとっくに殺されているはずだ。あえて拉致監禁という手をとったという事は、何か別の目的があるからに違いない。

 

「おやおや? 今度は説得でもするつもりですか?」

 

「ああ。お前たちは私を殺さず人質にとっている。ゆえにCCGに対して、何かしらの要求があると考えた」

 

「わぁお、流石です! だけど残念、今はちょーっと教られないんですよね――じゃないと、自分が上に殺されちゃうんで」

 

 どうやらリーダーが別にいるらしい。喰種が徒党を組むこと自体は珍しくないが、それにしても目の前にいる集団はあまりに異質だった。

 

(ピザにホットドッグ……?)

 

 女の仲間と思われる男達の内、何人かは当たり前のように人間の食事を頬張っていた。つまり彼らは人肉しか摂取できない喰種ではなく、普通の人間という事になる。

 

 それだけではない。ぱっと見ただけで構成員の半数近くが、中国系やフィリピン系アジア人、ロシア系白人など外国人が占めている。武器を構えている者もいれば、パソコンに張り付いている者、中には大型機材を修理しているエンジニアまでいた。

 

(なんなんだ……こいつらは)

 

 何故かは分からないが、暁は悪寒のようなものを感じた。目の前にいる連中は、これまでの喰種たちと何かが“違う”。父の言っていた、捜査官の勘が働いたのかもしれない。

 

「信じられない、っ顔ですね」

 

 暁の視線に気づいた白人の女が、ゆっくりと立ち上がる。

 

「喰種と人間が組んでるってことが、そんな不思議ですか?」

 

 どうして女が唐突にそんな問いかけをしてきたのか、暁には分からなかった。

 

「ストックホルム症候群ってあるじゃないですか。 時々テレビとかでやってる奴。あれと同じです」

 

 ストックホルム症候群とは、人質が犯人と長時間過ごすことで同情や好意等を抱くことをいう。一種のマインドコントロールに近いものがあり、人質となった人間は生殺与奪の権利から日常のあらゆる行動の全てを犯人に依存することから、犯人を保護者として認識するようになる。それが好意に転じたり、あるいは警察が突入すると身の危険が生じるので逆に犯人と連携するようになったりするのだ。

 

「これは自分の個人的な意見なんですけど、きちんとコミュニケーションさえ取れば、喰種と人間は仲良くなれると思うんですよ。ほら、“生まれも育ちも違うけど、きっと分かり合える!”みたいな?」

 

 本気なのか冗談なのかイマイチ分からない口調で喋りながら、女は暁の近くまで歩み寄る。視線が合うと、齢は自分とそう変わらないように見えた。ただ、色素の薄い褐色の瞳は、とても同年代とは思えないほど達観していた。

 

「ココにいる連中はみんな社会のはみ出し者、つまり今の社会から抑圧された人間なんですよ。そういう共通点を共有した上で、たまたま喰種だったり日本人だったり女だったりアル中だったり、人それぞれの個性があるんです」

 

 彼女が何を言わんとしているのか、暁もようやく理解し始めていた。

 

 いうなれば、そもそも彼女の中では「喰種と人間が組んでいる」という認識が薄いのだろう。喰種という集団の中に自分が属しているのではなく、まず「自分」ありきで、たまたま「喰種」とか「ロシア系」とか「女」などといった属性を持っているに過ぎない。

 

 そう考えると、目の前の集団の多様性も理解できるような気がした。彼らは一枚岩の組織ではなく、バラバラな特徴を持った個人の集合体なのだ。

 

「世間サマサマに正面からケンカ売っても勝てっこない。だからマイノリティ同士でドンパチやる時代は終わり」

 

 女は近くにあった燻製肉を頬張り、はっきりと断言する。

 

「これからはね、――共存共栄の時代なんですよ」

 

 実に美味しそうに中身を味わい、眼球を赤く変色させながら。




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