満月の綺麗な夜である。
コンビニでおやつを買った帰り道。
交差点の信号待ちでふと見上げた夜空にはまんまるなお月様が浮かんでいた。
そういえば、月が綺麗ですねというのは告白になるのだったか。
一人で歩いてるから相手なんていないわけだが。
雲のスキマに見えていた十五夜お月様はすぐに隠れてしまい、ぽつぽつと雨まで降り始める。
今の季節は梅雨時だ。傘持ってこなかったのは完全に私の落ち度である。
せっかく買った物が濡れないように袋の口を押さえつつ、早く変わらないかと信号に視線を戻す。
視界に映るものが森へと変わっていた。
え、いや。……え?
周囲を見回しても森である。
私のいる場所だけぽっかりと開けたような広場になっていて、しとしとと雨粒が降り注いでいる。
アスファルトの上を歩いていたはずなのに、いつの間にやら足元はぬかるみに浸かっていた。
あまりにも意味不明な状況に、動くこともできずに呆然と立ち尽くす。
既に頭から服からしっとりとしているけれど、そんなことを気にしている余裕すらない。
雨はほとんど音を立てずに降っていて、周囲からはぴちゃぴちゃと言う小さな音しか、ぴちゃぴちゃ?
音を頼りに視線を動かす。
雨が降っていると言ってもそこまで雲が厚くないのか、暗闇の中で薄ぼんやりと何かが動いているのを見つけることができた。
思わず駆け寄ってしまう。
後から考えたらもっと慎重に行動するべきだと分かるはずだけど、こんな状況で冷静に行動できる人間がいるわけがない。
場所は森の中なのだ。相手が獣だったとしたら私なんかひとたまりもないというのに。
ぱしゃぱしゃと私が立てる足音に気付いたのか、動いていた何かがこちらを向いた。
暗闇の中でも分かる赤い双眸が、私のことを捉えていた。
思わず身をすくめて足を止めてしまう。
だけどすぐに、だれー? と間の抜けたような女の子の声が正面から投げかけられる。
よかった、人だ。間違いなく人だ。
状況も何も分からないけど、聞こえてきた人の声に思わず安堵の息が出る。
こっちからも声を出しながらそのまま近づいていく。
女の子が立ち上がったのか、視線が同じようなの高さにまで上がってくる。
おかわりなのかー? と女の子は言う。
私より一回り小さいくらいかな。なんでこんなとこに居るんだろう。
いや、もう多少わけのわからないことを言っていようがこの際どうでもいい。
ここがどこなのか教えてください。
ねえ、
女の子はぽいっと手に持っていた何かを投げ捨てた。
釣られて視線がそちらに動く。
それはくるくると回転しながら地に落ちる
暗闇に慣れてきた私の目にも何なのかが分かってしまった。
人の腕。思考が凍る。
貴女は、
女の子が何かを言葉を綴っている。
一度逸らした視線を戻すことができない。見たくもない落し物だというのに。
ぬかるみを歩く足音が響く。
元々こっちから近づいたのだ。距離は数歩も離れていない。
腕を掴まれる。ぬるりとした何かで女の子の手は汚れていて。
食べてもいい人類?
悲鳴を上げて逃げようとしたときには、もう全てが遅すぎた。