幻想郷生活、七日目。
まだ故郷への想いが完全に振り切れたわけではないけれど、よくしてくれる里の人たちのおかげで多少は心にも余裕ができてきた。
あと一週間で帰ることができると分かっている事実も大きい。
帰れるかどうかも分からず、いつ帰れるかも分からないままであったのなら、きっと私は折れてしまっていただろう。
今日も慧音先生の授業は日の高いうちに終わる。
夕暮れ頃、つまりは逢魔時に子供達を出歩かせないために早く家に帰すのだそうだ。
そういった伝承のようなものであっても、幻想が力を持つこの場所では現実に影響を及ぼすことが多いのだそうだ。
神隠しというのも黄昏時や四辻といった霊的に不安定になる場所や時間に多いらしい。
あるいは満月の夜といった、極端に夜の力が強くなる日も危ないのだそうだ。
元の場所に戻った後はそういったものは避けるように、とは先生の言である。
未だにあの夜何があったのかは思い出せないけれど、時期的には満月の日だったらしい。
おそらくその辺りの要素に飲み込まれてしまったのではないかということである。
寺子屋からの帰り道、買出しのお手伝いで商店街に向かっていると、なにやら言い争うような声が聞こえてくる。
既に野次馬が集まっているようで、よろず屋の店先には人垣が形成されていた。
慧音先生が何があったのかと野次馬達に問いかけると、ちょうどいいところに着てくれたと言わんばかりに人垣の中へと引きずり込まれてしまった。
ぽつんと一人残される私。状況に頭がついていけない。
集まっている人たちを遠巻きに眺めていると、しばらくして騒動も終わったらしく先生は銀髪で
メガネをかけたの青年を伴って戻ってきた。
思わずご兄弟ですかと聞いてしまったが、ただの知り合いだと苦笑を返されてしまった。
彼は里のよろず屋から独立してちょっと違った風味の古道具を扱っている店の主らしい。
どうも古巣であるよろず屋に妙なものを持ち込んでトラブルになっていたのだとか。
そうしてたまに話題を振られながらも私たちは家路に着く。
喋っているのはほとんど私以外の二人だ。
慧音先生がここまで砕けた様子で話をしているのは初めて見る。
子供達はもちろん、里の人にもどこか子供を見ているような、先生として対応しているように見えるのだ。
互いの近況を聞いていたり、冗談を言ったり、熟年夫婦のような穏やかな空気を醸し出している。
そしてそんな二人の様子を不満そうに物陰から見つめる女の子がひとり。
さっきからむーっと膨れて声にまで出しているのである。
物陰から思いきり身を乗り出している鮮やかな金色の髪はそれはもう目立っていた。
先生たちも当然ながら気付いている様子で、メガネの青年はやれやれと少女の方に振り返る。
少女マンガのようなほほえましい光景。これ以上は野暮というものだ。
何の変哲もない、日常と化しつつある毎日のひとコマである。