支配者な眷属物語   作:珈琲飲料

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お気に入り登録、感想、ありがとうございました!
導入部分で大して面白くない内容だったのに読んでいただけるとは感激です!

今回はお知らせ通り、ヒロイン予定のあの子が登場です。場面が切り変わる部分が多いですのであしからず。

それでは第2話をお楽しみください!どうぞ!




2話 君と俺

迷宮都市オラリオ―――<ダンジョン>と通称される壮大な地下迷宮を保有する巨大都市。

未知という名の興奮、輝かしい栄誉、人の夢と欲望すべてが息を潜めるこの場所には多くの冒険者が集う。

 

今日の探索を切り上げ、ダンジョン中層から帰還した俺は街のメインストリートを歩いていた。時刻は午後四時を過ぎたあたり、夕暮れに近いということもあって大通りは今日も多くの人でごった返している。己の作った武具を大声で売り込むドワーフ、筋肉隆々でいかにも冒険者という風貌をした獣人などさまざまな種族で構成された雑踏を縫うように通り抜け、俺はある酒場を目指す。

 

――ダンジョンから帰ってきたらここにきて顔を見せてほしい。

――あなたが無事なのかいち早く知りたい。

 

その言葉が酒場店員としての売り込みなのか、はたまた純粋に安否を心配してくれているのか、はっきりとは分からない。……というかどうでもいい。あの人に会える口実ができ、大義名分を得たということに間違いはないのだからっ!

 

そんなふうに考えているうちにとうとう目的地である酒場――<豊穣の女主人>に到着した。二階建てでやたら奥行きがある上にカフェテラス付きの優良物件。周りの商店と比べても一線を画すその建物はおそらくオラリオで一番の酒場と言っていいだろう。

 

「アーク?」

 

ぼんやり酒場を眺めていると、不意に後ろから声をかけられる。ぼーっとしていたこともあり、ほとんど反射に近い状態で振り返ると、そこには俺が酒場に来た目的である人物が立っていた。

 

白いブラウスと膝下まで丈のある若葉色のジャンパースカートにサロンエプロン―――所謂ウエイトレスの格好をしたエルフの女性。抱えている紙袋から食材や調味料が見えていることもあり、彼女が買い出しから帰ってきたのだろうと理解できる。

 

「おかえりなさい、アーク」

 

鈴を振るような声と柔らかな笑顔で俺の帰りを迎えてくれた酒場店員――リュー・リオン。

その可憐な振る舞いに少しの間だけ俺は見とれていた。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

酒場の入口でリューさんに見とれていた俺はそのまま店内に案内され、奥のカウンター席に座っていた。

 

「恥ずかしいのであまりじろじろ見ないでください」

 

隣にいるリューさんは少しだけ困ったように先ほどのことについて口を尖らせる。俺としてはいつまでも眺めていたかったのだが、顔を赤くさせたリューさんに手を引かれ今に至るというわけだ。

 

「いやー、リューさんが可愛くてつい」

 

「もうっ、あなたはいつもそんなことを」

 

うっすらと頬を朱に染めたリューさんはその表情を悟られまいと、ぷいっと別の方向を向く。接していくうちに分かったのだが、リューさんは照れるとエルフの特徴ともいえる尖った耳がわずかに動く。今も一瞬だけ動いた耳を俺は見逃さなかった。

 

「そ、それよりも今日の探索の話を聞かせてください!」

 

流れを変えようと話題を切り出すリューさんの表情は少しだがまだ緩んでいる。

ダンジョンでの話が楽しみなのか、かわいいと言ったことを喜んでくれているのか。

後者であってほしいなぁと頭の片隅で思った俺は、今日の冒険譚を聞かせるべく口を開いた。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

「ふふっ、そんなことがあったのですか」

 

ちょうど最後の戦闘の話になったところでリューさんが笑う。魔石を回収できなかった張本人としては無駄な戦闘だったと辟易していたのだが……この笑顔を見れたと思えば安いものだろう。

 

「しかし、今日はどうしてそんなに張り切ったのですか?」

 

普段のあなたなら魔法はあまり使わないのに、と首を傾げるリューさんに俺は頭をかく。

 

「……買いたいものがあったんです」

 

そう答える俺を不思議そうに見るリューさん。勘付かれてしまっては仕方ない、鋭い指摘をしてきた店員に思わず苦笑しながら、俺は鞄から細長い箱をひとつ取り出した。

 

「それは……?」

 

何ですかと聞かれるよりも先に俺は箱を開け、中身をリューさんに見せる。

 

「……ペンダント?」

 

「はい、とてもよく似合いそうだったから」

 

箱の中できらりと光るペンダントを見て、驚きの色を示すリューさん。しかしすぐに表情を元に戻すと、申し訳なさそうに口を開いた。

 

「気持ちは嬉しいのですが、こんな高価そうなものは受け取れません」

 

やはりそうくるか。しかし、受け取ってくれないというのは想定内。何としてでも受け取ってもらうべく、俺はあらかじめ用意していた言葉を放った。

 

「何もない日にこういうものは渡さないですよ。今日は大切な日じゃないですか」

 

俺の言葉を聞いたリューさんは一瞬だけ怪訝な顔をすると、あっと言葉を漏らし、すぐに納得したように表情を緩ませた。

 

「ちょうど5年ですね―――」

 

あなたと出会ってから。そうこぼしたリューさんは遠くを見るように目を細める。あのころを懐かしむようなリューさんの表情、その様子を視界に入れながら、俺もあの日のことを思い出していた。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

―――――吹き荒れる疾風を止めろ。

 

オラリオを暴れまわっている冒険者の始末がクエストボードに張られたのはつい最近のことだ。<アストレア・ファミリア>所属のリュー・リオンの殺害または拘束。これ条件に依頼書には高額な金額が設定されていた。

 

「殺害、または拘束ねぇ……」

 

リュー・リオンといえば女神アストレアの恩恵を受けた凄腕冒険者、その最後の一人だ。<アストレア・ファミリア>の構成員はダンジョンで多数のモンスターに遭遇後、彼女だけを残し全滅。ギルドの発表ではたしかこうだったはず。ダンジョンを駆け抜ける勇敢な<疾風>がオラリオを襲う<暴風>になったのはファミリア解散後すぐのことであった。

 

女神アストレアは正義と秩序を司り、悪を絶対に許さない。都市の平和を乱すものを取り締まっていた彼女たちは人々から信頼され、心の支えとなっていた。

 

―――多くの対立をつくることと引き換えに。

 

「弔いか乱心か」

 

たぶんどっちもだ。悲しみと苦しみから生まれる痛みと憎しみ。支えである女神さえもいなくなった彼女を止めるものはもうオラリオにはいない。

 

「風がやむ……それ待ってもいいんだけど」

 

単純に興味がわいた。対立ファミリアを一人で壊滅させ、関係したと思われるもの、すべての断罪。そんな狂気ともいえる所業をたった一人で行った彼女を直接見てみたい。

 

「俺が見つけるのが先かな?」

 

顔を見るまではせめて生きててくれよ?そう心の中で祈った俺は、ボードに貼られた依頼書を引きちぎると、受付へと歩を進めた。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

細く汚い路地裏。表の世界で暮らす者ならばまず通ることはない、どこまでも続く迷路。その中を私は一人駆け抜けていた。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

かつて<疾風>とまで呼ばれ、名を馳せていた己はもういない。頼りなく延々と伸びる通路、それを逃げるように走る自分は<臆病風>だ。激情に身を任せた今の私は、ダンジョンで出会ったどんなモンスターよりも醜い存在だ。

 

「っ!」

 

そんな無駄なことを考えていたからか、普段ならかすりもしない木箱に足をぶつけて転倒。おぼろげに見えていた景色は一気に変化し、それと同時に身体に冷たい感触が伝わる。

 

「はぁっ……げほっ、げほっ!」

 

ここまでか……。広がっていく冷たい感触に動かない身体、徐々に暗くなっていく視界。脳裏に浮かぶのは仲間たちと笑い合っている自分だ。ようやくこれで仲間の元に自分も行ける。

 

……我ながら甘い考え、そう思った直後だった。通路から出てきた男に声をかけられたのは。

 

「<疾風>で間違いないな?」

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

<ダイダロス通り>―――オラリオに存在するもう一つの迷宮。すべてを受け入れ、秩序が狂った広域住宅街。その一画で倒れていたエルフの少女に俺は声をかけた。

 

「<疾風>で間違いないな?」

 

ギルドから渡された人相書きは頼りないものであったが、それでも記述されていた特徴と目の前の少女は合致している。

 

「……」

 

「なんとなくだが君ならここに来ると思ってた」

 

正義と秩序で動いていたものがそれを失うとどうなるのか。そう考えたとき、真っ先に思い浮かんだのがこの広域住宅街だった。すべてを受け入れるということはすべての悪も受け入れることを意味する。

 

「知っていると思うが、君は今賞金首だ。多くの存在が君への断罪を望んでいる」

 

「……」

 

厳かに話す俺を、エルフの少女は濁りきった瞳でじっと見つめる。

 

―――殺してやるか。

 

そのほうがこの子のためにもなるだろう。勝手にそう判断した俺は倒れている少女に歩み寄り、背中から得物を引き抜いた。

 

なぜあんなことをしたのか。目の前のエルフには聞きたいことがたくさんある。

 

でも、もういいや。

 

どんな光さえも通そうとしない淀んだ瞳、精神的にも肉体的にも限界が来ている少女に行動を起こす力はもう残っていないはずだ。なにより、今の状態で発する言霊に力なんかきっと宿らない。せめて最後に――

 

「……何か言い残したいことは?」

 

返ってくる言葉は命乞いか、偽善者を演じる俺に対しての罵声か。黙っているままかもしれないな。あるいはそのどちらも―――――

 

 

 

「許、して……ください―――」

 

―――仲間を守れなかったことを。

 

 

「っ!?」

 

「伝……えて、くだ……さい―――」

 

―――女神に自分のことを。

 

かすかに空気を震わす願い、嗚咽をもらしながら途切れ途切れに口を開く少女を見て、俺は鎌を手から滑り落とした。

 

罵声でも命乞いでもない。少女の言葉は今はなき仲間(ファミリア)への願い。

 

「……」

 

初めてだ。死ぬ間際まで仲間を想うやつを見るのが。美しいと感じた。復讐だとしても一人で突き進んだその姿が。

 

目の前で力なく倒れる少女は――――尊敬に足る冒険者だ。

 

「……悪いが願いは叶えられそうにない」

 

大鎌を背中に戻した俺は気を失って倒れている少女を抱きかかえる。死んだようにぴくりとも動かない少女に俺は言葉をかけた。

 

「その願いは自分で叶えろ。生き抜いて神様にも仲間にも、君の口から伝えるんだ」

 

こんなところで死なせはしない。もう一度だけ、仲間に想いを届ける風になってみろ。

 

「……少しだけ手伝ってやる」

 

ぼそりとつぶやいた俺は少女を抱えたまま、空間魔法の詠唱を始めた。

 

どこまでも続く迷路を風がするりと通り抜ける。迷いから抜け出した風がどうなったのか、その後を知る者はごくわずかであった。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

「それにしてもこの5年間で変わりましたね」

 

あなたも私も、そういってくすくすと笑うリューさんに俺も苦笑する。

 

「いろいろあったからね~。リューさんも昔より全然今のほうがいいよ」

 

「ふふっ、アークも今のほうが生き生きしていますよ」

 

「そりゃーリューさんと話しているから」

 

「そ、そうじゃなくて……」

 

耳をピクピク動かすリューさんに俺はわかってるよ、と付け加える。

 

「ここから先はもっと楽しくなるよ。……さてと」

 

カウンター席から立ち上がった俺にリューさんは不満そうに声を上げる。

 

「……もう帰るのですか?」

 

「お店もリューさんも、そろそろ忙しくなるでしょ?」

 

「それはそうですが……」

 

<豊穣の女主人>は酒場ということもあって夕方から夜にかけてが最も忙しい時間帯だ。今は5時と半刻を過ぎているのでさっきからちらほらと客の出入りが見え始めている。一応席に座った時に何品か注文をしたので追い出されることはないが、今日の疲れを清算するためにやってきた冒険者の邪魔をするのも失礼だろう。

 

「では、また来てください」

 

「ああ、また明日」

 

店の入り口まで見送ってくれたリューさんに感謝しつつ、ホームへ戻るためにまたメインストリートへ踏み出そうとする。

 

「アーク!」

 

突然リューさんに呼ばれ、振り返った俺が見たものは、凛とした美しい一輪の花だった。

 

「ありがとう」

 

それだけ言うとリューさんは顔を赤くさせてぱたぱたと店内に戻っていく。

 

「……」

 

またも柔らかな笑顔に見とれてしまった俺はしばらくの間、その場に立ち尽くしていた。

 

 

 

「そんなとこでぼさっとしてんじゃないよ!」

 

「痛っ」

 

……立ち尽くし過ぎたせいでミアさんに拳骨を受けたこともここに記しておく。

 

 

 

 




第2話、お読みいただきありがとうございます!いかがだったでしょうか?

今回はリューさんとの出会い、回想を交えてのお話です。原作ではシルさんがリューさんを助けるという場面がありましたが、私たちの小説ではアークが見つけたということにしてあります。治療をすませたリューさんにアークがあの酒場を紹介した。みたいな感じです。シルさんとの関係は原作通りのままです!仲良しです!

それにしてもリューさんがヒロインの小説って思ったより少ない気がします。もっと増えてもいいのよ?

ご意見ご感想いつでもお待ちしております!次回は明日か明後日に投稿します!
それでは次回またお会いしましょう!
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