支配者な眷属物語   作:珈琲飲料

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一年以上更新が滞ってしまい申し訳ありませんでした。

それでは6話です、どうぞ!




6話 それぞれの思惑

「あのっ、助けていただき本当にありがとうございました!」

 

「いやいや、困ったときはお互い様だよ」

 

それに<ロキ・ファミリア>にも貸しをつくれたことは結構大きい。

だから別に気にしなくていいと俺は軽く笑った。しかしレフィーヤはなかなか引き下がってくれない。さてどうしたものか……。

 

「うーん……ならデートでもする?」

 

「――デ、デートですかっ!?」

 

頭を悩ませるふりをしてレフィーヤにそう提案する。そして案の定、火照ったように頬を染める少女を見て反応を楽しんだ。相変わらずロキ様のところは面白い子ばかりいると思う。見ていてまったく飽きない。

 

「まあ冗談だからこれも気に―――」

 

「で、でも!アークさんがお望みなら、その……」

 

上目づかいにこちらを見てくるレフィーヤ。

……なんかこれまずくね?

俺としては軽口を叩いて困った表情を見たらおしまい。というプランで提案してみたんだけど。それに俺にはリューさんが……

 

「い、いやレフィーヤちゃん……?冗談だから真に受けなくてい―――」

 

「―――へぇ、何が冗談だったのですか?」

 

ゆらぁ、と。

 

レフィーヤの誤解を解こうと口を開いた俺の真後ろに、その女性はいつの間にか立っていた。

 

エルフの代名詞と言える整った顔立ち。数多の男を魅了することだって可能な微笑み。しかし、今のそれには原始的な恐怖を感じさせるなにかがあった。というより目がまったく笑っていない。

 

「リ、リューさん!? これは冗談ですから! からかっていただけで悪気とかは……」

 

「デートを途中ですっぽかして、あまつさえ他の女性を誘うその所業に悪気がないと?」

 

火に油を注ぐ。今の状況をざっくり言うならばこの言葉が適切だろう。じりじりと後退していく俺に距離を詰めようとゆっくり近づいてくるリューさん。視界の隅では状況がいまいち分かっていないレフィーヤ、呆れたように俺のことを見るアイズがいた。腹を抱えて必死に笑いを堪えようとしている道化師様も見える。

 

「お、落ち着こうリューさん!?話せば山よりも高く、海より深い事情があって!」

 

盛大に尻餅をつき、がたがたと震え上がる俺に、近づいてくる妖精(エルフ)の女性は歩みを止めると、いっそう笑みを強めた。

 

「問答……無用ですっ!」

 

「ま、待っ――――ひぎゃああああああああああああああっっ!?」

 

闘技場から響く歓声を打ち消し、その叫びは都市を震わせるものとなった。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

太陽が西へと傾き、オラリオは夕焼けに染まろうとしている。

闘技場から帰路へ着こうと大通りを歩く人たち。その中に混じって、俺とリューさんは西のメインストリートを進んでいた。

 

「なんだか色々あって疲れました」

 

「とんだ日になってしまいましたね」

 

俺の言葉にリューさんが苦笑する。お互い怪我をすることなくフィリア祭の緊急事態を乗り切ったわけであるが、モンスターの後始末、ギルドへの報告などでメインイベントであった調教(テイム)を見ることができなかった。

 

加えて騒動を起こした犯人は捕まっていない。愉快犯だったのか何かしらの意図があったのかも分からないまま真相は闇の中だ。

 

「ギルドと<ガネーシャ・ファミリア>はこれから対応に追われそうですね」

 

「今頃半泣きかもしれないですよ」

 

ころころと笑う俺につられ、遠慮がちに笑うリューさん。冷や汗をかいてぺこぺこと頭を下げる<ガネーシャ・ファミリア>とギルド。ガネーシャ様のところは気の毒でしかないが、ギルドの豚さんも頭を下げるならば正直見てみたいものである。

 

「アークは今回の騒ぎをどう思います?」

 

高慢なギルド長が表情を取り繕って頭を下げる。そんなシーンを想像していた俺に、リューさんがフィリア祭の騒動について聞いてくる。きりっとした真面目な表情。やはりいろいろと納得がいかない点があるのだろう。

 

「単純に考えるならフィリア祭の否定とギルドの信頼低下が目的だと思います」

 

ギルドが企画したこの催しを批判するものは少なくない。市民と冒険者の間に存在する深い溝。それを埋めようとする政策なのであろうが、その材料に危険因子(モンスター)を使うところが疑問視されている。本末転倒というやつだろう。だから祭りを邪魔する。筋が通っていると言えば通っているのだが―――。

 

「でもそれだと今回の騒動は綺麗過ぎだと思うんですよね。本当に否定をしたければ被害をもっと広げているはずですし」

 

死人も怪我人もゼロ。それどころか逃げたモンスターは市民を襲う素振りを見せなかった。混乱を誘うという点ならば達成できているがまだ弱い。被害を広げる気はなかった。今回の騒動は相手がそう考えているのではないのかと思えてくる。

 

「それに最後に戦ったあのモンスター……」

 

「本当に<ガネーシャ・ファミリア>が連れてきたのか、ですか?」

 

リューさんの言葉に頷く。

 

「あれだけ強いモンスターをテイムできるとは思えない。あんなに魔力に過剰反応するモンスターは初めてです。……まるで」

 

そこまで言葉を続けた俺にリューさんが首を傾げた。

 

「まるで、なんです?」

 

「……やっぱなんでもないです。気にしないでください」

 

……憶測すぎる。忘れてくださいと自嘲の笑いを浮かべる俺を見て、リューさんは察してくれたのか、それ以上は触れてこなくなった。

 

「はぁ……。それにしてもせっかくのリューさんとのデートが」

 

それまでの重い雰囲気を変えるために、今日の一番の心残りをため息とともに漏らす。まったく楽しめなかったわけではないが消化不良は否めない。

 

「デ、デートって……」

 

「あれ?リューさんあのとき言ってくれたじゃないですか。「デートを途中ですっぽかして……」って」

 

「そ、それは言葉の綾で」

 

「いやぁ嬉しかったな~。リューさんもデートって思ってくれて」

 

あのときはそんなに意識して言っていなかったのかな。そう考えるとちょっと淋しい気もするけど……。恥ずかしさを隠すように目を逸らすリューさんが見られて俺、満足です。

 

「……リューさん。今日は楽しかったですか?」

 

ぷいっと顔を反対に向けたリューさんに聞いてみる。

 

デートと銘打っておいて本当に彼女を楽しませることができたのか。一番気になっていたことだ。モンスター討伐に奔走され、まともにリューさんの相手ができていない。果たして彼女は今日のデートを心から楽しんでくれたのだろうか。

 

「……そんなことですか」

 

しかし俺の考えに反して、隣の女性はこちらに顔を向けて微笑んだ。

 

「楽しくないわけがないです。アークといろんなところを回れて楽しかったです。……アークと一緒にいれて」

 

「リューさん最後のとこ、もう一回言ってください!」

 

「なっ!? も、もう知りませんっ!」

 

手を合わせて懇願する俺を無視してリューさんは走り出す。その表情を見ることはできなかったが、夕焼けによって色づいて見えた頬。それが夕焼けのせいではないことを信じたい。追いかけるように俺も走り出す。

 

「リューさんっ」

 

今の気持ちをそのまま乗せるように、近づいていく背中に唇から言葉を紡いだ。

 

「またデートしましょう」

 

今日という日を、振り返った妖精(リューさん)の笑顔を、俺は忘れない。

 

「―――はいっ」

 

街に差し込む夕焼けが霞むほど、彼女の笑顔は眩しかった。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

「――――というのが今回の騒動の全容です」

 

「……そんなことがあったのね」

 

ステイタス更新のためにティアマト様の部屋を訪れた俺は、ついでにフィリア祭で起きた出来事、そのだいたいの流れを説明していた。

 

「それに極彩色の魔石……」

 

女神の手の中で艶やかに光る半分に割れた魔石。見る人が見ればそれは美しい輝きを放っているのだろうが、今の俺には怪しげに光っている不気味な石ころ、そう感じる。

 

「今回の騒動、何かが一枚噛んでいるような気がするんです。いや、正確には噛まざるを得なかった」

 

隠し通せなくなったから騒ぎに紛れて処理をしてもらう。あのモンスターはフィリア祭以前から地下に隠されていたのではないか。そしてその目的は……。

 

迷宮都市(オラリオ)を襲うこと」

 

「ちょっと神様、人の心を読まないでください」

 

「あら?アークの顔に出ていたわよ?」

 

なんだ、それならしかたないか。

 

「っていやいや!なんですかその子供をうまく騙す母親みたいな返しは!」

 

「ふふっ、私から見ればあなたは可愛い子供よ?」

 

一応言い返してみるが、いつも通りのらりくらりと躱されてしまう。飄々としていつの間にかペースに巻き込まれる。これがうちの女神様の長所か短所なのか未だによく判らない。

それでいて妙なところで鋭いし……。まあ頼りになるのは事実なんだけど。

 

「でもそうね……これを私たちだけで解決するのは少し無理があるかもしれないわ」

 

そう言ってティアマト様は立ち上がると、ステイタスが書かれた羊皮紙を持って近づいてくる。

 

「ついて来てアーク。協力をしてもらえるよう掛け合ってみるわ」

 

「……協力ってやっぱり」

 

「もちろんロキのところよ」

 

……ですよね。

言葉通りの女神の微笑みに、俺は頬を引き攣らせ、頷くことしかできなかった。

意気揚々と部屋を出ていくティアマト様の後を追いながら、俺は手渡された羊皮紙に目を走らせた。

 

アーク・グールフィアー

 

Lv.6

 

 力:B756→766

耐久:B704→710

器用:A840→852

敏捷:A856→873

魔力:B790→A802

 

 

≪スキル≫

 

能力支配(アビリティ・ルーラー)

・任意で各アビリティの等級を下げる。

・下げた等級だけ他のアビリティの等級を上昇。

・アビリティ上昇補正。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

北のメインストリート。

ギルドの関係者が住まう高級住宅街も近隣に位置するこの大通りは、商店街として活気付いておりオラリオでも有数の一等地である。そんな通りから一つ外れた街路の脇、都市の最北端にあたる場所にその建物はあった。

 

「こんな時間に訊ねてしまってごめんなさい」

 

「ええって。それにええもんもろうたしな」

 

目の前に置かれた酒――神酒(ソーマ)をグラスに注ぎながらロキ様は笑う。何か手土産でもと用意した酒であったがちょうどロキ様のお気に入りだったらしい。他派閥である俺と神様がここまですんなり入れたのもこいつのおかげなのかもしれない、と少しだけ酒の魔力に感謝しておく。……高かったけど。

 

吸い込まれるような黒に都市が染まる中、<ロキ・ファミリア>のホームで話し声が交わされていた。内容はもちろんフィリア祭のことだ。

 

「今回の犯人はあの色ボケ女神で間違いないんやけど……ティアたんの子が倒したモンスターに限っては知らんってゆうとる」

 

「フレイヤは関係なし……となるとやっぱり面倒なことになりそうね」

 

出された紅茶を口に含みながら予想通りという雰囲気を出す神様に、ロキ様はにやついた笑みを浮かべる。

 

「で、目的はなんや?」

 

「あら、目的だなんてそんな」

 

「とぼけんでもええって。こんな時間にきたってことはうちに何か頼みごとでもあるんやろ?」

 

左目を閉じ、もう片方の目でこちらを見るロキ様。その表情に、俺は話し合いが難航することを悟って小さく嘆息した。

 

 

 

 




第6話、お読みいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか?

今回アークのスキルが出てきましたが、残りの二つはもう少し先に登場する予定です。

それでは次回またお会いしましょう!
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