-2030年4月10日
-第7監視分隊・分隊長・勝山拓哉曹長-
-北東防壁壁上-
それから俺たちの分隊は他の分隊との昼の休憩交代も終わり再び壁の警備を再開した。
しかしながら、俺らが見る壁の外は特に変化はなく、変化といえば壁に近づいてきた感染者を駆除する一射一撃の狙撃の音と薬莢の微かな排出音、推定7.62mm口径弾をうけた感染者の身体がはじけ飛ぶ光景が見える程度である。
世界が変わってから14年の間、ふと今かつてあったことを思い返るとやけに辛いシーンが復刻する。かつての感染した親を自ら殺害して働く場所もなかった難民だったの俺は食い扶持を稼ぐために軍に志願した。入隊後の数々の戦闘で何人もの仲間を失って悔やんだ日もあったが、苦労の末、分隊長格に昇進をした。
壁の中を見る限り、軍を担う兵力も集まり外敵による侵攻もなく治安も安定してきている。経済は変異が起こる前とは比べようがないが最悪な時に比べたら徐々に回復してきている。この様子だと壁外への再進出が可能ではないかと思えてくる。
…ただ、俺の中ではあいつを目の前で失った「あの日」から他人を信用できなくなっていた。人を獣と感じ会話も少なく他人との距離を隔てていた。しかしながら、変わった部下たちのおかげで任務を無傷、最小限の被害でこなして来れたのだが…。
「・・・まぁでも大丈夫か…」
「・・・どうしたんです?隊長?隊長最近疲れてません?寝てないんですかぁ~?」
ふと横を見ると軍曹の奥田咲が立って首を傾げていた。俺より4つ下の年で、俺の部下だ。見た目は髪をポニーテールに束ねていて小顔で可愛いが・・・。
「何だ?奥田軍曹?」
「いえ、勝山隊長の目のクマが気になりまして…。」
「そうか。最近眠れなくてな…。」
「………もしかして……もしかするとォ?!?!彼女さんとやっぱり毎晩××××して〇〇やって寝させてもらえないんですかぁ」ウヒャゥ
………これだ。奥田軍曹はたまに何故か俺の前になるとトンデモ発言を毎秒数千発の改造バルカン砲の弾幕の如く吐き出す癖があり、周りの同僚からは「腐りかけ」「残念すぎてコメントできない美人」の評価を受けていた。
「なんでそうなるんだ!バカか?!彼女なんてもんいない!」
俺はいつもは軽く受け流していたが今日はなぜか奥田に言い返していた。そう言って反省した俺は溜め息をつく。
「そうじゃないんですか?!ガッカリです。だったら私にも夜○いをかければチャンスがぁぁぁ?!あっ…うふふふふふ・・・」
反省した理由はコレで、言い返すとこいつの変態弾幕が悪化するからだ。毎日吹っかけてくるこのやり取りにも流石にウザくなってきた…。
「…何だって軍曹?また懲罰房行きにするか?あぁ、そういえばあそこの女看守、たいそう軍曹のことを”可愛がって”いたそうじゃないか……?」
俺は効き目のある脅しをかけた。
「っ!異常ありません!」
奥田軍曹はよく変な妄想癖がおこる女性である。これを差し引いたらさぞもてるんだろうが…。奥田はかつて、内地の部隊に配属されていたときの演習中にこれが原因で部隊の位置がバレて全滅判定を喰らい、この最前線の壁勤務に異動されてきた経歴があった。
当の本人はさほど気にしてはいない。
…が、そのときに懲罰房の看守主だった女少佐と仲間たちにとあるプレイをされて以来、奥田の「思い出したくもやりたくもない経験(トラウマ)」になっていた
「ん?何か言いました?」ニタァ
「…何も言ってねぇよ」
…なんだこの分隊はバカが多いのかと呟きながら壁外の監視を続行する。
…そういえば今日は壁外の奴らの数がほぼいないな…。いつもだったらうじゃうじゃ居るというのに。
我らがトリガハッピーアンドドラッグヒャッハーの討伐隊のあの狂人たちのことだ。定期討伐にありったけの戦車を持ち出して奴らを狩りまくったのだろうか。変だと思いつつも、監視を再開すると、、、
「ん?」
俺の視界にあるものが移った。
1人の少女が壁外を歩いていたのだ。壁外は言われなくてもわかるように奴らに襲われる危険が大の危険地帯であるために一般人立ち入り厳禁のはずだった。
発見した俺はすぐに分隊各員に召集を掛けた。
担当警備区域に分散していた部下たちは集まり少女の存在を再確認し、あの壁外を歩く少女をどうすべきかまず考察とそれに基づいた作戦を立てることにした。
壁上のテント内で行う。
-北東防壁壁上-
「俺たち分隊はあの少女をどうなのかの考察とそれに応じた作戦会議を始める。時間の猶予はあまりないがみんな意見を出してもらいたい」
「「「「はい!」」」」
部下たちの返事が呼応した。基本、俺たち第7監視分隊では皆で協議の上、作戦を取る形をとっていた。
「勝山曹長!具申したいことがあります」
すぐに手が挙がり眼鏡をかけ黒髪短髪の男性が声をあげた。
「田中伍長か。何かあるか?」
「はい。ここはやはり上に報告して指示を待つのが正しいかと自分は考えます。先ず、少女の様子がただ事では有り得りえないように見えます。護身用の武器を持たずに壁外を歩くなんて…。少女の服装も見るからに怪しいです。ですが、毎度具申していますが我々単独で動くのは命令規則的にマズいのではないのでしょうか?」
事なかれ主義者(#勝山たちから見ると)の発言にも聞こえるが田中伍長は決して臆病ではない。変人が多いとされるこの分隊で唯一常識を持ち冷静さと射撃の腕で中隊の中でも評判の高い兵士だ。
防衛隊では一応軍隊の体をなしているが、感染者ばかり相手にしている傾向が続いているため、新規採用の隊員に対して行われる教育は対人戦闘作戦の隊員教育が後回しにされて対感染者作戦の教育を優先している。その結果、考えが浅く敵地正面突破を好む防衛隊隊員の中では田中伍長のように客観視出来る人材は数少ない。
「そうだな。田中伍長のそれが一番無難だろう。他には?」
「はい!」
「奥田軍曹。何か?」
「はい。私は田中伍長の意見に反対します。少女はよく見ると傷だらけです。早急に保護すべきです!上の指示を待つのは時間が掛かりますし、その間に事態が悪化するやもしれません」
少女は見るからに傷を負い何かから逃げている様子にも見えた。奥田の言うことも一理ある。
「・・・分かったありがとう。作戦は…」
「隊長!報告します!
そこに少女を監視中だった福田一等兵が急に報告しに入ってきた。
「どうした。」
「少女の後方500mより『奴ら』が接近しています!」
「数は?」
「通常型が数十体、変異型が複数確認しました」
変異型は動きが鈍い通常型に比べて腕と脚を中心に肉体組織が変異を起こし、爪が巨大化し動きが素早く殺傷能力が高い。連射できる小銃を携帯して対峙した兵士でも1対1だといつの間にか後ろに回り込まれ身を守る暇もなく首を狩られる被害が多い脅威度の高い敵である。
ましてや武器を持たない少女はより無防備で襲われたらひとたまりもない。
時間は待ってくれないようだ。
「わかった!小隊長に代わり分隊長より発令する!作戦は少女の保護を最優先の目的とする!総員戦闘準備」
「「「了解!」」」
「責任は俺がとる。少女を救出するぞ!行くぞ!」
そうして俺の命令により第7監視分隊は救出戦闘態勢に移ったのだった。
次話:戦闘シーン入ります!乞うご期待!