-4月20日-
-少女救出から4日後-
-秋雨市外・北部旧某市街地-
『キュルルルルルっ!』
時刻が昼過ぎを回った頃、土煙をあげて9つの黒い塊が廃墟街を疾走していた。
草が無秩序に生い茂ってひび割れかけるアスファルトの上を走行し、苔の生えた小ビル群の間を駆けていた。それらが通るたび地面からは竜の唸るような地響きがするのだった。
「…隊長、作戦開始地点まで2kmです」
「解った。いよいよだなぁ!奴らが束になって来ようがコイツにはかなわねぇから安心しな!なぁ新入り!」
「は、はい!了解であります!」
隊長と呼ばれた男はそう言って画面に映る映像を見る若々しい青年の肩を叩いた。
「は、はい!」
「初戦だからって間違っても味方のケツにぶっぱなすなよー」
次に操縦桿を握る男が目の前から視線を逸らさず青年を茶化した。
「はい…いよいよです…」
青年は画面を凝視しつつも初の実戦に武者震いする中の自分があった。
彼らが乗っているその黒い塊の正体は「10(ひとまる)式戦車」である。
10式戦車は旧自衛隊が2010年に制式採用された当時最新式の戦車である。異変当時のセーフゾーン防衛のためにF駐屯地にあった各種の戦車が出動し感染者を制圧していた。
感染者は知能の低下のため、武器火器を使わない。そのため、硬い装甲を持つ戦車は滅多に破壊されることはない。よって、感染者排除には戦車が用いられることが多い。
「…!開始地点まで1km!」
目標地点を前に副官が距離を報告する。
「総員戦闘用意!それぞれの車長は歩兵からの状況報告を受け次第、上のM2撃てるようにしとけ!主砲はまだだ」
5両の戦車は寄ってくる感染者を挽き飛ばしながら最大速度で突き進む。
「目標地点に到達!」
「よし!各車、作戦通り五芒星配置!」
「「「了解!」」」
ロータリー状の交差点に進入した戦車隊はすぐさま5つの突起状に主砲を外側に向け、上から見ると星のような隊形になった。
「隊長、各車準備が整いました!」
「…よし!全車、よぉいぅてぇぇぇぇ!」
戦車隊長の一声と同時に戦車の120㎜砲が火を噴いた。見事な業火を放つ主砲を前に群がっていた奴らがHEAT(成形炸薬弾)をモロに浴び、瞬く間にただの肉塊、いや塵に変わった。
「各車に戦闘指揮を委任!奴らを殲滅しろっ!」
戦車を前に知能を失った感染者に危険予知できる個体がいるようで、そうした感染者は一目散に逃げようとしていたが…
主砲のお次は74式7.62mm同軸機銃と車上から車長の放つ12.7mmⅯ2機関銃からの苛烈な7.62mm×54mm弾と12.7mm×99mm弾の弾幕がボーリングのピンのように逃げようとする感染者諸共なぎ倒していき、次々と地面に顔を埋めていった。
感染者の集団に榴弾が命中、瞬間弾け飛ぶ。3m以上上空に吹き飛ばされる感染者の姿も見える。
「ビンゴ!大当たり!次も行くぞ!」
それを見た車長はガッツポーズを作り、砲手の青年に言う。
「やっぱ機甲戦隊に入って正解でしたよ。こんなリアルなシューティングゲーム、めったに味わえないです!車内だから噛まれる心配ない。それに比べて歩兵戦隊の奴ら、大変ですよ~」
実戦処女を破ったかつて初々しかった青年は人が変わったかのように狂った笑みを浮かべていた。
戦車隊の後方からは、6輪式の装甲車に連れられた大型兵員輸送トラック数台がまっすぐ戦車隊の後続に向かってくるのが確認できた・・・。
「あとは歩兵戦隊の腕の見せどころだなぁ!」
そう言って砲手はトリガーを引いた。
-4月20日-
-某市街地・輸送トラック内部-
それぞれの車内で士官が兵士たちに呼びかける。
「これより我々歩兵戦隊による掃討作戦に移る!戦車隊に随伴して市街地を制圧せよ!装備の点検怠るなよ!」
「「「「了解!」」」」
「大いに結構!また、ゲストとして、秋雨都市防衛隊即応隊の大尉殿と第7監視分隊の方々が我々の活動を視察する。組織が『攻める』と『守り』というように異なっているが、同じ秋雨市を想う者として我々の精鋭なる歩兵戦隊の練度を防衛隊の方々に見せ付けようじゃないか!各員健闘を祈る!」
「「「「おおおおおおおおおおおおっう!!!」」」」
歩兵戦隊の隊長の訓示に応えるように隊員たちが揃って大声で返事をした。これにより、歩兵戦隊員の士気は盛り上げられたのだった・・・。
-防衛隊・第7監視分隊組-
ちょうど同じ頃、討伐隊の歩兵戦隊の乗ったトラックの最後尾に2両の改造ハイエース(元トヨタ製10人乗り乗用車)が走っていた。
「隊長~、なんで私たち討伐隊の戦闘地域に行くことになっちゃったんですか~?」
「知らねぇよ?!俺だってこんなとこ来たくなかったわ!」
「やっぱり~あれじゃないっすか~?前の作戦で助けた女の子に関係してんじゃないんでしょうか~?ヒック」
「知るか!っておいコラ!お前こんなとこでも酒呑んでくるなよ…」
勝山と奥田と福田の3人は談笑していた。なぜか福田は酒をこんなところまで持ち込んで1人酔っていた。
なぜ下っ端の隊員連中が最前線の部隊に来ているわけは…割愛。
今回の作戦は表向きは討伐隊の視察となっているが、実際は中央司令部の将校1名と調査員1名の護衛というのが本来の作戦目的だそうだ。
俺たちは車内で軽くふざけていると、
「…勝山曹長、君の部下への教育がなっていないな。ここはもう戦場なんだぞ。場をわきまえろ!」
今回の護衛対象の1人である坂巻淳也(サカマキジュンヤ)少佐が叱咤してきた。
40代の精悍な男で旧自衛隊時代から所属している中央司令部の将校で外見は角刈り、戦闘服の上からでもわかる筋肉の盛り上がりが目に見える。
「いえ、大丈夫じゃないでしょうか?坂巻少佐。私、楽しい方が気持ちいいですし」
不機嫌そうな坂巻を言い収めている彼女は………あの日に保護した白髪の白人の少女だった。なんでここにいるのだろうか…。
「そういえば、あなたの名前をうかがっていませんでした。お名前は?」
「エマです。エマ・ニクソンです。あのときは本当にありがとうございます!」
白人少女の名前はエマ・ニクソンというらしい。そう言って彼女は座りながら軽くお辞儀した。相変わらず銀色の長髪が美しく魅力的な雰囲気をもつ少女だ。
「記憶を取り戻されましたか」
「ええ、あのときは本当に助かりました!」
『…可愛い』
エマはそう言いながら微笑み返す。勝山は一瞬エマの可愛さにほほが緩むが隣からの(奥田軍曹の)強烈な視線を感じ姿勢を正す。
「いえいえ、当然のことをしたまでです。今回は何をされにN市旧市街地に向かっているんですか?」
先ほどとうって変わって真面目に今回の目的を探るため軽く聞いてみたが・・・
「それは…」
「無駄な詮索は必要ない。君たちは私たちの護衛をしていればいいだけだ」
エマは坂巻少佐に言葉を遮られる。
「し、しかし・・・!」
勝山は坂巻の威容に圧倒されるがそれでも聞いてみる。
「しかしではない。君たちは「歩兵戦隊降車!」おっと、着いたようだ」
話を切り上げられ結局、聞けず、俺たち分隊も降車し護衛対象を囲むようにして隊形を組んだ。
「…それでは向こうの方に行くぞ」
「…了解しました」
さきに降りて安全確保した隊員らが建てたテントに坂巻少佐を先頭に入っていく。
坂巻は近くのテーブルにスマートPCを置いて起動させた。しばらくして坂巻はある方向を指差す。その方に向かうと告げた。
その先に、とんでもないことに差し掛かるとはこのときの俺たちも討伐隊の誰もが想像していなかった・・・。
15分後、坂巻大尉たちは討伐隊士官に「視察をしたいのだが、あの一際デカいビルを目標に進撃してほしい」と注文し、すぐに2両の戦車と歩兵10名のグループに随伴して坂巻大尉の示す目的地の近くまで視察という名目で護衛を頼み、向かうことになった。
「討伐隊第1戦車隊2号車長の村上曹長だ。よろしく頼む!」
「同じく討伐隊第6歩兵隊隊長の鎌田曹長です。我々の精練された行動よくみていてもらいたい!」
「防衛隊中央司令部付き坂巻少佐だ。」
「同じく防衛隊第3連隊第7分隊隊長の勝山曹長だ。こちらこそよろしくお願いします!」
速やかに自己紹介と準備を整えた討伐隊歩兵戦隊と勝山たちは進撃を開始した。
戦車と戦車に随伴する歩兵の相互関係は、
・強力な火力を投射でき銃弾を受け付けない装甲をもつ戦車。だが死角がありそこからの攻撃に弱い。
・対して歩兵はあたりを自由に動け偵察や監視任務、街の占拠に打って付けな歩兵。だが装備は戦車に比べ攻守ともに脆弱。
その両者が一体となることで戦車は歩兵では出せない火力で攻撃して見えない箇所を歩兵がカバーするため、とても相性が良く敵からの防御力が格段に上がるのだ。
そうした編成の討伐隊各隊は、前方のガレキや建物の陰から出てくる感染者を討伐隊の隊員たちが素早く排除し、複数のまとまった感染者には戦車砲の榴弾・散弾や機関銃で吹き飛ばして、グングン進撃していった。
市街戦ではどこから敵が飛び出してくるかわからない。だがそんな不安をなくしてくれるかのように意気揚々と討伐隊は進んでいく。
「さすが討伐隊!手馴れたようにどんどん制圧していますね」
「そうっすね~!これだと自分たちの出番なく、目的地に着きますね~!ヒック」
「そうだな。福田はさっさと正気に戻れ」
俺たち第7監視分隊の面々はこう楽観視して気を緩ませていた。坂巻大尉もやや安堵した感じだったが……
「……何か嫌な予感がします……」
エマは小さな肩をぶるぶると震わせてそうつぶやいた。
「?どうしましたか?我々の先鋒として戦車が進路を確保してもらってます。戦車さえあれば怖いものなんて1つもないですよ」
「怖いものなんてない」と、言いつつも俺も何かおかしいと感じていた。
まるで誘導されているかのように道幅がどんどん狭くなり建物が入り込む地域に入ったことで戦車と歩兵の間隔が建物などで阻まれ始めている…。
それに報告されているこの地区の感染者の発生状況だととてつもなく多いとされているはずがなぜかとても少ないようだった。
俺も違和感を持ちつつもエマを安心させるように優しく声をかけたが、
「違います!嫌な予感どころかさっき私見たんです!」
「?何が違うのですか?何を見たんですかっ?」
戦場のストレスからか俺はどこかハッキリしないエマに軽くイラつき、眉間にシワを寄せてやや怒気を含み、ぶっきらぼうに聞いてしまった。
エマはそんな俺にビクッと怯えつつも言葉を発した。
「向こうのビルの窓から人がこちらをジッと見ていました!奴らじゃなかったです!」
それを聞いた俺はまさかと思い、すぐに戦車の方を振り向いた。
俺が振り向いた瞬間、戦車に向かって飛翔するロケット弾が見えた…。
最近は朝は筋トレとランニングをして朝食後にコロンビアコーヒーを飲み、英語や数学の勉強と適性検査対策の休憩にパソコンで小説を書き込む毎日です笑
試験が待ち遠しい(必勝)