-4月20日-
-某市街地・北地区住宅街の廃ビル屋上-
-勝山拓哉曹長-
「隊長!敵襲です!」
奥田がテントに駆け込んできた。
「さっきのはどこが爆発したんだっ?」
「このビルの正面玄関のバリケードが破壊されてしまいました・・・」
「敵は?」
「素早く影が複数、ビルに侵入したの見ました。おそらく人か、奴らです!もしかしたら討伐隊の生き残りかもしれません」
最悪の事態になってしまった。福田が「人」言ったがこの壁外で自由に行動できるとしたら必ず何らかの武器を持っている。「奴ら」の場合、福田が見たのは走って侵入する影だった。そうすると変異種の可能性が高い。変異種は通常種に比べて身体能力が何倍も高く走って襲ってくる。おまけに知能があり、集団で連携して襲ってきたりするからタチが悪い。このビルは4階建てであるからすぐにでも敵が迫ってくるだろう。
俺たちは敵襲に備え迎撃、脱出準備を進めた。
宿営道具をしまい、奥田軍曹に坂巻大尉とエマの護衛を頼み福田一等兵と俺の2人で先行偵察でビルを脱出することになった。
夜が明け太陽が昇り始め周囲が見えるようになった頃、俺たち2人は3階の廊下をクリアリングしていた。窓辺は明かりが差し込んでいて見透しがいいが廊下は階の中央を通っており暗く左右に部屋が何個かある。いつ奴らが飛び出してくるか判らない。
「こちらは秋雨市防衛隊です!人間であれば出てきてください!」
福田が声をフロア内に響かせる。索敵中に大声をあげるのは自殺行為かもしれないが万が一味方である場合は同士討ちを避けたい。故に1ブロック進む度に時折声を上げていた。奴らであれば向かってくるはずだから寧ろ手間が省けるが。
「(小声で)いませんね・・・」
福田がクリアリングを終えこちらに近づき話す。
「気を抜くな。入ってきたことはわかっているから絶対にどこかに潜んでいる。こんだけ声かけして出てこないってことは敵で間違えない。」
もしかしたら昨日銃撃してきた連中かもしれない、と福田に言ったあと、
俺たちは3階の安全を確認し坂巻大尉たちを誘導し下の階へ移動していった。
-4月20日-
-廃ビル2階廊下-
思ったよりもフロアが広いため時間がかかったがさっきと同じ様に索敵を進めていく。
「うぅぅぅ」
「?」
妙に唸り声らしき音が聞こえたため立ち止まり音がした部屋を確認するために接近した。
部屋のドアのプレートには「大会議室」と書かれていた。
俺と福田の2人は妙な唸り声がしたその部屋のドア前に張り付いた。ドアは両面開き式の重厚な造りになっていて所々傷ついていたが破られた形跡はない。鍵は壊されていた。
ドアをそっと少し開け中の様子を見た。中は大学の大教室のような黒板のある講義台を囲むように固定された机が連なって設置されている。所々2mぐらいの棚が積み上げられていたため過去にここに立てこもった人間がバリケード替わりに置いたのだろう。そのせいで視界に死角が出来てしまっている。
「(小声で)・・・隊長、中はどうですか・・・?」
両面開きのドアのもう一方にいる福田が聞いてきた。福田は普段は明るいやつではあるが壁外での実戦は今回で2度目と場数が少ないからか、緊張しているせいか、顔がやつれ気味である。
「物音はない。人影も見当たらない」
「・・・踏み込みますか?」
「ああ。踏み込む。俺が前衛をやるから福田は後ろを頼む」
了解、と福田は短く答え、俺たちは部屋の中へゆっくり物音を立たせないように入った。
さっき聞こえた唸り声の主を探るため棚が乱立する大会議室に踏み込んで索敵しているが、周囲はたまに小鳥のさえずる音以外物音なく静かだった。大部分の安全確認が済み、あと少しでこの部屋の索敵が終わりそうだ。
「ここには居なそうだ。次行くぞ」
「はい。後ろも異常なs」ダンッ
部屋の出口に向かおうとした矢先、銃声が鳴り福田の足元に着弾した。
「隠れろ!!!」
ダダダダダッダッ
直後に立て続けに銃声が鳴り響き、俺はすぐさまそばの棚に身を寄せた。福田も近くの棚に身を寄せ反撃を開始した。
ダダダダダダダン
ダダダダッ
福田の持つ64式小銃はダットサイト着用の改造されたもので命中精度は高いく7.62mmの口径の威力は大きく魅力的だ。しかし、狭い室内での取り回しは悪く連射の反動で照準がブレてしまう。かつて1970年代のベトナム戦争のとき米軍は7.62mm口径のⅯ14バトルライフルを装備していたが、フルオート時の反動で照準がブレまくった上に狭いジャングルでの取り回しが悪かったことが主な理由でよりコンパクトな5.56mm口径のⅯ16に切り替えることになった。
福田は突然銃撃されたことで焦りパニックに陥ったためか闇雲に撃ちまくっている。
・・・それにしても先程から撃ってきている連中の数が把握できない。通常ならば銃の発泡炎で位置を特定し数が解るはずなのだが、連中は撃つたび足音もなく素早く移動して位置をわからなくする上に複数箇所から同時に撃ってくる。反撃しようにもむやみに撃って弾を無駄に消費するのは好ましくない。
「福田!むやみに撃つな!的になるぞ!」
平常心を欠いて闇雲に撃つ福田に忠告した。今のところ俺のところに飛んでくる弾数が少ない代わりに福田は連中から集中砲火を浴びている。
あれではいつやられてもおかしくない。
「福田!徐々に下がれ!俺が援護する!」
見たところ連中は部屋の2つある出口を中心に陣取っているようでやや下にいる俺たちは位置的に不利だ。
「福田!下がれと言っているだろう!」
「・・・」ダダダダダダダッ
福田は返事すらせず無心に撃ち続けている。しかも全く当たる気配がない。福田はパニック状態のだろうか。あのままではマズイ。
ダンッダンッダンッカチっカチ
とうとう弾が切れてしまったようだ。
「ああああああ弾が!弾は?」
やっと現状に気づいたらしく慌てている。敵は弾が無くなったことに気づいたのか、接近しようと姿を見せた。
「「?!」」
俺たちの目には多銃身の銃と人の形をしたナニかが写っていた。
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・・・そのころ、勝山たちが戦闘を始めた時同じくして・・・
-4月20日-
-廃ビル3階階段前廊下-
-奥田軍曹&坂巻少佐&エマside-
下へ降りる階段の廊下そばの障害物に身を隠していた奥田軍曹たちにも勝山拓哉曹長と福田圭介一等兵が先行している2階から銃声が聞こえていた。
『…異なる銃声がいくつか聞こえるから、おそらく相手は人間ね』
奥田は手に89式小銃を持って警戒していた。奥田は勝山たちが交戦している相手は人間であろうと想像した。この壁外で正規軍の保護も受けずに生き残って独自に行動しているということはさほど敵は強いだろう。奥田自身加勢しに行きたいところだが、愛しの勝山曹長から命令された目の前の護衛目標(エラソーなおっさんと謎の美少女)を守らなければならない。無事を祈るばかりだ。
『昨日の襲撃で逃げるときに無線が壊れちゃったし連絡すらとれないなんて・・・』
昨日の最初の襲撃で爆発炎上した戦車からの破片が飛んできて身体に被弾した。運良く怪我はなかったが運悪く無線機に直撃し壊れてしまったのだ。そのため連絡がとれず状況が判らない。
『さっきに増して銃撃戦が激しくなっているわね。隊長たち大丈夫かしら・・・。それよりも・・・』
奥田としてはこの作戦が最初から疑問でしかならない。ただの壁の監視役であった第7監視分隊が白人の少女を救出したと思えば、数日経って中央からいきなり将校さんの護衛をしろって命令がきた。下っ端の私たちの任務にしてはおかしいわね。おまけに戦車を吹き飛ばせる装備持った連中がいるなんて聞いてないし。
奥田が考えている通り、護衛任務は通常、即応隊の任務範囲であり、勝山や奥田の属する第7監視分隊が任せられるはずがない任務である。ましてや対戦車ロケット弾を持った集団など事前ブリーフィングでは全くいないと知らされていた。
奥田はとてつもなく嫌な予感と気になって知りたくなる衝動に駆られた。
「(聞いてみるしかないわね……)……坂巻大尉!」
気になって仕方がない奥田は坂巻に問いかける。
「なんだ、奥田軍曹」
「作戦当初から気になっていることですが、なぜ私たち第7監視分隊が大尉たちの護衛をすることになったのですか?」
坂巻は一息つき、
「まだそんな戯言を吐くのか。お前たちは忠実に疑問を浮かべず私たちを守っていればいい!」
「しっしかし!今のこの襲撃は偶然にしちゃ計画的っぽさそうですし。それに今回は『視察』だったはずなのになぜ『目的地』を目指すことになっているのですか?!この目的がはっきりしませんと私は任務内容不服として秋雨市防衛隊法に則って任務を終了させます!」
かつて秋雨市防衛隊発足が間もない頃、発足当初は隊員の大半が軍隊経験の無い元サラリーマンであった。そのため集団行動がろくにとれないばかりか規律は正しくなく、左巻きの連中を中心によく賃金や待遇の悪さを理由にサボタージュなどが起きていた、これを改めるため旧自衛隊法と労働基本法や労働者の権利を所々ミックスさせた秋雨市防衛隊法が作られた。この中の項目に「防衛隊隊員は基本的に労働者であり、受領した任務内容が不服とするならば抗議とともに拒否も場合によるが原則可能である」という一文がある。よって、この奥田のように普通の軍隊にあるような上官命令絶対服従のようなことをしなくても良いのだ。
奥田はこういうところは頭が良いが勝山が絡むとアホの子化してしまう・・・。
「バカか貴様は!この状況で何を言い出す!」
「私は本気です!話さないのならあなたたちをほっといて勝山隊長達を助けてささっと壁の中で〇〇〇〇しに行きます!」
「何を馬鹿なことを言い出すこの馬鹿女!この場で撃ち殺してもいいんだぞ!」
坂巻は奥田に対して拳銃を向ける。
「あなたこそ何をするんですか?!殺し合っても意味ないというのに!」
「貴様!」
「………話しましょう」
この2人の終わらない論争のなかでエマは口を開いた。
「エっエマさん!ダメだ!」
「この際話すしかないでしょう。どうせ・・・」
言葉を濁したエマは坂巻少佐の反対を押し切り今回の目的について話し始めたのだった・・・。