麻帆良男子高校生の日常!   作:言寺速人

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麻帆良男子高校生の早朝!

 「いいかお前達。足腰は武道家にとって最も重要かつ基本的なものだ。重心のずれや踏ん張りは勿論、技の安定性や加わる力のかかり方も全てここから来ていると言っても過言ではない。

ゆえに我らが行なう修行としてはまず足腰を鍛えることを疎かにしてはならない。そこで上げられる修行方法だが学生の身であまり道具などの予算を使わずとも出来、足腰と共に体力もつけられる最適な修行方法がある。

そう―――ランニングだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 pipipipipiと心地よい眠りを妨げる音に神楽坂明日菜は目を覚ました。

 

 取りあえず耳障りの元を止めるべく手をのばすと時計に表示されている時間がいつもよりはるかに早いことに気がつく。

 一瞬もう一度眠ってしまおうかと甘い誘惑にかられたがなぜそんな時間に目覚ましをセットしたのかを思い出すともぞもぞとベットから這い出る。

 うつらうつらとしながらも洗面所に向かい冷たい水で勢いよく顔を洗う。

 肌を刺すような感覚に身がすくむがおかげで目もしっかり覚めた。

 洗面所からでて昨日用意しておいた服にさっさと気がえ、ある人からもらった大切な髪留めでツインテールに結ぶ。

 姿見で一度確認して問題ないと頷いてから玄関へ向かおうとするとルームメイトである近衛木乃香が物音で目を覚ましたのかトロンとした顔でベットから顔を出した。

 「あ、ごめんこのか。まだ寝てていいわよ」

 

 「う~ん? 明日菜何処行くん…て、あーそういえば今日からやったなあ」

 

 「うん。初日から遅刻するわけにもいかないからもう行くわね」

 

 「了解~、頑張ってな~」

 

 間延びする声音に苦笑しながらも本当に遅れるわけにはいかないので外にでる。今日からバイト。新聞配達を始めるためだ。

 春になったとは言えまだ肌寒さを感じる朝の外気に震えながらも新聞社の方へと足を運ぶ。ここまで朝早くに起きた事など今までにそうあったわけではないので新鮮な気分だ。

 スズメだろうか、チュンチュンとさえずりが聞こえ、まだ朝日も登り切っていない町並みは見慣れたはずにもかかわらずどこか別世界のようにも感じた。

 そんな清々しさをかみしめているうちにいつの間にか新聞社のすぐ傍までたどり着いていた。店先では既に開いた入り口で自分が働きたいと言ったときに快く受け入れてくれたおばさんが笑顔で迎えてくれた。

 

 「おはよう明日菜ちゃん。こんな朝早くはきつかったでしょう?」

 

 「あはは、ちょっとだけもう一度寝そうになりました。でも大丈夫です。今日から頑張りますのでよろしくお願いします!」

 

 元気のよい明日菜の姿におばさんも嬉しそうに微笑む。とはいえいつまでもこうして話している訳にもいかないので用意しておいた新聞の束の入ったカバンをまだ緊張している明日菜に手渡す。

 

 「はいじゃあコレ。道順は昨日も教えたけどちゃんと地図も入ってるからそれを確認しながらやってね。しばらくは明日菜ちゃんにはその区域を配ってもらうから家や道を覚えながらやってね」

 

 「は、はい! っと、それじゃ早速行ってきます!」

 

 「あ、ちょっと待ちなさい明日菜ちゃん」

 

 返事するや否やすぐさま駆け出していきそうな明日菜をおばさんは引きとめる。何かまだ確認する事があっただろうかという明日菜の顔を見ておばさんはそうではないと首をふりつつある方向を見やる。

 

 「どうせならあと2、3分待ってなさいな。多分そろそろ来るだろうからせっかくだから見ていきなさい」

 

 「?」

 

 いまいち要領を得ないおばさんの誘いに内心首を傾げながらも取りあえずはおばさんと同じ方法に顔を向ける。

 

 他の店はまだほとんどがシャッターが下りたままだが人がいないわけではない。犬の散歩をしていたり早朝ジョギングをしている中年の人がいたりするが取りたてて珍しい訳ではない。

 一体何を見れると言うのかと思った矢先、視界の先に何かが見えた。

 それらは確認できたかと思うとどんどんこちらに迫ってきて

 

 

 そして―――

 

 

 

 

 「「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」

 

 

 

 

 効果音を表すのならばドドドドドドがふさわしいだろう。

 彫りの深い男、赤髪のおさげ、顔立ちの整った男、最後にリーゼント、と4人の男子が叫び声を上げながら物凄い勢いとスピードで駆け抜けていく。

 先ほど早朝ジョギングをしている人がいたがまるで比較にならない。というか明らかにマラソンの走り方ではなく全力疾走スタイルである。

 彼らは皆腕を全力で振り、足を高く上げ、暑苦しい汗を流し、意味不明な声を上げ、少しでも他の者より前に出ようとしている。

 学生が走る姿と言うのは正直な話毎朝の登校時にいつも見ている。

 人数の規模ならそちらの方が上だ。

 だが彼らの走りはそんなものとはまるで違う、鬼気迫った走り方だ。

 形相は必死そのもので、そう、間に合わなければ何かが手遅れになってしまうような。

 4人の男子は抜きつ抜かれつを繰り返しつつ明日菜達の前を通り過ぎていく。

 嵐のように遠くへ消えていく様は怒涛の勢いと言う言葉を説明する際に非常に役立つだろう。

 明日菜は去っていく彼らの背中を見ながら前に木乃香から聞いた『走れメロス』の話を思い出した。

 メロスさんもあんな感じで走っていたのだろうか? 

 目を血走らせて意味不明な叫び声を上げて顔面を風の抵抗で歪めて走っていたのだろうか?

 

 ……だとしたらなんか嫌だ。

 

 「いやあ今日も元気だねえあの子たちは」

 

 呆然としていた明日菜だったが横のおばさんののんきな声で我に帰る。

 

 「な、何ですか今の!? 何であの人たちあんな朝っぱらから必死に走ってるの!?」

 

 「さあねえ? あの子たちを見始めたのは2、3年前からだけどその頃からあんな感じだったからねえ。最初は皆もなんだろう?とは思っていたんだけどあのスピードだしあの様子だから誰も理由を聞けなくてねえ。そうこうしているうちに毎日あんなだから皆慣れちゃって今じゃほら、このへんの時計代わりになってるよ」

 

 言われてみればさっきの光景に驚いていたのは自分だけで他の人達はまるで疑問にも思っていないようだ。それどころかさっきまで閉まっていたシャッターが開きアイツらが来たしそろそろ始めるか、とぼやいている人もいる。

 

 「はい! それじゃあ今度こそ行ってらっしゃい。あの子たちは少しは前後する事あるけど大体この時間に来るから毎日見れると思うわよ」

 

 おばさんの何故か嬉しそうな言葉に生返事をしながら明日菜は足を進めた。

 初バイトだというのに考えるのは先ほどの光景。アレを毎日見る事になるのか。

 そう思うと先ほどまで清々しさを感じられた風景が急に汗臭くなったようだった。

 

 明日菜は知らない。

 これから一年もしないうちに自分も異様な走りをする彼らを見てもなんとも思わなくなることなど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふむ、安定の一位」

 

 「あー! また負けたクソ!」

 

 「あっぶなかったー。もうちょっとで負けるところだった」

 

 「うおおおお俺かあああああああ!!」

 

 先ほどの新聞社の前を通り過ぎてからほどなくして男子学生寮の前。

 当然と言わんばかりに頷く大豪院ポチに悔しがる中村達也、自分の順位に胸をなでおろす山下の後ろでは打ちひしがれる豪徳寺の姿があった。

 

 「ほれ薫ちん、いつまでも落ち込んでねえでさっさと罰ゲームやるぞー?」

 

 中村の声にのそり、と力なく立ち上がった豪徳寺は他の者と同じく罰ゲームの準備に取り掛かる。円になった彼らの真ん中には一つの大きいグラス。

 

 「はい、じゃあせえのっ!!」

 

 中村の掛け声に合わせダン!と言う音と共に全員が目の前に持ち寄った飲み物を出す。種類は以下の通りである。

 

中村達也……抹茶トマトジュース

大豪院ポチ…メソポタミアンレモネード

山下慶一……おでん

豪徳寺薫……女鹿栄輝

 

 「おめえらちょっとは遠慮しろよ!」

 

 「「「お前が言うな!!」」」

 

 涙を流して抗議する豪徳寺を一蹴して中村、ポチの三人は喜々として真ん中のグラスに飲み物を混ぜていく。

 

 「うう、まともな飲み物持ってきてくれんのは山ちゃんくらいだぜ……」

 

 「いや、この手の罰ゲームにおでんって普通はかなり最悪の部類に入ると思うんだけど」

 

 唯一まとも?な飲み物を持ってきた山下は特製ドリンク作成には加わらず落ち込む豪徳寺を慰める。しかし慰めておいてなんだがグラスに新たなジュースが加わる度に色が劇的に変化するドリンクを見ると山下もビリが自分で無くて良かったと思わざるを得ない。

 

 元々この早朝ランニング?はポチが自身の足腰を鍛えるために始めたものだった。

 それが山下、豪徳寺、中村と順にメンバーがそろった時、中村の「どうせなら競争しようぜ!」の一言とそれに便乗したポチの「ならば必死さを増すために罰ゲームを用意しよう」の一言で修行を兼ねたランニングは生死をかけたデッドレースに変わった。

 最初の内はただのコーラやカルピス、お茶や牛乳程度の普通?のドリンクだったが良くも悪くもここは麻帆良。

 

 普通の店ではまず置いていない文字通り見た事も聞いたこともないドリンクなど山ほどある。そのまま1つ飲んでも十分罰ゲームレベルの代物。一体誰がこんなもの飲むんだ? と疑問しか浮かばない飲み物が全部で3つ(+1)。それを混ぜ合わせて飲むなどこんな状況でなければまずあり得ない。

 ならば最初のようにまともな飲み物に戻せばいいのではないかと思うかもしれないが彼らは馬鹿だった。

 

 一度でもその苦しみを味わえば他の奴にも俺と同じ苦しみを! とさらに凄い飲み物を次の日に持ち込んでくる。そして別の者が負ければそいつもまた他の奴にも俺と同じ苦しみを! の繰り返しで今のグレードまでのぼりつめた。

 仮にここで止めることになれば間違いなく負けが込んでいる者から反対の声が上がるだろう。というか上がった。よってこうして負ければ死にそうな目に合うと分かっていても彼らは罰ゲームのかかったランニングを止めないでいた。

 因みに一番負けが多いのは豪徳寺、次に山下、中村と続きポチにいたってはほとんど罰ゲームを受けた事が無い。

 負け数の多い組としてはもしポチがなった時のために、と毎度強力なジュースを用意しているがことごとく裏目に出ている。

 

 「よし出来たぞ薫ちん! さあ一気に飲め!」

 

 「いや今回は流石におかしいだろ! なんで赤とか青とか緑とかの色があったはずなのにこんな真っ白になってんだよ!?」

 

 「ふむ、三原色だからではないか?」

 

 そんなはずはない、という山下の突っ込みは他のメンバーには届かず、中々飲もうとしない豪徳寺に業を煮やしたのか腹を殴り思わず開いた口に流し込み無理やりふさぐ。

 

 じたばたと抵抗していた豪徳寺だが耐えきれずゴクリと飲み干す。

 瞬間、顔色が紫、青、赤、黄、とめまぐるしく変わり目は焦点が合わずガクガクと頭を揺らしたかと思えばバタンと地に横たわる。倒れ伏した後もビクビクと痙攣を続ける豪徳寺だが他のメンバーは(山下も含めて)気にした様子が無い。

 

 「さて、朝飯にするか。今日はポチの番だったな?」

 

 「うむ。腕によりをかけてつくろう」

 

 「いやー、にしてもオレ達も随分足速くなったよなー。走る距離も最初よりずっと伸びてんのに時間はあんまかわんねえしな」

 

 「速くなる度にポチがコースを変えていくからね。それにやっぱり競争ってのが効いてるんだと思うよ」

 

 「その通り。我1人の頃よりも充実しているのが分かる」

 

 だよなー、ハハハと後ろで未だ瀕死状態の豪徳寺を放ってさっさと自室に戻る3人。

 

 不思議な事に例えどんなジュースを混ぜて倒れたところで朝食までには復活するため決して彼らが薄情なのではない。

 薄情なのではない。大事なことなので2回言った。

 彼らの友情はそんなことでは壊れたりはしない。

 例え倒れた豪徳寺がうわごとのように「憶えてろ」だの「おめえらも俺と同じ目に…」と呟いていても壊れたりはしない。

 

 

 

 というわけで朝早くから強さに磨きをかける男子達の早朝のお話。

 

 

 

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