麻帆良男子高校生の日常!   作:言寺速人

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麻帆良男子高校生の放課後!

『麻帆良の新怪奇!? 繰り返す自殺霊の謎!』

 

 『新年度が始まってまだ一月も経たないこの時期に一つの季節外れの怪談が話題になっている。場所は麻帆良男子高校。

 新学期が始まって以来たびたび目撃されているこの怪奇。男子校の区域の麻帆良男子高等部(通称まほ男)の中庭には人が立ち入らないように区分けされている場所があるという。

 恐らく一番最初にその現場を目撃したA氏によると放課後になるとそこに目がけて屋上から人が落ちてきたとのこと。あわや大惨事かと思いきやその人物は叩きつけられた地面から自然と立ち上がるとその足で再び校舎へ入っていった。

 驚きと混乱でしばらく呆然としているとなんと先ほどと同じ場所目がけて再び人が降ってきたという。しかも恐ろしい事に次の時には人数が増えていたらしい。

 

このような目撃証言は多々見受けられているがその内容をまとめてみると

 

・放課後に屋上から人が降ってくる。

・落ちた人は何事もなかったかのように立ち上がるとしばし騒ぎ再び屋上へと向かう。

・落ちてくる人数はまちまちで最大四人同時に落ちてきたのが目撃されている。

 

とのことである。

 霊に詳しいオカルト研究会のB氏に意見を伺ったところ『これはきっと過去にその時間帯に飛び降りた生徒がいたがその時に死んだと気付かずに幽霊となった状態で自殺を試みているのだ。当然既に死んでいるのだから飛び降りたところで死ぬ事は無く何故死ねないと怨嗟を撒き散らしながら自殺を繰り返しているのだ。人数が増えているのはその霊に引きづられた他の霊だ! 実に不可思議! 奇妙! そしてぇ!!(興奮状態に入ったため取材続行不可)』真実はどうあれ桜もそろそろ散りゆくころ。新たな季節に入る前に我々も調査を進めていきたい。』

 

 

 

 

「…………」

 

 麻帆良学園の生徒によって出版されている麻帆良新聞を丁寧に畳むと男は足先を麻帆良男子高等部エリアへと向けた。

 

男は一見清掃員のような服装をしており掃除用具も運んでいる姿は誰も不審者だとは思わないだろう。

しかし男の正体はただの清掃員ではない。いや、実際に清掃会社に就職しているため清掃員であることには違いないのだが男にはもう一つ裏の顔があった。

 

そう、関西呪術協会のスパイという顔が。

 

男には魔法の才能はなかった。

魔力はあるため認識阻害や人払いなどの魔法にはかからないが自分から魔法を使うという才能はからっきしだった。

だが男はそれを嘆くどころか武器とした。

限りなく一般人に近い自分なら敵も警戒どころか気づきもしないだろうとスパイを始めたのは疾うに昔だ。

さらにその選択を後押しするように男には魔法とは別の才能、推察力があった。

僅かな情報でもそこから敵の考え、狙い、戦力、時期などを推察し見事に当ててきたのである。

 

スパイという役柄上、名を上げようとは考えていないため知名度は低いが一部の上層部からは重宝されていた。

 

この麻帆良にも侵入するのは初めてではない。過去に何度か侵入しその度に有力な情報を得てきたものだ。

その際に目をつけていたのはこのようなゴシップ風の新聞記事だ。この学園都市は裏事情を隠しやすくするために軽い認識障害の術が街全体に施されている。

それは言ってみれば学園の生徒たちを全員洗脳しているようなものだ、と侮蔑すると同時にそれゆえ隠匿が杜撰になっていると彼は嘲る。

自分達のやっている事がばれていないという気の緩みや、そもそも隠匿すべき内容に対しての常識判断が薄れているあたりにここの魔法使い達の程度がうかがえる。

魔法に限らず他ではまずあり得ない技術力を平然と生徒が知っている時点でそれは一目瞭然だった。

そう言った理由で簡単には魔法は露見しないが代わりにそういう『不思議』な事を目撃する機会も増えそう言った奇妙な事はこうして新聞にも載ることになる。

 

今回の情報収集目的は以前少しだけ噂になった『英雄の息子』に関して。彼の英雄と親交があったこの麻帆良ならば情報が入ってくるのではないかと赴いたのだが有力な情報は得られず、代わりに目を引いたのがこの記事だった。

 

霊、というものは魔力と精霊に秀でた西洋魔法使いよりも式や陰陽道に重きを置くこちら側の分野だ。

 

それがもし霊的な物に関東魔法協会が手を出してきているとなれば見過ごすわけにはいかない。

男は拾った新聞記事をゴミ収集用のゲージに投げ込むと自然に記事に載っていた男子校エリアへと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

噂されていた男子校舎にたどり着いたころにはもう放課後の時間になっており、ちらほらと下校していく学ラン姿の男子達が目につく。

さて、問題の場所は何処だ、と探してみれば意外にも簡単に見付ける事が出来た。

いや、探す、と言うほどの物でもなかった。

何せ『立ち入り禁止。上から人が落ちてきます』と堂々と書かれた看板が立っていたのだから。

校舎と歩道を挟む垣根。その境に立つ看板の後ろにはなるほど、校舎の壁から一定のエリアを囲むように柵が施されている。覆われた地面は他の場所は芝が綺麗に生えているのに対し土が見えている。

まるで何度も上から強い衝撃を受けたため剥げてしまったかのように。

 

とにかく、問題の場所は見つかった。あとはそこで起きるであろう怪奇とやらを見極めるべくその近辺を掃除しつつ見張ることとする。

 

(……それにしても)

 

辺りのゴミを集めながらスパイの男はもう一度看板を見直す。

 

 

 

『立ち入り禁止。上から人が落ちてきます』

 

 

 

「…………」

 

 

何度見直してもそこには文字が変わらない看板が立てられている。

あまりにも当たり前のように書かれている所為でうっかり流しそうになるがその内容はどう考えても尋常ではない。

 

 

 

 

(常識で考えれば異常な看板があれほどはっきりと立っているというのに歩道を歩く生徒達は誰も気にも留めん。普通ならば「なんだこれは?」と不思議がるのが当たり前だろうに……これも認識障害の影響か。まったく、やはり西洋魔法使いは好きになれん)

 

心の中で麻帆良に対し悪感情を抱いていた時

 

(…………?)

 

ふと、上の方から声が聞こえた。

 

見上げた先には男子校舎の屋上。

当たり前だが設けられているフェンスは屋上の端より内側に設置してあるため普通ならばそこに誰がいるかなど見えるはずがない。

そう、フェンスを越えて端に立たない限りは。

 

 

(………っ!)

 

驚かない、はずがない。

何故? 新聞にも書いてあったはずだろう。ここには自殺を繰り返す霊がいると。

そう、霊であったなら彼もここまでは驚かなかった。

霊であったならば。つまり霊ではないのだ。

生身の人間と霊の区別くらい裏の技が使えずとも分かる。

しかもそれが4人もいるのだ。どうして驚かずにいられよう。

 

「お、おい」

 

思わず声が出る。

ここは敵地だ。

言ってみればここにいる者たちは全員敵のようなものだ。

だが、かと言って目の前で若い命が潰えるのを黙って良しとするほど彼は非情ではなかった。

しかし口から洩れた声は屋上に届かせるにはあまりにも小さく。

揃って落ちてくる4人の男子を止める事は出来なかった。

 

 

「――――!」

 

 

声にならない。

 

何のためらいもなく飛び降りた4人は予感通りに柵で覆われたエリアに落ちる。

バンッ!と大地と人との衝撃音。それが連続して4つ。聞こえた音はあまり聞き慣れない、聞き慣れたくもない不快な音だった。

 

しばらくその光景の凄惨さに呆然としていたが、はっと我に帰ると急いで駆け付けようと掃除用具を投げ出して彼らの元へ足を向けた。

あの高さではまず助からない。だが万が一息があるのならば助けなければ。

 

敵地という事も忘れ彼らの生を願う。

そしてその瞬間違和感に気付く。

 

今は放課後だ。歩道には誰もいないというわけではなくちらほらと人が歩いているのだ。

彼らが落ちた横を、4人もの生徒が飛び降りたというのに平然と。

ちらりと視線を倒れた彼らの方に移してもまるでゴミが落ちているかのように当たり前に通り過ぎていく。

 

何だこれは?

 

何故人が死んだというのに何故彼らは平然としている?

 

まるで当たり前のように。

 

まさか、これも麻帆良の魔法使い達の仕業だと言うのか?

事前に人が死ぬと分かっていて。

それを止めるわけでもなくこんな隠ぺいを行って

いや、まさか、考えたくはないが彼らが死んだのすら魔法使い達の仕業なのか?

どうしてここまで非人道的な事が出来る? 生け贄か? それとも身内の処刑か?

いずれにせよ吐き気がする。

そのあまりの衝撃にスパイは驚愕の念を禁じえなかった。

 

 

 

 

 

「ふん、生け贄にそれを知らせない程の認識障害。西洋魔法使いめ、ここまで堕ちたか」

 

関西呪術協会に属する中でも保守派であり西洋魔法使いを毛嫌いする幹部の一人、仮に幹部Aとしよう、はスパイからの報告書を手に思わず悪態をついた。

傍で彼が読み上げるのを聞いていた彼の部下も声には出さないが嫌悪の表情が見える。

 

「しかし、あ奴は相変わらずそこで起きた出来事を忠実に書くの。まるでその場で起きた出来事が目に浮かぶようだわい」

 

「御館様の話を聞くだけで私にも伝わってくる程ですから見事の一言しか浮かびません。して、あの者の報告は以上でしょうか?」

 

「いや待て。まだ続きがあるようだ」

 

「なんと。これほどまで非人道な事を行いながらこれ以上下種な行動を取るというのですか?」

 

「所詮は外の魔法に魂を売った奴らだ。身も心も穢れているのだろう。さて―――…」

 

 

 

 

 気付いてしまった事実に戦慄して動けずにいたスパイは飛び降りた彼らに近寄って良いものか悩んだ。

 恐らくこの状況で近づけば自分が只者ではないと露呈してしまう。スパイたる自分としてはそれは不味い。

 だがあのように前途ある若者をそのままにしておくことも彼には出来なかった。

 己の理性と葛藤により立ち止まっていたスパイだが次の瞬間さらに信じられない物を見る。

 

 「…っしゃあああ! 俺が一番!」

 

 「よっと…」

 

 「う、おおお…」

 

 「む……む……」

 

それまで地に付していた彼らのうち前時代的なリーゼントをした青年がガバリ! と勢いよく起き上がったのを皮きりにして顔立ちの整った青年、赤毛のおさげの青年、顔の彫りの深い青年と順に立ち上がっていくではないか。

 

最後の彫りの深い青年は随分とつらそうに立ち上がるがそれでも骨が折れているなどの外傷は見当たらない。

 

「はっはー! 足じゃ勝てねえけどこっちなら大ちゃんにもタッちゃんにも負けねえぜ!」

 

「薫とポチは両極端なんだよね」

 

「あー、痛かった」

 

「……む、むう」

 

 まるで先ほどの事など無かったかのようにピンピンしているリーゼントの青年は笑いながらバシバシと顔の彫りの深い青年の肩を叩いている。

 

一方叩かれている顔の彫りの深い青年はまだダメージが抜けていないのか顔を歪めている。

 

「さて、今日はどうする? まだ時間もあるし後3回くらいは飛び降りよっか?」

 

「えー? オレとしちゃあ早いとこ技の練習してえんだけど」

 

「…いや、中村よ……我とお前は打たれ弱い。……慣れるためにも……もう少し飛び降りるとしよう」

 

「っしゃあ! そうと決まったらさっさと行こうぜ!」

 

 元気よく玄関へ向かって駆けていくリーゼントに「おい待てよ!」と後を追いかける赤毛のおさげ。

 それを見て苦笑しつつ「手を貸そうか?」「いや……構わぬ」と続く二人。

 

 そんな光景を見ていたスパイは再び呆然とする。

 なんだ? 今のは?

 彼らの発言は明らかに自分から飛び降りている事を示していた。

 しかも操られているような様子もない。完全に己の意志で飛び降りているのだ。

 だがなぜわざわざそんな事を? しかもあの様子ではまだ続けるつもりらしい。

 恐らくは新聞にも載っていた自殺霊とは彼らの事なのだろうがこんなことを繰り返す意味が分からない。

 そのまま動く事も出来ずにいたスパイを余所に再び4人の生徒が飛び降りてくる。

 そして順々に立ち上がって少し会話をしては階段を昇っていきまた飛び降りる。

 まるで悪い夢でも見ているかのような光景だったが彼らが飛び降りた後合間合間の話し声をまとめる事で真実に行き当たった。

 他の者ならば別の答えを導き出すかもしれないが自分は僅かな情報から推察する事に関してはかなりの物だと自負している。

 

 つまり彼らは―――…

 

 

 

 

 

「その生徒達4人は強くなるための修行の一環として屋上から落下を行なっている模様。地面に激突する事で耐久性を高めると共に高所から飛び降りる事で恐怖の克服、受け身による衝撃の逃がし方、果ては走馬灯を認識する事によるリミッターの解除と言った実に理にかなった修行法と考えられる。詳しく調査したところこの修行を行なっているのは先の4名のみ。恐らく今後東側の先鋭としてくるであろう4人には十分に注意されたし……」

 

「…………」

 

 報告書を読み終えた後、なんとも言えない沈黙が漂う。

 

 幹部Aは報告書の内容を見間違えたか?と何度も確認し、拝聴していた部下も耳が悪くなったかとどこからか耳かきを取り出して掃除を始める。

 そしてどちらも間違いないと分かると妙に優しげな笑顔をした幹部Aが部下に話しかける。

 

「時にあ奴は今どうしている?」

 

「は。今は再び麻帆良に入るべく準備中です。曰く『あの青年たちは気をつけねばならない』と」

 

「ああ、うん。それは必要ないと言っておけ。そうだな。あいつも思えば随分と長く働いてくれた。大分疲れているのだろうしここらで少し長い休みをやった方が良いかもしれない」

 

「同意いたします御館様」

 

「よし。ではそのように伝えろ」

 

「は!」

 

部下が去っていくのを確認すると幹部Aは先ほどまで読んでいた報告書をびりびりと破いて屑籠へと投げ捨てた。

 

「あほくさいわ。一体どこにそんな馬鹿な修行をする奴らがおる」

 

 

 

 

これはとある優秀なスパイが実質引退する原因となったお話

 

 

 




これでとりあえず書きだめ終了です
この後はなるべく最低でも週1は投稿していきたいと思います
よりよい作品にしていきたいので何かお気づきの点などがあれば教えていただけると幸いです
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