大筒木の名を持つもの 作:パスカロ
一話
「おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあああぁぁ!!」
建物の中に産まれたての赤子の元気の良い声が響き渡る。
「はぁはぁ…やっと産まれてきてくれた……会いたかったわぁ!」
母は産まれてきた赤子を見て慈愛の眼差しで抱き締める。やがて赤子も安心したように眠っていった。
だが、周りの人々は皆、畏怖や恐怖の目でその赤子を、いや、その赤子の頭部を見ている。
「こ、これは!!」「なんたることだ…」「まさか…」
皆が注目する赤子の頭部には、二本の角と全ての色が抜け落ちたような純白の髪があった。
「あ、ああぁぁ!!」「災厄がまた来たるというのか…」「また地獄が始まるんだ!」
阿鼻叫喚だった。その場で泣き出すものや天に祈りを捧げるものまでいた。
だが、
「鎮まれ」
そんな中、突如部屋の入り口から声が発せられた。
部屋にいた者たちは声の発生源に顔を向ける。そして、そこにいる人物を見て平静を取り戻す。
そこにいたのは、
〝忍宗の祖〟〝六道仙人〟と呼ばれ敬われる
『大筒木ハゴロモ』
その人だった。
「騒然としておるな。このめでたき日に何を騒いでおるのだ?」
六道仙人はその場の者たちが平静を取り戻したのを見て尋ねる。
「ハゴロモ様!そ、それが…」
そして、その場の者たちが一斉に視線を一点に集中させるのを見て自分も同じ方向に目を向ける。そして、自らの妻と子を見て顔を綻ばせた。
「ヒトエ、ご苦労であった。」
「いいえ、ハゴロモ様。我が子を産むことに苦労など感じませぬ。終始、幸福で満たされておりました」
「ははは!そうかそうか。では、《ありがとう》と言い直そう」
「はい、ハゴロモ様」
そうして夫婦で幸せ噛み締めていた。
しかし、それを遮るように周りの者から声があがる。
「ハゴロモ様。その赤子は…」
「皆、後で大広間に集まれ。インドラとアシュラも、全員だ。そこで話そう。」
「…わかりました。」
「心遣い感謝する」
「いえ、ここで話すのは無粋というもの」
そういって周りの者たちは退出していった。
部屋には、一組の夫婦と産まれたての赤子だけが残った。
そこで、ヒトエが不安そうな顔で赤子の未来を憂いているのに気が付き、ハゴロモは赤子共々抱き寄せた。
「案ずるな。この娘は我等の子だ」
そういって微笑む。
ヒトエは安堵の笑みを浮かべ、赤子を抱き寄せハゴロモにもたれかかる。
「娘が産まれるのは初めてだな」
「そうですね。インドラもアシュラも男の子で、裁縫や料理、身嗜みのことなどにはあまり興味を持たず、ハゴロモ様の忍宗や体を動かす事にばかり夢中になっているので、あまり物事を教えられませんでした。その分、娘に色々教えてあげたいと思っています」
「そうだな。料理や裁縫はあやつらには合わぬな、ははは!この娘は家事や身嗜みに興味を持つだろうか?」
「女の子なんですからお淑やかに育てます!」
「だが、産まれた時のあの大きな泣き声を聞くに結構なお転婆に育ちそうではないか?」
「うっ…。そう言われると否定しきれませんね…。料理や裁縫を教えていると途中で逃げられる光景が目に浮かぶようです、ふふふ。」
「その割には嬉しそうだな、ヒトエ?」
「我が子が元気な所を想像し、嬉しさに思わず笑ってしまいました。」
「ははは!それ程嬉しい事はないな!」
しばらく夫婦で子供の事について会話の花を咲かせていると、下から唸るような声が不意に聞こえて二人の視線が下を向く。
すると、
「うぅぅ……
おぎゃあああぁぁ!!おぎゃあああぁぁ!!おぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!!!」
音の爆弾が轟いた。
「はははは!!やはりお転婆に育ちそうだな!」
「ふふ、そのようですね!」
「おぎゃあああぁぁ!!おぎゃあああぁぁ!!」
「よしよし、母はここにおりますよ」
そうしてヒトエがゆっくりと揺らすとすぐに泣き声は止み、眠っていった。
「ところでハゴロモ様?この娘の名はもう考えてあるのですか?」
「ああ。決めたところだ」
「して、なんという名なのですか?」
「この娘の名は…
『大筒木カグラ』