シリカと共にいる最終日。
明日の朝には最前線に三人とも戻るつもりだし、
シリカも納得している。しかし、助けてもらったのだしお礼がしたいそうな。
「いやはや、お礼と言ってもアイテムとかは有り余ってるから大丈夫なんだけどね」
宿屋の屋根の上でそう呟く。
まぁシリカもそこはわかっているだろうし、アイテムではないだろう。
最前線プレイヤーのトッププレイヤーに並ぶアイテムを保有する中階層プレイヤーなんて
いるわけがないだろ……いや、まぁ俺が贔屓している情報屋は放っておいて、
「さて、何をしてくれるんだろうね」
「にいさーん、降りてきてくださーい」
おっと、姫ちゃんからの呼び出しが入りました。
屋根の上から跳び降りる。三階ほど高さがあるけど問題ない。
地面に降りたって宿屋の入り口の方を向くと、笑顔の姫ちゃんとその他二人。
「よう、おはよう」
「おう」
「おはようございますゼロさん」
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「で、シリカ、今日はどこに行くの?」
四十五階層のメインストリートを歩きながらシリカに尋ねる。
目の前の肩に青い小さな龍を乗せた少女は、シリカ。
彼女が肩に乗っけている龍は、ピナというシリカがテイムしたモンスターだ。
「今日は穴場のデート場所を紹介しますよ、お二人はデートなんかしなさそうですし」
振り向かずにシリカがそう言う。
因みに、シリカの言ったことは当たっている。
俺達夫婦はデートと言う名目での観光はあまりしない。
というより普段の生活がそもそもデート気分だから仕方がないのだ。
「キリトさんも彼女さんが出来たら来てみたらどうですか?」
何かと意味ありげな目線ですねシリカちゃん。
いやはや、わかる、わかるよーお兄さんには。
でもね……
「うーん、でも俺なんかに彼女なんてできそうになさそうだもんなぁ」
「……」
目の前のキリトは鈍いんだよ。
ひどいね、男として最低だね、爆発すればいいのに。
「キリトさん最低ですね」
「姫ちゃん!?」
「ヒメ!?」
「ヒメさん!?」
全員が立ち止り姫ちゃんを見る。
しけた目で姫ちゃんがキリトを睨んでいた。
まあ理由はわかる。
「男の子として考えられません」
そこから説教が始まる。
「え、あ、ごめん」
「ごめんじゃ済ませられないです」
「え、はぁ」
「わかってるんですか? そもそも言っておきますが、
あなたは人の心を考えなさすぎです。もっと周りの人に気を使うべきです」
姫ちゃんがしらけた目のままキリトに説教を始めた。
ガミガミと怒鳴らないからまた面倒なのである。
でも、そんな説教してる姫ちゃんも可愛いよ☆
「キリトさんはですね、女の子と言うものをわかってますか?
彼女さんが出来ないなんて言ってますけど、キリトさんは魅力的な男性に入ると思いますよ、
まぁ兄さんに比べれば魅力成分が九割九分九厘ほど少ないですが、女の子には十分です」
「……愛されてますねゼロさん」
「そうだろ? 自慢の嫁だ」
ああ、今日もこうして楽しく時が過ぎて行く……
――――――――――――――――――――――――――――――――
さて、説教が終わり、シリカに案内してもらうと、そこはただっぴろい円形の野原だった。
敵を探索してみるものの全く反応しない。どういうシステムの異常だ!?
何と言うことでしょう! ゲーム内ではありえないはずのモンスターがいない場所!
穴場にもほどがあるってもんだぜ、これはラッキーだ!
「風が気持ちいいですねー」
「そうだねー」
姫ちゃんも笑顔だし、俺は幸せだよ。
「ありがとう、シリカ」
「いえいえ、こんなことしかできなくて」
「いや、これはすごいぞ」
キリトがシリカの頭に手を乗せる。
「モンスターが出現せず、他プレイヤーにも見つかってない場所なんて、
俺も色々見てきたけど、此処まで広いのは初めて見た」
シリカの頭をぽすぽすとキリトが撫でる。
顔が赤くなっていくシリカが何とも面白い。
おー赤い赤い、そのうち湯気でも出るんじゃないだろうか。
因みに、他のモンスターのいないエリアは休憩用のエリアぐらいだ。
「でも、こういうところってなんか引っかかるんだよなぁ」
「というと?」
「イベント地域だったりして」
モンスターもいない特別地域なんてそんなものの可能性が高い。
倒した後は普通の地区に戻るし、こういういい野原はそのままノーモンスター地域であってほしい。
まぁでもキリトも同じ意見らしく頷いてきた。
「まぁそうだろうな」
「ですよねー」
「え? やっぱり此処は休憩エリアの広い場所とかじゃなかったんですか?」
「そうみたいだね」
「そうですか……」
ガックリと沈んでしまうシリカ、
誰もいないから穴場だと思ったのにーとぐちぐち言っている。
まぁそんなことはどうでもいいんだ、今の俺からすれば、此処が何のイベント地域なのかが気になる。
レアモンスターのイベントとかだったらシリカに感謝したい。
「でも、やっぱり少し残念ですよね」
「そうだよねー」
「まぁいいだろ、ちょっと探索しようぜ」
さあ行こうか、とキリトが前に出ると、突然土が盛り上がった。
「……探す手間が省けたな」
キリトがそう呟く間も地面は盛り上がる。
盛り上がった地面が割れると、中から出てきたのは大量の小型龍。
おそらく土龍だろうが、此処まで大量だと厄介だ。
「流石イベント戦」
「これは……シリカが危なくないか?」
「ですね、一回撤退します?」
「「おう」」
「あの……皆さんいいですか?」
シリカに呼ばれる。
そっちを振り向いて気付いた。一方からじゃない、
「囲まれてる」
「これは……何ともよくできたフィールド」
三人で感心する。目の前のシリカはそれを見てあわてだした。
「何感心してるんですか!? このままじゃ危ないですよ!?」
「はっはっは、安心したまえシリカ君」
「そうですよ、これくらいは二人で十分です」
「というわけで、キリトさんがシリカさんの護衛です」
「というわけで、キリトがシリカの護衛役な」
「「え?」」
「いくぞ」
「はい!」
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キリトを放っておいての戦闘中。俺は少し違和感があった。
「なぁ姫ちゃん、気づいてる?」
「もちろんです、イベントにしては不自然ですから」
地面から湧き出た龍たちだが、動きがお粗末なのだ。
俺達が知っている小型龍とは比べ物にならないほど弱い。
「なんだと思う?」
「そうですね……一定のモンスターを生産し続けるトラップ?」
そうか、その可能性もあった。
この世界のアイテムは様々であり、中にはどうやっても損になるものがある。
たとえば、レアモンスターの素材を一般的なアイテム少量にする物や、
自分にダメージを与える装備、一定基準の強さのモンスターを一定時間生産し続ける物。
そう言ったもんだが、トラップとしては優秀だ、モンスター生産のものは特に。
高みの見物をしながら、他のプレイヤーが弱るのを見られる。レッドにならないのも得だ。
「今回は、それであってるだろうね、あのトラップのモンスター水準は下がるはずだし」
「そのまま出てこられたら流石に通常装備じゃ無理ですよね」
二人で顔を合わせるが二人とも笑えなかった。
このトラップを仕掛けたやつがいるだろうし、
これがトラップなら、まだイベントが発生していないのだ。
「犯人は……」
「おそらく同じ考えですよね」
せーので声を合わせる。
「「変態ロリコン野郎ども」」
「だな」
「ですね」
まぁそんなところだろうとは思っていた。
昨日に無かったのはあの土地にはレベル的に入れなかったと考えるのが妥当だろう。
度胸のない奴等だ。
「どうする?」
「一定時間待たないと止まらないですし、
懸念でもあるイベント戦を戦闘しながら発生させてみますか」
「わかった」
おそらく発生するとすれば野原の中央地帯、
此処は西側だから、キリト達をどうしようか悩むところだ。
キリトを放してアイテムに守ってもらうか?
この間のレッドジェイルでもいいんだが時間が短い。
いいや、キリトを信用して中央へ向かう、その後、
出て得来たイベントモンスターに俺と姫ちゃんを追わせ、
西側のこのトラップモンスターと共に相手する方向で決定しよう。
「おいキリト!」
「なんだ!?」
キリトの方を見るが全く敵がいない、まぁ俺達がいるから当然だが。
まぁそんなことはいい、
「後頼んだ!」
「え?」
呆けた表情のキリトを残し俺と姫ちゃんは加速する。
龍たちの追撃があったが、問題なく切り捨てた。
野原の中央には何ともわざとらしいレンガがあった。
「これだね」
「ですね」
「じゃあ押すよ……せーの」
レンガを押すと、目の前に空からたくさんの瓦礫が降って来た。
天井が瓦礫の天井にみえて、久々にやばいと思った。
「ぎゃあああああああああ」
「きゃあああああああああ」
慌てて元の場所に駆け出す、瓦礫が地面にぶつかる音が聞こえ、
同時に同じ方向から叫び声も聞こえる。
振り向くと、
『がああああああああああああ』
「「ゴーレム!」」
巨大な五メートルほどの身長のゴーレムだ。
防御と攻撃が高く、斬撃攻撃よりも衝撃による攻撃が有効。
重たいので落し穴が効くが、麻痺タイプの罠は効かない。
そんなもんだったかな、まぁこれは普通の二メートルくらいのゴーレムだけどな!
「落し穴の直径っていくつ?」
「一メートル二十センチくらいじゃなかったですか?」
ということらしいので後ろのゴーレムを見る。
無理だな、縦に五横に二ぐらいのデカさはある。
落し穴に入るわけがない。実力勝負ということだ。
強い奴と戦えるのはうれしい、スイッチが入る。
「……さっさと戻るよ」
「わかりました」
今回は、紅夜を計るのに良い日かもしれない。
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「ふっ、はっ、てやぁ!」
片手に持った黒い剣で敵を切り裂く。
土龍と言うモンスターは俺が知っているよりもずいぶん弱い。
おそらく罠か何かのものだ、残りの二人もそう思ったはずだ。
しかも、これがイベントなわけがない、もっと違う何かがいるはずだ。
あの二人はそっちの対処に行ったんだろう。そう問題解決に行ったんだろう、
それはわかっている。しかし、俺個人としてはだ。
「お前らほど俺は強くない!」
買いかぶり過ぎだと叫びたい気分だ。
チートでも使っているのかと思うほどの強さを誇る二人組、
此処で俺一人に大量の土龍を任せた張本人!
シリカの護衛もあるんだから配慮してほしい。
「後で殴ってやる!」
そう叫びながら向かってくる敵を切り捨てる。
「だ、大丈夫ですか?」
俺の後ろで縮こまっているシリカが心配そうに聞いてくる。
まぁこの数は多すぎてしんどいのだが、正直を言うと最前線プレイヤーなら問題ない。
「大丈夫」
そう答えて敵の対処に急ぐ。
ボスの方はあいつらが何とかしてくれるだろうし、
一定時間耐えればここは問題なさそうだ。
「おーい、キリトー!」
「ん?」
東からの声に振り向くとそこにはゼロとヒメ、
そして一匹の巨大ゴーレム……ここのイベントボスか、なぜ連れてきた。
別に対処してほしかったよ。
「あわわわわわ」
後ろでシリカが慌てる。
この階層の敵としては強すぎだ、シリカも大変だと思ったんだろう(実際問題大変だ)。
そうなってしまったものは仕方ない、対処は手伝おう。
「ようキリト、シリカ」
「なんで連れてくるんだよ」
少し怒り気味に言ってみる。
「ごめんなさい」
ゼロの隣のヒメに謝られた、何か悪い事をした気持ちになる。
「いや、俺の方もごめん」
「い、いえ」
「そんなことはどうでもいい、この後は俺がやるから二人は見学☆」
「は?」
「わかりました」
さっきまで押しつけておいてそれはひどくないか?
これでもさっきから頑張っていたし、レベル的にも足を引っ張ることはないはずだ。
「いや、ゼロ、ここは俺も……」
「いや、いいよ……足手まといだ」
「おいおい……」
台詞をふさがれて少し怒った俺がゼロの顔を見る。
背筋が冷たくなる……笑顔だった。
SAOの大げさな表情補正がなくとも、
リアルでこういうことが起こっても、必ずこういう顔をすると、
確信できる。そんな笑顔をしたやつが、そこにいた。
「いいか?」
俺は頷くしかできなかった。
そして頷いたとおもったとたんに、ゼロが消えた。
「はあああああああああああ!」
右の方から聞こえた声に振り向く。
俺にもとらえられないような速度で動いた張本人が、
これまた超速度で敵を切り裂いていた。手に持っているのは刀。
普段持っている黒色の片手剣と盾とは違う。クラインが持っているような物でもない、
もっと違う、どこまでも黒い、すべてを飲み込むような漆黒の刀。
「紅夜という装備です。兄さんがこの間作ってもらいました。
黒龍の素材から作られていて、システムの合法チートに分類される装備です」
そう説明するヒメ。
合法チート装備はネットゲームにもある。
退陣戦では嫌われることが多いが、
SAOのようなゲームではボス戦などで心強い。
しかも黒龍と言うとあの黒龍か、大隊に勝つボスを退ける。
しかもたった二人と言うのだから……チートぶりに滑車がかかってきたな。
「ソードスキル……『リネア・レイ』」
「!?」
カタナの最上級スキル!?
刀を始めたのはメッセージで知っていたけど、
SAOの熟練度をこんな短期間で!?
リネア・レイ、俺はクラインが一度使ったのを見たきりだ。
単純な横に薙ぎ払う斬撃、その出の速さと、振りの速度は、
驚くほど速く、また、リーチが剣の長さの二倍はあると言う驚きのスキル。
その分威力が低いらしいのだが、おそらくこのプレイヤーには関係ない。
「ふっ!」
野原の水平線をもう一本追加するかのように正確な横なぎは、ゼロの前方の敵をなぎ倒した。
ゴーレムは後方にいて無事のようだ、しかし、ゼロがモーションの後に技を続けないわけがない。
ゼロは薙ぎ払った姿勢から上段に刀を構える。
「スキル『一空閃』」
これはカタナの突進系スキル。
大きく踏み込んで上から下に斬りつけるスキル。
装備の効果でゼロが目を赤くし、ゴーレムを睨む。
時が止まったように感じた、目の前のプレイヤ――は、システム関係なく、
周囲の人間の思考を鈍らせる覇気を放っていた。そんなプレイヤーが、ゼロが、一匹の黒龍にみえた。
目の前のゼロの姿がぶれる。システムが残像を起こすような速度で、ゼロが踏み込んだ。
「らあああああああああ!」
一閃。先ほどの大きなエフェクトとは違う小さな線が入るエフェクト、
だが、真っ二つに割れて倒れたゴーレムに驚くほど似合っていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
雑魚の狩りはすぐに終わった。
紅夜の威力はばっちりの威力だったし、
流石の絶妙重量で俺は気分がハイになっている。
「ただ今」
「お帰りなさい」
姫ちゃんが笑顔で迎えてくれる。
その隣には唖然としたキリトとシリカ。
ぽかりと口を開けた姿勢のまま動かない……面白い。
まぁいいや、お放っておこう、嬉しい知らせがある。
「姫ちゃん」
「なんですか?」
「此処はノーモンスター地域だ」
「へ!?」
そう、イベントボスを攻略したのに此処は全くモンスターが湧かない。
おそらくシステムでもあり得ないほど珍しいノーモンスター地域。
「今日の収穫は大きかったね」
「そうですね、それでトラップの人は?」
そう、トラップの人員だがレッドジェイルに押さえている。
傍観していて、助けて、惚れてもらおうとか思ったんだろう、バカである。
「まぁいいや、穴場発見ということで」
俺はキリトとシリカを揺さぶる。
二人はハッと下のはいいがその後もしばらくボーっとしていた。
はっとしてないな、まぁどうでもいいが。
「さて、お礼の穴場ももらったし」
「ピクニックでもしますか」
キリトとシリカを無理やり担いで野原の中央へ移動する。
今回分かったことは、俺の紅夜はここら辺のボスなら一撃、
世界改変は、俺らが入ると結構大きく変わる、ということくらいか。
一日も伸びるとは正直思はなかった。まぁ、
「美味い!」
「おいしいです!」
「本当ですか? ありがとうございます」
伸びたら伸びたで、得したからいいけどさ。
嫁の笑顔が、俺の原動力です☆