キリトと共に狩りに出た途中。
雨に濡れたせいか少し疲労が出てきた。
そこら辺で手頃な大きさの木を見つけ、三人で雨宿りすることにした。
このゲーム時たまびっくりするところが作りこまれている。
「まぁ面白いからいいんだけどね」
「何がですか?」
「SAOが」
まぁデスゲームなのに不謹慎だろうけどね。
「SAOが面白いのは認める。
でも、普通のゲームなら最高だったね」
キリトが肩をすくめる。
もしこのゲームが本当にただのゲームなら、
事前の人気からしても、世界全体での大ヒットゲームになったんじゃないだろうか。
「そうだな」
俺はズボンのポケットに手を突っ込んで木にもたれかかる。
隣の姫ちゃんが、俺の前に移動したと思うと、そのままもたれてきた。
どうせだからと抱きしめさせてもらおうと、手を出して姫ちゃんに腕を回す。
「まぁ始まったもんは仕方がない。
さっさとクリアして、買えるほうが先決だろう」
「ゲームがこの調子なら、クリアも遠くないかもですね」
そう言いながら姫ちゃんは俺の手に自分の手を重ねる。
……柔らかい、気持ちがいい、この世のものとは思えない、
この手が手に入るなら世界相手に戦争を起こしてやりたい。
まぁ実際はもう手に入ってるけどね。
「うひひ」
「ゼロ、よだれよだれ」
「ん? ああ」
よだれが出ていたらしい。
だってこんなに愛しい嫁に密着されれば、
誰だって頬が緩んでしまうと思うんだ。
さて、俺達は雨の中で雨宿りしているわけだけれど、
無粋な輩が現れないのが少し不思議だ。
一箇所にいれば何かしらの敵が出ると踏んでいたんだけど……。
「だれかいるのかな?」
「なにがだ?」
「敵が出ないから」
「ああ、なるほど」
キリトがあたりを見回す。
しばらくして首を傾げると、
「誰もいなさそうだけどなぁ」
と言った。
それは俺も同意したい。
キリトのコートによる隠密も見通す俺に、
見つからない輩は数少ないだろう。
じゃあ、レアモンスターがいるからとか?
「でも索敵はモンスターも察知するはずだしなぁ」
俺が首をひねると、姫ちゃんがそういえばと呟いた。
「視認しないとダメなタイプのモンスターだったり」
「「あーありえるかも」」
実際にそういうモンスターがいるにはいる。
おそらくは隠密性が高いだけのモンスターなんだろうが、
一応何人か犠牲が出たこともある。
「まぁ、来ても俺たちなら問題無さそうだけどねー」
「兄さん、それフラグなんじゃ……」
はっはっは、そんなわけ……あるかもしれない。
そう、世界とは何があるかわからない、フラグだってありえるかもしれない!
というわけで、それを信じて、顔を上に向ける。
目に写ったのは笑顔。
剣を持った猿型のモンスター、ソードモンキーの笑顔だった。
「キキー!!」
「わあお!」
剣を振りかぶった猿の相手は間に合わない、
俺は腰を曲げて姫ちゃんをかばうことにした。
「よっと!」
「ウキャー!」
目の前の的がひとつになった猿は、
予想通りに俺の背中を切りつけ、木の上に退避する。
「ぐっ」
「兄さん!」
「ゼロ!」
キリトが出した大声に、俺は大丈夫と伝えるために手を向けた。
心配するな、これごときでゼロになるようなライフじゃない。
「兄さん、大丈夫ですか!?」
「うん、大丈夫」
半泣きの姫ちゃんの頭を撫でる。
わかっていても心配なんだろうか、
姫ちゃんは何年たっても、俺が怪我をするたびに泣きそうな顔をする。
俺はその顔を見るのが苦手だ、俺も泣きたくなる。
「本当ですか?」
「うん、大丈夫、大丈夫だよ」
俺は再度姫ちゃんを撫でた。
そうすると、隣で木を見上げていたキリトが叫ぶ。
「ゼロ! 来たぞ!」
またあの猿が来たのだろう。
ちまちまと相手をするような余裕はない。
「消えろ」
腰の剣を引きぬき、
猿の声に向けて放り投げた。
「うぎっ」
背中からの猿の声が途切れ、
火花のエフェクトのおまけで、投擲が成功したとわかった。
木の上を見上げると、猿はバランスを崩して落ちてくるところだった。
猿の顔面の剣へと手を伸ばし、柄を握る。
刺さっている剣を横に薙、猿の顔面を横に切断する。
四散した猿のポリゴンには目を向けず。
俺は剣を納めて姫ちゃんを撫でることを再開する。
「心配症だなぁ姫ちゃんは」
「そうですか? 好きな人が怪我して心配じゃない人はいませんよ」
「それもそうだ、でも俺ならほんとうに大丈夫だぜ?」
「それでもです。わかってても心配しちゃうんですから」
「なら仕方ない」
「でしょう?」
「姫ちゃんはいい子だなぁ、俺は最高の嫁をもらったよ」
「兄さんだって優しくて頼りになる最高のお婿さんですよ」
「姫ちゃん……」
「兄さん……」
「おーいそこ二人」
姫ちゃんとの最高の世界に突如横槍が入った。
黙っていろよキリト、あのままバラ色の世界に放っておいてくれよ。
貴様のせいで、姫ちゃんの唇を奪うタイミングを逃したじゃないか、どうしてくれる。
「なんですか?」
「なに?」
「うっ、そんな怖い目で見るなよ……」
「キリトさんが悪いです」
「お前が悪い」
「うん、ごめん」
まぁしょうがない、許してやろう。
それよりも、疑問があるんだ。
「この猿…そこまでレアじゃなかったよな?」
「ああ、一匹でモンスターが沸かなくなるなんてことはない」
「じゃあ、稀にセットで現れるという親玉ですか?」
「だろうな、経験値も稼げるやつらしいし、探さないか」
経験値が稼げるならもちろん行こう。
だが待て、その前に、姫ちゃんの感触をもうちょっと欲しい。
「後でな、今は姫ちゃんが欲しい」
そう言って姫ちゃんを抱く手を強める。
「……私も、兄さんが欲しいです」
姫ちゃんはそう言って自分も手の力を強める。
「……暑い、俺は……なんかむなしい」
そういうキリトの声が聞こえた気がした。
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猿の親玉を探すことになって早十分ほど。
見つけた、少し奥に入ったところに見つけた。
だが、戦うのには先客がいるようだ。
「あれは……」
「血盟騎士団の人ですね」
「あーあの赤と白はそうだな」
キリトと真逆の白で、真紅のラインがよく目立つユニフォーム。
目の前のプレイヤーは二十代前半くらいの長剣の男だ。
俺達のいる階層に入るということはそこそこのやつだろう。
まぁ、気になるのは一人で居ることくらいか。
「この状況どう思う?」
実は結構やばいんじゃないかと思って、キリトに聞いてみる。
「うーん、一人はきついんじゃないか?
親玉なんだし、子分みたいなのが近くにいてもおかしくない」
「私もそう思います。助けに入るのがいいんじゃないでしょうか」
「分かった。入るか」
武器を構えて俺達は飛び出した。
固まらないように俺とキリトが左右に広がり、
俺は男に向けて叫んだ。
「助太刀に来た! 必要か!?」
一応これは聞いておかないといけない。
当然のマナーだ。ただ、帰ってきた答えは予想通りだった。
「ありがとう、頼みます!」
俺達は、俺と姫ちゃん、キリトと男をペアとして、
スイッチによる連続攻撃を仕掛けた。
トップが三人も揃えば百人どころではなく三百人力。
猿の親玉に対する攻撃はすんなりと繋げられた。
特に、
「「はあああああ!」」
ヴォーパルストライクがキリトと同時に決まったときは中々に痺れた。
さっきの猿と同様ステルス性能があると聞いたこの親玉猿ことマスターモンキーは、
特性であるステルスを全く活用できずに沈んだ。
「ふぅ、終わり」
「意外とあっけなかったですね」
戦闘が終わった時に後ろの姫ちゃんがそう言った。
「仕方ないよ、特性も今回は意味無かったしね」
俺はそう言ってキリトの方に向かう。
「よう、大丈夫か」
「ああ、ありがとう、回復アイテムもギリギリでね、助かった」
男はそう言って頭を掻いた。
目つきは悪いが雰囲気は柔らかい。
二十代前半くらいでボサボサの黒髪が寝起きみたいだ。
「俺はイデア、血盟騎士団で長剣使いだ」
仲間とはぐれてやばかったらしい。
結晶使えよ、と言いたいところだが、
あれはお高いので仕方がないとも言えるかもしれない。
イデアはお礼をさせてくれと俺たちを誘ってきた。
これに乗らない手はないだろう。
「また、なにか起きなきゃいいけど」
ちゃんとフラグも立てないとね。