アスナが姫ちゃんと戦ってしまうと世界の歴史が変わる。
よって、世界からの修正が入り、今後に影響が出やすくなってしまう。
そのために、俺はキリトにアスナとのデュエルをけしかけたはずだ。
まぁ、それでもアスナが姫ちゃんと戦うと言い出したから俺が参戦したのだ。
俺の人生経験枯らして、この場はキリトとアスナが戦うことになるはずだ。
なぜなら、世界は物語が正常に進むように仕組んでくるはずだからだ。
が、なぜかそうはならなかった。俺の相手はキリトになってしまった。
「本当、どうしてこんなことになってんだろうな」
「ああ、全くだ。お前と戦う予定はなかったんだが……」
俺の呟きにキリトがそう答えた。
キリトの理解した意味と、俺の呟きの意味は違うのだが、それはいいだろう。
さて、今のところ、隣ではまたしても女の喧嘩が再燃している。
激しい目線の火花を散らしながら、二人はお互いを皮肉りまくっていた。
姫ちゃんはたぶんかなり怒っている。表に出さない分、よけいに怖い。
早くすまそう、そして、姫ちゃんを宥めよう。ふっとばされてからでは遅い。
「早めに戦って、早めに終わらせよう」
「おう、そうしよう。なんか、ヒメの方から妙な威圧感があるしな」
ウィンドウを操作し初撃決着デュエルを選択する。
カウントが目の前に表示されるのを確認してから、装備を整えた。
キリトはいつもの様に黒い片手剣一本のみを右手に構え、
俺はキリトと同じく黒の片手剣に、ついでとして同色の盾を左に付けた。
デザインは違うものの、盾を除きお互い全身黒ずくめ、
どうにもこうにもキャラがかぶっている。
「今更だけどさぁ、俺達って装備似てるよな」
「本当今更だな。似てるは似てるな、
まぁ、似てるのは色だけなんだけどさ」
その色が似てるのだけでもずいぶん噂になるもんだ。
俺達とキリトが一緒に狩りをしている時があるから余計に。
『黒と黒の対決なんて、めったにあるもんじゃないぜ』
『ソロ最強のキリトに、五十階層の英雄ゼロだ』
『こっちは『黒の剣士』に『黒き無双』。
向こうは『閃光』のアスナに『白き戦女神』のヒメ。
こんなレアなイベントは二度と無いぜ』
周りの見物からそんな声が聞こえてきた。
本当、俺自身も驚くカードだと言っておきたい。
キリトと俺、アスナと姫ちゃん、この同時デュエルは二度と無い。
まぁ、キリトと俺に関しては、いつか仕掛けるつもりはあったが、
予定が早まっただけだ。特に問題はない。
「ま、不本意とはいえデュエル、手加減はなしだ」
「当然!」
お互いに武器を構え直し、カウントに集中を始める。
キリトの動きを見逃さないよう意識を集中し、思考を研ぐ。
そして、カウントのブザーが空気を揺らすと同時に、
気迫と集中した意識、そして研いだ思考を乗せて、
俺はキリトへ駆けた。
****
カウントが切れたと同時に襲ってきた威圧感に、
俺は反射的に大きくゼロから距離をとっていた。
当然のごとくゼロが間合いを詰めてくる。
それも、目で追うのがやっとといえるような速さで。
咄嗟にゼロの剣が迫るであろう左へ切っ先を向けた。
その次の瞬間、大きな衝撃で剣を弾かれ、少し後退した。
慌てて体制を建てなおしゼロの方に目を向ける。
彼も、弾かれた剣を戻し、構え直したところだった。
咄嗟に剣を向けたことで初撃を防げたことに幸運を感じた。
ゼロの実力は時々の共闘のおかげでよく知っている。
と、思っていたのは俺だけの話で、彼はまだ本気ではなかったらしい。
「すごい、すごいな」
俺はゼロの強さに驚くと同時に、
そんな相手と戦えることに高揚感を覚えながらそう呟いた。
ゼロは、そんな俺の呟きが聞こえたのかすこし笑っていた。
目の前のゼロが揺れ、剣がブレた。
斬撃が来る、そう直感した俺は後ろへと大きく飛んだ。
理由はあの速度の攻撃もう一度防げるとは限らないからだ。
スキルを使っての攻撃ならなおさら防げる気がしない。
まずは、隙を見るためにも攻撃に耐えなければならない。
「ふんっ」
ゼロが力を込める声が聞こえた。
間をほとんどおかず、目の前に上段斬りをするゼロが現れた。
慌てて振り下ろされる剣を弾こうと剣を振る。
剣が接触すると同時に強烈ライトエフェクトと共に、衝撃が襲った。
ここで、素直に弾かれれば、先ほどと同様に体制を崩すことになる。
ゼロが同じように弾かれるとは思えない。おそらくこのままつばぜり合いになる。
そう予測した俺は足に踏ん張りをつけ、大きく剣を押し出した。
瞬間、ライトエフェクトが火花のエフェクトへと変わり、
上段斬りを押し込もうとするゼロと間近に顔を合わせることになった。
顔を突き合わせたゼロは楽しそうな笑顔で、その笑顔には余裕が見えた。
「まだまだ余裕か?」
「まあね、これでも場数は踏んでる方だ」
そう言い合ったところで、
火花がまたライトエフェクトに変わりお互いに剣が弾かれた。
この世界では、押し合いの鍔迫り合いには制限時間がある。
筋力値と、使っている技の威力で有利不利ができるが、
もし両方が均衡しているならば、一定時間後に両方が弾かれる。
弾かれた剣を構え直し、ゼロの足元を切り払いつつ後退した。
この世界でソードスキルなしの戦闘できるような手練は数少ない。
剣を日常的に使う人間でもなければそういったことはできないだろう。
だからこそ、ソードスキルがこの世界にはあり、それが使用される。
ここに閉じ込められてしばらく経つが、俺もスキル無しでは戦いにくい。
だが、ゼロはそれが出来るはず、いや、出来るだろう。
「まさかここまでとは思わなかった」
「俺がソードスキル無しで戦えることか?
大丈夫、達人級の事はできない。戦えるってレベルだ」
さも簡単そうに言うが、戦えることがすでに規格外だ。
まともに戦えば負けるのは確実だ。どうにかしないといけない。
またもゼロが揺れる。俺を狙うであろう攻撃に、俺はあえて突っ込んだ。
左から剣撃の影が目に映る。俺はそちらに剣を向け、受け止める。
鍔迫り合いは、一定時間内であれば剣が弾かれることはない。
それは、相手の剣を防ぎながら、移動ができるということだ。
ゼロの剣と接触し火花を散らす俺の剣を、前へ、ゼロの方へとずらす。
大きく懐へと踏み込みながら、弾かれた剣を弾かれた勢いで振りぬいた。
捉えた。と完全にそう思っていた。が、現実はそうは行かなかった。
弾かれた勢いを利用したのは向こうも同じだった。
ゼロは弾かれると同時に後ろに飛び、大きく距離を取ることで、
俺の斬撃を躱し、同時に、袈裟斬りのモーションをとっていた。
俺はといえば、スキル無しの慣れない攻撃の後でふらついている。
足に力を込め、なんとか体制を立て直そうと試みる。
ゼロが目の前まで迫った時、ソードスキルの発動が間に合った。
片手剣スキル『ホリゾンタル・スクエア』水平斬りの四段技。
これの一撃目で攻撃を弾き、二撃目以降で決着を付けてやる。
そう、そこで俺は気づけなかった。もうひとつ装備があったことに。
ゼロの驚異的な速度から繰り出される斬撃に気を取られすぎていたのだ。
一撃目が当たらんとしたその瞬間、ゼロが左手の盾を前に出した。
俺の剣が盾にぶつかり強烈な音とエフェクトがあたりに響き、輝いた。
止められてしまった。四連撃はゼロが押し出した盾に全て防がれた。
ソードスキルが相手に当たらなければ、発動後に硬直時間が出来る。
俺の体はシステムによって硬直し、大きな隙になっていた。
「楽しかったぜ」
盾で防ぎきったゼロがそう言って笑い、防ぎきった体制から、
片手剣ソードスキル『バーチカルスクエア』を発動の体制に移った。
動けない俺に、ゼロの剣撃は容赦なくヒットし、デュエルは終幕した。