noblesse;oblige   作:雪羅@eclipse

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第1章 蜂起 -rebellion- 15

「くっ……」

 

 ティナ達の行動で生まれた一瞬の隙を突き、優勢に持ち込んだのも束の間、その逆転自体が儚い幻だったかのように消え失せ、ジンは再び、苦戦を強いられていた。

 才能でも技術でもない、純粋に積み上げた経験からくるその技量は、一度崩れても容易に立て直し、ジンを着実に追い詰めていく。

 派手な動作や、目立った機動はない。ただ、堅実に、的確に、勝利へと一歩一歩積み重ねていく。シェリンドンのやり方はそれだった。

 つまるところ、シェリンドン・ローゼンクロイツにとって、ジン・ルクスハイトは、堅実さをかなぐり捨てるほどの相手ではないということだった。

 敢えて博打を打つ必要はない。ただただ、熟練した狩人が無駄のない動作で獲物を仕留めるように、ゆっくりと逃げ場をなくしていく。それだけでいい。それだけで、シェリンドンの勝利は揺るぎないのだから。

 

『先ほどに増して動きが荒いぞ、少年』

「…………」

 

 そんなことはわざわざ、言われなくても分かっている。

 すでに肩で息をしているジンに対し、シェリンドンは息一つ乱していない。黄金の剣を失ってからは押され気味だったはずだが、そんな様子は微塵も感じられなかった。

 そもそも、ジンは先ほどの戦闘で、全身に当身を食らったにも等しいダメージを受けている。肉体的ダメージは誤魔化しが効かない領域に入り、確実に彼の動きを乱していた。

 そして、甘く繰り出した『ガラティーン』が、シールドに弾かれ、〈ガウェイン〉の手を離れる。

 

『チェックメイトだ』

 

 半ばまで切れ込みが入った黄金の盾を〈ガラハッド〉が投げ捨て、宙を舞う『ガラティーン』を空中でキャッチし、そのまま、〈ガウェイン〉のコックピットへと突き出す。

 

「ーーっ!」

 

 しかし、その時、数百メートル離れた管理塔で、凄まじい爆発が起きた。衝撃波は彼らのいるところまで届き、突き出された『ガラティーン』は虚しく地を穿った。

 

『何!? まさか、『ケルビム』か!?』

 

 それは、〈ガラハッド〉が初めて見せた致命的な動揺と隙。

 ジンは迷わなかった。即座に地面に刺さったままになっていた『ガラティーン』を両手で握り、その斬れ味に任せて、地面ごと、〈ガラハッド〉を切断する。

 

「はぁあああ! 堕ちろ!」

『なんだと!?』

 

 ジンの振るった刃は、左脚部から、『ガラティーン』を握っていた左腕までを切り抜け、斜め上へと抜けていく。

 

『だが! 甘い!』

 

 素早く作り出されたのは手刀。大きく振り抜いたせいで、前のめりになった〈ガウェイン〉に避ける術はない。

 しかし、次の瞬間ーー

 〈ガラハッド〉の手首に火花が弾けた。

 そして、手刀はコックピットをそれ、紅玉(ルビー)の装甲をわずかに削るだけに留まる。

 

『この体勢で撃つとか無茶苦茶だな!』

『撃たなきゃジンがやられちゃうでしょうが!』

『いいから、早く戻って! 高度下げるよ!』

 

 聞こえてくるのは仲間たちの声だ。こんな状況下でも口喧嘩しているあたり、本当に緊張感がない。

 

「まったく……」

 

 衝撃。

 〈ガウェイン〉と〈ガラハッド〉が正面衝突したのだ。〈ガラハッド〉を押し倒す形になった〈ガウェイン〉を、ジンは素早く立て直し、〈ガラハッド〉が突き立てた『ガラティーン』を引き抜いて、双刀を腰に佩くと、機体をヘリの真下へと走らせる。

 

『もう一発!』

 

 ティナの叫び声が聞こえ、今度は〈ガラハッド〉の頭部カメラに火花が散る。

 〈ガラハッド〉は突如、視覚を破壊されたことで、狙いを定められなくなったらしく、銃形態で保持した黄金の剣を彷徨わせる。

 そして、その隙をティナは見逃さない。

 もう一発銃弾が弾け、銃口へと叩き込まれた弾丸が誘爆を起こし、黄金の剣を今度こそ完全に破壊する。

 

『やった!』

『だから、落ちるって言ってるだろ!』

『ジン! 接続シーケンスに入るよ! 後、そっちは遊んでないでスモークの準備!』

「了解。相対位置、固定した」

 

 軽い衝撃がコックピットに走り、〈ガウェイン〉の機体が、ヘリに固定される。

 

『固定完了。盛大にばら撒くんだ!』

『おっけい!』

『了解!』

 

 直後、ジンの眼下に撃ち込まれた発煙装置(スモークディスチャージャー)が、熱源とチャフを兼ねた煙を吐き出し、視界とレーダーによる感知野を奪う。

 

『よし、撤退だ』

『了解! 速度最大、行くよ!』

 

 白煙が晴れた時には、彼らの姿はなく、残されたのは、衝撃波でボロボロになった街並みと、半壊しながらも佇む蒼玉(サファイア)の〈ガラハッド〉、そして、それに付き従う四機の〈ファルシオン〉だけだった。

 

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