「くっ……」
ティナ達の行動で生まれた一瞬の隙を突き、優勢に持ち込んだのも束の間、その逆転自体が儚い幻だったかのように消え失せ、ジンは再び、苦戦を強いられていた。
才能でも技術でもない、純粋に積み上げた経験からくるその技量は、一度崩れても容易に立て直し、ジンを着実に追い詰めていく。
派手な動作や、目立った機動はない。ただ、堅実に、的確に、勝利へと一歩一歩積み重ねていく。シェリンドンのやり方はそれだった。
つまるところ、シェリンドン・ローゼンクロイツにとって、ジン・ルクスハイトは、堅実さをかなぐり捨てるほどの相手ではないということだった。
敢えて博打を打つ必要はない。ただただ、熟練した狩人が無駄のない動作で獲物を仕留めるように、ゆっくりと逃げ場をなくしていく。それだけでいい。それだけで、シェリンドンの勝利は揺るぎないのだから。
『先ほどに増して動きが荒いぞ、少年』
「…………」
そんなことはわざわざ、言われなくても分かっている。
すでに肩で息をしているジンに対し、シェリンドンは息一つ乱していない。黄金の剣を失ってからは押され気味だったはずだが、そんな様子は微塵も感じられなかった。
そもそも、ジンは先ほどの戦闘で、全身に当身を食らったにも等しいダメージを受けている。肉体的ダメージは誤魔化しが効かない領域に入り、確実に彼の動きを乱していた。
そして、甘く繰り出した『ガラティーン』が、シールドに弾かれ、〈ガウェイン〉の手を離れる。
『チェックメイトだ』
半ばまで切れ込みが入った黄金の盾を〈ガラハッド〉が投げ捨て、宙を舞う『ガラティーン』を空中でキャッチし、そのまま、〈ガウェイン〉のコックピットへと突き出す。
「ーーっ!」
しかし、その時、数百メートル離れた管理塔で、凄まじい爆発が起きた。衝撃波は彼らのいるところまで届き、突き出された『ガラティーン』は虚しく地を穿った。
『何!? まさか、『ケルビム』か!?』
それは、〈ガラハッド〉が初めて見せた致命的な動揺と隙。
ジンは迷わなかった。即座に地面に刺さったままになっていた『ガラティーン』を両手で握り、その斬れ味に任せて、地面ごと、〈ガラハッド〉を切断する。
「はぁあああ! 堕ちろ!」
『なんだと!?』
ジンの振るった刃は、左脚部から、『ガラティーン』を握っていた左腕までを切り抜け、斜め上へと抜けていく。
『だが! 甘い!』
素早く作り出されたのは手刀。大きく振り抜いたせいで、前のめりになった〈ガウェイン〉に避ける術はない。
しかし、次の瞬間ーー
〈ガラハッド〉の手首に火花が弾けた。
そして、手刀はコックピットをそれ、
『この体勢で撃つとか無茶苦茶だな!』
『撃たなきゃジンがやられちゃうでしょうが!』
『いいから、早く戻って! 高度下げるよ!』
聞こえてくるのは仲間たちの声だ。こんな状況下でも口喧嘩しているあたり、本当に緊張感がない。
「まったく……」
衝撃。
〈ガウェイン〉と〈ガラハッド〉が正面衝突したのだ。〈ガラハッド〉を押し倒す形になった〈ガウェイン〉を、ジンは素早く立て直し、〈ガラハッド〉が突き立てた『ガラティーン』を引き抜いて、双刀を腰に佩くと、機体をヘリの真下へと走らせる。
『もう一発!』
ティナの叫び声が聞こえ、今度は〈ガラハッド〉の頭部カメラに火花が散る。
〈ガラハッド〉は突如、視覚を破壊されたことで、狙いを定められなくなったらしく、銃形態で保持した黄金の剣を彷徨わせる。
そして、その隙をティナは見逃さない。
もう一発銃弾が弾け、銃口へと叩き込まれた弾丸が誘爆を起こし、黄金の剣を今度こそ完全に破壊する。
『やった!』
『だから、落ちるって言ってるだろ!』
『ジン! 接続シーケンスに入るよ! 後、そっちは遊んでないでスモークの準備!』
「了解。相対位置、固定した」
軽い衝撃がコックピットに走り、〈ガウェイン〉の機体が、ヘリに固定される。
『固定完了。盛大にばら撒くんだ!』
『おっけい!』
『了解!』
直後、ジンの眼下に撃ち込まれた
『よし、撤退だ』
『了解! 速度最大、行くよ!』
白煙が晴れた時には、彼らの姿はなく、残されたのは、衝撃波でボロボロになった街並みと、半壊しながらも佇む