noblesse;oblige   作:雪羅@eclipse

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epilogue-1

「報告は以上です」

 

 作戦開始前と同じ、《テルミドール》の執務室。そこに彼らは、再び集まっていた。ただ一つ異なるのは、《プレリアル》がメンバーから欠けていることだった。

 

「まずは、諸君の健闘に賞賛を送ろう。君達のおかげで、我々は円卓の騎士(ナイツ・オブ・ラウンズ)という新たな剣を手に入れた。作戦を成功させ、見事生還してみせた君達を私は高く評価する」

「肝心の〈ガウェイン〉はボロボロだがな」

 

 そこにジンが混ぜっ返すように口を挟んだ。事実、〈ガウェイン〉は〈ガラハッド〉との戦闘で、その紅玉(ルビー)の装甲をボロボロにし、シールドで強打されたために、一部フレームが歪んでいる部分すらある。

 

「しかし、成功は成功だ。確かに、多少の改修は必要になるだろうが、アレを扱える技術者は我々のメンバーにもいる。案ずることはない」

「……そうか」

 

 敢えて口を挟んだのは、〈ガウェイン〉が直せるかが気になったからのようだ。ずいぶんと素直さに欠ける尋ね方である。

 会話が途切れた執務室に静寂が訪れる。誰も何も言おうとしない。

 作戦中、極限の緊張状態を強いられ、その上、撤退中ですら足跡を誤魔化すために、休むことを許されなかった彼らの体力はもう限界に来ていた。

 ティナの髪は心なしかパサついているし、カエデは目が死んでいる。ジンも先ほどからお腹を押さえて辛そうにしている。ファレルはうつむいたままだ。

 そして、ファレルが不意に頭を下げた。

 

「……すいません。全員で戻ってくると言ったのに」

「《プレリアル》のことなら君達の気にすることではない。彼は彼の意志で最期まで戦ったのだ。話を聞く限り、工業都市中枢のエネルギープラントを破壊したのは彼だろう。君達を助けるために、死せる覚悟だったということだ」

「…………」

 

 再び、彼らの間に静寂が訪れる。あの爆発がなければ、ジンは〈ガラハッド〉の餌食となっていたであろうし、撤退の隙を作ることはできなかった。

 つまるところ、彼らは《プレリアル》の挺身によって生かされていた。

 

「重ねていうが、気に病む必要はない。だが、君達が奴の死を悼むならば、せめてその遺志を継いでやって欲しい」

「はい」

 

 ファレルが答え、他の三人も続いてうなずいた。今回の作戦でのたった一人の犠牲。しかし、それがなければ、作戦は成功しなかった。そのことを彼らは他の誰よりも知っていた。

 

「ジン」

「……なんだ?」

「君を〈ガウェイン〉の正式なパイロットに任命する」

「いいのか、俺で?」

「構わんよ。君にこそ、あの機体は相応しい。あの刃が、君が己の意志を貫く(しるべ)となることを祈っている」

「……了解した」

「すでに〈ガウェイン〉は、《プリュヴィオーズ》が調査、改修を始めている。後で顔を出すといいだろう。私からは以上だ」

「…………」

 

 そこで、ティナは気付く。ジンの顔色が不自然に青い。同じことにカエデやファレルも気が付いたらしく、カエデが声をかけた。

 

「ジン? 顔色悪いけど、大丈夫かい?」

「……大丈夫だ」

「いや、絶対痩せ我慢だよね、それ」

「問題はない」

 

 真顔で言い放ったジンの口元から赤い何かが零れ落ちる。

 

「あっ」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 気まずい沈黙が落ちる。お互いに顔を見合わせ、戸惑った表情を交換する。

 しかし、ジンが血を吐いてその場に崩れ落ちたことで、今度は喧騒が彼らの間に訪れた。

 

「ジン! ってこれまずい気がするんだけど!?」

「いや、僕に聞くまでもないよね!?」

「お、おい、とりあえず医務室まで運ぶぞ」

「……俺一人で……ごふっ……」

「「「怪我人は黙ってろ!」」」

 

 三人が見事にハモった。ふらふらと立ち上がろうとするジンをカエデとファレルが支え、ティナはジンが押さえていた腹の辺りの服を捲りあげ、怪我を確認する。

 見事な青痣ができていた。というか、腹だけではなく、そこかしこに当身の後がある。この怪我で無表情を保って立てていた理由がまったく分からない。いやむしろ、そうしていた理由がまったく理解できない。

 

「ジンってバカなの?」

「うーん、否定できる要素がないね……」

「こいつ筋金入りだからな……」

「っていうか、いつこんな怪我したんだろ?」

「そういえば、殴られてなかった? 〈ガラハッド〉に思いっきり」

「…………」

「…………」

「それだ!」

「……おまえら、運ぶか騒ぐかどっちかにしろ」

 

 ジンの苦しげな呻き声で、ようやく怪我人の事実を思い出した彼らは、《テルミドール》達に会釈して、ジンを引きずって部屋を出て行く。

 残された彼らはしばらくの沈黙の後、ふと天井を、その先の天を見据え、口を開いた。

 

「《プレリアル》。君が彼らを生かそうとしたことは、間違いなく価値あることだったと私は思う」

「……これで残り4人ですか」

「始まりの十二人などと言われた我々も、もう終わりだな」

 

 《テルミドール》に続いて、《メスィドール》と《ヴァントーズ》がそれぞれの思うところを口にする。

 しかし、悲観したような二人に比べ、《テルミドール》は穏やかだった。

 

「我々の時代が終わるのは喜ぶべきことではないかね? たった十二人から始まったはずの革命はようやくここまで届いたのだから」

「そうかもしれませんね。まあいずれにせよ、我々も諦めるわけにはいきませんがね」

「当然だ。彼らに全てを任せるつもりはない」

「我々も動くべき時ということか」

「無論、そのつもりだ。革命団(ネフ・ヴィジオン)はまだ、始まりの鐘を鳴らしたに過ぎないのだから」

 

 そう言って、《テルミドール》は口角を釣り上げた。

 

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