noblesse;oblige   作:雪羅@eclipse

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第1章 蜂起 -rebellion- 4

「諸君、休息の最中だというのに邪魔してすまない。勝利の美酒に酔うのも、身体を休めるのも君たちの当然の権利だが、今は私の話を聞いて欲しい」

 

 宴会場と化していたホールに、《テルミドール》の声が響き渡る。皆、つい先ほどまでの喧騒を忘れたかのように黙している。基本的に話を聞けないような、アウトローな連中ばかりの中、メンバー全員を黙らせる彼のカリスマ性は特筆すべきものだと言えるだろう。

 そして、その能力故に、革命団(ネフ・ヴィジオン)のリーダーを務め、組織をまとめ上げることを可能としているのである。

 

「まずは、我々の勝利を祝したいと思う。この勝利によって、我々は楽園(エデン)の全ての人々に革命団(ネフ・ヴィジオン)の存在を知らしめることが出来た。

 もちろん、これは、諸君の働きがあってこそだ。今回の作戦は誰か一人でも欠けては成功しなかった。私はそう考えている。

 そして、特に、MC部隊の活躍は目覚ましかった。彼らの働きがなければ、撤退戦で犠牲を出すことになったかもしれない。

 ジン、レナード、ティナ、ディヴァイン。君達の活躍に私を含め、メンバー全員から賞賛を送りたい」

 

 《テルミドール》の言葉で、最後の方になって入ってきた結果、散り散りに来たにも関わらず、期せずして入り口付近に集まることになった、パイロット四人に、必然的に視線が向く。

 そして、全員の視線が集まったタイミングを計ったかのように、《テルミドール》が手を叩き、遅れて次々に拍手が続いた。

 反応はそれぞれだが、レナードはいつも通りの笑顔で手を振り、ディヴァインは黙礼した。対して、ジンは氷の無表情のまま、《テルミドール》に鋭い視線を向け、先ほどのことを引きずっているティナは、音に反応してうつむいていた顔を上げ、話を聞いていなかったのだろう、戸惑ったような笑みを浮かべている。

 しかし、前に進み出ているレナードが目立っているせいか、ティナやジンの表情に気付くものはいない。ただ、《テルミドール》のみが、ジンの視線を受け止めているだけだ。

 

「第一世代のMCしか用意できなかったのは我々の不徳の来たすところだが、彼らは、その性能差を覆し、10機の貴族側のMCを撃墜している。これは素晴らしい戦果だ。諸君もそうは思わんかね?」

 

 方々から同意の声が上がり、ティナはしょぼくれた心に、ジンの不機嫌度が増したことを感じ取った。ちらりとその顔を見ると、いつにも増して表情が抜け落ちている。どうやら、ダシにされたのが気に入らないらしい。

 

「これからも君達には様々な作戦で最前線に身を置いてもらうことになるだろうと思う。君達若者ばかりを過酷な戦場に送り込んでしまって申し訳ないが、君達自身の理想のために戦って欲しい。

 ささやかながら、その戦果に報いるべく、回収した〈エクエス〉の改修と、部隊員の増員を進めている。これが、君達の助けとなってくれれば嬉しい」

 

「「感謝します」」

 

「……ありがとうございます」

 

 ジン以外の三人が礼を口にする。もっとも、ティナも二人に遅れた上に、声も大して出ておらず、中途半端に頭が下がっただけだったのだが。

 そんなジンの反応を問題視するものも当然いたが、それが表出する前に、《テルミドール》がジン個人に語りかけたことで、それは霧散した。

 

「ジン。君は不満そうだな」

 

「……否定はしない」

 

 その言葉を聞きながら、ジンを除くMC部隊の同僚の内二人は顔を見合わせ、こいつやりやがった、という嘆きを共有した。言うまでもなく、ティナとレナードである。

 そして、それに気付いたらしいジンは疎ましげに手を振って、ティナ達を後ろに下がらせた。

 

「ジン、言いたいことがあるなら今の内に言っておくといいだろう。余裕もなくなるだろうからな」

 

 しかし、ただ一人、ディヴァインーー《スレイプニル》のコードネームを与えられた男だけは、落ち着いた様子で、ジンに発言を進めた。

 ディヴァインは、《テルミドール》に視線を送り、彼が頷いたのを確認すると、ジンの肩を叩いて一歩下がった。

 

「まず前提として、俺はおまえ達が掲げる理想とやらには興味がない。そして、俺は俺のために戦っているのであって、革命団(ネフ・ヴィジオン)のためじゃない。いちいち引き合いに出すな。うっとおしい」

 

「ジンってこんな風に喋るんだ?」

 

「私も初めて聞いた気がするんだけど」

 

 ジンは真面目に文句を言っているらしいのだが、小声でそんなやり取りをするティナとレナードにとっては、普段必要最低限も口を動かさない彼が、雄弁に抗議を申し立てたということへの驚きが何より勝っていた。

 

「それはそれで構わんよ。君が君自身の目的のために我々を利用するというのなら、好きにしてもらって構わない。目的こそ違えど、同じ道を行くのだから。

 しかし、だ。10分の6。この数字の意味はわかるだろう?」

 

 《テルミドール》の質問の意味を大半の人間は理解できなかっただろう。しかし、ジンを含め、MC部隊のメンバー達はその数字の意味を理解していた。

 

「今回の作戦で撃墜した敵MCは10機。そして、君の撃墜数は6、すなわち半数以上を君の手で撃破したということだ。

 この意味が分かるかね? 君がどう思うかは別にして、君は、正真正銘、革命団(われわれ)のエースなのだ。

 賞賛されることも、期待されることも、失望されることもある。背負えとは言わないが、これも君の為したことの結果だ。受け入れたまえ」

 

 ジンは舌打ちを漏らしたが、言い返すことなく、了解した、とだけ言う。不満は押し殺すことにしたらしい。とはいえ、正論といえば正論なので言い返すのも難しいのだろうが。

 しかし、ジンにしては、珍しく感情的だったが、どうしたのだろうか。ティナのそんな疑問を余所に、《テルミドール》は続けた。

 

「さて、これはリーダーとしてではなく、私の個人的なことではあるが、私は、長らく雌伏の時を過ごし、散りゆく仲間を見るしかなかった。だからこそ、諸君のおかげで誰一人欠けることなく帰還できたことに感謝している。ありがとう」

 

 普段はまず私情で動くことがない《テルミドール》が、それを口にしたことで、そこかしこからざわめきが漏れたが、彼が素直に感謝を口にすると、すっと静寂の帳が落ちた。

 彼の言葉には本物の無念が、感謝が籠っていることに皆が気が付いたからだ。

 ジンもこれには不意を突かれたようで、少し驚いたように目を開いた後、無言のまま頷いた。

 ただ、その目には複雑な色を浮かべていて、ただの驚き以外の何かがあることを見ていたティナに察せさせるには十分だった。

 

「私の個人的感情から話が逸れてしまったことを謝罪しよう。

 さて、次にこれからについてだが、大々的な宣戦布告をした以上、貴族院も程度はどうあれ、我々を補足しようと動くはずだ。各々、表での動きには気を付けておいて欲しい。

 そして、次の作戦に関しては今のところ未定だ。無論、近く動くつもりではあるが、今は貴族側の動きの様子見を兼ねて、しばしの休息とする。

 諸君にはこの間にしっかりと身体を休め、次の作戦に備えて欲しい。

 それでは、次の作戦でも諸君の活躍に期待している。私からは以上だ。

 最後になるが、ジン、ティナ、ファレル、カエデ、この四人はこの後、すぐに私の部屋に来て欲しい」

 

 話を終えた《テルミドール》が退出すると、すぐにホールに騒がしさが戻った。

 

「個人的な用事ってことかな?」

 

「さあな、行けばわかる」

 

「いいなぁ、僕も密会に参加したいよ」

 

「言い方悪くない、それ!」

 

「えー、でも密会だよねぇ? しかも、女の子はティナだけだし。怪しくない?」

 

 レナードのデリカシーの欠片もない発言にティナは頬を引きつらせた。この男は何を疑っているのか。

 本来なら調整役であるはずの、ディヴァインは面倒に首を突っ込みたくなかったのか、さっさと離脱していた。

 どうやら、問題児として一括りにされているらしいが、ティナとしては甚だ不本意である。

 

「ねえ、一発ぶん殴っていい?」

 

「好きにしろ」

 

「おっけい、隊長の許可も出たし、いいよね?」

 

「え? そこは止めるとこじゃないの?」

 

 ティナは答えることなく、レナードのにやけ面に向かって、怒りとか不本意さとかそういう負の感情を凝縮した蹴り足を振り抜いた。

 

「しかも、拳じゃない!? ぐはっ!」

 

 サマーソルトめいて繰り出された蹴りは、的確にレナードの顎を捉える。バシッといい音がして、レナードは人混みの中に吹き飛ばされていく。しかし、ティナの苛立ちは収まらなかった。

 浅くしか入らなかった。派手に吹き飛んだのも、受け身をとったからで、ティナの蹴りにそこまでの威力があったからではないだろう。

 というか、本当は避けることも、受け止めることもできたはずなのに、あえて当たっているのが、さらに腹がたつ。

 

「むうー」

 

「行くぞ」

 

「え? 私のフラストレーションについては無視?」

 

「知るか。興味がない」

 

 ジンはティナを置いて、ホールの出口へと歩き去っていく。ティナは慌ててその背中を追いかけながら、

 

「最近、いつもこんなのな気がするんだけど……」

 

 などと、諦観の念共に、小さくつぶやいた。

 

 

『鮮やかな引き際だな』

 

 立ち並ぶMCの中で、一際壮麗な、蒼玉(サファイア)の輝きを放つMCのコックピットに座る男がつぶやいた。

 革命団(ネフ・ヴィジオン)と名乗る、レジスタンスの宣戦布告より、四時間。貴族院が差し向けたMC部隊が、襲撃を受けた工業都市に到着していた。

 しかし、部隊が到着したころには、革命団(ネフ・ヴィジオン)側の部隊はすでに撤退しており、それどころか、追跡しようとした、輸送ヘリ撒いて、手がかり一つ残さずに消失した。まったく、鮮やかと言う他ない。

 

『隊長、追いますか?』

 

『やめておけ。手がかりもないのだ』

 

『ですが……』

 

 言い淀む騎士達の気持ちも分かる。何せ、駐留していた部隊を含め、総勢12機の〈エクエス〉を投入していながら、生還したのは2名のみ。散っていた騎士の無念に報いたい気持ちは、当然、男にもあった。

 しかし、それを成したのは型落ちした〈ミセリコルデ〉の改修機。それもたった4機だ。姿をくらました彼らを追い、撃破するのは相応の困難が付き纏うことは想像に難くない。

 その上、撃墜された〈エクエス〉の内、二機は跡形もなく消えていた。おそらく、彼らの手に堕ちたのだろう。

 革命団(ネフ・ヴィジオン)の戦力はさらに厄介になる。貴族院が思っているほど、戦いは容易く終わらない、男はそう考えていた。

 それこそ、このタイミングでの不用意な追撃は、さらに戦力を削ることになりかねない。

 

『今は誇り高く散った彼らを弔うのが先だ。それに……』

 

『隊長?』

 

『あれだけ派手に動いてみせたのだ。次は遠くないだろう』

 

 男は莞爾として笑い、誰に言うとでもなく、最後にこう付け加えた。

 

『その時は、狩らせてもらうぞ。革命団(ネフ・ヴィジオン)

 

その日、日が沈み、ゆっくりと暗闇の帳が落ちていく中で、革命の夜明けが始まった。

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