汚い、流石兄貴汚い   作:DEAK

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や、やっとできました……(汗)

アカネさんとの話の他に今回は外道マモルの過去を少しだけ明かしていきます!
あと、そろそろファイトしないと怒られる気がするのでファイトもしていきますよ~



ー追記ー
ファイト……する筈でした。

すいまっせ~ん!!(土下座
また文字数がとんでもない事になったので、前後篇に分けさせて下さい。ほんと、すいません!


外道とトコハの宝物

あれはいつのころだっただろうか……?

 

 

「ふふふ、今日も俺様が最強であることが証明されてしまったな」

 

そういって、得意げに笑うのは幼き日の安城マモル

 

「それにしては、帰ってくるのが早いじゃない」

 

「……」

 

同じく、今よりも大分幼い私は返ってくる答えをほぼ特定しながらもそう言うと、マモルさんはorz状態で安城家のリビングにある愉快なオブジェになった。

 

「またハブられたのね」

 

「可哀想な人みたいに言うな!?」

 

安城家にお邪魔している立場の私が出されたお菓子を齧っているのもあれなので、マモルさんにも勧めながら口を開く。

 

「少しは手加減してあげないと、また遠くの店にまで行く羽目になるよ?」

 

「はん!相手が弱いのが悪いんだよ」

 

「そういうこと言わない」

 

 

そうだ、マモルさんはあの当時からファイトが強かった、いや『強すぎた』

 

強すぎたが故にどの店に行っても遠巻きに見られるだけで輪に入ることは出来なかった。本当は誰よりも寂しがり屋なのに意地を張るその性格もそれに拍車をかけていたのは否めないが

 

 

「ファイトでもやる?」

 

「お、いいよ~!手加減はしないぜ?」

 

「当然」

 

ほら、その証拠に私がファイトに誘うと凄くうれしそうな顔をする。本当にもうちょっとだけ皆に合わせることを覚えればいいのに

 

因みに、私のファイトの腕が大きく伸びたのはマモルさんのおかげかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく経って……

 

 

 

「え?マモルさんの帰りが遅い?」

 

「うん、お母さんも心配してて」

 

あの時より幾分か大きくなり、ヴァンガードもできるようになったトコハちゃんとファイトしながら私は彼女から告げられた言葉に眼を丸くする。

 

この頃のマモルさんはヴァンガードの普及協会に入ったばかりで、慣れない仕事に四苦八苦していた頃だったと思う。

 

確かに最初は慣れない仕事だし帰宅が遅くなることはあると思うが、トコハちゃんから事情を聞くに夜中に帰ってくるならまだしも朝帰りや帰ってこない時もあるらしい。

 

 

「う~ん、それは心配ね」

 

「でしょ?まぁあんなバカ兄貴なんてどうなってもいいけど」

 

そういえばこの頃からだったわね、トコハちゃんがマモルさんの事を『お兄ちゃん』と呼ばなくなったのは。なんでもない振りしてたけどマモルさんてば結構凹んでたのよ?

 

 

「トコハちゃん?お兄さんのことそんな言っちゃだめよ?」

 

「む~」

 

トコハちゃんは不満げに頬を膨らませるがお姉さんにはお見通しなんだから

 

だってトコハちゃん「お母さん『も』心配してて」って言ってたしね。本心ではトコハちゃんもマモルさんの事を心配しているのだろう。

 

「わかった、マモルさんに会ったら言っておくから」

 

「ありがとうお姉ちゃん!」

 

私の言葉に花咲くような笑顔で頷くトコハちゃん。全く、こんな可愛い妹に心配されるなんて兄冥利に尽きるんじゃない、マモルさん?

 

 

 

「とは言ったものの……どうしようか」

 

誰にともなく独り言を呟いてみても、どうにかなるわけでもなし。私も学生の身なので出来ることは限られているわけで

 

「あれ?マモルさん……かな?」

 

軽く夕暮れの街で途方に暮れていると、テンガロンハットを深く被った見覚えのある背中が裏路地に消えていくのが見えた。

 

ふと見ただけでは安城マモルだとはわからない、深く付き合いのある私だからこそわかったのだろう。

 

(何やってるんだろう?)

 

正直あの奥は治安が良くなく、ごろつきのようなファイターがたまり場にしているような場所だ。そのような場所に仮にも普及協会の人間が出入りしている、しかも知り合いとくれば気にならずにはいられない。

 

私は好奇心半分でマモルさんが消えて行った細い道を追いかけるように入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「嬢ちゃ~ん?こんな所にいたら危ないよ~?」

 

「お兄さん達が案内してあげようか~?」

 

が好奇心猫を殺すとはよく言ったもので、私は早速その意味を噛み締めることになるのであった。

 

「あの、私人探してて……」

 

まさか五分も経たずに絡まれることになるとは、自分の運のなさを呪わずにはいられない。

 

「へ~こんな所で?」

 

「本当かな~?」

 

にたにたと何を企んでいるのか隠そうともしない男達の笑顔に思わず身体をかき抱き一歩下がるが、それは男達の情動を煽るものでしかなかった。

 

 

(や、やばい)

 

本格的に危険を感じつつも恐怖で喉が干上がってしまった私は震えながら後ずさりする。

 

 

 

「あ~、悪いけど。その子俺の知り合いなんだ」

 

「ま、マモルさん?」

 

そこに救いの手を差し伸べてくれたのは、勘弁してくんない?と私の後ろから歩いてきた探し人でもある安城マモルだった。

 

 

「あぁ!?てめぇ何」

 

さっき私を見ていた目とは真逆に思いっきり顔をゆがませながら男達がマモルさんに食ってかかろうとするがマモルさんの顔を見るなり顔を青くした。

 

「し、死神……!」

 

「なんでここにいやがる!」

 

(死神?)

 

物騒な言葉に私はマモルさんの顔を見て、悲鳴が漏れそうになるのを何とか抑えた。

 

「いや~ファイトしに来たんだけど、見覚えのある顔を見つけたからちょっとね?」

 

口元に笑みを浮かべながらも目に光届かぬ混沌を宿した安城マモルの姿がそこにはあった。

 

その姿は私の知るマモルさんの姿とはかけ離れていて、本当にこの人は安城マモルなのだろうか?と思ってしまう。

 

「彼女は僕が連れて帰るから、いいね?」

 

疑問形で聞きながらも有無を言わせない口調と雰囲気に男達は何も言えずすごすごと退散した。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、てかアカネちゃん?こんな所に来ちゃあかんぜ?」

 

「そ、それはマモルさんもです!」

 

暗い路地裏から、街灯がまぶしい表路地まで一緒に歩いてきて開口一番呆れたようにマモルさんから言われ私、清州アカネは軽く言葉に詰まる。

 

「俺?」

 

「そうです!あんな治安の悪い所に行ってるだなんて!」

 

「別に金品なんて賭けてないよ?ただファイトしているだけだよ」

 

でも!と続いて抗議しようと思っていた私の言葉は

 

「だけど、裏ファイトも『王』以外はこんなもんか……」

 

「っ!」

 

目に夜よりも深い暗闇を宿しながらぼそりと告げられた言葉に込められた怨念に近い感情に当てられ、喉の奥へと引っ込んでしまった。

 

 

 

「ま、今後は行かないようにするよ。さぁ帰ろうか?」

 

「う、うん……」

 

私を見るその笑顔が少しだけ怖くてこの人は、いつか裏の……もっと深い裏の世界に堕ちてしまうのではないか……?

 

 

 

そんな漠然とした不安を抱えながら私はマモルさんの横を歩くことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっだいま~!」

 

「御帰りなさい、マモルさん」

 

「おう、アカネちゃん来てたのかい?」

 

それから少し経ったある日、やけに上機嫌でマモルさんは帰ってきたのを良く覚えている。

 

「今日は随分早いじゃない」

 

「そう?母さん。飯は?」

 

「そこ、レンジでチンして食べなさい」

 

マモルの母はいつもよりテンションの高い彼に若干驚きつつも机の上を指さすともう寝る所だったのかそのまま二階へと上がって行った。

 

 

「ねぇ、お姉ちゃん早く~」

 

「あ、ごめんね」

 

いそいそと鼻歌を歌いながら食卓につくマモルさんを呆然と見ているとトコハちゃんが唇をとがらせながら私を見ていた。

 

「ん?ヴァンガードしてんの?」

 

電子レンジに皿を入れて、温めている間暇だったのかマモルさんが別テーブルでファイトしていた私とトコハちゃんの盤面を見ていた。

 

このように声をかけてくるのも最近はなくなってしまったのだが、今日は本当にどうしたのだろうか?

 

 

「そうよ」

 

「へ~アドバイスしてやろうか?」

 

「いらない。外道になるから」

 

「げふ、こんにゃろう」

 

口ではそう言いながらもマモルさんは笑いながらトコハちゃんの頭を指で軽く突っついた。トコハちゃんの方も負けじとその指に言葉通りにかみつこうとし、指と噛みつきの戦いが少しの間繰り広げられる。

 

 

(ほんと、トコハちゃんは凄いな)

 

恐れを知らないというか豪胆というか、女の子に使うべき言葉ではないがピリピリしているマモルさん相手でも物怖じせずいつも通りに接している。

 

私はどうしてもあの裏路地で見たマモルさんの姿がちらついてしまうのに。

 

 

結局、兄妹の戦いという名のじゃれあいは電子レンジのチンという音にマモルさんが反応しそちらに向かった事で終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくマモルさんは夕食、私とトコハちゃんはヴァンガードをすることで夜を過ごしていた。

 

 

「ごっそ~さん。さて!」

 

夕飯を食べ終えたマモルさんは食器を片づけると、おもむろにデッキを広げ始めた。

 

「今回は、これが上手くいったがこれは駄目だったから、コイツの枚数減らして~」

 

「デッキ調整?」

 

ファイトもひと段落ついたトコハちゃんがマモルさんの向かいに座りながら聞いてくる。

 

「おう、もっと回しやすくしないと負けるかもしれないしね」

 

「え、そんな強い人がいるんですか?」

 

信じられない、というよりは純粋にマモルさんにそう言わせるファイターがいたことに私は驚きを隠せないでいた。

 

 

「最初はそうでもなかったんだけどね~。ファイトするたびにドンドン強くなってくんだよ。正直、今回もトリガーに助けられた所があるし」

 

うかうかしてるとヤバいんだよね~と言いながらも凄い嬉しそうにデッキを広げていく姿に私は少し拍子抜けしていた。

 

「ふ~ん、誰なのその人?」

 

頬杖をつきながら兄のデッキ調整を見ていたトコハちゃんが少し眠そうにしながら聞いてくる。

 

 

「ん?確か名前はね~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アカネちゃん?」

 

「……!」

 

っといけないいけない。気付いたら結構な時間物思いにふけっていたようで。今やかげろうのクランリーダーとなった安城マモルが反応のない私を不思議に思って声をかけてきた。

 

「すいません。ぼうっとしてました」

 

「マモルきゅんの御守は大変だからね~」

 

「なにおう!そういう支部長だって!」

 

「なにぃ!?」

 

私を間にはさみながら火花を散らすマモルさんと支部長に

 

 

 

「お二人とも、書類が間違ってますので直して下さい」

 

「「うええええ!?」」

 

容赦なく駄目出しをするのだった。

 

 

「え~?どこどこ?」

 

パソコンの画面を睨むマモルさんの横顔をちらりと見、その瞳に映るものを見て、私は思う……

 

 

 

 

 

きっともう大丈夫だろう。と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、お疲れルーナ」

 

「う、うん」

 

所変わって、ここは都内のある場所。最近ある人物の計らいで歌にバラエティに大忙しのラミーラビリンス。今日も午前中が収録、午後からイベントとゆっくりする暇もなかったがようやくひと段落着いたところで、控室には何か言いたげな弓月ルーナが一人残されていた。

 

 

「はぁ……今日も駄目だった」

 

大きくため息をつくルーナの言葉を聞く者はここにはいない。彼女はここ最近、ラミーラビリンスの相方、蝶野アムとなんとか親交を深めたいと考えているのだが

 

今の所、全戦全敗であり今日も連敗記録を更新してしまった。

 

ヴァンガードもアムに色々と教えて貰い、何とか一人で出来るようにはなったがそれ以降ぷっつりとファイトも出来ていない。因みにファイトの方も全敗だったりする。

 

 

 

 

 

(どうしたらいいんだろう?)

 

いつまでも控室にいるわけにもいかないので、今日も一人寂しく街を歩いく事になってしまったルーナ。街は活気にあふれているのに彼女の気分は沈んだままだ。

 

 

 

「だぁぁぁ!クソが!また負けたぁっ!?」

 

「ふっはははははは!!まだまだ甘いなリンリン!」

 

(あれは……?)

 

すると多種多様な人々が織りなす喧騒の中でもひときわ目立つ声が聞こえ、ルーナがそれに導かれるように歩を進めると

 

 

「おい!もう一度だ!」

 

「ふふふ、かかってきなさい!」

 

「今度は勝つ!見とけよ~」

 

「また、俺の勝利が刻まれてしまいますよ?」

 

「うっせぇ!!」

 

周りの人から何故か微笑ましげに見られている男女のファイターがいた。

 

(確かあの人達って……)

 

男性の方は前にアムとファイトしていた安城マモルで間違いないだろう。そして女性の方はやたらと子供たちに懐かれていたのを覚えている、確か羽島リンという名前だった筈だ。

 

「ふふん、あれ?」

 

一人ポツンと立っていたのが目立ったのかマモルがルーナの方を見て首をかしげる。ルーナはじっと見てるのは失礼だと思ったのかぺこりと頭を下げた。

 

「ん?あ、確か……ルー」

 

「わあああぁぁぁ!?」

 

マモルの目線を辿りリンの方もルーナに気づき声をかけようとするが、今や彼女も有名人の一人。不用意に名を呼ぼうとしたリンを叫び声を上げながらルーナは必死に止めるのだった。

 

 

「っと、悪い。考えが足りなかったよ」

 

「いえいえ!こっちこそすいません」

 

幸い、リンの方が直ぐに気付いてくれたので周りに不思議には思われたものの、ルーナの正体には誰も気付かなかった。

 

 

「一体、こんな所で何してるんだい?ルー」

 

「お前は察しろよ!」

 

「へぶし!?」

 

まぁマモルが気付かなかったのはルーナの正体でなく、急に彼女が叫んだ理由の方であったのだがそんな彼はリンの鉄拳制裁で地に沈むことになるのであった。

 

 

 

 

 

 

「で、本当に何してたんだい?」

 

あそこでは目立ってしまうという理由でマモルとリンはファイトを中断し、ルーナを連れてマモルお勧めのカフェへと場所を移した第一声がマモルのこの言葉だった。

 

「えっと、仕事の帰りに何か聞こえたから気になって」

 

「来てみたら私たちだった。ってわけか」

 

はい。とうなずくルーナにリンはマモルと顔を見合わせ、そんなに目立ってたか?と互いに問いかけた。

 

その答えは何か言いたげに苦笑いするルーナのみが知る事実である。

 

「そういえば蝶野さんは?」

 

リンからこちらの方に視線を戻したマモルのこの言葉にルーナは痛い所を突かれた。と顔を少しゆがませた。

 

「あ~もしかして……」

 

「ち、違います!別に仲が悪いとかじゃないですよ!?ただ……」

 

「ただ?」

 

その表情に何を思ったかリンが気まずそうな顔になり、ルーナはあらぬ誤解を与えてしまったと気づきすぐにリンが推測したことを否定する。

 

がその言葉も尻切れトンボになってしまっているが

 

 

「その、なんていうか……」

 

ここで会ったのも何かの縁、幸いアムの事は二人とも知っているわけだし相談に乗ってもらおうとルーナは口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「へぇ、そんな事が」

 

「私が誘おうと思ってもさっさとどこかに行っちゃうし、それに凄く忙しそうで」

 

しゅん、と目に見えて落ち込んでいるルーナに事情を聴き、元々面倒見のいいリンはどうにかしてやるかと奮起する。

 

「ふむ、確かに。前なんか俺めっちゃ追いかけられたからね」

 

「それはお前が悪い」

 

「え?」

 

「あの、私もそう思います」

 

「なぬ?」

 

続くマモルの言葉に二人からそうツッコミを入れられてしまい、目をパチクリさせる羽目になる。

 

(ホントにわかってねぇのかよ)

 

事の顛末を知るリンが更に目に呆れの色を濃くするが彼はきっと知らんぷりを決め込むだろう。

 

 

「う~ん、俺の見立てでは彼女は意外に押しに弱いと思うから、押せ押せで行ってみたらどう?」

 

「具体的には?」

 

「アジフライ押し付ける」

 

「仲悪くなっちゃいますよ!?」

 

この男、欠片も懲りた様子がない。

 

「でも、多少無理矢理でも息抜きさせた方がいいかもしれないな。なんか無理しそうだし」

 

「そうなんです~前も仕事でレッスンなしになったんですけど、見たら一人で練習してたんですよ」

 

仕事もかなり忙しいだろうに、それでも自主練を行うとは称賛を通り越して心配になる勤勉さだ。

 

 

「そりゃ凄い。っとおや?」

 

「なんだよ?」

 

マモルが急に窓の外に眼を向けたのをストローでコーヒーの残りを啜っていたリンが気付き、彼の視線の先に自分も視線を走らせる。

 

「噂をすれば、じゃない?」

 

「え、アム!?」

 

その視線の先には、変装はしているが確かにルーナの相方である蝶野アムがスマホに指を走らせながら歩道を歩いている姿があった。

 

「都合良すぎじゃないか?」

 

「何言ってんの、これはチャンスだぜ?」

 

ほら、会計は俺がすましておくから行った行った。と言いながら手を振るマモルに唖然としているルーナ。

 

「確かに善は急げだ」

 

「え?」

 

と手を急に掴まれるルーナが目を向けると、そこにはニヤリと笑うリンがいた。

 

「ちょ、ちょっと心の準備が」

 

「いいからさっさと行く!」

 

「え、ええぇぇぇぇ!?」

 

土壇場でしり込みしたルーナをケツを蹴り飛ばしかねない勢いでリンはアムがいた方向に引っ張って行く。尾を引くルーナの悲鳴がまた微笑ましい。

 

 

 

 

 

 

 

「はい、はい……すいません。宜しくお願いします」

 

一方そんなやりとりがあったとは露知らず、蝶野アムは歩を進めながらある場所に電話をしていた。

その場所はとある所にある大きな総合病院だ。

 

そこに、彼女がある事情に噛んでいる理由がある。計画におけるボス、旗頭と言ってもいい存在がいきなり体調を崩したため計画自体は今停止している。のだがここで一つ問題が生じた。

 

計画の停止と共に、彼女への支援も打ち切られる可能性だ。

 

幸い今の所その気配はないし、ラミーラビリンスとしての活動が自分達と『カンパニー』の予想をはるかに超えて多忙になったため、仮に支援を打ち切られてもどうにかやっていけではあるのだが

 

 

(その点だけはあの人に感謝してもいいかもね)

 

と、本人が聞いたら間違いなく調子に乗るのは間違いない事を考えながらアムは通話を切ったスマホをポケットにしまいながら別のスマホを出そうとし

 

 

 

 

「ほら、いけって」

 

「で、でもリンさ~ん」

 

「情けねぇ声だすなよ。女は度胸だ!」

 

「う、う~」

 

 

「……ルーナ?」

 

何やらどこかで見たことのある女性と喋っているルーナを見つけアムの足がはたと止まる。

 

「あ、アム!?き、奇遇だねっ?」

 

「え、えぇ」

 

何かを隠しているのが丸わかりなルーナにはまだ演劇やドラマの仕事は早そうだとアムはどこか遠い所思考でそんな事を考えていた。それに何を隠しているのも大体察しはつくし。

 

(予定とは違うがちょうどいい。GO!)

 

「よ、よ~し……」

 

いつの間にか電柱の陰に隠れていた(アムにはバレバレだったが)リンのジェスチャー交じりに言われ、ルーナはふんと気合いを入れ

 

 

「アム!」

 

「な、なに?」

 

一体何を言い出すのか、少し不安に駆られながらアムはルーナの言葉を待つ。

 

 

 

「近くに「アジフライ」の美味しい店があるんだけど私と一緒に「アジフライ」食べて「アジフライパーティ」しない?」

 

「……え?」

 

「ってあれ!?」

 

ルーナが焦って辺りを見渡すもルーナの声に要らん単語をかぶせた下手人は見つからない。

 

(こ、こんな事言う筈じゃなかったのに~!?)

 

見ればリンも陰であちゃ~と言いたげに額に手を当てている。ぼそりとあいつが来る前にけりをつけたかったと言っているのが聞こえた気がした。

 

「あ、アム?」

 

さっきから何も言わないアムに恐る恐る声をかけると

 

「ルーナ?」

 

凄いいい笑顔(壮絶な?)の少女がそこにいた。

 

(あ、私死んだかも……?)

 

その素晴らしさは相方として寝食を共にしているルーナをして死の覚悟をさせる程のものだった。

 

(さよならみんな、おじいちゃん……)

 

「ごめん、ちょっと待ってて」

 

と思いきやアムはルーナにそういうといきなり踵を返して走り出し、リンがいるのと反対方向の植木の陰に向かって

 

 

「くたばれこのヤロォォォォォォ!!」

 

「エンッ!?」

 

とび蹴りをかます、とルーナからは見えないが誰かいたようで、毒劇物を嗅いだような苦痛の悲鳴が聞こえた。

 

しばらく、アムとその人物はぎゃーぎゃー騒いでいたが、やがてアムに引っ張られる形で植木の陰から出てきたのは

 

 

「全く……油断も隙もあったもんじゃない」

 

「いてて、不意打ちだったぜ」

 

「マ、マモルさん!」

 

腹に蹴りを喰らったのかそこを押さえていた安城マモルだった。

 

「あ~あ、せっかく上手く行きそうだったのによ」

 

それに合わせてルーナの後ろからリンがマモルの方を軽くジト目で見ながら現れた。

 

これで、ラミーラビリンスの二人とかげろうのクランリーダー、更に有名チームディマイズの正メンバーと錚々たる面々がここにあつまったわけだが

 

 

「それで?」

 

最初からいたルーナ達はともかく、いきなり三人に囲まれる形となったアムが訝しげにマモル『だけ』を見ながら一番最初に口を開いた。

 

「え?」

 

「何か用ですか?」

 

「遊ぼうぜ!」

 

「嫌です」

 

「なぬぅ!?」

 

ぷいと顔をそむけたアムに愕然とするマモルだが、逆に何故断られないと思ったのか聞きたいぐらいだ。

 

だが、ここでダメージゾーンに落ちたドロートリガーの如く、ただでは起きないのが安城マモルである。

 

「酷いね~ルーナさ~ん?彼女は君と遊びたくないらしいよ~?」

 

「え、あ、え!?」

 

今回は思いっきりルーナを巻き込む方向で行くようだ。当のルーナはいきなり話を振られ困惑していそがしく目線がアムとマモルを行ったり来たりしている。

 

「あ・ん・た・と!遊びたくないって言ってるんだよ!!」

 

アムはあらぬ誤解を受けてしまい、その元凶を制裁すべく今度は足を思いっきり踏んでやろうとするが

 

「ほいっ」

 

が今度はマモルの方も大人しく踏まれるとはいかず、飄々とアムの細い足を交わすのだった。

 

「ぐ!?かわすな!」

 

「嫌です」

 

「死ねぇぇ!!」

 

「ほいほいほいっと」

 

とことんアムの精神を逆撫でするマモルに分かりやすいくらい逆上した彼女は意地になって踏みつけてやろうとするが、無駄に俊敏な動きで足を動かして見せるマモルを捕えることは出来なかった。

 

「へいへ~い。バッチこ~い!」

 

「くそ、殺したい……!」

 

肩で息をするアムに睨まれても平然としている。むしろ更に煽ってきそうなマモルであったが

 

「いい加減にしろっつの」

 

「あで!」

 

見かねたリンの一撃でこの場はとりあえず収まるのであった。

 

 

「……」

 

「ん?どうしたんだよ?」

 

そういえば、全く喋っていないルーナがじっとマモルを見ているのにリンが気付き声をかけた。

 

「む~」

 

「え、俺?」

 

がルーナはリンには反応せずじ~っとマモルを不機嫌そうに睨んでいた。

 

「ルーナ、そんなに見ちゃだめよ。汚れるわ」

 

「おいこら、それはどういう意味だ?」

 

「さ~てね?自分の胸に聞いてみてくださ~い」

 

今度はマモルの方がぐぬぬと唸り、やっと言い負かした!とアムは軽い優越感に浸る。

 

「むむむ~!」

 

がルーナの方はそれを見て、更に機嫌を降下させ半眼でマモルを睨む。その様子も微笑ましく映るのは彼女の長所と言っていいのかは判断が分かれる所だろう。

 

「えぇ?俺なんかした?」

 

「……ずるい」

 

やっと口を開いたルーナの言葉は要領を得ないものだった。

 

「……な、何が?」

 

「マモルさんばっかアムと仲良くてずるいです!!」

 

アムが続いてそう聞いて、ようやくルーナは自らの思いのたけを吐きだしたが

 

 

「「え」」

 

 

「えええぇぇぇぇぇ!?」

 

「ははは、ワロス」

 

それはアムの心の防波堤を遥かに超える大波濤であり、抑えきれなかった波が叫びとなってこだました。

マモルの方は掴みどころのない笑顔で笑うだけだったが

 

 

「ちょ、ちょっとルーナ!?別に私はあの人と仲良くなんてこれっぽちもないわよ!」

 

「ははぁん?ツンデレ?」

 

「やかましいわこの退却バカ!!」

 

「むぅ、やっぱり仲良いじゃん……」

 

「どこが!?」

 

アムがルーナに掴みかからんばかりの勢いで彼女の誤解?を解こうとするがルーナもこうなったらなかなか頑固だ。

マモルもマモルで煽るばっかで役に立たないのでアムは孤軍奮闘する羽目になる。

 

 

 

(私とアイツも傍から見たらあんな風に見えんのかな?)

 

それを遠巻きに見ていたリンは、『人の振り見て我が振り直せ』ということわざの意味を噛み締めていた。

 

 

 

「ずるいずるい!私だってアムともっと仲良くなりたい!」

 

「る、ルーナ……」

 

「アムとどつきあい漫才したいもん!!」

 

「終着点はそこでいいの!?ちょっと感動したのに!!」

 

「へぇ、今度はM-1目指すんだ」

 

「目指さねぇよ!」

 

「ほら!私といる時はそんなキレのあるツッコミしないじゃない!!」

 

「今だったら幾らでもあげるわよ!」

 

かつてないボケの量に翻弄されながらもけなげにツッコミを入れるアムの努力に涙が出そうになるが、マモルもリンも楽しそうに見ているだけで助け舟を出すつもりは毛頭ないようだ。

 

 

「こうなったら……」

 

ついにルーナはマモルの指さし、高らかに宣言した。

 

「私と勝負です!アムを賭けて!」

 

「……え、俺と?」

 

「そうです!アムの隣に立つのに相応しいのはどちらなのか決着をつけましょう!」

 

ルーナは懐からヴァンガードのデッキを取り出し、マモルの方に突きだした。

 

 

「は!?」

 

意味不明なのはいきなり勝負の出汁にされたアムの方だ。なんでこんな事になっているのか?誰に問いかけても答えは出てこないだろう。

 

「ちょっと!?わけわかんな」

 

「いいだろう!受けて立つ!」

 

「っておぉい!?」

 

完全にトランスしてしまっているルーナをなだめようとした矢先、マモルがこれまた自信満々に自身のデッキを取りだした。

 

どう考えてもこっちは面白がっている。

 

「君が勝てば蝶野さんは君の物だ」

 

「だから私は誰のものでも」

 

「しかぁし!」

 

(あぁもう!どいつもこいつも話聞かない!?)

 

「俺が勝ったら、君のキャッチフレーズ『月の光は私の魔法』を『オニオンリングは私の魔法』に変えて貰おうか!」

 

「なっ!?」

 

「はいぃ!?」

 

マモルの提案にルーナは驚きに、アムは呆れに眼を白黒させた。

 

「くっくっくっ……君がオニオンリング、蝶野さんがアジフライ。ラミラビが揚げ物系アイドルに早変わりというわけだ!アーハッハッハッ!!」

 

「そんなアイドル嫌過ぎる!」

 

脂でギトギトなアイドルグループなんて一体だれが得するのだろうか?ていうか私がアジフライなのは確定なのかよこの野郎。と叫びたいアムであった。

 

 

「く、そんなことはさせません!アムとラミラビは私が護ります!」

 

「ふむ、では示して見よ!ヴァンガードでなぁ!でばければ君たちは日替わり定食の主菜となるぞい!」

 

言うだけ言ってマモルは着いてこい!とヴァンガード」が出来る場所まで先導して歩いて行った。

 

 

「わたしが勝ちます!ね、アム?」

 

「そうね、あと私がアジフライなのも訂正しといて貰える?」

 

「さぁ行こう!」

 

「聞けよ」

 

その背中にルーナが叫ぶ。アムはついでに自分に張られている不名誉なレッテル(アジフライ)をはがそうとするが、華麗にスルーされる。

 

そのままルーナもマモルの後に着いていってしまいアムはポツンと残される事になる。

 

 

 

 

 

「……」

 

「まぁ、その、なんだ。ドンマイ」

 

「……ぐす」

 

 

蝶野アムと羽島リンの友情が芽生えた瞬間だったとこの時を振り返り後の二人はそう語るのであった。

 

 

 

 





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