汚い、流石兄貴汚い   作:DEAK

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~前回のあらすじ~

売れっ子アイドルのラミーラビリンス、蝶野アムがある外道の策略により『衣サクサク!中はしっとりアジフライ!』にされてしまった!?

そんな蝶野アムを救うため、もう一人のラミーラビリンスである弓月ルーナは外道王安城マモルに挑むのであった!


行けルーナ!負けるなルーナ!油ギトギトな未来を防ぐのだ!



アム「……何これ?」

外道「さぁ?(目逸らし」


外道とアカネの宝物

「さぁさぁ!ここですよ!」

 

安城マモルが美少女達を引き連れるという人が見たら羨ましがる非常に美味しいシチュエーションの中、彼が案内したのは人通りの比較的少ない場所にあるモダンシックな洋食屋だった。

 

「ここって……」

 

「おいおい、こんなとこでヴァンガードなんてやっていいのかよ?」

 

ルーナとアムが古風な雰囲気に気おくれしている隣でリンが三人とも思っていたことを代表してマモルに言った。

 

「大丈夫!ここのオーナーがヴァンガード好きでね。その影響でこの店はヴァンガードしてOKなんだ。静かで落ち着けるし、一見さん御断りの店だからラミラビの二人も息抜きになると思うよ?」

 

「そ、それはどうも」

 

「助かります~」

 

マモルの説明を兼ねた気づかいに、アムは渋々、ルーナは素直に御礼の言葉を述べる。

 

「へぇ、お前も気を使えるんだな」

 

「リンリンはホントに俺を何だと思ってるんだよ」

 

リンの本気で驚いた顔にマモルは一度真剣に話し合う必要があるな。とか考えながら古めかしいドアを手で開けた。

 

 

 

「……いらっしゃい」

 

店に入ると木製のカウンターの向こう側でこちらに背を向けて座っている客のためだろうか、コーヒーを入れている初老の男性がちらりとさりげなくこちらを見る。

 

がマモルの顔を見て直ぐにコーヒーの方に目線を戻した。

 

「へぇ、珍しい奴がいるな」

 

ぼそりとマモルが呟いた言葉に少女たちは疑問符を浮かべながら顔を見合わせるがマモルがそれとなしに質問しづらいオーラを出しているので彼女たちも何も聞かずに彼の後ろについていた。

 

 

「へい、マスター!今日は人が多いんで向こうのテーブル席を使っていいかい?」

 

「構わないよ。ヴァンガードは?」

 

「するよ。だからいつもの頼みます」

 

「了解」

 

マモルが初老の男性と話しながら指さした先を見ると、そこには歴史を感じさせるアンティーク感漂う机と椅子が並べられており、机のわきには雰囲気にそぐわない電子端末がつけられていた。

 

 

「あの電子端末ってもしかして」

 

「お、察しがいいね。ヴァンガードする時に使うんだ」

 

リンが思い当たる節を呟くと、マモルは笑顔でこちらに振り向きながら答えをくれた。すると、その声にカウンターに座っていた客がマモルの方を見て軽く息をのむ気配が伝わってきた。

 

 

「注文は好きにしてくれていいから」

 

会計は俺持ちだから気にしないで、と笑うマモルは客のそんな気配に気づいていないのか気付いててあえて無視をしているのか気にせず少女たちに注文を勧める。

 

「あ、マスター俺はいつものね」

 

「ファイトの後にかい?」

 

「イエ~ス!」

 

マモルのある意味で店の雰囲気と真逆のあっけらかんとした態度にマスターも相好を崩しながら応対していた。

 

「これ、値段が書いてないぞ?」

 

「これなんてどんな料理なのか想像もつかないんだけど!?」

 

アムとリンがメニューを並んで見ながら目を白黒させている傍らでマモルとルーナは互いのデッキをシャッフルしていた。

 

 

「と、ちょっと待ってて」

 

マモルがデッキを置こうとしたルーナを制止し丁度いいタイミングでマスターが持ってきた電子端末を机のわきにつなげると、鈍い電子音と共に、ヴァンガードサークルが机の上に現出する。

 

「おぉ~凄い!」

 

「これってソリットビジョン?」

 

それにラミラビの二人が素直に驚いてくれたのでマモルの企みは大成功と言っていいだろう。

 

ただリンだけはドヤ顔のマモルを半眼で見ていたが……

 

「ギアースの元になった技術を使っていてね、ここのオーナーがお蔵入りになったやつを持って来たんだよ」

 

「具体的にはギアースのプロトタイプ、だけどね」

 

 

マモルが誰かから聞いたのか、記憶の底を洗いながら三人に説明しているとタイミングを見計らったかのようにカウンターに座っていた男性がこちらに近づきながら声をかけてきた。

 

「っ、なんだい。せっかく気を使って声かけなかったのに」

 

「それはすまない事をしたね」

 

マモルはその人物と面識があるのか勝手知ったる口調で、だが若干顔をゆがませながら乱入してきた人物と話し始める。

 

黒いスーツでぴっちりと決め、服装だけなら敏腕ビジネスマンで通りそうな男性はマモルの悪意がこもった言葉も軽くスルーする。

 

「あ、あの~」

 

「おっと、失礼」

 

いきなり知らない人が混ざった事でルーナが混乱しているのを見て、マモルが一つ咳払いをし、脇にいる男性を紹介する。

 

「彼、ここのオーナーなんだ。職業は、えっと……色々?」

 

「なんだその適当な紹介は」

 

マモルのぐだぐだな紹介に男性があきれ顔でマモルにつっこみ、少女たち三人も苦笑の表情を浮かべる。

 

「全く……始めまして。六月ジュンです。今宵は私の店舗へようこそおいで下さいましたマドモワゼル」

 

男性、六月ジュンは柔和な笑みを浮かべながら腰を折り、わざとらしく気障な態度で一礼する。

 

「御丁寧にどうもありがとうございます」

 

あわわと慌てているルーナと何か警戒しているアムに変わりリンが言葉少なに六月ジュンにぺこりと頭を下げる。礼節も何もあったものではないリンの態度だがジュンはそれで満足したようで軽く目を細めた。

 

「……成程」

 

「何が成程だ?」

 

「い~や?君があっちに来なくなった理由が分かった気がしてね」

 

「……チッ」

 

ジュンに向かって舌打ちするマモルを見て三人は目を見張る。これほどまでに『不機嫌に見える』態度を取る安城マモルの姿を見るのは初めてだからだ。ラミラビの二人はともかく、付き合いの長いリンですら驚いているのだから相当珍しい姿なのは間違いない。

 

「にしてもこんないたいけな少女たちをこんな所に連れてきて君は何するつもりなんだい?」

 

「誤解を招くようなこと言うな!?ここは健全な店だろうが!」

 

(ここは?)

 

何やら聞き逃せない不穏な単語が飛び出してきたが、お互いの目の色がからかいの色を帯びていたので冗談の類だろうと、少なくともルーナはそう思った。

 

 

 

 

 

(この人、もしかしてカタギじゃない?)

 

一方で諸事情で『そちら側』に一定の理解があるアムは彼、六月ジュンの甘く整った顔に隠れた血と硝煙にまみれた空気というか気配を目ざとく感じ取っていた。

 

六月ジュンという名前にもどこか聞き覚えがある。

 

 

「じゃあ、僕は邪魔にならないうちに退散するとするよ」

 

「おう、帰れ帰れ!」

 

アムが思考の海に沈む前にジュンはマモルに追い立てられるように店を後にしてしまい結局彼女の頭の中から彼の事は抜け落ちてしまった。

 

「ふぅ、うるさい奴がいなくなった所で早速始めようか!」

 

「おい、この店本当に大丈夫なのかよ?」

 

晴れ晴れとした表情で言うマモルにリンが胡散臭げに問いかける。傍らではルーナが不安そうに此方を見ていた。

 

「ん?大丈夫だって!ここ、支部の会合でも使ってるし?実際ユナサン支部でも使ってた筈だぜ?」

 

「そ、そうなのか?」

 

リンが呆けたように呟く。まさかヴァンガード普及協会御用達の店とは思わなかった。

 

「普及協会が使っているなら……」

 

予想外のビッグネームが飛び出してきた事でルーナの不安も払しょくされたようだ。

 

 

「そういうこと!さぁ早速始めようぜ!」

 

「はい!アムは私が護ります!」

 

「あぁ、そういやそういうくだりだったな」

 

リンの言葉がファイトの火ぶた替わりとなって切り落とされる。

 

 

 

 

 

 

 

「「スタンドアップ!ヴァンガード!」」

 

 

「ドラゴンナイト・サーデグ!」

 

「長靴をはいたキャットナイト!」

 

ギアースのプロトタイプにファーストヴァンガードがセットされると、ユニット達がヴバーチャルビジョンで映し出される。

 

 

「ち、小さい……」

 

「結構可愛いかも~」

 

が机のサイズと技術的な問題でユニット達はミニチュアサイズで現出した。

 

「触れはしないんだな。やっぱり」

 

リンが手でミニチュアサイズのキャットナイトに触ろうとするがすり抜けてしまう。

 

「まぁ流石にそこまではね~。っと先攻どうぞ」

 

「あ、はい!」

 

小さいキャットナイトを慈しむ目で見ていたルーナがマモルの言葉に慌ててデッキの一番上に手を伸ばした。

緊張感も何もあったものではないがなにはともあれヴァンガードファイトの始まりである。

 

 

「私のターン、キューティーパラトルーパーにライド!」

 

ミニチュアサイズの猫が今度は同サイズの女性型のワーカロイドになった。

 

「あれ?先駆は?」

 

ファーストヴァンガードには一般的にライドされた時リアガードにコール出来る『先駆』という能力があるのだが、キャットナイトがコールされる気配はない。機械の誤作動はこの店に限って言えば有り得ないと言っていい筈だし、とマモルが考えていると

 

「この子は先駆持ってないんですよ~」

 

ルーナの方から答えを言ってくれた。

 

「マジで!?今時珍しいね」

 

「アムがこれを入れた方が良いって言ってくれたんですよ~」

 

なぬ?とマモルがアムの方を見るとメニューと格闘していたアムが彼の視線に気づき自慢げに鼻を鳴らした。

 

「先駆持ちは、どっかの外道に退却させられる可能性がありますから」

 

つまり完全にマモル対策と言うことである。おそらく、ファイトすることが決まってから急遽入れ替えたのだろう。

 

「このアジフライ必死であるwww」

 

「あ?」

 

「あだだだだだだだだ!?」

 

余計なことを言ったマモルはアムに机の下で足を踏まれる羽目になる。最早この光景に慣れてきてしまっている自分が恐ろしいとルーナは引きつった笑顔の裏で考えていた。

 

「えと、ターンエンドです」

 

「よし、俺のターン!」

 

結構な力で踏まれたのか目じりに涙を浮かべながらマモルが威勢よくカードを引いた。

 

 

 

 

 

そこから、ターンは進み……

 

 

 

 

 

「ハリーでアタック!」

 

「ガード!」

 

「む、ならダークサイドプリンセスのアタック!」

 

「それはノーガードだ!」

 

ルーナの第3ターンが終わり、ダメージはルーナが2点、マモルが3点。次のマモルのターンから超越が可能となる。

 

「ダークサイドプリンセスはソウルに入って、ターンエンドです」

 

「では、行くぞ!俺のッターンッ!!」

 

マモルの顔がドローしたカードを見て綻んだものになる。

 

「まずはライド!ドーントレスドラゴン!」

 

「え?」

 

「お前、またデッキ内容変えたか?」

 

ブレイクライドという今は懐かしきスキルを持つユニットをヴァンガードに選んだマモルにアムは目を丸くし、彼の移り気な性格をよく知っているリンは呆れを声ににじませながらちゃっかし頼んでいたココアで喉を潤していた。

 

「ふふん、これには無限の可能性が眠っていると思っているんでね」

 

リンの問いかけに間接的に答えながら、マモルが超越のコストとして手札を一枚捨てた。

 

「初手はコイツだ!覇天皇竜ボーテックスデザイア!」

 

煉獄竜の一角、純白にして紅蓮の化身が雄たけびを上げて現れる。

 

 

 

「なんていうか、このサイズだと余り威圧感ないですね」

 

「むしろ、可愛いくらい」

 

がラミラビの二人が言うとおり、手のひらサイズでしか現出しない今の状況に置いては威厳溢れる覇天皇竜も下手すれば珍しいペット扱いだ。心なしか彼?もしょぼんとしているように見える。

 

「コイツにはヒット時効果があるんだけど、今は役に立たないからとりあえずGゾーンのカードを一枚表にするよ」

 

「?」

 

「GBスキルを早く使えるようにするためよ」

 

「あ、なるほど~」

 

超越回数を自ら減らしているマモルの意図を測りかねていたルーナがアムの説明に納得したように頷いた向かいでマモルが粛々と盤面を並べていく。

 

「バーサークドラゴンとカラミティタワーワイバーンをコール!効果で一枚ドローっと」

 

カラミティタワーワイバーンで手札の損失を抑えつつ、リアガードを展開して行く流れはおなじみのものだ。

 

「いくよん?ボーテックスデザイアのアタック!」

 

「ノーガード!」

 

ボーテックスデザイアはヒット時退却効果があるのだが今、ルーナの盤面にはヴァンガードしかおらず、その効果は全く意味をなしていない。

 

(なのに、あの余裕は一体?)

 

いつものマモルなら貧乏ゆすりでもしてそうな状況なのだが、何度かファイト経験のあるアムは彼の謎の余裕に訝しげに眼を細める。

 

「トリプルチェック!ゲットヒールトリガー!ダメージを1点回復」

 

「く……!」

 

リードしていたダメージが回復され、ダメージ差は見事に逆転してしまい、ルーナの表情が曇る。

 

「更に、バーサークドラゴンの攻撃!」

 

「させません!」

 

「おや?ガードかい?」

 

「はい!ジェネレーションゾーン解放!」

 

「なにぃ!?」

 

基本的に自分のターンで行う超越を相手のターンで行うという新システム、これをいきなり使いこなそうとしているルーナにマモルが驚くのも無理はない。

 

傍らではアムが満足げに頷いていた。これも恐らく彼女の入れ知恵だろう。

 

鎖鋸の大奇術(チェーンソーメガトリック)ファーニバル!」

 

現れたのは物々しいチェーンソーを構えた男性。

 

「スキルで山札の上から三枚見て、一枚をソウルに入れる」

 

ルーナは山札からパープルトラピージストを選びソウルに送った。これによりグレード1以上がソウルに入ったのでファーニバルのガード値が5000上がる。

 

「合計20000ガードです!」

 

カード一枚で20000ガードになりえる鉄壁の守り、これこそがヒールトリガーを捨てる事で発動できる新システムGガーディアンである。

 

「ぐぬ、ターンエンド」

 

「私のターン、スタンド&ドロー!」

 

過剰ともいえるGガーディアンをこのタイミングで使用したのには当然意味があり、Gガーディアンはガーディアンサークルにコールされた後は表向きでGゾーンに戻る。

 

 

「ジェネレーションゾーン解放!」

 

 

つまり……

 

「道化魔竜ルナティックドラゴン!!ヴァンガード登場時スキルでGゾーンの同名カードを一枚表にする!」

 

「あ、やべ」

 

「ファーニバルと併せて表のGユニットの枚数は三枚!よってルナティックドラゴンのクリティカルが増加します!」

 

本来初回超越での発動が難しいGBスキルが発動可能になるということだ。

 

「おのれぇ、やってくれるなドリアン海王!」

 

「ド、ドリ……?」

 

「ルーナ、気にしちゃダメよ。それもあの人の作戦の内だから」

 

思わず手が止まってしまうルーナにアムが一度それでファイト進行が遅くなってしまった経験をもとに言う。

 

「嫌なこと言うなよアジフライ!」

 

「やかましいわ!このパセリ!」

 

「ぱ、パセリだとう!?」

 

(パセリ……)

 

多分髪の色から直感でいったのだろうアムの言葉は意外にもマモルの特徴を的確にとらえているような気がする。

 

更に、パセリの八割以上が食べられずに捨てられているという事実がこれまた意識しての事か知らないが見事な毒になっている。

 

「それはないだろう訂正しろ!」

 

「うっさい!ばーか!」

 

「むぅ、やっぱり二人って仲良いですよね……」

 

「良いわけないわよ!?」

 

ファイトそっちのけで言い合うマモルとアムにルーナが唇を尖らせて抗議するが、その抗議もどこかずれており結果としてボケの相乗効果を発揮してしまっている。

 

(パセリってアジフライによくついてくるよな)

 

アジフライのみならず揚げ物系やハンバーグ等々洋食にはそれとなくついてくるパセリは相方という面では最高のチョイスになるのだが……

 

(まぁ、それは言わない方がいいか)

 

リンはココアに続きこれまたちゃっかり頼んだサラダを頬張りながらそんな事を考えていた。

 

 

「まぁそれは置いといてファイトを進めようか」

 

「はい、じゃあキャットナイトの効果からですね」

 

アムがまだ何か言いたげな顔をしていたがそこはリンが頼んでおいたチーズ三種盛りを振る舞うことで事なきを得た(会計はマモル持ち)

 

 

「キャットナイトの効果、ヴァンガードにユニットが登場した時にこのユニットをコール出来る!」

 

キャットナイトがダメージ側後方のリアガードにコールされる。

 

「更にキャットナイトの効果!このユニットがソウルからコールされた時、ソウルから一体スペリオルコール出来る、私はキューティーパラトルーパーを選択してコール!」

 

今度はキャットナイトとは反対側のリアガードサークルにコールされたキューティーパラトルーパー。だが彼女にも能力がある。

 

「キューティーパラトルーパーの奇術(マギア)奇術(マギア)効果でソウルからコールされた時、ヴァンガードが『ハリー』ならソウルチャージ1して自身と同じ列にソウルからスペリオルコールしてパワー+5000します!」

 

更にキューティーパラトルーパーの前にダークサイドプリンセスがコールされ、自身の効果と併せて単体でパワー19000となる。

 

「えっと、ここまでかな?」

 

「まだハリーのストライドボーナスがありますよ?」

 

「げ、まだコールすんのかよ!?」

 

マモルの顔がルーナの言葉に苦渋に滲む。

 

「ハリーのストライドボーナス!カウンターブラスト1でソウルチャージしてソウルからユニットをコール、更にそのユニットにパワー+5000です!」

 

「一気に盤面を埋めてきやがったぁ!?」

 

ハリーのストライドボーナスでコールされたユニットはダークサイドソードマスター、クリティカルトリガーでパワー4000しかないがハリーの効果で単体9000となっている。

 

「更にルナティックドラゴンの効果でソウルからコールされたユニットのパワーは+2000されます!」

 

「むむむぅ!?」

 

これでダークサイドプリンセスは21000、ソードマスタ―は11000となりヴァンガードをアタックするのにちょうどよい数値となった。

 

「ぐ、ぬぬぬ。なかなかやるじゃないか……」

 

「アムに色々と教えて貰ってますから!」

 

「な~に言ってるのよルーナ自身の才能だって」

 

「そうかな?」

 

「そうよ」

 

えへへ、と照れたように笑うルーナに言っている方が恥ずかしくなったのかアムが軽く頬を染めながらプイッと顔をそむけてしまう。

 

「おのれ、俺の苦渋を尻目にトコハとリンリンみたいに百合百合しおって……!」

 

「百合百合してない!」

 

「てか私とトコハまで巻き込むなボケ!」

 

てかお前の苦渋なんてどうでもいいし、と口には出していないがそんな雰囲気を全面に押し出しているアムとリンに更に唸るマモルであった。

 

(ち、この際外野はいい!問題は今の盤面だ!)

 

マモルはルーナがペイルムーンの特性を見事に活かし展開して見せた盤面を注視する。単体で高パワーのダークサイドプリンセスも恐ろしいが、本当にやっかいなのはその反対側にいるダークサイドソードマスタ―だとマモルは推察した。

 

(効果自体は他クランにもある効果だが、ペイルムーンという事がヤバい!)

 

効果は『ハリー』を含むヴァンガードがアタックした時ソウルに入れパワー+5000を与えてワンドローするものだが、ペイルムーンの場合彼女を繰り返し使用しほぼ確定的なドローソースとして扱える点で他クランにはない優位性がある。

 

(ただでさえ展開に手札を使わないのにこれ以上ドローされてはかなわん!)

 

マモルは自身の中で退却の優先順位を細かく組み立てる。

 

 

「アタックに入りますよ?」

 

「うむ、どんと来い!」

 

(ん?)

 

マモルの堂々とした態度にリンは少し訝しげな表情になる。ペイルムーン、特にハリー軸はターン終了時にソウルに戻るユニットが多い。つまりマモルのターンには退却させるリアガードがいないとうことがざらにある。(マモルはそれを「くそ!居残りしろよ!この公務員どもが!」とかよくわからないことを言っていた)

 

マモルにとっては苦手と言ってもいいクランの筈だが、やけに余裕なのがリンには気がかりだった。

 

(なんかあんのか?)

 

リンの懸念は直ぐに現実のものになる。

 

「まずはキャットナイトのブーストでダークサイドソードマスターでアタック、パワー18000です!」

 

「よし来た!ジェネレーションゾーン解放!」

 

ルーナが先のターンで行ったGガーディアンをマモルも使用するようだ。

 

「ヒールトリガーを捨て、現れよ!我が新たなる守護獣!」

 

だがGゾーンから現れたガーディアンは恐ろしき効果を持つユニットであった。

 

「炎翼剛獣ディナイアルグリフォン!!」

 

「ん!?」

 

「あ、それって!?」

 

効果を知らないルーナは見たことのないカードに、知っているアムは効果の凶悪さにそれぞれ目を見開いて驚愕を表す。

 

「効果発動!カウンターブラスト1でアタックしているリアガードを退却させる!」

 

アタックしていた筈のソードマスターがドロップゾーンに送られてしまう。

 

「そ、そんな!?」

 

ドローとパンプを発動前に阻止されルーナの表情が悲痛に歪むが、外道と言われるこの男がそれで済ませる筈がなかった。

 

「更にリアガードを退却させた事でドラゴンナイトサーデグの効果発動!自身をソウルに入れてもう一体退却お願いしま~す」

 

「えぇぇぇぇぇ!?」

 

「くそっこの男、そんなにまで私達を揚げ物にしたいのか!?」

 

此方のターンなのに理不尽に二体のリアガードの退却を要求されたルーナが思わず叫び、アムは一切容赦するつもりがない外道に歯噛みする。

 

 

「ふはははははは!!好きなの退却させていいですよ~?そのダークサイドプリンセスとかお薦めかな?」

 

「アタック出来なくなるじゃないですか!?」

 

「あれれ~?バレちった~!ふはははははははははは~い!!」

 

ここぞと言うばかりに調子に乗るマモルの姿にルーナがうんうんと手札を見ながら唸る。

 

(ったく、ホント手加減って言葉をしらねー男だ)

 

リンが余りにも見なれたマモルの姿にそっと溜息を吐きながら窓の外を見ると

 

 

 

 

「リ~ンちゃ~ん、入れて~!」

 

「うおっ!?」

 

窓の外に張り付くマモルの妹、トコハの姿がありリンは思わず口にしかけたチーズを落としそうになる。

 

「ん?うえ、トコハ!?とアカネちゃんまで……」

 

いきなり素っ頓狂な声を上げたリンに笑っていたマモルも窓の外を見て驚きでカードを落としそうになり、更にリンからは角度的に見つけられなかったもう一人の同行者まで見つけてみせた。

 

「あ~もう、すいませんマスター」

 

ぺこりと殊勝に頭を下げ、彼女達も入れていいか?と言外に問うマモルにマスターは軽く笑いながら手を振る事で応えた。彼の寛容さんにはいつも助けられてばかりだ。今度はいいお土産を持ってこようと心に誓うマモルであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~ちらっと見たら見覚えのある顔がいたからつい~」

 

「ついで窓に張り付くなっつの」

 

店に慌ただしく入ってくるなり軽く舌を出しながら謝ってくるトコハにリンが彼女の芙蓉色の髪をがしがしと掻きながら小言を漏らす。

 

「ああ~!髪がぐしゃぐしゃに~!」

 

「ふん」

 

乱暴に頭を撫でられて抗議しつつも笑顔なトコハにリンも毒気を抜かれてしまう。元々そんなに言うつもりもなかったのでそこそこで勘弁してやる。

 

「ここ、前に連れていって貰った事があるわね」

 

「あ~そういやそうだね~」

 

トコハとは対照的にマスターに会釈してから静かに入ってきたアカネは店を見回しながらマモルにそう話しかけた。対する彼の声色も優しくそこには何やら好奇心を刺激されるものがあったがここにそれを言及する者はいなかった。正確にいえば言及する暇がなかったと言うべきか。

 

「あ、ヴァンガードやってる!」

 

トコハが盤面に並んだ立体映像のユニット達を見つけそちらの方に全員の興味が向いたからだ。

 

 

「へ~兄貴とルーナちゃんがやってるの?」

 

「は、はい!」

 

「そうそう、彼女を賭けてね」

 

「へ?」

 

目をぱちくりさせてアムとルーナ、マモルを行き来するトコハの視線が彼女の心境をゆうに物語っている。そんな彼女にリンがこうなったいきさつを説明してあげると

 

 

「……なんか、ごめんね?うちのバカ兄貴が」

 

頭を抱えるトコハが出来あがった。そのままの姿勢で申し訳なさそうに腰を低くする彼女の姿にアムもルーナも笑って気にしないでと言ってくれた。

 

「おい、ちょっと待て。俺だけが悪いみたいな風潮は常識的によくないと思うよ?」

 

「いや実際あなたが悪いじゃないですか」

 

「そりゃアジフライ的に考えればそうかもしれないけどねwww」

 

「……」

 

「いだだだだだだだだだ!?そんな技どこで覚え、ぎゃああああああああ!?」

 

怖い笑顔でプロレスラー顔負けの関節技(サブミッション)を決めるアムに半泣きでマモルは悲鳴を上げる。

 

「いい加減懲りろよお前もさ……」

 

「あの~ファイト進めていいですか?」

 

そんな様子に溜息を吐くリンと苦笑するルーナのコントラストが来たばかりのアカネとトコハには少し可笑しかった。

 

 

 

 

 

「えと、サーデグの効果で私はキャットナイトを退却させます」

 

「うむ!」

 

紆余曲折ありまくりようやくファイトに戻ることができた二人は見物客が増えた中でルーナがキャットナイトをドロップゾーンに置いた。

 

「くそ、いつか絶対に死なす……!」

 

「あ、あはは~」

 

(あんだけやってまだ足りないのか)

 

その脇で呪文のようにぶつぶつを呟くアムをトコハが渇いた笑いで受け流し、リンはアムの予想以上に容赦のない性格に少し意外感を示していた。

 

 

「次!ルナティックドラゴンでアタック!」

 

「残念だがドリアン海王の催眠術など虎殺し独歩には通用しない!完全ガード!」

 

「?、と、トリプルチェック!」

 

(ジェネレーションギャップってやつかね~?)

 

「あ、やった!ゲットクリティカルトリガーダブル!」

 

「あぱぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

自分のネタが通用せずちょっと寂しさを感じていた隙に、横のダークサイドプリンセスにパワー36000という凄まじいパワーを叩き出されマモルは奇声をあげる。

 

(あれ?これやっぱりグリフォン使うのプリンセスの方が良かったか?)

 

後悔というものは常に先には立たないのである。

 

 

「ダークサイドプリンセスのアタック!」

 

「ぐぅぅぅ!ノーガードだ!」

 

Gガーディアンと完全ガードを使ったマモルにこれ以上防御の為の手札は残されていない、甘んじて3ダメージを受けるのだった。

 

 

「ターンエンド」

 

ルーナの宣言と共にリアガード達は一斉にソウルに帰って行った。

 

(く、定時になったんで帰りま~す。ってか!?お前らなんてサーカス団じゃなくてただの市役所だ!)

 

言いがかりも甚だしいとはまさにこのことである。

 

 

だが、マモルの方も退却出来ず唸るだけの男ではもうない。

 

 

(ダメージは4以上!今こそコイツの力を見せる時!)

 

「俺のターンドロー!そしてライドフェイズ!」

 

マモルはヴァンガードであるドーントレスドラゴンの上に新たなるグレード3のカードを重ねる。

 

 

「ブレイクライド!ドラゴニックブレードマスター!」

 

轟炎と咆哮をとどろかせ安城マモルの代名詞とも言えるユニット、ドラゴニックブレードマスターが顕現した。

 

「ドラゴニックブレードマスターのGB2スキル!相手のリアガードがこちらより少ない場合パワー+5000、クリティカル+1!」

 

「そっちもクリティカルを上げてきた!?」

 

「ふふん、退却させるリアガードがいないということは此方の条件が満たしやすくなると言う事でもあるのだよ。ね?」

 

「ぐ」

 

過去にリアガードを残さなかったばかりにヒロイックサーガドラゴンのスキルに敗北を喫したことのあるアムはマモルに意味ありげに視線を向けられ言葉に詰まる。

 

今回はヒロイックサーガドラゴン対策にあるGガーディアンを採用しているのだが、これでは役に立ちそうもない。

 

 

「では行くぞ!ドラゴニックブレードマスターはドーントレスドラゴンのブレイクライドスキルによりパワー+10000、よって合計パワーは26000!」

 

更にクリティカルが上昇しているので当たれば最低でも2ダメージだ。

 

「Gガーディアン!メタルエレメントスクリュー!」

 

ルーナのダメージは3、一回でもクリティカルが出れば負けてしまう以上、おいそれと通すことは出来なかった。

 

「手札を一枚捨てて、シールド+10000!」

 

これで合計シールドが25000となりヴァンガードのパワーと併せると36000、二枚のトリガーで貫通となる。

 

「では、ツインドライブ!一枚目、ゲット!ドロートリガー!一枚ドローしてパワーはヴァンガードに!」

 

「!?」

 

迷いもなくヴァンガードにパワーを振ったマモルにルーナが目を見開く。

 

(少し、勝負に出るのが早い?)

 

一方でアカネは性急とも言えるマモルのプレイングに首をかしげていた。普段なら残りトリガーを計算して決めているのだが

 

(何かあるのかしら?)

 

アカネがそう考えているのをよそにマモルは二枚目のチェックを行っていた。

 

「二枚目、あらら、ハルクロアードラゴンでトリガーはなし」

 

これで攻撃は通らなくなった。知らずの内に胸をなでおろしていたルーナだが

 

「で、ドーントレスのスキル発動ね」

 

「え、まだ何かあるんですか?」

 

安心するのはまだ早かった。

 

 

 

「そ、ヴァンガードへのアタック終了時、手札を3枚捨てることでヴァンガードは再びスタンドする!」

 

「ということはもう一回!?」

 

これこそがかげろうの、いやヴァンガードにおける必殺の戦法、Vスタンドである。

 

「さぁもう一回防いで見せい!行けブレマス!」

 

今度はドロートリガーのパワーも足されパワーは31000となる。

 

「むぅ、ガード!」

 

どうやら完全ガードはなかったようで、ルーナが手札を一気に切る。それにマモルがこっそりと息を吐いたのはリンとアカネ以外気付かなかった。

 

「ツインドライブ!ち、トリガーなしか」

 

だが完全ガードが手札に入ったのでよしとするかと自分自身を納得させる。

 

「じゃ、ターンエンド」

 

「あれ!?バーサークドラゴンは攻撃しないんですか?」

 

なんと、マモルは攻撃できる筈のバーサークドラゴンを攻撃させずにターンを終了させてしまう。

 

「うむ、手加減という奴かな?はっはは~!どうぞ進めちゃって下さ~い」

 

「む、私のターン」

 

甘く見られている。と感じてルーナは口をとがらせるが、安城マモルを知る人間にしてみれば「この男がそんな事考えるわけがない」のである。

 

現にルーナ以外の全員がマモルの事を胡散臭げに見ていた。

 

「手札を捨てて、ジェネレーションゾーン解放します!」

 

「はいよ~」

 

「えっと……あっ」

 

事ここにいたり、ようやくルーナもマモルの意図に気づく。

 

(こ、コストが足りない!?)

 

ルーナが超越しようとしたのは仮面の神竜使い(ドラゴンマスカレード)ハリー。このカードは強力な効果を持つ代わりにリアガードを1枚ソウルに入れるのとカウンターブラストを2使用する。更にハーツのハリーのストライドボーナスにもカウンターブラストが1必要であり無理なく能力を使用するには3枚のコストがあればよい。

 

しかし、今のルーナが使えるコストは2、手札からユニットをコールしなければ満足にG4のハリーの能力を行使できない。

 

だがルーナの手札も余裕がなく、そう都合よくアタッカーに使えるユニットはいない。

 

 

(く、キャットナイトがいれば……!)

 

ノーコストで展開出来るキャットナイトがいれば話は違ったかもしれないが、あいにく前のターンに退却されている。他でもないルーナが選んだことによって……

 

(判断を、誤った……)

 

ぎり、と思わず歯を食いしばるルーナをアムは静かにみていた。

 

(ルーナ、あなたは間違っていない)

 

あの状況ならアムでも退却はキャットナイトを選んだであろう。むしろ今はルーナが展開した盤面から、見事にキーカードを退却してみせたあの外道を悔しいが褒めるべき場面だろう。

 

(頑張って……ルーナ!)

 

アムが緊張の面持ちで見つめる中、ルーナの思考はこれ以上ない程に高速展開されていた。

 

 

(もう一度ルナティックドラゴン?いや、完全ガードがあったから駄目だし展開が不十分になる。アマンダももうヒットはさせて貰えない……なら!)

 

腹は決まった、後は野となれ山となれだ。

 

「ストライドジェネレーション!」

 

ルーナが選んだユニットは……

 

 

 

 

 

 

 

 

夢踊る彩翼(ドリーミィアクセル)ミルワード!!」

 

「なに!?」

 

マモルが驚くのも無理はない。それはディナイアルグリフォンと同じく追加されたばかりの新ユニットであるからだ。

 

(だが、使いこなせるかな?)

 

マモルがルーナを試すように見ていたのに気付かず、ルーナは能力の処理に入る。

 

「まずはハリーのストライドボーナスでキューティーパラトルーパーをコール!更にパラトルーパーのスキルでダークサイドプリンセスをコール!」

 

まずは1ライン、26000のパワーラインを形成する。

 

「そして、ミルワードのスキル発動!ソウルブラストしてソウルからユニットを二体コールしてそれぞれにパワー+4000!」

 

更にGゾーンのカードを一枚表にし表のミルワードの数だけユニットを選び効果を与える。それこそがミルワードのスキルである。

 

「コールするユニットはナイトメアドールみらべるとフライングマンティコア!」

 

ミルワードのパワーアップを合わせると23000になる。

 

 

「おぉ、ルーナちゃん凄い!」

 

「これで全ラインが21000以上になった。これを防ぐのはかなり厳しいな」

 

少ないコストを最大限生かしながら展開して見せたルーナにトコハもリンも感心したように頷いていた。

 

「いいわよ~!やっちゃえルーナ!」

 

アムなんか静かに見守るという決意を見事に忘れルーナに盛んに声援を送っていた。

 

 

「行きます!ミルワードでブレードマスターに攻撃!」

 

「そこは完全ガード!効果で一枚カウンターチャージ!」

 

「トリプルチェック!ゲット、クリティカルトリガー!効果はフライングマンティコアに!」

 

残る攻撃は二回、パワーはどちらも26000ライン。対するマモルの手札は御世辞にも多いとは言えない。

 

 

だが、マモルの側からファイトを見ているアカネには彼の手札が見えていた。

 

 

(これは厳しいわね……)

 

 

彼の、マモルの手札には先ほどのドロートリガーで引いたのであろうヒールトリガーが握られていた。

 

先ほどのディナイアルグリフォンを使えば一回は確実に攻撃は止まってしまう。しかも残り手札とインターセプトを使えば最後の一回もしのがれてしまう。

 

未来は、既に決まってしまっていた……

 

 

 

 

「フライングマンティコアでアタック!」

 

「ガード、そしてインターセプト!」

 

(これも防がれた……)

 

いつもはふらふらとしていてどうにも威厳のない姿が目立つがこうしてファイトしてみるとわかる。

 

(この人、凄く強い……!)

 

アムが二回も負けたのも納得がいく強さだ。もしかしたら自分も勝てないのかもしれない。

 

(でも、いや!でもじゃない!)

 

自分は勝たないといけない、否『勝ちたい』。

 

ファイトしていた理由なんてもうどうでもいい。真っ直ぐに立つ誰よりも近くにいてとてもカッコいい相棒の少女みたいに、何度倒れても挑み続ける少女みたいに、ヴァンガードで自分らしく生きている人たちみたいに!

 

 

(私も自分らしく!堂々と!かっこよく!)

 

 

「勝ちたいんです!行け!ダークサイドプリンセス!」

 

ルーナの意思に呼応するようにダークサイドプリンセスがドラゴニックブレードマスターに襲いかかる。

 

強い意志を感じる良い目だ。とアカネは素直に思った。きっと彼女は凄く強くなるだろう。だが今は……

 

 

「ふふ」

 

急に隣にいたアカネにしか気付かれないくらいこっそりとマモルは笑みを浮かべると

 

 

「ノーガード」

 

(え!?)

 

そう、宣言した。アカネが驚愕を顔に張り付けてマモルを見ているのに気付かずマモルは手札を静かに伏せて山札の上に手を乗せた。

 

 

「ダメージチェック。ヒロイックサーガドラゴン、トリガーはなしだね」

 

しん、と数瞬場が静まり返る。

 

「え、もしかして……勝った?」

 

実感がないルーナが呆けたように呟くのにくすりとマモルが笑いを漏らしながら

 

 

「あぁ、君の勝ちだよ」

 

ただ一言告げた。

 

「……」

 

ルーナがポカンと手札を握ったまま棒立ちになり……

 

「や……」

 

やがて感情の起伏は波となり彼女の中を満たしていき

 

 

 

 

「やったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

遂にはその感情は爆発した。

 

「よくやったわルーナぁ!本当に凄い!」

 

「わわ!?」

 

揚げ物を見事回避できたアムは思いっきりガッツポーズした後、ルーナに抱きついた。それに慌てるルーナを見て周りの笑みが更に深くなる。

 

 

「まさか、兄さんに勝つなんて。凄いよルーナちゃん!」

 

「え、えへへ~もうとりあえず必死で」

 

「よく私の仇を取ってくれた!」

 

「アムったら~」

 

皆が口々に勝者であるルーナを称賛している中で、マモルは笑みを保ったままそっと輪から外れ、カウンター席に座った。

 

 

(あれ?)

 

ねぇねぇ次は私とやろうよ!とトコハがルーナに勝負を挑んでいる傍らでリンがそんなマモルを見つけ首をかしげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、疲れたぜ~。マスター」

 

「はいよ。カツサンドね」

 

「どうも~」

 

マモルはファイト前に注文しておいたここに来るといつも食べるカツサンドをマスターから受け取った。ジューシーなカツとしゃきしゃきのキャベツさらにそれをつなぐソースとマスタードのコンビネーションがたまらない一品だ。

 

「んじゃ、いっただきま~す」

 

「マモルさん」

 

大きく口を開け、カツサンドを堪能しようとした所にアカネが声をかけてきたので食事は始まる前から中断されてしまう。

 

「隣、いいですか?」

 

「もちろん」

 

どうも、と一言断ってアカネはマモルの隣に座った。

 

「マモルさん。どうしてわざと負けたんです?」

 

「ん~?」

 

前置きなくいきなり本丸へと切りこんできたアカネの言葉にマモルはどう答えたものかしばし考える。

 

「そうだね、元々今回は弓月さんが蝶野さんともっと仲良くなるのが目的だからね」

 

「だからわざと負けてあげたの?」

 

「蝶野さんをかけてファイトする事になったのは予想外だったけどね」

 

笑いながらカツサンドを口にしたマモルにアカネは少し目を細めた。

 

「それだけじゃないでしょ」

 

「……どうしてそう思う?」

 

「長い付き合いだからね」

 

少しだけトーンの低くなったマモルにあっけらかんと言うアカネにマモルの方が逆に意表を突かれてしまった。

 

 

「はは、こりゃかなわん」

 

 

大した理由ではない。ただあの目が勝ちたいと、強くなりたいと言葉にせずとも叫んでいたあの目が『彼女』を彷彿とさせた。だからそれを手折るのをためらってしまったというだけの話だ。

 

まぁ、仮にわざと負けようものなら『彼女』であればマモルに文句の一つでも言ってくるであろうが……

そして、それこそが彼女とのファイトを止められない理由でもある。

 

 

「なぁ、アカネちゃん」

 

「はい?」

 

「お酒、飲める?」

 

唐突なマモルの質問にアカネはしばし呆けるがやがてふふと微笑むと

 

「たしなむ程度には」

 

と答えた。

 

「そうか、じゃあマスター」

 

「はい」

 

マモルが一声かけると、マスターがカウンター奥にあるワイン瓶から一本を取りだした。

それをグラスにそそぐと、透明な液体が音もなく注がれていく。

 

 

「どうぞ」

 

「これは、白ワインですか?」

 

「あぁ、銘柄は忘れちゃったけど結構いいやつなんだよ?」

 

へぇ、とアカネはワインの豊潤な香りを楽しむようにグラスを軽く揺らす。

 

「海外赴任の記念に、ね?」

 

「……知っていたんですね」

 

「そりゃあね、トコハには?」

 

「ここに来る前に言いましたよ」

 

「そうか……」

 

とここでマモルは不自然に言葉を区切る。まるで言いづらい言葉を述べる準備をしているようだ。

 

 

「……寂しくなるな」

 

「あら?そう思ってくれるんですね」

 

「おいおい……」

 

がくりと肩の力が抜けるマモルにくすくすとアカネが笑いを漏らす。

 

「なぁ」

 

「はい?」

 

マモルがグラスの中身をぐいっと煽ると覚悟を決めたようにアカネの方を向いた。

 

 

「ずっと……好きだったよ」

 

「はい、私も好きでしたよ」

 

「うそ!?」

 

折角かっこよく決めようと思ったのにアカネの思いがけない言葉でそれは音を立てて崩壊する。

 

「気付いてなかったの?」

 

「ぐ、すいません……」

 

挙句の果てにはアカネにジト目で見られ小さくなってしまう始末だ。

 

「まったく」

 

「面目ない、にしても両想いだったとはね」

 

「そうですね、まったく本当にどうしようもないですね」

 

「ははは、違いない」

 

 

お互いに笑いを漏らし、軽くグラスを打ち付けるとしばらく二人の口は他愛ない雑談と飲み食いに使われた。

 

 

 

 

 

 

「さて、向こうに戻るかね」

 

「そうですね」

 

「その前に、だ」

 

マモルが少し離れた植木の方に眼を向ける。

 

「リ~ンリン?盗み聞きは感心しないな」

 

植木の向こうで慌てたような気配がアカネでもわかるくらい伝わってくきた。

 

 

「べ、別に聞こうと思ってたわけじゃないぞ!?ただ、ちょっと出づらくなっちまってだな」

 

やがて観念したのか出てきたのはマモルの言葉通り羽島リンだった。

 

「はいはい、ワロス」

 

「なんだ、その腹立つ笑みは!?言っとくが本当だぞ!?」

 

「分かってるってほら行こうぜ~?」

 

「ホントにわかってんのかよ……」

 

流石に後ろめたかったのか必死で言い訳するリンを軽く流しながらマモルは自然とリンの隣に立ち、彼女と共にトコハ達の要る場所へ歩いて行った。

 

 

 

 

「……」

 

アカネはそれを静かに見ながら昔の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『名前?』

 

今よりも少し幼いマモルがカードを持ったまま此方を見てきた。

 

 

 

 

 

『羽島リン、って子だよ。俺はリンリンって言ってるぜ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時、闇と孤独に浸っていた安城マモルの姿はもういない……

 

 

 

「……ありがとう」

 

 

アカネは彼を闇から引き揚げてくれた天使に向かって聞こえないのを承知でぼそりと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後、ラミラビの二人とトコハのみならず新導クロノ、綺場シオン、果ては葛城カムイ等カードキャピタルのメンバーまで参加し、会計で灰になる安城マモルが見られるのはまた別の話である。

 

 

 

 

 





苦戦した割にあれなクオリティで申し訳ないですが、マモルのちょっとした過去話+アカネさんの話しはこれにてひと段落ということでお願いします。



あと最後に個人的な叫びを……

リ、リフロォォォォォォォォォス!?

まさか、エンフェで制限カードが出るなんて誰が予想したでしょうか?ちょっとリンリンのデッキ構築を考え直さないと(汗
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