艦これ変身ヒーロー風味   作:ハピ粉200%

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舞えよ雲、海凪ぐ空へ

 ――深い泓い海の底、暗い昏い嘆きの闇の中。そこに、彼らは棲んでいた。

 死にたくない、あいつを殺したい、すべて奪いたい。奴らが憎い。そんな織のように積もった想いが集まり、詰まった場所。

 深海凄艦の生まれる場所に、彼女は棲んでいた。

 

「艦娘が……現れたの?」

『エエ……アナタトオナジヨウナ』

 

 懊悩のごとく響く声に、彼女は訊く。

 それに気分を害したか、ふん、と鼻を鳴らし、彼女は腕を組んだ。

 

「人間と協力しているような奴と一緒にして欲しくないわ。反吐が出るわね」

『ソウ……ナラバアナタガカノジョヲ、コチラニツレテキナサイ』

「ほっとけばいいじゃない……それより呑みたいわ」

『ソウハイカナイ。スデニカノジョタチハ、ワレワレトテキタイシタ。コレハ、ホウフクナノ』

「……そう。分かったわ」

 

 ゆらりと空間が揺らめき、彼女の前に道ができる。

 諦めたように肩を竦めた彼女は、かつかつと音を鳴らして立ち去った。

 その後を、黒い影が追っていく。

 

 * * *

 

「きりーつ、礼、着席」

「おはよう、皆さん」

 

 きびきびとしたメガネ三つ編み委員長の号令のもと、風吹達は一斉に朝の挨拶を交わしていた。

 風吹は声を出しながら、くわっと欠伸を一つ。

 今日も今日とてギリギリまで寝たい風吹が駄々を捏ね、舞の風吹起こしバリエーションが32に到達。

 結果としてパンを詰め込みながら走るアニメ展開を披露し、風吹ほど体力のない舞は風吹におぶさって登校した。

 途中でぶつかりそうになった他校のセーラー服少女に怒られながらも、最早恥ずかしさだとか何やらを超越した二人は、ごく自然に仲良しっぷりを発揮し、周囲を更にドン引きさせていた。本人達は気にしてないが。

 

「今日は新しい教育実習の先生が来るぞー」

 

 どこか間延びしたような担任のぬぼーっとした言い方。

 本名金田文蔵と言う先生は、何事にも動じないその様と仏様のような風貌から、親しみを込めて釣り鐘先生と言われていた。

 器が広いので、本人は特に気にしていない。

 

「期間は1ヶ月だが、皆仲良くしてチョーダイ。

 じゃあ、入って、どうぞ」

 

 がらりと引き戸を開けて入ってきた先生は、先生と言うには若かった。

 教育実習なのだから正確には先生ではないのだが、生徒にとっては些細な違いでしかない。

 かつかつと黒板に書き連ねられる名前を静かに追う風吹は、どこか奇妙な違和感を感じた。

 が、眠気の残る頭の片隅に追いやられ直ぐどこかへいった。

 

「白岩、みずり。と、申します。以後、お見知りおきを。ヨロシクッ!」

 

 そう言ってたおやかに微笑む彼女の笑みに、風吹はのほほんと微笑み返した。

 ふと気になって横を見ると、舞は青い顔のまま机に突っ伏して死んでいた。

 

 * * *

 

「ねぇー風吹。もうちょっとさ、ちょっとでいいから早く起きない?」

「いやー、毎日思ってるんだけどさ。寝ている間は覚悟も何も忘れちゃうと言いますかなんと言いますか……」

「最近私のやってること知ってる?こっそり資材集めたりさ、港付近で監視ないとこ探したりさ、演習できる的作ったりさ、風吹の訓練メニューとかああああああもおっ!!」

 

 お昼。何時ものごとく屋上入り口の踊り場で、二人で食べていた風吹は珍しい舞の愚痴に些か食べるスピードを落としながらこくこく頷いていた。

 実際、舞は風吹の為にやれることを全力で展開していた。

 風吹の補給用資材――艦娘には精錬前でもいいし、ごく少量でいい――である鋼材や燃料、弾薬の補充を行っていた。

 風吹用の弾薬とはつまりシクヴァル魚雷なのだが、何故かアルミと鉄と少量の半導体で補給される。

 なので最近舞は大量にスマホ用の使い捨て充電器を買い占めていた。

 これと鉄でシクヴァルが補充されるので、お手軽ではある。

 しかし疎遠な実家からの仕送りだけで暮らす舞と風吹にとって、金銭的な負担は大きかった。

 

「スポンサーとか出来ないかな?」

「プロのスポーツ選手じゃないんだから……」

「でも企業のロゴとか背負った私ってちょっと格好いいかも」

 

 でかでかと『○角』のロゴが描かれた駆逐艦を想像し、舞はゲンナリした。

 

「ねぇ、それより舞。今日来た教育実習の先生だけど」

「見てない。風吹のお陰で見らんなかった」

「さいですか……」

 

 午前中青い顔で突っ伏していた舞は、実際話題のみずり先生とやらを見ていない。

 曰く、美人で聡明、優しくも愛嬌があってなんやかんやがあっておっぱいがでかい。

 後者の一点のみを取っても男子生徒からの人気は絶大だったが、そそとした外見からは想像できないパワフルさでもって女子生徒からの支持すら獲得していた。

 パワフルな愛嬌とはなんぞやと思うかもしれないが、彼女のギャップ萌えをよく表した表現に風吹は思えた。

 

「多分今ごろはさ沢山の生徒に囲まれて、静かに笑いながらバンバン人の背中叩いてるよ」

「なによそれ」

「なんかそんな感じだから」

「それは心外ね。私はバンバン叩くんじゃなくてガンガン殴るわ」

「そう、そんな感じ――って、え?」

 

 二人の雑談から飛び出した言葉に食い付いてきたのは、御当人である白岩みずりその人だった。

 軽く腰に手を当てて、ちっすとばかりに右手をふる彼女に、二人は暫く反応出来なかった。

 

「ちょっと二人探してたらさ、こんなところにいるんだもん探したわよ。あ、お弁当ちょっとちょうだい……うまーいっ!」

 

 豪快と言うか、アグレッシブと言うか。

 ずかずかと二人のスペースに踏み込んだみずり先生はどっかりあぐらをかくと、ひょいひょい弁当の具をつまみ出した。

 そのなんとも言えない遠慮のなさに風吹は目尻を下げ、舞は眉を寄せた。

 

「私達に、何かご用ですか?」

「そうそう、あなたたちにご用なの。ご用改めなの」

 

 警戒した表情で訊く舞に、みずり先生は笑いながら一枚の写真を取り出した。

 それを見た舞の顔がさっと青くなる。

 ――そこには、丁度ボロボロになった吹雪が、ル級と揉み合っている姿が写されていた。えっちぃ方じゃないのであしからず。

 

 吹雪はあーあたしだ、などとのー天気にのたまったが、舞はみずり先生から言い知れぬ圧力を感じ倒れそうになった。

 

「見てたんです?みずり先生」

「私が見てた訳じゃないんだけど、"友人"が見てたの。最初は信じられなかったけど、実際これがあったから……ねぇ?」

 

 あっけらかんと訊く風吹に殺意すら覚えながら、舞はどうにかしてこの状況を脱するか模索して、なんとか腹をくくってみずりに向き合う。

 

「それは大層な"ご友人"ですね。港には大勢詰めておいでですか?」

「そう警戒しないで?私は一応、その、えー……公務員よ。防衛関係の」

「そうですか……」

 

 身分を明かそうとしないみずりに舞は一層固くなり、何か喋り掛けた風吹の口を無言で押さえた。もがもが。

 

「でさー。さっき面白い話してたでしょ」

「……何をでしょうか?」

「スポンサーよスポンサー。"私達"は、あなたたちに魅力的な提案ができると思うんだけど」

 

 そう言いつつ、みずりはバッグから何かの紙束を取り出した。

 その表紙には、中期北関東防衛計画修正案、の文字が踊っていた。

 

「私達は、あなたたちに身分、予算、資材、情報その他を提供する用意がある」

「その代わり、言いなりになって戦えって事ですか」

「結論を急がないでよ。現状あなたたちは未成年だし?貴重な戦力となるかもしれないから、使い潰すようなマネしないわ。基本的に自由裁量で動いて構わない。ま、ちょっとした健康診断は受けて貰うけど」

 

 舞はその紙束を手に取り、パラパラと捲り紙面に踊る文字量に今すぐの把握は無理だと判断した。

 

「詳細は確認させて貰ってからお返事いたします。その間に私と風吹に対して恐喝、勧誘があった場合はこの話は無かったことになりますので」

「いいけど、それなら期限は1週間よ。それ以上はちょっと……ねぇ?」

「……分かりました。でも一つ聞かせてください」

「なーに?」

 

 改めて、舞はしずり"先生"に向き直って問う。

 

「なぜ、直接会いに来ないで教育実習なんて回りくどい方法を?」

 

 完全に無表情になった舞の姿に苦笑し、しずりは答える。

 

「あー……それね。最初は私もまずは人となりを見て、接触して、さりげなく聞いてみたりとか、少しずつ情報を明かしてとか考えてたんだけどね?深海棲艦かも知れないしね?」

 

 その言葉に、舞はやはりと言う思いと、恐れを抱いた。

 この女のような権力ある存在に見つかったことに。

 が、続く言葉で大きく動揺した。

 

「でも蓋を開けてみたら、こんな場所でペラペラ深海棲艦がどうの、今日の戦闘がどうの話してるんだもの。拍子抜けして一周回って可愛くなっちゃった。容姿も可愛いし中身も可愛いで言うことないよね!」

 

 二人の顔が赤くなった。風吹は羞恥で、舞は羞恥と怒りで。

 しかし事実だけに何も言い返せず、二人はもじもじした。

 怒りが強いとはいえ、頑なな表情を脱した舞を見やりながら、よっこらせと年より臭い掛け声でしずりは立ち上がった。

 

「それじゃあ、考えといて。決して悪いようにはするつもりはないから」

「ま、前向きに検討するよう善処します……」

 

 動揺が治まらない舞が頓珍漢な答えを返す。

 しかし、しずりは気にせずじゃーねと後ろに手に降ってかつかつと立ち去った。

 二人は赤くなったりくねくねしたりブルーシートを片付けたりしていたが、やがて昼休み終了のチャイムが鳴るまで結局意味ある言葉を交わすことが出来なかった。

 

 ――結局、二人は褒められ慣れてないのだ。

 

 * * *

 

「舞、この話受けよう」

 

 帰り道の開口一番、尾行を警戒してきょりきょろ見回す舞に、風吹はそう言った。

 

「……理由は?」

「舞のためだよ。今のままじゃ、舞の負担が大きすぎる」

「それは……」

 

 舞は反論しようとして、風吹の真剣な瞳に言葉を失った。

 

「舞はちょっと頑張り過ぎてると思う。私の為に色々してくれるのは嬉しいけど、それで舞が倒れそうになってるには……違うよ」

「でも……でも、あの人は怪しいよ。信用できない」

「じゃあ、私を信じてよ。みずり先生は私が信じる。舞は私を信じる。ほら、これで大丈夫になった」

「全然大丈夫じゃないよっ!訳分かんないよっ!?」

「無理に誰かを信じなくていいってことだよ」

 

 風吹は両手で舞の手を握る。

 

「誰かと繋げる手は二本しか持ってない。でも、繋いだ誰かが、新しい誰かと手を繋ぐことで、世界は広がっていくんだよ」

 

 舞がはっとしたように顔をあげ、風吹を見た。

 そこには、親友を労るような優しい笑顔があった。

 舞は、己の狭量さを思って下唇を噛む。しかし、舞にも意地があった。

 

「……分かった。でも、計画書はしっかり読ませて。絶対に風吹に損はさせない」

「二人には、でしょ?」

「……うん」

 

 しおらしくかくんと頷いた舞を見て、風吹も破顔する。

 こつんとおでこをぶつけて、風吹は「見回り行ってくる!」と元気よく飛び出していった。

 学校帰りの港の見回りは、最近の風吹の日課である。

 裏山や灯台から深海棲艦の気配を探し、夜中に出撃して倒すのだ。

 深海棲艦の気配は吹雪に備わった超感覚によって行う。

 本人曰く波のようなものを捉えると言っているので、レーダーのようなものだと舞は理解していた。

 

「信じなくてもいい、か」

 

 風吹がいなくなったところで、舞は自らの手を見て思う。

 舞と風吹は、三年前からお互い以外のコミュニケーションを極力排除してきた。

 それは深海棲艦に襲われ、生き残った自分達を遠ざけた周囲の人間から守る為だった。

 しかし、それだけじゃいけないことは分かっていた。

 二人だけでできることは、そう多くない。

 だから風吹はみずり先生の手をとったのだし、"吹雪"の手をとったのだ。

 

「嫉妬してるのかな、私」

 

 風吹と親友でいることに最早疑いはないが、先をいかれた悔しさのようなものを感じていた。

 舞は、何となくバッグから"帽子"を取り出して、それを目深に被る。

 調節できるとはいえ、父親が使っていた帽子を被るとブカブカだ。

 しかし、顔を隠すには丁度よかった。

 舞は、そのブカブカの帽子を被ったまま、ゆっくりと帰路についたのだった。

 

 * * *

 

「待てば海路の日よりあり、ね」

「はぁ、こんにちは」

 

 とたとた走って裏山に向かう道中。

 湾を臨む道の途中で、風吹は誰かに声をかけられた。

 声をかけられたと言うよりは独り言の方が近かったが、妙に気になった風吹は思わず言葉を返していた。

 

「これからお散歩?」

「ええ、そうです。ちょっと探し物に……」

「付いて行ってもいい?」

「え、えぇ?」

 

 ふらりと風吹に声をかけてきたのは、セーラー服を着た少女だった。

 風吹達の学校はこの町に一つっきりの学校である。

 故に、この少女は他の町からやって来たことになる。

 こんな道の真ん中に突っ立っている事も奇妙なら、長い棒のようなものを布に包んで持っている事も奇妙だった。

 弓道部なら弓を包んで持っていてもおかしくはないが、それにしては包まれている物が『真っ直ぐ』過ぎる。

 そして、矢筒や小物を入れるバッグも持っていない。

 およそろくに隣町へ行った事も無い風吹は知らなかったが、ここから隣町まで歩くと二時間は優に掛かる距離であった。

 

「えーと……いいんですけど。私に何かご用ですか?」

 

 そう言った風吹の目を、少女はじっと見詰めた。

 複雑な目だった。迷っているようにも見えるし、なじっているようにも見える。

 喜んでいるようにすら微かに感じられて、風吹は完全に混乱した。

 

「……ご用はあるわ。御用改めよ」

「私は縄で縛られて、連れてかれちゃうんでしょうか?」

 

 その表現流行ってるのかな、と考えながら茶化して返す風吹。

 

「見ての通り生憎縄は持ってきてないの。自主的に付いてきてくれると嬉しいんだけど」

「えーと、今日はちょっとやることがあって……明日でも良いですか?」

「駄目よ」

 

 言うなり、ぐいと風吹の腕を掴んだ少女が歩き出す。

 あわわとつんのめりかけた風吹が、けんけんしながら後に続いた。

 

「ちょ、ちょっと!待って、待ってくださいよ!」

「しっかり歩きなさい」

「付いて行く!行きますから、待って、せめて名前を教えて下さいよ!」

 

 かつかつ歩む動きが止まり、少女が振り返った。

 眉を寄せて迷惑そうにしている……と思いきや、何だか悲しそうな表情だった。

 そしてふと見下げた制服の端、洗濯用のタグがあった。

 目敏く見つけたそこには、手書きで持ち主の名前が書いてあった。

 

『村山 紫』

 

 風吹から目線を逸らし、やや俯き気味に少女ーーに風吹は言った。

 

「む……むらむらさん」

「ゆかり、よ。今度その言い方をしたら殺すわ」

「スミマセン……」

 

 字の確認に声を出した風吹に、殺気の籠った視線で紫は応えた。

 

「あ、私、風吹です。工藤、風吹。ご存知かも知れないですけど……」

「ご存知よ」

 

 風吹の言葉を継いだ紫は、表情を変えずに言い放った。

 

「早く来なさい」

「どこへ?」

 

 話は終わったとばかりにつかつか歩く紫に、風吹は問う。

 

「海よ」

「海?」

 

 答えず、紫はどんどん進む。

 ガードレールを越え、坂を下り、林を抜けて砂浜へ。

 ざくざくと柔らかい砂浜へを歩く二人。

 暖かくなってきたとはいえ、まだまだ開かれていない海には人はいなかった。

 代わりに、沖をゆうよくする黒い影が見えた。

 

「深海棲艦……」

 

 眉を寄せ、思わず声を出した風吹に紫が珍しく応えた。

 

「あんたは深海棲艦が嫌い?」

「それは……そうだよ。だってあいつらはーー」

「じゃあ、人間はどうなのよ?」

 

 続けようとした風吹を遮り、紫が風吹を見る。

 そこには、まるで仇を目の前にしたかのような目にひっと怯んだ。

 

「私から言わせれば人間の方がよっぽど醜いわ。

 あんただって、そういう扱い、受けてきたんじゃないの?」

「……」

 

 そう言い放つ紫に、風吹は過去の仕打ちを思い出さされていた。

 風吹と舞。

 港の惨劇を生き残った二人は、当初奇跡の生還劇として大々的に報道された。

 港の犠牲者は3000人を越える。だが重症を負いながらも生き残った人もいる。だから希望を捨てるなーーと言った具合である。

 

 当初は同情を買い、寄付も貰ったし施設へ保護する話もあった。

 だが深海棲艦の被害が激化し、犠牲者が増え続ける現状にあって、同情は嫌悪へと変わっていった。

 何故あいつらだけ生きている。何故あいつらだけ生き残った……と。

 同情から裏返り、嫉妬と憤りの対象となった二人は度々通り魔のような人々に襲われた。

 家に落書きや投石もあったし、汚物を送りつけられたこともあった。

 

 そう言うわけで、風吹と舞は二人以外のコミュニケーションを極力絶ってきた。

 二人は二人以外の人々から背を向け、生きてきたのである。

 

「……そう、だね。でも、やっぱり私は人が嫌いになれないよ」

「……」

 

 へへへ、とはにかんだように微笑む風吹に、紫は飽くまで無表情だった。

 

「……そう、ならあんたはここで死になさい」

 

 ざくり。

 

 風吹が感じたのは熱だった。

 胸元から発せられる熱は長い棒を辿り、紫へと続いていた。

 

「あ……え?」

 

 理解できず、立ち尽くす風吹の目の前で、紫が持った棒が発光した。

 機関、魚雷が搭載され、脚部のパーツが黒いストッキングの上に固定される。

 背中からアームのようなパーツが伸び、頭部に兎の耳のようなアンテナユニットが取りつける。

 風吹を刺したままの棒は、最初赤錆た棒だったものが綺麗になり、二本の簪のような飾りが取りついた。

 マストのようだ、とかつての艦の記憶を持つ風吹は場違いにも思った。

 

「あなた……あれ?あーー」

「久し振りね、"吹雪"」

 

 完全に擬装を背負った少女は、マストを引き抜いて血を払う。

 刺された胸部から溢れる血を抑えながら、風吹は少女に艦の姿を幻視した。

 

「叢雲……?」

「そうよ、お姉ちゃん。会いたくもなかったわ」

 

 澄ました表情の叢雲に、風吹は茫然と見やるしかなかった。

 叢雲の変身に呼応するように、沖にいた深海棲艦が近寄ってくる。

 そして、砲を風吹へと向けた。

 

「大人しく"私たち"に着いてきなさい、吹雪。

 さもなくば貴女の命はもちろん、貴女の『嫌いになれない』人間達も、全て灰塵に帰すことになるわ」

 

 そう言い放ち、叢雲は膝をついた風吹に手に持ったマストの先端を向けたのだった。

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