艦これ変身ヒーロー風味   作:ハピ粉200%

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舞えよ雲、海凪ぐ空へ3

「――と、言うわけで。こちらとしましては、以上の点の修正、及び追加があれば内容に合意できます」

「ふぅん」

 

 きびきびとした動作で書類を取り出し、女性に見せる少女は静森舞。

 ブレザーの制服姿に長い黒髪を大きな制帽で隠し、見上げるような瞳は以前と違って力に満ちていた。

 それを面白そうに見た女性、白岩みずり――教育実習生と言う名で舞に近づいてきた防衛関係の女性――はゆっくりと目を細めながら舞を見た。

 

「随分と変わったじゃない。見違えたわよ?」

「風吹にカッコ悪いところ見せられませんから」

 

 帽子の鍔を軽く押さえながら微笑する舞には、気負いも緊張もない。

 前の方が可愛かったのに……と内心がっかりしながらみずりはぱたんと書類が入ったバインダーを閉じる。

 

「細かい所は後で見せてもらうとして、受ける気、あるのよね?」

「はい」

 

 今度こそ、舞はそう断言した。

 

「風吹ちゃんの合意は?」

「取れてます。そもそも、受けようと言ったのは風吹です」

「あらら……じゃあ、あなたは不満?」

「正直に言うと少し。もっと『透明性の高い』組織であればいいんですけど」

「でもそれだと、風吹ちゃん公開しなくちゃいけなくなっちゃうわよ?」

「だから、諦めました」

「あら生意気」

 

 しれっと所属先を貶すような発言に、頬をぷくっと膨らませたみずりが肩を竦める。

 

「スポンサーの意向には従います。決められた数の討伐実績や急な要請にも文句は言いません。健康診断にも出ます。しかし――」

「具体的な作戦案と決定権は欲しい、と。でも舞ちゃん、貴女はそれができるの?実績は?どうやって私たちにそれを証明してくれるの?」

「実績はこれから作るとしか言えません。でも、私とて『海の男』の娘ですから」

「あら、そう」

 

 ふーん、とちらりと舞の被る帽子に目をやるみずり。

 

「悪いけど精神論で語られても、ちょっと……。

 具体的に私たちが指揮するより良いと言うメリットを示して?じゃないと認められないんだけど」

「風吹の事は私が一番熟知しております。性能、健康状態、精神状態からありとあらゆる全てにおいて」

「なるほど。でもそれだけじゃ足りないわよ?」

「……では」

 

 どん、と。舞は机に地図を広げた。

 

「献策です。一ヶ月以内に、南回り航路の安全を確保し、補給ルートを確立します」

「……」

 

 今までずっとにこやかだったみずりの目が、すっと細められた。

 雰囲気の変わったみずりに少し気圧されながらも、舞は言い切った。

 

「これは地元民として航路・岩礁の知識を持ち、風吹を熟知し、艦娘と妖精の信頼関係を維持している私にしか出来ないことです」

「……使い潰す気は無い、と言ったはずだけど。

 貴女の下らないプライドで貴重な艦娘を失うぐらいなら――」

「死ぬつもりで作戦は立てません」

「じゃあ、根拠を語りなさい」

「……ッ!」

 

 4割の自信と、6割の虚勢で立っていた舞の心には、その言葉は重く響いた。

 一瞬真っ白になりかけた頭を振り、言葉を組み立てる。

 

「し、新開発のソナーと爆雷を使います。

 敵潜水艦の魚雷は、緊急回避手段もある吹雪にとってそこまで脅威じゃありません。

 むしろ敵潜水艦の発見、ポイントへの移動が重要です。

 そこで――」

「ふーん。P-3Cを使いたいの?」

「はい」

 

 舞の言葉を先読みしたみずりはすっと目を閉じ、しばし黙考した。

 

「敵もバカじゃないわ。此方が張っていると分かると仕掛けて来ないかもしれないわ」

「はい。だから餌を撒きます」

「餌?」

「はい。この私です」

 

 大真面目にみずりの目を見ながら言う舞に、暫くみずりは絶句した。

 

「以前、港に現れた深海棲艦は何故か私を標的にしていた節があります。

 なので、空荷の輸送船を一隻手配して頂いて、私が乗り込みます。

 これを餌に、吹雪が接近する潜水艦を仕留めると言う寸法です」

 

 そう言い切った舞は、微笑すら浮かべながらみずりを見ていた。

 呆れたように眉を寄せたみずりは、米神を揉みながら舞の本気を悟ってはぁ、と息を吐いた。

 

「大した度胸ね。でも使い潰す気は無い……と言うのは、貴女も含めての言葉だったんだけど」

「勿論、死ぬ気はありません。私は吹雪を信じていますから」

 

 言わば、覚悟を見せようとしているのだ。この娘は。

 それを悟ったみずりは楽しくも頼もしくも感じなかった。

 ただ、悲しい。

 自分より年下の娘が命を張る決断をしてしまうまでに至った経緯が。戦況が。

 ちょっと脅してやろうと思って威圧したみずりだが、今では追い詰め過ぎたんじゃないだろうかとばつの悪い気持ちになった。

 

「……そう。とりあえず、案は頂いたわ。その覚悟もね。

 こちらで再検討するから数日待って頂戴。

 やるからには、全力を尽くすわよ」

「了解です」

 

 びし、と敬礼する舞はそこそこ様になっていたが、そもそも屋内で脱帽していない舞にやっぱりちょっとカワイイ、と再び気持ちを持ち直した現金なみずりであった。

 

 * * *

 

「海上自衛隊との……共同作戦?」

「そう。港周辺、及び南回り航路に存在する敵潜水艦を、海自と共同で一掃し、途絶えていた補給ルートを復活させよう、ってのが今回の作戦」

 

 かちゃかちゃと装備を弄くる手を動かしながら、舞は言う。

 夕食を終え、だらりと足を広げながらクッションにもたれ掛かりながら風吹は訊いた。

 

「……そう」

 

 どこか上の空の生返事を聞きながら、舞は昨日から続く風吹のぼんやり状態に思いを馳せた。

 おはようからお休みまで風吹と一緒に生活している舞である。

 先日の戦闘で何かあったことは明白だった。

 お風呂で『村山 紫』と言う名前が出た以上、彼女が某か関わっているとも予想できた。

 最悪、彼女を"巻き添え"にしたのでは……と、想像して舞は眉を寄せる。

 純真な風吹の事だ、責任を感じて押し潰されてしまうのではないか。風吹元気を出して欲しい。

 しんな心配を胸に秘め、舞は努めて平易な口調で言った。

 

「まず、"無人"の輸送船を自動航行で囮に出す。

 次に海自の対潜哨戒機P-3Cが予定航路上にソノブイを撒くから、深海棲艦の音をキャッチしたら風吹に連絡。

 風吹がポイントに急行し、真上から爆雷で敵潜を沈めるの」

 

 何となく舞の声が堅い気がしたが、風吹はふーん、と気にしなかった。

 そしてはい、と舞から手渡されたのは『三式水中聴音器』と『三式爆雷投射器』。

 舞が資源を使い『妖精さん』と共に作りあげた艦娘用の装備である。

 

「装備してみて」

「あ、うん」

 

 ぼんやりと渡された装備を見ていた風吹だが、じっと自分を伺う舞を見てこれじゃいかん、と頭を振った。

 叢雲――村山紫の事は、あの日以来頭から離れない。

 事ある毎に思いだし、後悔と共に胸を強く締め付けられる。

 しかし、舞に何時までも情けない姿を見せる訳にもいかない。

 私は皆を――舞を守ると誓ったのだから、と頬を張って気持ちを無理矢理切り替える。

 すると、不思議に自分の部屋で変身することが何となく恥ずかしくて風吹はもじもじしていたが、やがてえい、と気合いを入れて羞恥心を吹き飛ばした。吹き飛ばし過ぎた。

 そして茶目っ気すら出した風吹は、クッションを投げ捨てて部屋の中央に移動。

 何故か指貫グローブを嵌めて顔の右前で雑巾でも絞るように拳をぎちぎちと鳴らす。

 

「変……身んッ!」

 

 右腕を大きく回し、言い終わると同時に勢いよく反対側へ突き出すと、風吹の身体が光に包まれた。

 舞がため息を吐きながら被った帽子をぴょこりと下げて光を遮る。

 ベルトが光ったり一瞬バッタ怪人の姿になる訳もなく、頭部にマークが刻まれる訳でもないが、機関、砲塔、魚雷発射管、艦底を模した靴が現れ、風吹が"吹雪"となる。

 

「とぅ……ッ!」

 

 全て装備した吹雪がその場でくるりと宙返りし、今日のデザートに食べたアイスの包みにあったドライアイスを袖口と腰に入れて吹き出す白い蒸気を演出した。冷たいだろうに。

 

「仮面ラ……じゃなくて、第十一駆逐隊、吹雪ッ!」

 

 真横に突き出した右手を返し、名乗りと共に見栄を切る吹雪。

 呆れた表情で帽子を上げる舞に、吹雪は自信に満ちた表情で言った。

 

「港の平和と、舞の笑顔はこの私が守るッ!」

 

 言葉こそ模した英雄の言葉だったが、その気持ちは紛れもなく吹雪の心から出たものだった。

 そしてそう言いきると、不思議とさっきまでの鬱々とした気持ちもどこかへ飛んで行くような気持ちで吹雪は笑った。

 空元気も元気、である。

 

「それは分かったから、速く装備してみて?」

「あ、はい」

 

 渾身の変身と見栄をさらりとスルーされた吹雪は、いそいそと砲塔と魚雷を取り外し、三式爆雷投射器と三式水中聴音器を取り付けようとした。

 だが――

 

「ん、んん?」

 

 すとん、と。

 背中の擬装に取り付けた聴音器が落ちる。

 手に装備した爆雷投射器も、何故か重く、操作もぎこちない。

 

「あー、もう。後ろ向いて、吹雪」

「あ、お願い」

 

 あたふたとしている吹雪をみかねた舞が後に回り、擬装に聴音器を固定する。

 固定し、上からぎゅっと押さえようと力を込めたところで、吹雪がその力に堪えかねて後ろにつんのめった。

 

「あわわ……っ!」

「ちょ、やめ、吹雪ぃっ!」

 

 縺れ合うようにどてん、と転ぶ二人。

 舞の影から現れて、吹雪の擬装固定を手伝っていた妖精さんたちがわっと蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 

「お、重いよ吹雪~……」

「なんですとっ!?」

 

 下敷きにされた舞が呻き、不意の言葉に吹雪が反応する。

 そして目の前にごろごろと転がってきた物体におでこをこつんとぶつけた。

 ――そして、それが爆雷である事に気付いた吹雪の顔が青ざめる。

 

「ちょっ!?ま、舞動かないでっ!」

「嫌だ!速くどいて吹雪、潰れちゃうーっ!」

 

 じたばたと暴れる舞の顔が爆雷にぶつかりそうになって、吹雪は慌てて舞の顔を両手で抑えた。

 

「動かないで舞。すぐ済むから」

「え、何?吹雪……何なの?」

 

(爆雷の除去に)真剣な表情で舞を見る吹雪。

 思わず何故かどぎまぎしながら、舞は顔を真っ赤にして俯いた。

 

「もうちょっと……あと少し」

「何なの?何で近付いて……え?ええ?ホントなの?」

 

 ゆっくりと爆雷へ手を伸ばす吹雪の顔が、自然と舞へ近づいて行く。

 何かを悟った舞が目を瞑り、心なしか顎を上げる。

 数瞬の沈黙あと、吹雪が声をあげた。

 

「取った……ッ!」

「……え?」

 

 涙を滲ませながら何かを待っていた舞が、不意に無くなった圧力を感じて目を開ける。

 そこには、恐る恐る爆雷の安全索を確かめてほっと息を吐く吹雪がいた。

 

「危なかった~……爆発しなくて良かったよ、爆雷」

「……」

 

 自分が何を勘違いしていたか悟った舞は自殺したくなったが、自分が居なくなった後に餓死する風吹を想像して止めた。

 

「泣いてるの、舞?ごめんね、そんなに怖かった?」

「……ううん、怖くないよ」

 

 絶望を湛えたような深淵のように深い舞の瞳を不思議そうに見ながら、吹雪は首を傾げた。

 

「へんなの」

「そう、私がへんなのです」

「うん?」

 

 ぶつぶつと独り言を言いながら起きようとしない舞に本気でおかしくなったかと心配しながら、吹雪はもう一度擬装に三式水中聴音器を固定する。

 しかし、やはりすとん、と、聴音器は固定されずに落ちてしまった。

 

「……あれ、これ、もしかして」

 

 何かに気付いた吹雪が、取り外した魚雷発射管を再び取り付ける。

 それは問題なく取り付き、がしゃがしゃと吹雪の意思に従って稼働する。

 次にそれを取り外し、水中聴音器を取り付ける。

 しかし、目を閉じて装備に意識を向けてもウンともスンとも言わない。

 魚雷発射管であれば血の通った手足のように感じられたのだが、水中聴音器にはそれがないのだ。

 つまり――

 

「私、これ装備できないや」

「か……くはッ!?」

 

 あっけらかんと言う吹雪に、床に倒れたままの舞は血を吐くように呻いた。

 余りの想定外に、舞の精神は崩壊寸前だった。

 みずりの前で盛大に啖呵を切った手前、今更出来ませんとも止めますとも言えない。

 せめて最初に確認しとけよと言う後悔が渦巻くが、もはやどうしようもなかった。

 

「まぁ……何とかなるって!」

 

 ――吹雪を殺して、私も死ぬ。

 それが案外一番の解決策なんじゃないかと、床に転がりながら舞は小一時間検討を続けたのであった。

 

 * * *

 

 敵潜水艦の撃滅。

 それは海上輸送に命脈を託す日本にとって最重要事項であり、かつての大戦から得た戦訓でもあった。

 当然、対深海棲艦においても潜水艦に対抗する手段を講じている。

 その最たる例が対潜哨戒機である。

 日本に配備されている300余の対潜哨戒機の索敵網によって、日夜日本近海の敵潜水艦を監視している。

 主力はアメリカからのライセンス生産を行っている『P-3C』対潜哨戒機。

 ターボプロップエンジン四発を持つ、哨戒機の決定版である。

 胴体にソノブイ――空中投下式のソナーブイを発射できる孔を持ち、レーダー、赤外線、磁気探知装置等様々な捜索装置を持つ航空機だ。

 本来ならそれに対潜爆弾が加わり、目標の撃沈が加わるのだが、深海棲艦相手にそれは出来ない。

 なので、最後の打撃力部分を吹雪が担う。

 というのが、舞が立てた作戦骨子である。

 

 その作戦案を持って、みずりは参謀本部を訪れていた。

 一国の命運を担う作戦せある。微に入り細に入り、揉む必要があったからだ。

 

「敵潜水艦の発見はホントにできるのかしら?」

「かなり『小さい』目標なので、確かに発見は困難です大尉」

 

 白岩みずりと、召集された参謀方により作戦案は昼夜を惜しんで検討が続けられていた。

 

「ですが、何件か目標を発見した実積はあります」

「分かったわ。では敵性航空機の妨害は?」

「現状でこのルート上に『空母型』は認められません。

 しかし、用心はしておくべきかと」

 

 また他の参謀は、護衛艦群を動かしてみてはと言った。

 

「でも護衛艦隊は使えないわよ。張ってると悟られると、逃げられるかも知れない」

「ええ、それに費用対効果も悪いですからね。

 せめて攻撃が効けばいいんですが……」

 

 いくら砲やミサイルを備えようと、敵に効果が無ければ無駄でしかない。

 

「輸送船は徴用出来そうなの?」

「10000t級の貨客船、『玄海丸』を船員ごと徴用します。

 同時に簡易のヘリポート設置とバルジの増設で浮力を上げると共に、倉庫には海水を注入して防御力を上げます」

 

 可能な限りのリスク低減、打開策を挙げる。

 なにせ替えの効かない人材である。本来なら囮にするなどもってのほかであるが、状況がそれを許容した。

 

「えらい大盤振る舞いね。普段からこう、簡単に予算を下ろしてくれないかしら」

「航路復活に伴う損益の回復は急務ですから。焦っているのでしょう」

「それで生け贄の棺桶が飾られても、彼女は嬉しくないでしょうに」

 

 それともそこまで見越して、彼女はこの案を出したのかしらとみずりは呟く。

 この作戦が成功すれば、彼女は政財界に一つ貸しと呼べるものを作れるだろう。自分達も含めて。

 

「じゃあ、ついでに試験中のアレも使うよう上申しましょうか」

 

 みずり他参謀の手により多々修正を入れられ、上申された作戦は、異例の速さで可決。

 大急ぎで作戦準備が行われる事となった。

 

 そして一週間後、作戦発動1時間前。

 

 * * *

 

 ――厚木基地、51航空隊

 

 薄暗いえんたい壕の中には、二機の猛禽が翼を休めていた。

 床を這うケーブルを避けながら、熟練の整備員が忙しなく行き来する。

 静かに進む発進準備の中、場違いに思える学校の制服姿の少女、そしてOD色の野戦服を着た女性がヘルメットを被って立っていた。

 ともすれば社会科見学の生徒と先生にも見える二人は、しかしこの作戦における最重要人物だとは誰が想像するだろうか。

 

「風吹ちゃんが乗るのが、そっち。C-130Rよ」

 

 野戦服の女性――みずりが指差したのが、後部のカーゴランプを下ろした輸送機だった。

 四発のターボプロップエンジン、緑がかったブルーの塗装はP-3Cと同じだが、でっぷりと太い胴体と高い主翼が特徴だった。

 

「C-1輸送機の退役に伴って不足する輸送能力を補うために、アメリカから買った中古の輸送機。でも半世紀以上大きな問題なく飛んでる信頼性の高い機体よ」

 

 元々はアリゾナの砂漠で埃被ってたんだけどね、と茶化して言いながら、カーゴランプを昇るみずり。

 スロープとしても使える後部ハッチなので、車両でもそのまま乗り入れる事ができるのだ。

 

 ほへー、と感嘆とも取れる息を吐きながら、風吹が続く。

 

「風吹ちゃんはこの機体に乗って空中待機。

 作戦目標発見と同時にポイントに急行。

 超低空飛行で海面10m以下まで降りるから、駆逐艦吹雪として投下。爆雷戦を開始してもらうわ」

 

 爆弾の代わりに投下するのが『駆逐艦』と言う、前代未聞の作戦である。

 しかしポイントまで移動する速度を出すためには、航空機での移動は不可欠だった。

 

「了解ですっ!……先生はどうするんです?」

 

 風吹に投下される事への不安はない。むしろ、作戦に付き合う『人間』の方が心配だった。

 

「私は航空部隊の指揮を取ります。風吹ちゃんは、基本的には舞ちゃんの指揮を聞いて」

「分かりましたっ!あれ、じゃあ、舞はどこに?」

「うん?言ってなかったの?」

 

 ポイ、とみずりはヘッドセットを風吹に一式渡す。

 恐る恐る頭に取り付け、受信機のスイッチを入れると、雑音と共に聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

『……ー……あー、…聞こ…る?風吹!』

「聞こえるっ!舞、今どこにいるの?」

 

 朝方言葉を濁しながら先に打ち合わせがあるとかで出ていった舞。

 てっきり基地で顔を会わせると思っていた風吹は、言い知れない不安を抱えながら訊いた。

 

『私は輸送船にいるよ。ここから指揮を取るね』

「輸送船ってまさか……」

 

 事前に説明された航路上にいる輸送船は、ただひとつ。

 囮用に用意されるという船に他ならなかった。

 

「なんでそんなとこにいるの、舞っ!今すぐ帰ってきて」

『これが作戦なんだよ、風吹』

 

 焦る風吹とは裏腹に、舞の声は落ち着いたものだった。

 

『大丈夫、輸送船は雷撃受けても良いように重油の代わりに水を満載してるし、脱出用のヘリとボートもある。

 そうそう、死にはしないよ』

「バカっ!そういうことじゃない……っ!」

 

 まるで自分の生死に頓着してなさそうな舞に、風吹が憤る。

 しかし、そんな風吹の心を知ってか知らずか舞は更に淡々と言った。

 

『私がここにいる必要性?それは、港にきた深海棲艦を覚えてる?奴等は私を狙ってた節があるからね。

 そうそう、同じ手は使えないから、今回で出来るだけ多くの敵潜水艦を引っ張り出す必要があったの』

「そういう……ことでもないよ……」

 

 絞り出すような風吹の声に、無線の先は暫く沈黙。

 ざらざらと言う雑音の先でどんな顔をしているのか、風吹と舞はお互いに容易に想像できていた。

 

『……ごめん、風吹』

「……」

 

 その声音だけで俯きながら謝る舞を風吹は幻視した。

 

『言ったら反対しただろうし、後戻り出来ないとこまで、言えなかった』

「ずるいよ……舞」

 

 みずりは片目を閉じながら、風吹の様子を窺う。

 今にも崩れ落ちそうな様子からは、とても幾多の深海棲艦と渡り合ってきた艦娘とは見えなかった。

 

『本当に……ごめん。もし、無事に帰ったら風吹の好きなものなんでも作ってあげる』

「……」

『朝起こすのも、もうちょっとだけ遅らせてもいい。欲しがってた服も買ってあげる。

 だから――』

 

 一拍の後、舞は言った。

 

『私を、守って』

 

 その言葉は酷く我が儘で、一方的で、辛い台詞だった。

 しかし、自分の中で闘志と呼べるものがふつふつと沸き上がる事を、風吹は抑えられなかった。

 改めて舞をずるい、と風吹は思う。

 此方が奮起するやり方を、一から十まで心得ている。

 やり方をに疑問はあるが、駆逐艦『吹雪』の司令官はやはり彼女でしか出来ないのだ。そう、感じていた。

 

「……わかった」

 

 その言葉に、震えも怯えも存在しなかった。

 ただ一重に覚悟を決めた答えには。

 

「この港の平和と、舞の笑顔は……この私が、絶対に守る。守って……見せるっ!」

 

 横目で窺うみずりは、ふと笑って目をそらした。

 余計な心配をしたようね、と舞の評価を変えながら。

 通信を終えた風吹は、気力が充実しているように見えた。

 狙ってやったのなら大したものだと思いながら、みずりは風吹の肩を叩く。

 

「じゃあ、風吹ちゃん。私は向こうの機体で指揮するわ。降下のタイミングはこっちで伝えるから、その後の事は舞ちゃんに一任で」

「了解……です。あっちの機体?」

 

 みずりがカーゴランプを降り、隣に駐機してある航空機を指す。

 そこには、C-130Rよりも一回り大型の機体があった。

 同じ四発機だが、プロペラではなくターボジェットエンジンを備えている。

 今だ二機しかいないP-3Cの後継機。

 

「そう。対潜哨戒機『P-1』よ」

 

 そう言いながら、みずりはニヤリと笑ったのだった。

 

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