365日の魔法   作:アンパン食べたい

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魔法のパン

桜が満開となった今日この頃。華やかな通りとは裏腹に俺の心は沈んでいた。

国立音ノ木坂学院。伝統あるこの高校は女子校である。しかし、近年問題となっている少子化や、最近秋葉原に設立された新しい女子校のえいきょうもあって、この音ノ木坂学院は生徒数が激減。廃校の危機に瀕している。その女子校に俺、佐々木(ささき)飛鳥(あすか)は共学化のためのテスト生として入学することになった。

「はぁ」

ため息が自然と出る。もう何回目のため息だろうか。少なくとも、家を出てから1分に1回くらいのペースでため息を吐いている。

これからの高校生活を考えると不安になる。女子に嫌われて孤立しないだろうか。せっかく東京にまで引っ越してきたのに、こんなんじゃあそこにいた時と何も変わらないじゃないか。

考えれば考えるほど、後悔の念が湧いてくる。安易に引き受けるべきじゃなかった。ああ、タイムリープしたいなぁ。

学校に行きたくない。今日は入学式、これに参加してしまえばおれは正式に女子校の生徒となってしまうわけだ。本当に行きたくない。

それでも来てしまったわけで。そびえ立つ味のある校門の奥には桜の絨毯が広がっている。校門に立てかけられた入学式と書かれた看板の前で、女子生徒とその親が行列をなしている。写真撮影か。

俺の親は何してるんだか。大切な息子の入学式だぞ?もし、母親がここにいたら……

『うちの息子、佐々木飛鳥です、佐々木飛鳥でございます!どうぞよろしくお願いいたします!」

何だその選挙活動っぽいことは。選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたからここで選挙活動するのか?俺は立候補できないけど。

結局、母親がいても余計に悪化するだけだった。うん、息子の入学式の日も休まず働く我が親はえらい。

校門の前で立ち止まっていると、俺と似たようなデザインの、新品の制服を着た女の子たちがヒソヒソ俺の方を見て何か言いながら、俺の横を通り過ぎていく。どうやら俺はもう噂の種になったようだ。全員胸元に青いリボンをつけているから、同級生だな。

「遅刻だ遅刻だ〜!」

突然後ろから聞こえた女の子の声。振り返ると口に何かパンを咥えた人が目の前に。

「うわあっ⁉︎」

「フガッ⁉︎」

俺とその子は正面衝突をした。彼女の食べていたパンが一部、俺の口の中に押し込まれてきた。餡子の味がした。美味しかった。今までに食べたどのアンパンよりも。

「痛たたたた……。はっ!ご、ごめん。大丈夫?」

倒れていた女の子が起き上がり、俺のそばまで這ってくる。リボンの色は赤。先輩のようだ。

「あ、はい。大丈夫です。そちらも大丈夫ですか?」

「私は大丈夫だよ。良かったぁ」

安心したようにその場にへたり込む先輩。今まで全力で走っていたのか、その頬は少し赤く、なんだか気恥ずかしくなった俺は視線を校舎の方にずらした。すると、時計が目に入った。あ、そういえば。

「急がなくていいんですか?」

「やばっ⁉︎」

覚醒したようにパッと飛び起きた彼女。その鞄から何かが落ちた。

「じゃあね!」

「えっ、あの、落としましたよ……」

しかし彼女は颯爽と去って行ってしまった。そんなに急いでいたのか。俺は落ちていた物を拾った。それは最近秋葉原にできた私立UTX学院のパンフレット。

「あの人、何でこんなのを持ってたんだろ……?」

他校のパンフレットを持ちながら女子校の前に立つ俺。きっと他の人たちからは変な人に見えたに違いない。

 

 

きっとあのアンパンは魔法のパンだったんだ。そして俺は魔法にかかった。1年後の俺は、そう思う。

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