365日の魔法   作:アンパン食べたい

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 翌日。昨日の出来事が恥ずかしすぎて眠れなかった俺は、今日も寝不足である。家にいても特にやることはなかったので、早めに学校に来た。

 いつもとは違う時間に登校。初めて見る顔がチラホラ。向こうもこちらのことはあまり知らないらしく、ジロジロみられる。動物園の動物の気持ちがわかった気がする。

 グラウンドではソフトボール部とかが朝練をしている。いつもはギリギリに来ているから朝練をやっている光景は初めて見たかもしれない。新鮮だ。

 教室に入る。まだ人がほとんどいない。さすがに一番乗りではなかったけど。偉いな、こんな時間に登校して勉強か。

 席に座り、スマホを取り出す。せっかくだから、スクールアイドルのサイトでも見よう。μ'sは……あった。

 どうやらランキング形式になっているっぽい。残念ながらμ'sはまだ一票も入ってない状態らしい。まあ、名前しか書いてないし、当然っちゃ当然、仕方ないか。

 ただ、俺はマネージャー(仮)、投票させてもらおう。違反じゃないよね?

 目の前に現れた投票ボタン。これを押せば、μ'sに一票入るのだ。あれ?それって俺が最初のファンってこと?やばい、プレミア感が半端ない。これはきっと友達に自慢できる。そんなに友達いないけど。連絡先も家族のしか持ってないし。

「三、二、一、ポチッとな」

『投票が完了しました』

 次の瞬間、μ'sの順位がーーーだったのが999になる。おお!すごい!こんな些細なことなのに少し感動してしまった。

「おっはようにゃ!あれ?アスにゃん、早ーい!」

 凛が登校してきた。その後ろには花陽もいる。俺はスマホをロックしてポケットにしまった。花陽はともかく、凛に見られたら面倒なことになりそうだし。

「おはよう、凛、花陽」

「おはよう」

 二人がそれぞれ俺の横と前の席に座る。すると、凛が俺に紙を渡してきた。

「はい、これ!三人で昨日考えたんだにゃ」

 鎌倉の班別活動の計画か。どれどれ……?

『小町通り→鶴岡八幡宮→小町通り→江ノ電に乗る→由比ヶ浜→海にゃ!→江ノ電に乗る→鎌倉(終わり)』

「何このプラン」

「すごいでしょー!あ、銭なんとかってとこには時間が余ったら行くことにしたから!」

「今すぐ変えよう。直ちに修正だ」

「ダメにゃ!」

 消しゴムを取り出すと凛は紙を持って離れる。おかしいだろ!俺の要望が一つも入ってない!仮にも班長なんだぞ?自腹で雑誌を買ったんだぞ?

「もう先生の許可もらっちゃったもん!」

「あの教師!何を考えてんだよ、まったく!」

「ご、ごめんね、佐々木君。私も頑張って考えたんだけど……」

 花陽が申し訳なさそうに謝る。そして上目遣い。何この可愛い生物。まるで天使じゃないか。こんな子がごめんねと言っているのに許さない男児がいるのか、いやいない。

「まあ、過ぎたことは仕方ないよね。よし、じゃあこのプランで行こう!」

「アスにゃんの態度が凛の時と全然違う!どうして凛には怒るの!」

「それは花陽が可愛いからに決まってるだろ!」

 もうこの小動物感がたまらない。守りたい、君と花陽。ただし、どっちも花陽。

「か、かかかかか⁉︎かかかか可愛い⁉︎」

「花陽?」

 急に真っ赤になり、"か"を連呼する花陽。どうしたんだ?

「熱でもあるのか?」

「どう見てもないにゃ!この鈍感!かよちんに手を出すな、ナンパ師!」

 痛っ!凛に飛び蹴りをされた。ちょうど鳩尾にクリーンヒットして、めちゃくちゃ痛い。二発目が来る前に俺は教室の外へ避難する。っていうか、ナンパ師ってなんだよ。俺はキスすらしたことないピュアボーイだぞ!

「「あっ」」

 そこで西木野さんと鉢合わせした。彼女は耳にイヤホンをつけている。何を聴いているだろうか?ピアノを弾く彼女のことだ、クラシックとかジャズとかか?

「待つにゃー!にゃ?西木野さん!おはようにゃ」

「ええ、おはよう」

「ところで何聴いてるの?」

「ちょっと⁉︎星空さん⁉︎」

 凛が西木野さんからイヤホンを片方奪い取り、自分の耳にはめる。なんか側から見ているとカップルみたいだ。憧れるよな、そういうカップル。俺もいつかは彼女と……そんな日が来るのか?不安だ。

「?知らない曲……」

 凛が知らない曲か。ということはメジャーではないんだろうな。どれくらい凛が音楽を知っているのかは知らないけど。

「あれれ?この声、もしかして」

「はい、終わり!もう返して!」

 西木野さんが凛からイヤホンを取り返す。しかし人に聞かれて困る曲なのか?あ、実はアニソン好きとか?女子高生はそういうのを隠したいものなのかもしれないな。

 せかせか教室へ入っていく西木野さん。それを追いかける凛。仲良くなったな、あいつら。これも校外学習の班が同じになったおかげか。

 パンッ!

「痛っ⁉︎」

 誰かに頭を叩かれた。振り向くと担任。その手に持っているのは数学の教科書と大量のプリント。

「ほら、ホームルーム始めるぞ。席に着け」

「叩かなくたっていいじゃないですか!」

 ハハハ、と笑う担任。いや、笑ってる場合じゃないでしょ。暴力反対!

「しかし良かったよ。お前が学校生活を楽しんでいるようで」

「え?ああ、まあ」

 楽しんでいるのか?面倒ごとに巻き込まれているだけのような気がしなくもないんだが。というより命の危険なんだ、楽しんでいる場合か。

 教室に入り、自分の席に座るとすぐに凛が話しかけてくる。

「西木野さん、自分が歌った曲をきいてたんだよ!ナルシストだにゃ〜」

「違うわよ!」

「自分が歌った曲?もしかして自分で作曲した曲ってこと⁉︎聴かせて聴かせて!」

「嫌よ!」

「かよちんも聴きたいよね?」

「え?う、うん。でもそろそろ静かにした方がいいんじゃないかな?」

「そうよ!もうホームルームでしょ!静かにしなさいよ!」

「じゃあ放課後にピアノを弾いてよ!」

「どうしてそうなるのよ」

「それいいね!凛も西木野さんの生ピアノ聴きたいにゃ」

 凛が西木野さんに抱きつく。恋人みたいだな。見てて楽しい。あれ?俺、楽しんでる?

 バンッ!

「痛っ⁉︎」

 誰かに頭を叩かれた。振り向くと担任。その手に持っているのは数学の教科書と大量のプリント。あれ、なんかデジャヴ。

「お前らいい加減にしろよ」

「なぜに俺だけ⁉︎」

 凛とか西木野さんもふざけてたよね⁉︎というより明らかに今お前らって言ったよね⁉︎どうして俺だけ叩かれたんだよ。あれか、差別か?

「ああ、そうだな差別だな。よし、ホームルームはじめっぞ。今から校外学習のしおりのプリントを配るから回してくれ」

 俺はこめかみを押さえ、目を閉じる。頭が痛い。俺はどこからつっこめばいい?……そうだな、まずは差別を認めたところからいくか。人としてどうなのだ、それは。教師って生徒の見本になるべきだろ?それが差別を行うとは。俺はそういうものは嫌いだ。差別とか、いじめとか。それを見て見ぬふりをする教師もだ。ましてや自らがそれをやるなど以ての外。

 結論。

「俺はあんたみたいな最低な人間は最も嫌いだ」

「えっ?」

 目の前には戸惑った表情をする花陽。校外学習のしおりのプリントを持って俺の方を見ている。だんだんとその目に涙が溜まっていく花陽を見ていると、自分の犯した罪の重さをひしひしと感じる。

「えっと、私が最低な人……?」

「いや!違うんだ、花陽!これは花陽に対して言ったんじゃなくて、あの担任に言ったんだよ!あの担任が人として最低だって」

「いい度胸だな、佐々木」

 背後に感じる殺気。詰みましたかね。とりあえず次に来ると思われる衝撃にそなえて歯をくいしばることにしよう。

 バァンッ!

 

 

 

「あー、頭痛いなぁ」

 放課後。西木野さんは音楽室に行ったが、今日は行く気がしない。いまだに頭が痛いのだ。最後のあの一発は本当に痛かった。俺のせいなんだけどね。

「良かったぁ、まだ教室にいたんだぁ」

「ん?花陽か」

 机でのびてた俺に話しかけてきた花陽。その手には何か紙が握られている。

「それ何?」

「これ?これはμ'sのライブのお知らせなんです!あ、えっとμ'sっていうのはうちの学校のスクールアイドルで」

「三人組のユニットだよね、知ってる」

「は、はい。それがライブをやるらしいんです!新入生歓迎会の後に!」

 それも知ってる。しかしこんなチラシを作っていたとは。……ぷ、プレッシャー。

「やっぱりオリジナル曲なのかな?でも他のアイドルのカバーっていうのも見てみたいけど……」

 ブツブツつぶやく花陽。あれ、彼女ってこんなキャラだったっけ?アイドルが好きなのは秋葉原に行った時から知ってたけどさ。というより、それを言うためにわざわざ俺を探しに?

「ああ、楽しみです!……は!すみません、話が逸れてしまいました……」

 やっぱり違うよね、うん。でも花陽が俺に話ってなんだろう?

「その、連絡先を交換しようかなって」

「えっ⁉︎……いいの⁉︎」

「うん。同じ班だし、知っておいた方がいいよね?」

「よし、じゃあ交換しよう!」

 スマホを取り出す。ついに家族以外の、しかも男子を通り越して女子の連絡先がここに追加されるのだ。感激。

「あ!かよちんこんなところにいたにゃ!探したんだよ……って何してるのかにゃ?」

「あ、凛ちゃん。凛ちゃんも佐々木君と連絡先を交換したら?」

「そうだよ、凛。お前も交換しようぜ」

「アスにゃんと?いいね!そうすればいつでもアスにゃんに頼みごとできるね!」

 ……えっ?頼み事?もしかして荷物持ちとか荷物持ちとか荷物持ちとかたまにパシリ?

「ごめん、やっぱり凛とはしたくないわ」

「えー⁉︎ひどーい!じゃあかよちん、送って!」

「わかったよ、凛ちゃん」

 おい。別に俺は酷くないだろ。というか花陽、何勝手に送ってるんだ。俺の人権はないのか?プライバシーは?

「ふっふーん!ゲットしちゃったもんねー!」

 もういいや、諦めよう。これからきっと財布がもっと軽くなっちゃうんだろうけど、仕方ない。

 ガタッ

 教室のドアの方で音がした。誰?

 凛がそちらへと駆けていき、人を連れて戻ってくる。あ、西木野さん。

「西木野さんも交換しよ?」

「わ、私は別に」

「でもほら、何かあったら不便でしょ?」

「……わかったわよ」

 花陽に説得される西木野さん。さすが花陽。その可愛さは伊達じゃないな。これからはν花陽と呼ぼうか、いややめよう。

「はい、これでいいでしょ」

 西木野さんが凛と花陽と連絡先を交換してそう言う。おい、俺は?

「いや、西木野さん。俺とは交換しないわけ?」

「別にいいでしょ。班員の誰かと連絡を取れれば」

「そうだけどさぁ」

「じゃ、私帰るから」

「凛も凛も!かよちんも帰ろ?」

「う、うん」

 三人とも、教室を出ていく。一人取り残された俺。ハブられたみたいだ。

 と、凛が戻ってきた。

「アスにゃんも帰ろ?」

「凛……」

 目頭が熱くなる。嬉しい。やっぱり友達っていいもんだな。

 凛と一緒に教室を出る、廊下の先には花陽と西木野さん。明日の校外学習、楽しくなりそうだな。

 

 

 

「これで喫茶店に行けるね!」

「おい!俺はお前らの財布か!」

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