365日の魔法   作:アンパン食べたい

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いざ鎌倉!

 土曜日。俺らは鎌倉に校外学習に来ている。我が班は現在、小町通りを散策中。少し前までは鶴岡八幡宮にいた。

 校外学習で使うから三千円くれと母親に言ったら、母親は俺に五千円もくれた。ありがたいな。おかげで元からある程度は貯金していたので、俺の財布は潤っていた。

 数分前までは。

「おいしいね、このコロッケ!」

「そうね。まあまあかしら」

「ああ、美味!花陽、白米が欲しくなってきました!」

 南先輩の名前みたいな店で買ったコロッケ。なぜか俺は全員分買わされた。もともと西木野さんだけに買ってあげるつもりだったのに、気付けば全員分買うことになっていた。しかも花陽は5つ食べたいとか言い出すし。コロッケだけで千六百円の出費。さっき鶴岡八幡宮のおみくじで大凶が出たからか?

「あ!あのクレープも美味しそうだよ!」

「ぜひ食べましょう!」

「また食べるの?」

「今度は自分で買えよ」

「当たり前にゃ」

「おい!どの口が言う!」

 クレープ屋の前で悩む凛と花陽。まあたしかにどれも美味しそうだ。そう簡単には決められないよな。これは時間がかかりそうだ。

「アス、あそこのコンビニで飲み物買ってきてくれるかしら?」

「……後で払えよ?」

「わかってる。ついでに凛と花陽にもね」

 西木野さんに頼まれて飲み物を買いに行く。今日は四月にしてはなかなかに暑い。飲み物は必須だな。それにしても凛と花陽にも、って気が利くな、西木野さんは。

 コンビニに入り、奥の方のドリンクコーナーへ。最初に目に入ったのはあのオレンジジュース。三人にはこれでいっか。美味しくはないけど、人に買ってきてもらうんだ、文句は言えまい。俺は紅茶でも飲もうかな。

 オレンジジュース三本と少し高めの紅茶を買って戻る。凛と花陽はすでにクレープを買ったようで、美味しそうに食べている。凛なんかは二つのクレープを両手に持っている。もうすぐ一つ目が食べ終わりそうだ。

「はい、飲み物」

「ありがとうございます」

「どうもにゃ」

「……」

 三人にオレンジジュースを手渡す。凛と花陽はそれを鞄にしまってクレープを食べるのを再開する。一方、西木野さんは固まってしまっている。あれ、お金は?誰も払わないの?

 まあ後で貰えばいっか。そう思って自分の紅茶を開ける。

「ねえ、アス」

「どうしたの、西木野さん?」

 飲もうとしたところで西木野さんが話しかけてきた。

「私、みかん無理なの……」

「え?」

「その、換えてくれるかしら?」

 彼女が差し出したオレンジジュース。俺は自分の飲もうとしていた紅茶を見つめる。まじか。でも、仕方ないな。

「いいよ、ほら」

「ありがと」

 俺の手元にやってきたオレンジジュース。何だよ、俺とお前は赤い糸で結ばれていたりでもするのか?

「凛ちゃん、気をつけて!クレープが人にぶつかりそうだから!」

「ありがとう、かよちん。気をつけるにゃ」

 凛がクレープを自分の体の真正面に持つ。それにしても人が多いな。やっぱり人気があるのかな。

「あ!スクールアイドルの写真が!」

 花陽がある店に走っていく。やっぱり花陽はアイドルが好きなんだな。でもわざわざ鎌倉に来てまでそんなに食いつかなくても……。

「かよちん!アイドルは秋葉原でいいでしょ!」

「でも〜」

 強引に花陽を引っ張っていく凛。花陽の暴走を止めるという点では頼りになるな。

「あれ?西木野さん、何を見ているの?」

 西木野さんはある店の前で立ち止まっていた。鎌倉彫の店のようだ。

「これ、買って帰ろうかしら?」

 彼女が見ていたのは箸。漆の光沢が綺麗だ。気になるお値段は……ええ⁉︎庶民が買える値段じゃないよね⁉︎それとも俺が貧乏すぎるだけ⁉︎

「これ買うの⁉︎」

「ええ。ダメかしら?」

「いや、でもあっちに安いのもあったよ⁉︎」

「安っぽいじゃない?それにほら、名前を刻めるみたいだし」

 たしかに。名前を刻んだり、誕生日おめでとうというメッセージを添えられたりできるらしい。プレゼント用の箸か。誰か知人が誕生日なのか?

「……まあ、もう少し考えてみるわ」

 彼女は先に進んでいった凛と花陽を追いかけていった。それにしても、躊躇うことなくこれを買おうと思うなんてやっぱり西木野さんってお金持ちのお嬢様なのか?

 俺も追いかけていくと、凛と花陽は駅前のケーキ屋のガラスに張り付いていた。

「た、食べたい……とっても美味しそうなケーキにゃ」

「じゅるる……」

 その後ろでは西木野さんもケーキ屋の中をじっと見ている。はぁ。君たちさ。

「そのお店、東京にだってあるんだから何も今食べる必要性ないじゃん」

「えー!だってこんなに美味しそうなんだよ?」

「ああ、ケーキ……」

「ほら!早く次行くぞ!」

 無理やり凛と花陽をガラスから引き離す。まったく、行儀の悪い。……あれ、西木野さん?

 気付けば西木野さんが何時の間にやらそのケーキ屋の中に入店していた。ああ、もう!西木野さんは真面目だと思ってたのに!

「西木野さん!」

「16本立てるとしたら……あそこかしら?でも、それだと……」

「西木野さん?」

 16本立てる?ロウソクの話か?へえ、西木野さんはロウソクをちゃんと全部立てる派なんだな。俺なんか大きいので十の位、小さいので一の位ってやっちゃうし。

「ってそれはどうでも良くて!」

「ゔぇえ!いきなり大声出さないでよ!」

「ほら、行くよ。置いていかれるぞ?」

 西木野さんの腕を取り、店から出る。16本、俺らと同じ学年の人。まさか……。

「西木野さんって双子だったりする?」

「はあ?何で双子限定?普通は兄弟いるとかじゃないの?まあ、一人っ子だけど」

「へえ」

 双子じゃないとすると、残る可能性は一つか?しかしもう一つくらい確かな証拠が欲しいな。

「西木野さーん!アスにゃーん!ご飯食べよー!」

「もうそんな時間か、早いな」

 時計を見てみるとまだ12時前。混む前にってことか。

「どこで食べるの?」

 西木野さんが聞くと、凛が後ろを指差す。蕎麦やうどんの店か。老舗っぽい雰囲気だな。入り口が狭くて、階段が下へと続いている。隠れた名店みたいな感じで良さげだな。

「いいね、行こうか」

「そうね。私も普段あまりそういう店には行かないけど、たまになら」

 俺らは店に向かって歩く。そして俺が一番最初に階段を下り始めーー

「いらっしゃいませー」

 他の三人は隣のファストフード店に入っていった。……あれ、そっち?

 

 

 

「もう凛お腹いっぱいにゃ……。アスにゃんポテト食べて」

 凛がポテトの山を俺のプレートにおく。だからLサイズは買うなって言ったのに。というより俺だって自分の分はもうすでに食べたのだ、そんなに食えない。それに少し調べたいこともあるし。

「西木野さん、あげるよ」

 俺はそのポテトの山を西木野さんのプレートに移す。彼女はそれほどお腹が空いていないと言って子供向けのセットを購入していた。今はその付録のおもちゃを楽しそうに弄っている。……まさか、ね。

「ありがと」

 調べ物をしているスマホから少し顔を上げ、西木野さんを盗み見る。彼女はおもちゃ片手にポテトをパクパク食べている。やっぱり腹減ってたんだな、というよりそんなに欲しかったのか、おもちゃ。意外と子どもっぽいんだな、西木野さん。案外可愛らしい一面も持っている大人な同級生である。

 数分後、みんなが食べ終わり、俺たちは店の外へ。

「お腹いっぱいで動けないにゃ〜」

「食べ過ぎなんだよ」

「このあとはどうしましょうか?」

「だいぶ予定より時間が早いわね」

「じゃあお土産を買いに行こう!」

「え⁉︎お土産を今から⁉︎荷物がかさばるだろ」

「大丈夫にゃ!凛には考えがあるんだもんねー!」

 おみやげ屋さんに駆け込む凛。動けないんじゃなかったのかよ。

「……はぁ。仕方ないな」

 遅れて俺らも店内へ。中は結構混雑していて、いくつもの声が飛び交っている。

 俺は適当に鳩サブレーを購入する。家族の分と、μ'sや生徒会の先輩など普段お世話になっていると思われる人たちの分。友達?……チョットイミガワカラナイカナ。

「もう買ったか?」

 購入後、凛たちのもとへ行くと花陽が深刻な顔をしていてガラスケースの中を見ていた。

「わらび餅、美味しそうです……ああ、でもクルミのキャラメルも捨てがたい!迷います……」

「何迷ってんのよ。両方買えばいいじゃない」

「え」

 大人な発言をする西木野さん。うん、西木野真姫お嬢様説が相当濃厚になってきた。

「でも、そんなにお金ないし……」

 誰かからの視線を感じた。振り向くと凛。あれ、なんか汗かいてきたな……。この店、暖房でもつけてるのか?

「アスにゃん!ここはかよちんのために!」

「いやいやいやいや!無理だよ!俺に払えと⁉︎」

「そ、そうだよ凛ちゃん!佐々木君に悪いよ」

「アス、男ならそれくらい出しなさいよね」

「はあ⁉︎」

 西木野さんがとんでもないことを言う。ついに西木野さんもダークサイドに堕ちてしまったわけか。というより、西木野さんが払えばいいじゃん。大人買い提案したの西木野さんだし、どうせポケットから札束取り出したりするんだろ。……冗談です、冗談ですからそんな怖い目で見ないで!

「……はぁ。花陽、俺が半分出すよ」

「え⁉︎でも……」

「ほら、かよちん!アスにゃんが出すって言ってるんだから遠慮しないの!」

「お前はもう少し遠慮しろよ」

 ガラスケースの上に鳩サブレー入りの紙袋を置き、俺は財布からお金を取り出しながら軽く凛の頭を叩く。

「痛い⁉︎ひっどーい!女の子叩いたー!」

「あ、女の子だったんだ。全然気付かなかったわ」

 バシッ!

 顔に衝撃が走った。凛が、俺の紙袋で俺を殴ったのだ。殴り終えた彼女は紙袋を床に叩きつける。

「どうせ凛は女の子っぽくないよ!」

 そのまま凛は店の外へ。どうやら俺は彼女の気に障ることをしてしまったようだ。悪いことをしてしまったかもしれない。謝った方がいいだろう。

 突然、西木野さんがかがむと紙袋を拾って中身を取り出し、振った。バラバラという音が良く聞こえた。

「……買い直したら?」

 ……やっぱり謝らなくていっか。

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