365日の魔法 作:アンパン食べたい
入学式が終わり、俺たち1年生(ただし1クラスしかない)は今、教室にてホームルームを行っている。
その途中、教壇に立つ担任の先生がとんでもないことを言い出した。
「そうだな、時間がないから自己紹介はテスト生の佐々木だけやってくれ。じゃあ、佐々木、前に」
げ、どうしよう⁉︎何も考えてなかった。俺がなかなか前に出ていかないからか、女子生徒たちがざわつき始める。ああ、もう。出ればいいんだろ、出れば。渚悠人、君は男だ!男ならその意地を見せてみろ!
前に立つと、クラス中が見渡せた。それにしても髪の色がみんなカラフルだな。赤なんてのもいるし。地毛なのか?そうじゃないならとんだ不良だな。
「よし、佐々木。はじめていいぞ」
先生の言葉に女子たちが静まり返る。き、緊張する。女子たちの好奇心に満ち溢れた視線が俺をブスブス突き刺していく。なぜかこの学校の女の子はみんなレベルが高いのに。
とりあえず、噛むな。噛んでしまったら笑い種だ。それ以外はまあ、何とかなるだろう。
「えっと、しゃしゃ木飛鳥です」
はい、噛んだー。もう詰んだー。空回りというやつですね。これで俺の高校生活お先真っ暗だ。
女子たちはクスクスと笑っている。先生もニヤニヤしている。おい、担任!何かフォローを入れろよ!
「じゃあ、しゃしゃ木君は席に戻って」
さらに笑い声が大きくなる。おかげで俺の顔は今茹でタコみたいに真っ赤だろう。ああ、時をかけてやり直したい。
「えっと、女子のみんなもしゃしゃ木には仲良くしてやってくれ。この学校に男子生徒は彼しかいないからな」
いつまでそれでからかうつもりなんだよ、担任。自席に座った俺を女子たちが見る。その視線は好奇の目ではなく、面白い物を発見した子どものようだ。あれ、同じ?
その後、先生がいろいろと話していたがまったく耳に入ってこなかった。さっきまではお先真っ暗だと思ってたんだけど、頭の中は真っ白だったんだ。驚いちゃったよ。
やがて、先生の話が終わったらしく、先生に頼まれたのか教室の一番右端に座る生徒が号令をかける。
「きりーつ!」
ガタガタと周りのみんなが立ち上がる。俺も目の前の茶髪のショートボブ?の女の子に一歩遅れて立ち上がる。
「きをつけー!れー!」
頭を下げたが、若干投げやりにやったせいで思いっきり額を机にぶつけた。左隣の女子が吹き出した。わ、わざとだよ!ウケを取るためにわざとやったんだからね!勘違いしないでよね!
ホームルームが終わったことで、それまで大人しく先生の話を聞いていた女子たちが皆、それぞれに会話を始める。あっという間に騒がしくなった教室。女三人寄れば姦しいとは的を得ているな。今はクラスにその10倍の女がいるからきっと姦しさも10倍だろう。
というより、仲良くしてやってくれと先生が言っていたのに、誰一人として俺に話しかけてこない。ああ、嫌われちゃったのか。仕方ない、帰ろう。
たぶん俺が一番乗りで教室を出ることになるな。そう思っていたが、そうでもなかった。一人、教室を出て左側に曲がっていった。昇降口は右側のはず。どこに行くんだろうか?
というより、彼女一人だったよな?もしかしてぼっち?もしかして人と話すのが苦手なタイプ?これはまさかの友達を作るチャンスなのでは?よし、善は急げというし早めに追いかけよう!
急いで教室を出て左へ。その先にあった階段の上へと消える一足のシューズ。あれだ。2年生や3年生はまだ授業中っぽいからあの子以外にない。
階段を上り、追いかける。たどり着いたのは音楽室。中では赤い髪の女の子がピアノの前に座っていた。弾くのか?
しかし、彼女は弾かなかった。俺と目が合ったのだ。珍しい赤い髪に整った顔立ち。つり上がった目の奥にある紫の瞳がばっちり俺を睨みつける。
「何?」
「いや、別に何も」
「そう」
椅子から立ち上がると彼女はこっちへと歩いてきた。背が高いな。俺と同じくらいじゃないか。あ、俺が低いだけでした。男子高校1年生の平均より10センチも低いんだもんな。
それにしても、さっきから俺の前に立った彼女がじっと俺を見ている。もしかして俺に一目惚れしちゃったとか?……あり得ないですね、はいすみません調子に乗りました。だからねえ、君。そんなに冷たい目で睨みつけないで!
「な、何かな?」
「邪魔」
「あ、すみません」
俺が退いた後、彼女はこちらに何も言わずに去っていった。
結局、友達はできなかった。そう上手くはいかないみたいだな。当たり前か。というより、だから今ここにいるのに。
ついたままだった音楽室の電気を消して、俺はその場をあとにした。
翌日の放課後。学習する能力を持っている俺は、昨日あの髪の赤い子(名簿で調べてみたところ、西木野真姫というらしい。俺の左斜め前の席だった)がピアノを弾かなかったのは俺がいたからだと判断。そこ、誰でもできる判断だとか言うな。
何となく彼女のピアノを聴いてみたいと思った俺は、彼女が弾き始めた頃合いを見計らって音楽室に行くことにした。現在教室で待機中。
「佐々木君」
それにしても今朝は驚いた。廊下に廃校とデカデカと書かれた張り紙が貼ってあったのだ。いや、廃校になりそうなのは知ってたよ?けどまさか来年からもう新しい生徒を取らないなんて。早急な気がする。
「ねえ、佐々木君」
待てよ、それだと俺には後輩ができないということだよな?それはつまり、この学校で一緒に生活する人はもう今この学校にいる人だけと限られたわけだ。やばい、友達作りを急がなければ。
「佐々木君ってば!」
突然、誰かに頭を机に押し付けられた。おかげで額を机にぶつけた。二日連続、記録更新だ。
「誰?」
顔をあげたらオレンジ色の髪をショートカットにした女子生徒。ああ、知ってる。たしか左隣の席の人。昨日俺が額を机にぶつけた時に吹き出した失礼な奴だ。
「ねえ、佐々木君って友達いないの?」
「ぶっ⁉︎どストレートだな、おい!」
今度は俺が吹き出す番でした。いきなり人に力を行使して話しかけてきておいて何事かと思えば友達いないの、だって?人を馬鹿にして!
「友達くらい、いないとも限らないだろ!勝手に決めつけるな!」
少し声を大きくして言うと彼女はポカンとした表情を浮かべ、その後に俺の前の席に座っている女子生徒に声をかけた。
「どういう意味なの、かよちん?」
「ふええ⁉︎え、えっとぉ……」
かよちんと呼ばれた、眼鏡をかけた大人しそうなその子は突然話を振られて大変困ったような顔をする。そして、何度か俺の顔を見た後に、何か意を決したかのように拳を握り締めると、オレンジ色の子の耳元に顔を近づけた。
「り、凛ちゃん。それはたぶん友達がいないって意味だよ」
聞こえてるぞ!俺への配慮として小声で言おうとしたんだろうが、ばっちり聞こえてるぞ!そしてそれを否定できない俺って悲しい。
「ふーん、そうなの。じゃあ凛が最初の友達になってあげる!」
「えっ?いいの?」
「うん!かよちんもいいよね?」
「花陽?う、うん。凛ちゃんが友達になるなら私もなろうかな」
いつのまにか友達が二人もできてしまった。全ては目の前のえっと……
「名前なんだっけ?」
「凛は星空凛。でこっちが」
「小泉花陽です」
「ありがとう、星空さんに小泉さん。俺はまあ知ってると思うけどもう一回言うよ」
「ううん、いいの。それよりせっかく友達になったんだから……」
何だろう。まさか一緒に帰ろうとか?いや、さすがにそれはないか。それにしても友達か。懐かしい響きだ。これできっと俺の高校生活は変わるんだ。これからが楽しみだなぁ。
満面の笑みを浮かべた星空さんは教室の外を指差した。
「ジュース買ってきて?ついでにかよちんの分も」
……あれ?俺たちって友達になったんだよね?