365日の魔法   作:アンパン食べたい

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一人でいる人に声をかけてみる

 翌日の昼休み。俺は凜と花陽の一緒に弁当を食べようというお誘いを断り、職員室に来ていた。

「おう、佐々木。俺に用があるんだって?」

「はい」

 コンビニのおにぎりを食べながら俺のもとまで来た先生。今日は少し聞きたいことがあるのだ。それは昨日のことに関する。

「バイトってやってもいいんですよね?」

 生徒手帳には特にそのことに関して記載されていなかったので先生に聞くことにしたのだ。特に書かれていないということは、特に問題ないということだとは思うのだが。まあ、一応確認を取っておいた方がいいだろうし。

「ああ、そうだな。学業に支障が出なければ基本的にはいいな。ただ、危ないバイトはするなよ?」

「わかってますよ」

 先生にお礼を言い、職員室を後にする。よかった、これでお小遣いを稼げる。昨日、お金もないのにメイドカフェに入ってしまった俺は、あのオレンジジュースの代金を南先輩に借りている。早急に返さないと、あの先輩は何を企むかわからないからな。

「おーい、ちょっと待て!」

 と、後ろから先生が走ってきた。その手に何枚かの紙を持っている。

「どうかしました?」

「佐々木、お前部活はやらないのか?」

「部活ですか?やるつもりはないです。仮に部活に入っても大会とかは俺は参加できるのが限られてきますしね。それに女子だけの集団に男一人で入るのはちょっと……」

 まあ、メイドたちの間で働くことになった奴が何言ってんだって話だけど。

「まあたしかにどこの部活に入ってもお前は男一人だな。じゃあ誰か仲の良い女子と同じ部活ってのはどうだ?星空とか小泉と仲良いだろ、お前。あとは西木野とか?」

 なぜ俺がその辺と仲が良いと知ってるんだ⁉︎……って、普通にわかるか。だって校外学習では一緒の班だったしな。しかも、余ったから入れてもらったというわけではなく。むしろ真姫が余ってたもんな。ふっ、ぼっち(笑)。……人のこと言えるほど友達いないけど。

「星空は陸上部に入りたいらしいな。お前もどうだ、陸上部」

「体育でやった感じだと向いてはいなさそうですね」

 体育では俺は一人でできる種目しかやれない。だって女子と一緒にやるわけにはいかないもんな。というわけで陸上とかが基本になってくるのだが、あまり成績は良くはなかった。最近ではもう怪我人担当だし。これもこれで大変だ。だってなぜか怪我してないのに女子がやってくるんだもん。みんなそんなに体育をサボりたいのか?

「じゃあ、西木野と一緒に音楽関係の部活にでも入ったらどうだ?」

「楽譜読めないんですよね〜」

 困ったことに、小中と音楽の授業を真面目に受けてなかった俺は楽譜が読めない。そんなんで吹奏楽部とか、合唱部に入る勇気は俺にはない。

「そうか。まあ、とにかくだ。部活には入っておいた方がいい。せっかくの人生一度の高校生活だ、思いっきり楽しめよ」

 そう言うと先生は俺に持っていた紙を渡す。部活の一覧表と入部届。

「そんなこと言われてもなぁ」

 やっぱり女子が複数いる集団に一人で入るのには抵抗があるわけで。じゃあ何でμ'sのマネージャーやってんだ、と言われればそれまでだけど。

「あ、これ……」

 一覧の中に見つけた一つの部活。これなら、俺でも入れるかもしれない。知り合いしかいないし。あれ、あの人ライブに来てた?来るって言ってなかったっけ?見かけなかったんだけど?

 キーンコーン

 チャイムが鳴る。もう昼休みは終わりか。次の授業はえっと体育だっけ。

「は⁉︎体育⁉︎」

 

 

 

「ゼェ、ゼェ、間に合った……」

 全力で教室まで戻り、ジャージに着替えてグラウンドへ。チャイムが鳴ると同時になんとかギリギリたどり着く。

「まったく、何してたのよ?」

 準備体操を終えた後、サッカーボールを持った真姫が近づいてきた。女子は今日からサッカーをやるらしい。俺?いつも通り怪我人担当じゃない?

「何って言われてもな。先生と会話してただけだけど」

「そう」

 自分から聞いてきたわりには素っ気ない返答だな。

 クラスの人たちを見ると、皆二人組を組んでパスの練習をしている。真姫はやらないのか?

「真姫はいつまでここにいるの?」

「はあ?何言ってるのよ、アスとやるんじゃない」

「え?俺と?」

「このクラスの人数、30人でしょ?必然的にアスがやらないと1人余るのよ」

 ああ、なるほど。つまり真姫は余っちゃったわけだ。なら仕方ない、俺が相手してやるか。ふっ、ぼっち(笑)。……人の(ry

「あれ、でもそれって先生と組めばよくない?」

「べ、別にそんなの私の勝手でしょっ!」

 まあ、そうだけど。あれか、先生が苦手なのか?わかる、わかるよその気持ち。俺も中学生の頃は苦手だったもん、体育の先生。いかにも体罰やりますって感じの強面の先生だった。いや、体罰はしてないけどね?でも、音ノ木坂の体育の先生って女性だし、そんなに怖くはなさそうだけどな。

「行くわよ!」

 ボールを地面においた真姫が足を大きく振りかぶり、そのボールを蹴る。大きいムーブだが、その足はボールを掠めただけで、ボールもコロコロ転がるだけ。時間をかけて俺の元へ。

「もしかして真姫って運動オンチ?」

「なっ⁉︎たまたまよ、たまたま!」

 どうだろうか。試しに少し強めにボールを蹴り返す。

「ちょっと⁉︎急に蹴らないで⁉︎きゃあっ⁉︎」

 ボールを止めようとした真姫は慌てふためき、ボールの上に玉乗り状態になった、かと思えばすぐにすっ転んだ。やっぱり運動オンチなんだな。

「もう!」

 起き上がるとすぐに真姫はボールを蹴ろうとして、空振る。再びすっ転んだ真姫。微笑ましい光景だな。

「笑わないでよ!あ、後ろ」

 顔を真っ赤にして怒りながら起き上がった真姫は俺の後ろを指差す。後ろ?

「危ないっ!」

 ドンッ!

「ッ⁉︎」

 振り向くと顔面をボールが強打。痛い。本当にこれを女子が蹴ったのかよ?

「もー!かよちん、しっかりしてー!」

「ご、ごめんね、佐々木君。私がボーッとしてたせいで……」

 小走りにこちらへ駆けてくる花陽。どうやら、凛が蹴ったボールを花陽が止められなかったらしい。

「いや、大丈夫。それより花陽は大丈夫?」

 ボーッとしていたということは、何か考え事でもしていたのだろう。悩みだろうか?

「わ、私は大丈夫、だと思う……」

 ……本当に大丈夫なのか?そんな落ち込んだように言われると心配なんだが。

「まあ、悩みがあったら何でも言ってよ。友達なんだしさ」

 ボールを拾って花陽に渡し、手をポンと軽く花陽の頭にのせる。

「ひゃあっ⁉︎」

「あ、ごめん!」

 想像以上に花陽が驚き、慌てて手を引く。そういえば、最近はこの程度でもセクハラで訴えられたりするんだっけ?気をつけないとな。

「し、失礼します」

 同級生に向かって丁寧にお辞儀をしてから花陽は凛の方へと戻っていった。さて、俺も真姫との練習を再開しますか。

 振り返ると不機嫌そうな顔をした真姫。そんなに運動オンチだと言われたのが嫌だったのか?

 真姫は手に持っていたボールを地面に叩きつけると、そのボールを思いっきり蹴飛ばす。ボールはあらぬ方向へと飛んでいく。

「早く取ってきなさいよ、バカ!」

「ひどくない⁉︎」

 何で真姫はそこまで怒ってるんだろう。運動オンチって言われたくらいでそこまでは普通怒らないよな?怒るのか?

 

 

 

 ホームルームが終わり、放課後。俺は荷物をまとめると教室の外へと向かう。

「佐々木君」

「花陽?」

 廊下に出ようとしたところで、自席に座っていた花陽が声をかけてきた。花陽の席は廊下側なのだ。

「その、佐々木君ってμ'sのマネージャーをやってるんだよね?」

「そうだけど?」

 ただ、最近はあまり協力していない。GW中はほぼバイト探しに時間を使っちゃったからな。

「良かったあ。佐々木君、マネージャー(仮)みたいなこと言ってたから、違うのかなって思っちゃったよ」

「花陽。忘れるんだ。そのことは忘れるんだ」

「う、うん」

 思わぬところで黒歴史を発掘してしまった。早めに消しておかなければ。こんな負の遺産は残しちゃいけない。月光蝶で全てを分解されるわけにはいかないのだ。何言ってるんだろう、俺は。

「えっと、新しいメンバーを募集してるんだよね?」

「え、そうなの?」

 初耳である。昨日南先輩に会った時には特に何も言われなかった。

「これ」

 花陽が見せてくれたのは一枚の紙。なるほど、たしかに新メンバー募集と書いてある。

「もしかして花陽はやりたいの?」

「いや、えっと、私の友達がやりたいらしくて……」

 俯き、指を合わせながら言う花陽。なるほど、友達か。あまり詳しくは言えないよな、プライバシーに関わるし。

「その、新メンバー募集についてもう少し詳しく知りたいな、じゃなくて!知りたいらしいんだ」

「了解。じゃあ今日先輩たちに聞いてみるね」

「ありがとう、佐々木君」

 相変わらず、クラスメイトの俺に対して深すぎるほど頭を下げる花陽。うーん、もう少しくだけてほしいんだけどなぁ。あ、俺が彼女に抱きついたり頭触ったりしてるせいか。うん、そうに違いない。これからはそういうことがないように気をつけよう。

 教室から出て、左へ。目指すは音楽室の一つ下の階のあの部屋。

 たどり着いた部屋の前で鞄から入部届を取り出す。あの先輩は、受け入れてくれるだろうか?……無理そうな気がするけど、まあやってみないとわからないだろ。

「頼もう!」

 俺はドアを開けて中に入る。

「誰よ……またあんた?」

 アイドルグッズに囲まれた部屋の中、一人椅子に座りティーカップを持つ三年生、アイドル研究部部長の先輩がそこにいた。

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