365日の魔法   作:アンパン食べたい

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ストーカーをしようとする男(スカウトマン)


*今回のサブタイトルは前書きにあります

 翌日。μ'sの神田明神での朝練を終えてクタクタになって登校した俺が廊下で会ったのは花陽。掲示板を見つめている。

「おはよう、花陽」

「あ、おはよう」

 それにしても花陽は一緒にいて癒される。目立つのが苦手で、普段は周囲に怯えているかのような姿が、小動物っぽくて守りたくなってくる。関係ないけど、眼鏡も似合ってる。そんな花陽に癒されて、俺は朝練で海未から受けた地獄のような特訓(なぜか今日はいつもの2倍くらい厳しかった)で生じた体の疲れがもう抜けた。さすが、花陽。

「何見てるの?」

「あ、えっと……」

 壁をチラッと見た花陽にならい、俺も見る。ふぅん、μ'sの新メンバー募集のポスターか。あ。

「佐々木君、それで聞いてくれたかな?」

「あ、ああ。うん」

 やばい。完全に失念していた。そういえば昨日、花陽に新メンバー募集に関して詳しく教えて欲しいと頼まれていたな。すっかり忘れていたよ。ただ、そう答えるわけにはいかないよな?

「えっとね、誰でもOKみたいだよ」

「本当に⁉︎よ、良かったぁ」

 胸をなでおろす花陽。もし歌とかダンスのテストがあったりしたら、花陽は悲しむだろうか?花陽を悲しませるとか、なんて重罪だ。万死に値する。いや、でもたしか友達がやりたいって言ってたんだっけ?だったらいいか、間違ってても。いや、良くないけど。

「ありがとね、佐々木君!」

 笑顔でお礼を言う花陽。ああ、癒されるなぁ。しかしものすごい罪悪感が俺を襲う。うん、ちゃんと後で先輩に確認をしておこう。

 でも、花陽の友達って誰なんだろう。はっきり言ってしまえば、花陽が凛以外の人と楽しく会話しているところを見たことがない。もしかして凛がアイドルを?

「か〜よちん!おはようにゃ」

 噂をすれば何とやら。さっそく凛の登場である。

「おはよう、凛ちゃん」

「おはよう、凛」

「あ、アスにゃん。おはよう」

 せっかくだし、アイドルをやりたいのか聞いてみるか。

「なあ、凛。凛ってスクールアイドルをやりたい?」

「「えっ⁉︎」」

 凛と花陽が驚く。あれ、もしかして凛はアイドルをやりたかったわけではなかったのだろうか?というより、花陽も驚くなんて。やっぱり凛じゃなかったのか?でもそうすると誰なんだろ。

「り、凛ちゃん。これはスカウトだよ!凛ちゃんがスカウトされてるんだよ、μ'sに!」

「す、スカウト?でも、凛はほら、女の子っぽくないし、髪も短いし!ただアスにゃんがからかってるだけだよ」

「いや、からかってなんかないよ。凛は可愛いと思うよ、うん。それに運動得意でしょ?きっとうまくダンスを踊れると思うんだ」

「そうだよ、凛ちゃん!せっかくチャンスがあるのに、もったいないよ?」

 花陽が凛に詰め寄る。でも、心なしか彼女の表情には翳りが見えた。先ほどまでの笑顔はそこにはないように見える。凛があまりにも渋るから怒ってるのか?いや、そんなわけないか。じゃあなぜ?

「で、でも!ほら、かよちんは知ってるでしょ?あのね、アスにゃん。凛は昔小学校にスカート履いてったら、男子に似合ってないって笑われたんだ。ね?凛は女の子っぽくない、証明終わりにゃ〜」

 そういうものか?ほら、愛情の裏返しってよく言うし、もしかしたら本当は似合ってたのかもしれない。

「かよちんは?かよちんがいいよ!かよちん可愛いし、昔からアイドルになりたいって!ね、かよちん」

「え、そうなの?」

 花陽ってアイドルになりたかったのか。ただ好きなんじゃなくて、自分でもやりたいのか。まあ、そりゃそうだよな。普通憧れるものに自分もなりたいと思うはず。例えば、俺が小さい頃仮面ライダーになりたいと思っていたのと同じ。……同じだよね?

「じゃあ、花陽もどう?」

「わ、私は……」

 俯いて手をいじり始める花陽。もう、二人して決断力がないなぁ。よし、少し背中を押してやるか。

「大丈夫だって。二人とも可愛いし、アイドルに向いていると思うよ」

「か、可愛い⁉︎う、うにゃー!アスにゃんしつこい!しつこい男は嫌われちゃえばいいにゃ!」

「あ、凛!」

 あっという間に廊下の先へと走って行ってしまった凛。それだけ運動できるんだから、アイドルだってできると思うんだけどなぁ。

「仕方ないか。無理強いするのもあれだしな。あ、そういえば花陽はどうするんだ?……あれ?花陽?」

 気づけばそこには俺以外誰もいなかった。どこ行っちゃったんだろ、花陽。

「って、もうこんな時間か。そろそろホームルーム始まるな」

 遅れたらまた頭を叩かれかねない。なんだよ、あの暴力教師。今度やったら教育委員会に訴えてやろうか。

 とか何とか言いつつ、結局訴えない俺って天使の素質あり?もしかして南先輩や花陽みたいになれる……わけないですね、すみません調子に乗りました。

 

 

 

「起立!気をつけ!礼!」

 今日の日直は挨拶の間隔が短いな、とか思いながら頭を下げる。今日も授業が終わった。レポートは既に授業中に内職をして完成させている。あんまり遅くなると園田先輩に怒られるから、早めに話を済ませないとな。

 荷物を整理して教室を出る。それにしても喉が渇いたな、自動販売機でいつものオレンジジュースを買ってくか。

 硬貨を投入すると、チャリンと音を立てる。チャリン。凛。そういえば今日はずっと凛に避けられていた気がする。目が合うと逸らされたし。嫌われちゃったかな、俺。凛はこの学校で最初に出来た友達なだけに少し、いやだいぶショック。

 オレンジジュースを飲みながら、廊下を歩く。いつものように美味しくないジュース。本当、どうして俺はこんなものにハマってしまったんだろう。これが惚れた弱みというやつか、違うな。

「あれ?花陽?」

 廊下の先には掲示板を見つめている、いや、正確には掲示板の前で手に持つ何かを見つめている花陽がいた。あれ、この光景って最近見た気がする。

「あ、佐々木君。これって西木野さんのだよね?」

 花陽が渡してきたのは生徒手帳。中を開くと真姫の顔写真。うん、真姫のだ。真姫のじゃなかったらストーカーということになる。ストーカーって誰だよ。真姫の行動をいちいち注視してさらに真姫のメアドまで盗み見て御本人にストーカーって言われた奴のことか?あ、俺か。

「あれ?でも何で花陽が持ってるの?」

「えっと、ここに落ちてたんだ」

 花陽が自分の立っている場所を指差す。そこは廊下。そこは掲示板の前。そこはμ'sの新メンバー募集のポスターの目の前。

「もしかしたら、西木野さんも興味があるんじゃないかな、アイドルに」

「真姫が?」

 そういえば、先週新メンバーを募集しないかどうか聞いてきたな。ほう、口では興味ないとか言っておきながら実はやりたいと。このツンデレ娘。

「しょうがないなぁ。よし、花陽。一緒に今から真姫の家に行こう」

「ええっ⁉︎今から⁉︎二人で⁉︎」

「おう」

 生徒会長に聞きたいことがあったはずだって?そんなの今じゃなくていいだろ。それよりも、真姫の背中を押しに行こう。どうせやりたいけど自分からは言い出せないんだろう。だったら、俺が押してやる。作曲の時はうまくいかなかったけど、今度こそは。え?レポート?何のことですかね?

「よっしゃあ!全力でダッシュだ!」

「佐々木君⁉︎テンションが変だよ⁉︎」

 生徒手帳に住所が書いてあるので、迷うことはないだろう。俺は花陽の手を掴むと全力で走り出す。ふっふっふっ。日頃の園田先輩式鍛錬の成果を見せてやろう!……といってもサボり気味だけど。

「だ、誰か助けてーーー!」

「花陽⁉︎俺が不審者みたいになるからやめて⁉︎」

 ただでさえ真姫にはストーカーと言われたんだ、これ以上俺を不審者にしないでくれ!

 

 

 

 走ること数分。俺らは目的地にたどり着いた。着いたんだが。

「お、大きいな……」

「す、すごいです……」

 初めて来た真姫の家。それは豪邸だった。園田先輩の和風の建物とはまた違った、洋風の一軒家。存在感を放つその建物に、庶民の俺と花陽は圧倒される。これで西木野真姫お嬢様説は完全に事実と化したな。

「とりあえず、チャイムを鳴らすか?」

「う、うん」

 リンゴーン

 花陽の了解を得てインターホンを押す。俺の住んでる安っぽいマンションの軽い音ではなく、重みのある音が響く。チャイム一つでこんなに違うなんてな。

『どなたでしょう?』

 出たのは知らない人の声。真姫の母親だろうか?

「あ、えっと、西木野真姫さんのクラスメイトの佐々木飛鳥です」

「お、同じく小泉です」

『ちょっと待っててくれるかしら?』

 しばらくして、玄関から女性が出てきた。赤髪につり目、なるほど。娘さんにそっくりだ。いや、真姫がこの女性にそっくりなのか?

「どうも、真姫の母親です」

「佐々木です」

「は、初めまして、小泉です」

「さ、上がって?」

「「おじゃまします」」

 家の中に上がらせてもらう。案内されたのはリビング。そこには高級そうなソファやテーブルをはじめとし、高そうな家具がたくさんある。やばい、迂闊に動けないよ、これ。もし壊して弁償とかになっちゃったらいくらかかるんだろ。たぶん一生西木野家にご奉仕しないといけないんじゃないか?あ、でもそれって将来安泰ってことだよな?それはそれでいいかも。

「真姫は今病院の方に顔を出してるから、もう少し待っててくれるかしら?」

「病院?」

 誰か親戚が入院でもしてるのか?いや、だったら真姫のお母様も一緒に行くか。えっ、何でお母様と呼んでるのかって?だって雰囲気がそんな感じなんだもん。こう、様をつけたほうがよさそうな。貴婦人みたいな?

「うちは病院を経営してるのよ。西木野総合病院っていう病院なんだけど、知らないかしら?」

「すみません、引っ越してきたばかりで。花陽は?」

「たまにお世話になってます」

 へえ〜、真姫は家が病院を経営してるのか。納得。あれ、ということは将来は真姫が継ぐのか?でもそのためにはよっぽど勉強しないとダメだよな?あ、そういうことか。彼女のやらないといけないことって。

「それにしても安心したわ。真姫ったら、高校に入ってから一回も友達を家に連れてきたことがなかったものだから。よかったわ、あなたたちのような友達がいて」

 そうだったのか。でも、心配しなくてもよさそうだが。俺なんて中学生の頃から友達を家に呼んでないし。友達いなかったし。

「ただいまー。誰か来てるの?」

 どうやら真姫が帰ってきたようだ。リビングのドアの影からひょっこり見知った顔が顔を出す。

「こんにちは、西木野さん」

「おじゃましてます」

「……はぁ」

 ため息を吐く真姫。迷惑だったかな?いや、愛情の裏返しだ、うん、きっとそうだ。違ったら涙が出ちゃう。だって……勝手に家を割り出したりする俺ってストーカーになっちゃうのかな?

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