365日の魔法 作:アンパン食べたい
ーガラガラッ
勢いよく扉を開けた。しかし、その部屋には誰もいない。
「はぁ、はぁ。やっぱり間に合わなかったか」
新しくできた友達の星空さんにパシリ、じゃなくてお使いを頼まれた俺は廊下の自販機でペットボトル入りのオレンジジュースを二本買って星空さんと小泉さんに持っていった後(小泉さんは申し訳ないですと言って受け取らなかった。なんていい子なんだろう)、急いで音楽室に向かった。しかし案の定、その部屋には既に誰もいなかった。もう西木野さんは帰宅したみたいだ。
小泉さんが受け取らなかったオレンジジュースを飲む。あまり美味しくないな、これ。でも喉が渇いていたので一気に飲み干す。空になったペットボトルのキャップを閉めると、俺は音楽室の中を隅から隅まで見て回る。気分はさながら名探偵。
「ふむ、椅子が出しっ放し。これは西木野さんがここに座っていたということか。おや、ピアノの蓋が開けっぱなしだぞ?やはり弾いたのだな?」
よし、わかったことを整理しよう。そうすれば何か新事実が発覚するかもしれない。
「結論、西木野さんはやりっぱなしが多い」
どうでもいいことしかわからなかった。俺は探偵には向いてないかもしれない。結構好きなんだけどな、シャーロック・ホームズ。
「帰るか」
また明日も来よう。そうしよう。……あれ?でも彼女は今日ピアノを弾いたんだよね?だったら明日くる保証はないのでは?もしかしてもう聴けない?なんてこった、結構期待してたのに。
「あれだな、本人に直接頼めばいいんだ、うん。何で今までそうしなかったんだろ」
同じクラスだし、いつでも話せるじゃん。そうだ、いっそのこと星空さんと小泉さんも誘ってみるか。あ、でも星空さんはアウトドア派っぽかったから聴かないかな?
「あー、なかなか上手くできないなぁ」
音楽室を出て階段のところまで行くと、上の方から声がしてきた。もしかしてこの学校って屋上に行けるのか?それなら是非とも行ってみたいな。俺の中学校は屋上立ち入り禁止だったし。
俺は階段を上って屋上を目指す。一番上まで上りきると、ドアが半開きになっていた。そこから屋上を覗き込む。
そこにいたのは女子生徒。ダンスの練習をしている。彼女が動くたびに、サイドに結んだポニーテールが揺れる。あれ、どこかで見たような気がする。……あ、昨日ぶつかった先輩か。
転んでは起き上がりを繰り返す彼女。お世辞にも上手いとは言えないけど、そのひたすら努力をする姿には惹きつけられる何かがあった。全力で取り組むその姿に、しばらく俺は見惚れていた。
やがて、こちらに気付いた先輩が手を振って、手招きする。俺は屋上に出た。
「昨日の!」
「どうも。昨日はぶつかってしまいすみませんでした」
「そうそう!それで穂乃果は朝食のパンを食べれなくて昨日の授業中に腹が減りすぎて寝ちゃったんだから!」
もう!と頬を膨らませる先輩。少し可愛かったので思わず目を逸らす。グラウンドが見えた。陸上のトラックがある。この学校広いな。というか、腹って減りすぎたら眠たくなるもんなの?俺はあまり授業中に眠くなったことがないからわからないや。まあ、とりあえず謝っておこう。
俺が謝ろうとすると、
「謝る必要はありませんよ。穂乃果はいつだって授業中は寝ていますから。そうですよね、穂乃果?」
凛とした声。振り返ると落ち着いた雰囲気の先輩がいた。深い蒼の長髪が風に靡き、それを手で抑えるその人の仕草が様になっている。何より美人だし。
「もう、海未ちゃん!いつもじゃないよ!だいたい1日に1時間くらいは起きてるもん!」
そんなに寝てるんだ……。さすがに俺の中学校でもそんなに寝てる人はいなかった。
「穂乃果ちゃん、先生にいつも怒られてるもんね」
と、海未というらしい先輩の影から誰かが出てきた。髪色はグレーっぽいけど、目を引くのはその前髪。何だろう、トサカ?くせ毛なのかな?
「でもでも!君が穂乃果のアンパンを食べたのは事実だもん!アンパンを買ってもらわないと気が済まないよ!」
それはそうですね、はい。俺は彼女のアンパンを食べてしまった。やっぱり代金くらい払うべきだよな。
「わかりました。今度俺がアンパンを奢ります。それでいいですよね、えっと……」
「高坂穂乃果だよ!それでこっちが園田海未ちゃんで、その隣が南ことりちゃん!三人とも2年生なんだ」
えっと、園田先輩と南先輩か。南?どっかで聞いたような……?
「あなたはテスト生の人ですよね?たしか……」
「佐々木飛鳥です」
軽くお辞儀をする。
「よし、じゃあ君のことは今日からアスちゃんって呼ぶね!」
えっ?アスちゃん?なんか女の子っぽいニックネームで少し嫌なんですが。しかし相手は先輩なので嫌だとは言いにくい。
「それより穂乃果、早く練習を開始しましょう。私たちには時間があまりないんですから」
「あー、そうだったね〜」
練習?さっきのダンスのことだろうか?
「あのね、私たちは昨日からスクールアイドルを始めたんだよ」
疑問に思っていると南先輩が説明してくれた。スクールアイドルか。それなら俺も少しは知っている。
スクールアイドル。それは芸能プロダクション等を介さずに一般の高校生が結成するご当地アイドルのようなもの。名前から分かる通り、それぞれのスクールアイドルは自分らの学校の名を背負っている。たしかA-RISEというUTX学院のスクールアイドルが人気を博したことで全国的に広まったんだっけ?
それにしても、昨日から始めたって南先輩が言っていたな。普通は入学してすぐに始めるんじゃないのか?
「何で2年生になってから始めたんです?」
今度は柔軟をしていた園田先輩が答える。
「音ノ木坂学院が廃校の危機にあるのはご存知ですよね。それを何とかするために、スクールアイドルで学校の知名度を上げようということになったんです」
なるほど。たしかにスクールアイドルになって有名になったらスクールアイドルは学校の名誉を背負っているのだから学校の知名度は上がる。ただ、そう簡単に人気のスクールアイドルになれるのか?
「そうなんだよね〜。今絶賛迷走中なんだ」
胸を張る高坂先輩。いや、そこは胸を張るタイミングじゃないでしょ。しかもそんな胸を張られたら目のやり場に困っちゃいます。
「あ、そうだ!」
突然何かを思いついたかのように手を打つ高坂先輩。全員の注目が彼女に集まる。
「アスちゃん、私たちのマネージャーをやってくれない?」