365日の魔法   作:アンパン食べたい

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食べ物の恨みは怖いんだぞ

 生徒会にレポートを提出し終えた俺は、屋上へと向かっていた。その途中、屋上へと続く階段の手前でμ'sのメンバー6人が何やら話し合っていた。

「どうしたんです?怪我でもしました?」

「あ、アスちゃん」

 高坂先輩の額には絆創膏が貼られていた。いったいどうしたのか気になったので聞いてみたのだ。

「飛鳥。実は今日、朝練の最中に穂乃果が襲われたらしいんです」

「な、何だって⁉︎」

 お、襲われた⁉︎それってもしかして南先輩が話していたストーカーか⁉︎あいつ、南先輩狙いじゃなくてμ's狙いだったってわけか!俺がたまたまいなかった日に犯行に及ぶなんて卑劣な奴め!許せん!いや、今は高坂先輩の無事を確認しなければ!

「それで⁉︎高坂先輩は大丈夫なんですか⁉︎先輩の貞操は無事です、くあ⁉︎」

 グイッと誰かに肩を掴まれる。園田先輩だ。その指が俺の肩に食い込む。痛い。

「貞操?飛鳥は何を聞いているのでしょうね?」

「いや、だって!ストーカーに襲われたと聞いたら、普通それを心配しますよね⁉︎」

「「「「「ストーカー?」」」」」

 南先輩以外の人が頭の上にはてなを浮かべる。あれ?違うの?

 説明を求めて南先輩を見る。彼女は苦笑を浮かべる。

「あはは……。ごめんね、アスちゃん。ストーカーとはちょっと違ったみたいなの」

「どういうことです?」

 

 

 

「そっか、ストーカーではなかったんですね、良かったです」

「ストーカーはアスだもの、そんなわけないじゃない」

 真姫?俺はストーカーじゃないって何回も言ってるよね?いい加減、わかってくれないかな?まあ、もういいけどさ。慣れたし。……慣れちゃっていいものなのか?

「まあ、それは置いておこう。それで高坂先輩、その襲撃者の特徴って覚えてます?」

「うーんと……冬物のコートを着てて、マスクを付けてたかな。あ、あとサングラスをかけてた!」

 ……あれ?なんかそういう人物を1人知っているんだけど。いやまさか。あの人が?あ、でもμ'sをあまり好ましく思っていなかったような気もする。ということはやはりあの人なのか?

「えっと、その人って女性ですか?」

「うん!女の人だったよ!」

 頭が痛い。何をやっているんだ、あの先輩は。ついに直接μ'sの前に現れたか。注意勧告でもしておこうか?たぶん意味ないけど。

「『解散しなさい!』と言われたそうなんです」

「は、はあ」

 そんなことだろうと思ってましたよ、ええ。もうあの人が部室でやっている事といったら、えげつない。本当にストーカーみたいなんだよ。写真を集めて、それに印をつけていく。

「でも、それだけ人気になったってことだよね!」

「うん。嬉しいね、凛ちゃん」

 まあ、そういうことなんだろうな。そしてそれに対して嫉妬でもしたのか?あの人、アイドルに憧れているみたいだし。自分で痛いキャラを作っているくらいには。

「ねえ、それより早く練習しましょうよ。時間が勿体無いわ」

「おお!真姫ちゃん、やる気満々にゃ!」

「べ、別に!私はただ早く終わらせて帰りたいだけよ」

「でも、真姫ちゃん、お昼休みにダンスの練習をしてたよね?」

「あ、それ凛もみた!1人でこっそり練習してたよね!」

 へえ。そうなんだ。俺が腹痛に苛まれていた時に、その原因を作ったお嬢様はダンスの練習だって?恨んでやろうか。

「違うわよ!私はただあのステップを変えようとしただけなのよ。あまりにもダサすぎたから!」

 あ、それは言っちゃぁ……。

「そうですか。あのステップ、私が考えたんですが」

 ゆっくりと真姫に近づく園田先輩。逃げて、真姫!鉄拳制裁を食らうことになっちゃうから!何をそんなに落ち着いているんだ!早く逃げろよ!

 髪をクルクル弄っていた真姫は俺をチラリと見ると笑う。知っている、俺は知っている。それは小悪魔的な微笑み、俺にとっての不吉の前兆。おい、まさか。

「って、アスが言ってたんです」

「飛鳥が?……ふふ、そんなに痛い目にあいたいんですか?ならばあわせてあげましょう」

「待ってください!話せばわか、がっ⁉︎」

 再び腹に激痛が走る。まあ、昼とは痛みの種類が全然違うけど。

「まあ、アスにゃんは放っといて早く練習するにゃー!」

 腹の痛みにその場で蹲る俺を置いてμ'sのメンバーたちは階段を上がっていく。みんなひどいよ!って、あれ?雨降ってなかったっけ?

 階段の踊り場の窓を見上げると雨は降っていなかった。止んだの?でもまた降り出しそうだし、屋上の床も滑りそうだけど。とてもじゃないが今日は練習できそうになさそうだ。

 一番上まで階段を上ると、みんなで外を見ている。あれ、でも高坂先輩と凛がいないや。ああ、何となく状況を察した。高坂先輩と凛の2人だけがやる気なんだな。つまりはそういうことなのだろう。

 一番近くにいた花陽に話しかける。

「どう?練習できそう?」

「飛鳥君。うーん、どうだろう?」

 花陽の隣に立ってドアから外を覗く。あ、また降り出した。こりゃ練習はできなそうだな。

「私、帰る」

 真姫が階段を下りていく。そんなに早く帰りたいのか。

「私も今日はちょっと……」

 花陽もあまりやる気は起きないみたいだ。まあ、当然だろう。こんな天気で練習したいと思う奴はいな……くはないけど、まあバカでもない限りやろうとは思わないだろう。えっ?凛?高坂先輩?……バカなんじゃないんですか?

「今日は休みにしましょうか、園田先輩」

「そうですね。ですが問題は、これからもこの天気が続くということなのです。どこか別の練習場所はないでしょうか……?」

 たしかにそうだ。つい最近、梅雨入りが発表されたのだ。まだ5月22日だというのに、早いよな。これだから異常気象ってのは困る。

「体育館はダメなんでしょうか?」

「花陽。そうなんです。体育館も講堂も、どこも他の部活が既に使用しているんです。ことりは何か案はありますか?」

「ううん、ないかな」

 見事に誰も何も思いつかない。まあ、そんな簡単に思いつくなら今現在屋上に頼っていないわけで。

「みんなで話し合います?」

「そうしましょう。では、飛鳥は真姫に連絡を入れてください」

「?何で俺なんです?」

「それはあなただからですよ。あまり好ましくありませんが」

 苦々しげな顔をする園田先輩。よく意味はわからないが、その顔は今日木炭、じゃなくて真姫のお手製卵焼きを食べた俺のそれに似ている。あ、なるほど。真姫は俺に申し訳ないと思ってるから、俺の言うことの一つや二つは聞くだろうということか。……違うな。うん、絶対に違う。

 

 

 

「まったく。何で私が」

「まあまあ。真姫は校外学習の時と同じメニューでいいんだよな?」

「まあ、いいけど」

 嫌々ながらもファストフード店に来店した真姫からメニューの確認を取り、それを注文する。なぜか俺と真姫の2人で全員分を買うことになった。園田先輩や凛は全力で自分も行くと言っていたし、花陽も自分の分はやると言ってくれたが、南先輩が強引に押し切った。いや、別にどっちみちあなたは行かないんですからよくないですか?なぜそこまで頑なに俺と真姫の二人を行かせた?

 まあ、何かその3人と話したいことでもあったのだろう、そう思うことにする。まさか俺と真姫に対するいじめじゃあるまいし。

「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

 可愛いバイトさんに聞かれる。いや、まだ一つ頼んでいないのがあるのだ。

「すみません、スマイ「はい、結構です」「ドスッ!」痛っ⁉︎」

 無料のスマイルを注文しようとしたら真姫に足を踏まれた。痛い。しかも人の注文を遮られた。一方真姫は諭吉さんを財布から取り出して支払いを済ませる。

「ありがとうございました、こちらに並んでお待ちください。お次にお待ちのお客様ー」

 あーあ、終わっちゃったじゃん。どうしてくれるんだよ、という思いを込めて真姫を睨む。ただ、彼女はボーッとバイトさんとその人が接客している相手を見ていた。子連れのママさんたちが注文をしている。

「……ああいうのが好みなの?」

「真姫?知り合い?」

「ゔぇえ!ち、違うわよ!」

 そっか。でもどういう意味だ?ああいうのが好みなの?って。あ、もしかして注文したメニューに関して疑問を抱いたのか?でも、みんな普通の商品しか頼んでないけどな。むしろ俺が真姫に聞きたい。そんな子供向けの玩具が好きなの、と。

「お待たせいたしました」

 注文したメニューが全て揃う。それを他の人たちの座る席へと持っていく。

「ありがとね、アスちゃん♪」

 にやにやした笑いを浮かべる南先輩。対して、園田先輩に凛、花陽は顔が赤い。俺たちがいない間に何があったんだ?

「真姫ちゃんはもうあからさまだし、言質を取るまでもないよね〜」

「うんうん!真姫ちゃんわかりやすいもんね!」

「な、何ですか」

「「何でもないよ」」

 高坂先輩と南先輩が口を揃えて言う。怪しいけど、あまり深く突っ込むともう戻れなくなりそうだ。何にと言われたらわからないから困るけど。ここはおとなしく何もなかったかのように過ごそう。真姫もそう判断したのか、6人掛けのテーブルの空いていた席に座る。……あれ?

「えっと、俺の席は?」

「隣のテーブルにでも座れば?」

 冷たくそう言うと真姫は玩具入りのビニール袋を破りにかかる。はぁ、仕方ない。

 隣のテーブルを見ると、既に先客がいた。奇抜なファッションだ。変な帽子を被っていて、色付きの眼鏡をかけている。変装でもしたいのか?

「すみません、相席しても?」

「な⁉︎あす……ええ」

 その人は手袋を着けた手で口元を覆いながら返事をする。どうしたのだろう、声の調子でも悪いのか?

「何で雨止まないのー?少しは空気読んでよねー」

「それは無理でしょう」

「予報だと、明日も雨らしいよ」

「えー⁉︎」

 騒がしいな、高坂先輩。自然現象は仕方ないだろう。ポケットな生物とは違って日本晴れなんてできないし。そんな子供みたいに駄々をこねないでほしい。

 と、自分のポテトを食べようとしたら目の前の人と目があった。その人は隣のテーブルに手を伸ばしている。そう、高坂先輩たちのテーブルに。

「……何してるんです?」

 その人はゆっくりと手を引っ込める。彼女の手には高坂先輩のと思われるポテト。その人は再び口元を覆ったから話す。

「別に」

「下手したら犯罪ですよ?」

「……わかってる」

 もしかして金がないのか?いや、こんな奇抜すぎるファッションしておいて金がないなんて変な話だけど。まあ、今回は見逃しておくか。

「あれ?穂乃果のポテトがなくなってる!海未ちゃん食べたでしょ!」

「食べません!自分の食べた分も忘れたのですか!」

 隣のテーブルから高坂先輩と園田先輩の言い合いを眺める。犯人を知っているだけに見てて面白い。って、おい。今度は園田先輩のポテトに誰かの手が伸びてるんだけど?

 素早く引っ込んだその手を追う。もちろん、それは例の奇抜ファッションの人の手だった。

「またですか?」

「……うるさいわね」

 はぁ。面倒な人だな。これ以上先輩たちの食べ物を取られても困る。

「俺が買ってあげますから、少し待っててくださいよ」

「えっ……。あ、ありがと……」

 まったく。困った人だ。いつもああやって誰かのを取っているのか?そこまでお金に困っているのか?それこそ困ったな。俺にどうにかできる問題ではないし。

 とりあえず、ポテトを一つ購入して席に戻る。今度はスマイルをちゃんともらった。可愛かった。ただ、この事は誰にも言わないでおこう。なぜか俺がみんなに袋叩きにされるビジョンが見えるからな。

 しかし、席に戻るとそこには既に奇人はおらず、少し離れたところで高坂先輩と口論していた。

「食べたポテト買って返してよ!」

「あんたたち、ダンスも歌も全然なってない!プロ意識が足りないわ!」

「えっ?」

 高坂先輩が驚く。座ったまま事の成り行きを見守るμ'sの他のメンバーも。彼女が自分たちがスクールアイドルだと知っていたことにだろう。しかし、俺は別の理由で驚いていた。この声、知っている。にこ部長だ。

「いい?あんたたちがやっていることはアイドルへの冒涜、恥よ。とっととやめることね」

 捨て台詞を残して走り去るにこ部長。俺と高坂先輩は窓際に駆け寄って外を見る。

 折り畳み傘をさしながら歩道を駆け抜けるにこ部長。あれ?あの傘って俺のだよね?何であの人が持ってるの?まさか傘も盗んだ?それほどに貧乏なのか?

「アスちゃん……」

 こちらを見る高坂先輩。その目には悲しみの色が見られる。そんなに解散しろと言われたのが悲しかったのか?そうか、今朝も言われたんだっけっか。それなら多少は堪えるだろう。

「先輩、気にする必要はありませんよ。あんなことを言う人は世の中にはたくさんいるんですから」

「そのポテト、もらってもいい?」

「……そっち?」

 そんなにポテト取られたのが悲しかったんですか……。

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