365日の魔法 作:アンパン食べたい
次の日。俺らは部活申請のために生徒会室に来ていた。昨日、まだ申請していなかったことに気づいたらしい。
2年生の先輩たちが代表して中に入り、俺たち1年生は生徒会室の外からドアに聞き耳を立てている。
「アイドル研究部?」
「そう。既にこの学校にはアイドル研究部というアイドルに関する部活が存在します」
「まあ部員は2人やけど」
「2人?」
「でもこの前、部員は最低5人必要だと……」
「設立当初はね。その後は何人になってもいい決まりやから」
「生徒数が少ない今、徒らに部活の数を増やしたくないの。話はこれで終わり」
「にしたくなければ」
「希?」
俺はそっとドアから耳を離す。まだ凛、真姫、花陽はドアに耳を傾けている。また東條先輩が何かやらかしそうだな、今のうちに逃走しておこう、うん。
パシッ
「どこ行くの、アスにゃん?」
俺の腕を掴む凛。口元は笑っているけど目が笑っていない。気がつけば真姫と花陽も俺の両脇に立っている。テレポートでもした?
「どこって。えっと、自販機?」
「何で疑問系なのよ……」
「アスちゃん!」
その時、勢いよく生徒会室のドアが開き、高坂先輩が飛び出してくる。その後ろからは南先輩と園田先輩。や、やめて!園田先輩だけはやめて!怖いから!
「アスちゃん、希先輩にアスちゃんが詳しいから聞いてごらんって言われたんだけど⁉︎」
「え、そうなんですか?」
なんだ、俺が部員だとは言ってないのか。なら、なんとか誤魔化せるかもしれないな。
「飛鳥、詳しいのですか?」
「えっと、まあ。一応アイドル研究部っていう部活があったので、少し調べただけというかなんといいますか。決して入ろうとは思ったとか、実際に入ることになったなんてことはないです、はい」
「……飛鳥?」
園田先輩に怪訝な顔をされる。ご、誤魔化しきれてない?
「よし!じゃあ早速交渉に行こう!」
「アスちゃん、アイドル研究部の部室まで案内をよろしくね?」
「え」
どうやらアイドル研究部の部室まで行くらしい。それってまずくない?にこ部長と会うことになるんだよね?彼女、昨日のファストフード店でやらかしてたし、神田明神でも何かやったっぽいし。それに俺がアイドル研究部の部員だとバレる危険性がある。
「また別の日にしません?」
「えー⁉︎善は急げ、だよ!」
「そうだよ、飛鳥君!アイドル研究部、そんな部活があったなんて!こ、これは行くしかありません!今すぐ行きましょう!きっと素晴らしい場所に違いありません!ああ、どんなグッズがあるんでしょうか?楽しみです!」
花陽?キャラ変わってない?
「ほら、早く案内しなさいよ、アス」
全員が期待の眼差しで俺を見る。これは避けられないようだ。どうしよう、詰んだ。必至だな。いや、このまま園田先輩に言及されていたとしても詰んでたんだろうけど。
「な、な、な⁉︎」
はぁ。やっぱり会っちゃったよ。アイドル研究部部室前、俺とμ'sの6人はにこ部長と鉢合わせした。
「あー⁉︎あなたは!」
穂乃果もばっちり彼女のことを覚えているようだ。これはロクなことになりそうにない。
と、にこ部長と目があう。軽く口を動かしている。"な、ん、と、か、し、な、さ、い、よ"だって。ああ、もう。面倒だなぁ。
とかなんとか言いつつも、ちゃっかり上司の命令には従う俺。将来は優秀な企業戦士になれそうだな。
「あ、生徒会長!」
適当な方向を指差して叫ぶ。全員がそちらに注意を向ける。
「生徒会長なんていないにゃ」
「あれ?人間違いだったみたい。ごめんごめん」
「もう。しっかりしなさいよね」
「ああ⁉︎さっきの先輩がいない⁉︎」
高坂先輩はドアの取っ手に飛びつくとガチャガチャ引っ張る。しかしドアは開かない。鍵をかけたのだろう。籠城か。
「凛ちゃん!窓にまわり込もう!」
凛が先陣を切って外へと向かう。それに続くμ'sの他のメンバーたち。俺も一緒に追いかける。小雨が降る中、アイドル研究部の窓にやってくると、ちょうどそこからにこ部長が逃げ出すところだった。なんだ、籠城じゃないのか。絶対窓の鍵も閉めて中に居座った方が良かったと思うんだけど。
「捕まえたにゃ!」
「くっ!」
凛がうまい具合ににこ部長を後ろから抱きついて捕まえる。いや、俺的にはあまり良くない事態なんだけどね?大将が捕まったのだから。万事休す!
が、しかし。
「ふっ、甘いわ!」
「ああ⁉︎逃げられたにゃ!」
にこ部長は凛のホールドからすり抜ける。まあ、2人とも引っかかるものがないしね。うん、残念ながら。
あっという間に走り去るにこ部長。俺らは彼女の姿を見失う。
「仕方ありません、たしかアイドル研究部は2人いるという話でした。私と飛鳥で部室の方でもう1人を待ってみます」
「じゃあ私たちは手分けして探そっか」
口を挟む間もなく、役割が決まる。え、待つんですか、もう1人。もういるんですけど、なんて口が裂けても言えないだろうなぁ。俺の身が裂けちゃうだろうし。
「ところで園田先輩、どうして俺となんです?」
部室の前に着いたところで、なんとなく気になったことを聞いてみる。園田先輩が俺を指名するなんて。明日は槍でも降るのか?いや、弓矢が降ってくるのかも。
「思えば、飛鳥と落ち着いて話をしたことがなかったので、これも良い機会では、と」
そう言われれば確かに。俺と園田先輩が話すときはだいだいいつも決まって園田先輩がよく分からないところで怒る、そして俺が痛い目にあう。このワンパターン。てかただの理不尽な暴力じゃん。
「でも、何を話すんです?」
「そうですね……。私の父の稽古はどうですか?」
どう、と聞かれても。なんて答えたら良いのだろうか。辛い?大変?いや、そんな愚痴をこぼしてどうする、こぼしたいけど。本当、園田先輩の神田明神での練習並みにキツい。親子だな。
「えっと、なんだか将来役に立ちそうです」
「……本当にそう思ってます?」
園田先輩が疑わしげに俺を見る。園田先輩を見ていられなくなった俺は目を泳がせる。べ、別に辛いわー、とか嫌だわ〜、とかそんなこと思ってないし?……ダメだ、嘘ついてる人そのものじゃないか。
「まあ、この事は後で父に言っておきます。次の話題にいきましょう」
「言わなくていいですからね⁉︎」
稽古がさらに厳しくなったらどうしてくれるんですか⁉︎今でさえ、日曜日は筋肉痛に苛まれるというのに。
「飛鳥の誕生日っていつですか?私は3月15日なんですが」
スルーですか、さいですか。まあいいや。今さらもうどうって事はないだろ。南先輩に握られているあれに比べたら、怖いものなんてない。
「日付的には近いですね。俺は3月、」
「アスにゃん!ちょっと手伝って!」
そこにやってきた凛。何やら慌てた様子。何かあったのだろうか?
「凛?どうかしたのですか?」
「アイドル研究部の先輩が!アルパカに襲われてたんだにゃ!」
「にこ部長が⁉︎」
アルパカに襲われただって⁉︎……えっ、どういうこと?アルパカ、アルパカってあの動物のことだよな?昔牧場に行った時に見たことあるけど、この学校にもいたんだ。いや、それよりも早く彼女を助けなければ。
「園田先輩、先輩も一緒に来てください!」
「それは構いませんが、飛鳥」
「どうしました、か……?」
振り向いた。振り向いて後悔をする。園田先輩はにっこり笑っていた。ただし、青筋が立っているし、目は笑っていない。怖い。すみません、訂正します。南先輩に弱みを握られた以上に怖いものはありました。
「後で聞かせてもらいましょうか、なぜ飛鳥がその先輩のことを"にこ部長"などと呼んでいるのか」
どうやら俺が危険に晒されているようである。にこ部長を助けに行っている場合ではない、かな?
「あ、A-RISEのポスター!」
「こっちは福岡のスクールアイドルね」
「校内にこんな場所があったなんて」
にこ部長救出後、彼女のポケットを勝手に漁ってアイドル研究部の部室の鍵を取り出すと、部屋を開け、中にμ'sのみんなと入った。その中に入ってμ'sのメンバーたちは圧倒される。
「勝手に見ないでくれる?」
アルパカに襲われた(正面衝突しただけだった。お騒がせな人だ、まったく)にこ部長は機嫌が悪そうに呟く。ただ、その言葉を聞くものはおらず、μ'sのメンバーたちは部屋の物色を続ける。しかし本気でそれを止めようとしないところを見るに、彼女も満更でもないようだ。
「ああっ!」
花陽が突然叫び声をあげる。その手に持っているのは、DVD-BOX。なになに、伝説のアイドル伝説?ああ、あれか。通称でんでんでんと言われる何やらすごいやつ。何回にこ部長に自慢されたことか。俺にはその希少性が全く理解できなかったが。ただ、花陽のその目の輝きからするに、相当のレア物のようだ。
花陽がみんなにでんでんでんについて解説している間、俺は部屋をざっと見回す。そして見つけた。昨日俺がにこ部長にプレゼントしたミナリンスキーのサイン色紙。南先輩がそれをじっと見ている。……やばいかも。
「ああ、気づいた?アキバのカリスマメイド、ミナリンスキーさんのサインよ。知ってるでしょ、伝説のメイド」
「へ、へぇ〜。そうなんだ〜」
「本人に会ったわけではないけど、知り合いからもらったのよ」
ちらりとこちらを見る南先輩。俺は慌てて目を逸らす。知らないふり、知らないふり。それは俺が南先輩からもらったサインとは違う。別物だよ、別物。
「それより、聞きたいことがあるのです」
各々が部屋を見ている間、一人ずっと考え込んでいた園田先輩がついに話を切り出した。
「にこ先輩と飛鳥はいったいどういう関係なのですか?」
「説明はしてあげる。だから席に座ってくれる?」
長机の一辺に俺たち1年生が一列に並び、その反対側に2年生が並ぶ。その際、南先輩とすれ違う時に彼女が俺の耳元で囁いた。
「次のバイトの日、楽しみだね」
背筋がゾクッとする。な、なぜばれたし⁉︎
い、いや、まだばれたと決まったわけではない。とりあえず、他の人も座っているし、俺も座らなければ話が進まないのでパイプ椅子に座る。
「飛鳥、あんたはこっちに座りなさい」
にこ部長が自分の隣を指差す。
「ええ〜。わざわざ移動しろと言うんですか?」
「……メイド」
「はい、すぐ移動します」
やばい。俺を脅迫できる人物がもう一人いた。そういえば、彼女とバイト先で会ってしまったのだった。メイド喫茶で働いているとバラされては困る俺は急いで移動する。
「私たちの関係、だったわよね?」
「はい」
にこ部長がμ'sのメンバーの顔を見回す。そしてニヤッと笑うと、
「私と飛鳥は将来を誓い合った仲なのよ」
「「「「えええええ⁉︎」」」」
部屋中に驚嘆の声が木霊する。俺も驚いている。将来を誓い合った仲だって?それって婚約者ってことだよな?そんな話していない。当たり前だけど。
「う、嘘でしょう、飛鳥?」
「アスにゃん嘘だって言ってにゃ⁉︎」
「あ、飛鳥君、そうだったの……?」
「あ、アス、こんなのが趣味だったわけ⁉︎」
「そんな!それじゃ海未ちゃんが……」
「おめでとう、アスちゃん!」
一人だけ全然ベクトルが違った気がするけど、小さいことは気にしちゃいけないだろう。というより真姫、先輩に対してこんなのって。たしかににこ部長は背の小さい、体の未発達な女子だけど。
「違いますよね、にこ部長。俺は別ににこ部長とはそんな関係じゃなくて!」
「そうよ、ただの冗談よ。それとも何?そんなことでそこまで感情的になるって、もしかしてあんたたち、飛鳥のことが好きなわけ?」
「「「「そ、そんなわけ!」」」」
……そこまでみんなして否定しますか。悲しすぎる。
「なるほど。写真から判断できる通りね」
一人うんうん頷いているにこ部長。え、何それ。写真から俺がこのμ'sのメンバーに嫌われてるって分かっちゃうの?俺はそんなの微塵も感じ取れなかったんだが。
「そ、それで!にこ先輩と飛鳥の関係は実際はどうなんです?」
「ああ、それは……」
今度は真面目な顔をするにこ部長。どうやら本当のことを言うつもりらしい。覚悟を決める時が来たようだ。
「私はアイドル研究部の部長。飛鳥はその部活の部員、つまり私の後輩。それだけよ」
「え?そ、それじゃあアイドル研究部の二人の部員って……」
「そう。私、矢澤にこと佐々木飛鳥よ」