365日の魔法   作:アンパン食べたい

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嫉妬?

「もう!アスちゃん遅いよ!」

 職員室に鍵を返した後、昇降口に向かった俺。そこには高坂先輩、南先輩、園田先輩の3人の先輩がいた。どうやらわざわざ俺のことを待っていてくれたようである。

「飛鳥、先輩と何を話していたのです?」

「それは……」

 なんて言おうか?これはにこ部長の個人的な話だし、そう簡単に人に話していいものではないだろう。

「大丈夫だよ、アスちゃん。にこ先輩が昔スクールアイドルをやっていたって話なら、ことりたちも希先輩に聞いたから」

「東條先輩が?」

 また彼女が暗躍しているのか?何のために?いや、答えは一つしかないだろう。にこ部長をμ'sに入れるため。1人でいたにこ部長に新部員をプレゼントした彼女は、今度はどうやらスクールアイドルとしての活動をプレゼントするみたいだ。

「そうですか。俺もにこ部長から彼女の過去を聞きました」

 靴を履き替えると外へ出る。小雨だった雨はいよいよ本降りとなっており、傘をさす必要がありそうだ。今日はちゃんと傘を持ってきている。あ、そういえば折り畳み傘のことをにこ部長に聞くのを忘れたな。まあまた明日でいいか。あれ、明日は土曜日か。じゃあ来週?……なんかまた忘れそう。

「なかなか難しそうだね、にこ先輩」

 校門へと歩きながら南先輩が呟く。

「そうですね。先輩の理想は高いですから、私たちの歌とダンスには納得してくれないでしょうし。説得も難しそうです」

 園田先輩がそれに同意する。しかし、果たしてそうなのだろうか?少なくとも俺にはそうは思えない。

「園田先輩、にこ部長をμ'sに入れることってできませんか?」

「飛鳥?」

「部室でにこ部長と話していて思ったんです。にこ部長はアイドルが好きで、アイドルに憧れている。それにμ'sのことが気になっていると思うんです。先輩たちのパフォーマンスにダメ出しするのは、いわゆる愛情の裏返しなんじゃないかって」

「私もそう思うな」

「穂乃果ちゃんも?」

「うん。うまく言えないけど、何か一つのきっかけでうまくいきそうな気がするんだ。だからアスちゃんの意見には賛成かな」

「そう簡単にうまくいくでしょうか……?そもそもどうやってμ'sのメンバーにするんです?」

 そうだよなぁ。にこ部長はあくまで自分からは入りたいとは言わないらしい。じゃあどうするか、それが問題なのだ。

「あ、あれ」

 南先輩が指差したのは校門の目の前の横断歩道、それを渡った先にある階段。そこにはピンクの傘をさした黒いツインテールがいた。俺たちが見ていることに気づいたのか、慌てて隠れる。

「にこ部長……」

 やはり彼女はμ'sのことが気になるのだ。こうしてまるで話しかけたいけど話しかける勇気がない子供みたいないことをしているくらいには。

「ねえ、これって海未ちゃんと一緒じゃない?」

「私と?」

「そう!ほら、私がことりちゃんや他の子たちと遊んでた時、海未ちゃんは1人で木の影から私たちのことを見てたよね!」

「あ〜、あの時の!」

「そう、あの時の!」

 2人であの頃はああだったね〜、と話し合っている間、俺と園田先輩は蚊帳の外。あれ?なんで園田先輩も?

「そんなことあったでしょうか……?」

 どうやら覚えてないみたいだ。それじゃあ蚊帳の外にもなるわな。

「俺はその当時の先輩たちを知りませんけど、でも何となく想像はつきます。園田先輩、見知らぬ人と話すのは苦手なタイプですもんね」

 どうせ高坂先輩が園田先輩を強引に引っ張り出したのだろう。彼女ならやりかねない。俺だって無理やりな感じでマネージャーにさせられたし。気付けば俺が真姫に作曲をしてもらうことでマネージャーになるというレースに出場させられ、しかもそのレースは出来レースだったわけだ。

「ああ!そうか!」

 つまり彼女も同じような感じでμ'sのメンバーに組み込めばいいのではないか?こちらの意思とは関係なく。あの時の俺はμ'sのマネージャーになるためではなく、自らの命のために頑張っていた。別にμ'sのマネージャーになろうとしてなったわけではないのだ、当時は。

「つまり、にこ部長を脅せばいいんだ!μ'sに入らないと園田先輩に殺されると!」

「何故私に殺されると脅すのですか⁉︎」

「別に脅す必要はないんじゃないかな……」

「それより穂乃果!その時のことを事細やかに説明してください!もやもやして今夜は眠れなそうです!」

「じゃあアスちゃんと一緒に寝て貰えば?」

「何でそうなるんですか!」

 くだらない言い合いをする園田先輩と高坂先輩。それを見ているとつい苦笑してしまう。前までは、先輩たちの仲の良さには気圧された。俺がここにいていいのか、彼女たち3人の方がいいのでは、と思う事もしばしば。

 でも、最近はそうは思わなくなった。少しずつ俺は彼女たちのことをわかってきている気がする。理解してきている気がする。さっきの先輩たちの思い出話だって簡単に想像できるくらいには。

 誰かに袖を引かれた。振り向くと南先輩。

「明日って予定はあるかな?」

「明日ですか?まあ、あるにはありますけど、時間は変更できますし。空いてるってことでいいと思いますよ」

 明日は土曜日。土曜日には園田先輩の父親、つまり師匠の稽古があるのだが、あれは特に時間が決まっていない。なので、他の用事を優先させることもできるのだ。

「じゃあ、明日の午後3時にミナリンスキーに会いに来てくれるかな?話したいことがあるんだ♪」

 にっこり笑う南先輩。可愛いけれど、今はそんな感情は湧かなかった。その代わりに全身が恐怖に包まれ、震えそうだ。どうやらサイン色紙のこと、バレていたみたいです。

「穂乃果ちゃん、私もにこ先輩をμ'sを入れるのには賛成かな」

「ことりまで!私だってそうできるのならしたいですよ!ですが、どうすればいいのかわからないじゃないですか!」

「大丈夫だよ、海未ちゃん!私に考えがあるから!」

 自信満々に胸を張る高坂先輩。彼女は人を惹きつけるカリスマ性がある。それはにこ部長も認めていた。だからきっとうまくいく、そんな予感がした。根拠はないのに、俺はその予感を信じてみたくなった。

 

 

 

 翌日の午後3時。先に稽古を終わらせた俺は、例のメイド喫茶に来ていた。店内に入ると同時に鈴の音がなる。それを聞きつけたメイドさんがやってくる。

「あ、飛鳥ちゃん!待っててね、ミナリンスキー呼んでくるから!」

 バイト仲間が店の奥にいく。南先輩がミナリンスキーと呼ばれているように、俺は飛鳥ちゃんと呼ばれている。こんな呼ばれ方するなら、メイド服なんて着るんじゃなかった。あれは本当に本当の黒歴史。某マネージャー(仮)とは比べものにならない。

「お待たせ、アスちゃん」

 フロアに出てきた南先輩、いや今はメイド服を着ているからミナリンスキーと呼んだ方がいいだろう、は手に皿を持っている。メニューはオムライス。

「えっと、ミナリンスキーさん、お仕事お疲れ様です」

「ことりでいいよ?」

「えっ?」

 ことりでいい?あ、つまりミナリンスキーって呼ばなくていいってことだよな?なるほど、ここはミナリンスキーではなく、南ことりという1人の先輩として俺に説教をするということか。たしかにミナリンスキーはメイドだから客に説教をするのは変だな。

「わかりました、南先輩」

「ことりでいいよ?」

「……えっ?」

 さて。そろそろ彼女の目的が分からなくなってきたぞ?ことりで呼べって、つまり名前で呼べってことなのか?そうなっちゃうんだよな?呼んでいいんだよな?

「こ……ことり先輩」

「はい、よくできました♪」

 何だこれは。めちゃくちゃ恥ずかしい。あ、そういうことか。これは先輩から俺に対する仕返しなんだ。勝手にミナリンスキーのサインを他人にあげたことに対する仕返しなんだ、うん。

 しかしやられっぱなしっていうのも面白くない。少し意趣返しをしてやろう。

「急に名前で呼んで欲しいなんて、もしかして先輩、俺のことが好きになっちゃいました?」

「それはありえないかな♪」

 笑顔でそう答える南、じゃなくてことり先輩。あれ?おかしいなぁ、俺の当初の予定ではここでことり先輩が顔を赤くして否定するはずだったのに。というより、真姫とか凛とか花陽なら絶対にそうなる。しかもそれはありえないって。俺がやり返したはずなのに、どういうわけか悲しくなってきた。

「じゃ、じゃあ。どうして急に俺に名前で呼べと?」

「にこ先輩のことはにこ部長って呼んでたよね?私たちの方が付き合いが長いのに変じゃない?」

 たしかに。言われてみれば変かもしれない。待てよ、それが理由ということは、まさか……?

「今度からは穂乃果ちゃんと海未ちゃんも名前で呼んでね」

「やっぱり⁉︎無理です!高坂先輩ならともかく、園田先輩を名前で呼べと⁉︎殺されたら責任取ってくれるんですか⁉︎」

 高坂先輩はむしろウェルカムな感じがする。というよりことり先輩に言われなくても高坂先輩から名前で呼んでねとそのうち言われそうだ。あくまでイメージだけど。実際言われてないし。……まさか嫌われてる?まあそれはおいておいて、しかし園田先輩は、彼女はやばい。勝手に『海未先輩』なんて呼んだら今度こそ俺の命が絶たれる。これはイメージではない。今までの言動から推測される未来である。

「アスちゃん」

 ことり先輩に呼ばれて顔を上げる。彼女は目に涙を浮かべ、プラス上目遣いでこちらを見ている。

「ダメ、かな……?」

 うっ。ダメだ、佐々木飛鳥。これは作られた表情なんだ。彼女は小悪魔。思い出せ、この店の店長は『ミナリンスキー、卑怯な!』と言っていたじゃないか、騙されるな……!

「わかりました。来週から名前で呼びます」

 気づけば俺はイエスと返事をしていた。くそっ、やはりことり先輩の頼みを断れる人間はこの世にはいないのだ!さすがことり先輩!

「よかったぁ。これで海未ちゃんも喜ぶね」

 うーん、喜ぶのか?嫌がるとしか思えないのだが。まあやってみないと分からないか。身をもって学べということだな。本当に俺の体を駆使することになりそうで怖いけど。

「さて、次は本題です!」

 本題。いよいよか。ついにことり先輩からの尋問が始まるのだな。

 覚悟を決める。俺は自分の善を信じて行動したんだ、それだけはたしかなこと。それがうまく伝われば。

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