365日の魔法   作:アンパン食べたい

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広く会議を興し万機公論に決すべし

 バイト帰り、俺はスーパーのレジ袋を片手に穂むらへと向かっていた。なぜかと言うと、穂乃果先輩にメールで穂むらに来いと言われたのだ。ついでに約束のパンもよろしくとあった。仕方ないからアンパンを購入したのだ。いや〜、五割引になっていてよかった。財布に優しいね!

「ごめんください」

 穂むらに今朝ぶりに来る。レジのカウンターではやはり穂乃果先輩の母親が団子を食べている。あれ、なんかいつもより若く見える。というよりも、化粧が濃い?

「あら、佐々木君も来たのね。上がって上がって」

 俺も?つまり誰かもうすでに来ているということか。まあ海未先輩かことり先輩あたりだろう。あとは追加で誰か一年生がいるかいないか。

 階段を上って穂乃果先輩の部屋へ。今回は雪穂ちゃんとは遭遇しなかった。別に残念とか思ってないよ?

「お邪魔します」

 引き戸を開けて中に入る。そこにいたのは意外な人物。

「東條先輩?」

「あ、佐々木君」

「あれ?アスにゃんも来たの?」

 凛はまあμ'sのメンバーだし、いても何ら不思議ではない。ただ東條先輩がいるのには驚いた。

「どうしてここに?」

「メンバーの家族に少し話を聞こうということになったんよ」

 なるほどな。だから穂乃果先輩のお母さんはあんなに化粧が濃かったのか。ってことは、雪穂ちゃんも……。べ、別に見たかったとか思ってないよ?

「アスにゃんこそどうしてここに?ま、まさか穂乃果先輩と付き合ってたり……?」

「違うよ凛ちゃん。私がお腹減ったからアスちゃんにパン買ってくるように頼んだの」

 いや、違うでしょ。あくまでパンはついででしょ、ついで。それだと俺が穂乃果先輩のパシリみたいじゃん。

「それで?パンは?」

「はい、どうぞ」

 俺はレジ袋からアンパンを取り出して穂乃果先輩に渡す。喜んでくれるだろう、そう思っていたのだが思いの外彼女の表情は険しい、というよりかは嫌そうな顔をする。そして不満をもらす。

「えー?アンパンー?穂乃果あまり好きじゃないんだけどなあ」

「せっかく買ってきたのに何言ってるんですか。それに先輩、俺の入学式の日にアンパン食べてましたよね?」

「あれは遅刻しかけて急いでたから間違ってアンパンを手に取っちゃったんだよね〜」

「で、でも。そのあと俺にアンパンを奢るように頼んでたじゃないですか」

「あれは勢い、みたいな?それにほら、アスちゃんにはアンパンじゃなくてファミレスで打ち上げ代全額払ってもらったでしょ?それよりもさ、また今度別のパン買ってよ!穂乃果アンパンいらなーい」

 ……五割引、何が得だよ、大損じゃねえか。

「え、アスにゃんってそんなにお金持ってたの?もしかして真姫ちゃんと同じでいいとこなの?

「違うわ!むしろ今月の1日にそんなことしたせいで今月のお小遣いが全額吹っ飛んだわ!そのせいでバ……」

 あ、危ねぇ。危うくバイトと言いそうになった。俺のバイトがバレるとついでにことり先輩のバイトもバレる可能性があるのだ、迂闊に口に出すわけにはいかない。

「ば?」

「ば、婆ちゃん家にわざわざお小遣いをもらうためだけに行ったんだ!」

 うわぁという目で凛に見られる。た、耐えろ。これもことり先輩のためだと思えば……!

「まあ、それはおいておいて。佐々木君はμ'sのリーダーについてどう思う?」

 リーダーについて?それは穂乃果先輩についてということだよな?どうって言われても……。

「あのね、アスにゃんが帰ったあとに練習したんだけど、その時に希先輩がどうしてリーダーじゃなくて海未先輩がみんなを指揮してるのって」

 たしかに言われてみればそうだ。そういえば練習はだいたい海未先輩がみんなを仕切っている。μ'sのリーダーである穂乃果先輩は他の人と同じようにその指示に従っているだけ。

 ふと、東條先輩が部屋に落ちていたノートを拾い上げる。"歌詞ノート"と書かれているそれは、海未先輩のノートだ。

「これで歌詞を考えてたりするんやね」

「うん、海未ちゃんが」

「えっ?あ、じゃあ衣装を」

「それはことり先輩がやってますよ」

「そうなん?じゃあ新しいステップを考えたりするのが」

「ことり先輩ってそれの才能もあるよね!」

「あ、じゃあ作曲を」

「それは真姫ですね」

 困惑した表情を浮かべる東條先輩。やがて穂乃果先輩を見て一言、

「それならあなたは何をしてるの?」

 うーん、と考え込む穂乃果先輩。……そういえば彼女って。

「パン食べて、テレビ見て、他のスクールアイドルの映像を見てすごいなぁって思って。あ、もちろん海未ちゃんとことりちゃんの応援もしてるよ!」

 何もしてないよなぁ。考えれば考えるほど穂乃果先輩は何もやってない気がする。むしろ、練習に遅刻したりする始末。

「ウチ、前から思ってたんやけど穂乃果ちゃんってどうしてμ'sのリーダーなん?」

 これまた東條先輩は難問を俺らに提起したみたいだ。

 

 

 

 翌日。電気の点いてない暗い部室にて俺らアイドル研究部は長机を囲んでいた。今からここで一つの学校の命運を握るかもしれない重要な会議が開かれる。

 物々しい雰囲気の中、一番に口を開いたのはにこ部長。まさにこうなる機会を待っていたかのように彼女は饒舌だった。

「リーダーには誰が相応しいか」

 ゴクリと誰かが唾を飲み込む。いや、もしかしたら生唾を飲み込んだのではないのだろうか?我こそはと名乗り出る者がいるかもしれない。

「だいたい、私が部長に就いた時点で一度考え直すべきだったのよ」

「リーダーね」

「私は、穂乃果ちゃんが良いと思うけど……」

「ダメよ。今回の取材ではっきりしたでしょ?この子はまるでリーダーに向いてないの」

「それもそうね」

「そうとなれば早く次のリーダーを決めた方が良いわね。PVだってあるし」

「PV?それがこの話とどう関係が?」

「海未先輩、リーダーが変われば必然的にセンターだって変わります。そうなれば今の練習ではダメになりますし、次の日曜日の撮影に間に合わせるには、今日中にでも決めた方が良いんです」

 μ'sの次の新曲。もともと歌詞、曲、衣装は用意されていたためにあとはPV撮影用のカメラと場所の確保が必要だったのだが、東條先輩との相談の結果、次の日曜日にこの音ノ木坂学院を貸し切って撮影することになったのだ。センターが変わるとなると、今日含めて残り5日で新しい歌のパート、振り付けを覚えなければならない。

「そうね」

「でも、誰が?」

「ふっ、よく聞いたわ、花陽!」

 パイプ椅子から立ち上がったにこ部長が指を鳴らす。俺は急いでにこ部長のそばまで駆け寄り、その隣に置かれたホワイトボードを反転させる。なぜそんなことしてるのかって?メイドの件で脅迫された俺は彼女がリーダーになるためのサポートを要求されているのだ。

「リーダーとは!まず第一に誰よりも熱い情熱を持ってみんなを引っ張っていけること!」

「あー、にこ部長のアイドルの情熱は凄いですよね(棒」

「次に!精神的主柱となれるほどに大きい懐を持っていること!」

「にこ部長の部員への配慮にはいつも感謝してます(棒」

「そして何より!メンバーから尊敬される存在であること!」

「あ、唯一の3年生がいますね(棒」

 これで俺のにこ部長から頼まれたサポートは全て終了。にこ部長には悪いけど、俺にはこれ以上にこ部長の味方をするわけにはいかないのだ。

「この条件を全て満たしたメンバーとなると!」

 勝ち誇った笑みを浮かべるにこ部長。俺による棒読みの合いの手で他のメンバーが自分を推すと本気で思っているらしい。ふっ、甘いですね。

「海未先輩かにゃー?」

「何でやねーん!!」

 ほら。いくら3年生といえど、そう簡単に新人にリーダーを許すグループではないのだ。……まさか本当にここまで欠けた食器を用いてお膳立てされたにこ部長に気付いていないわけではないよな?

「私ですか⁉︎」

「そうだよ!海未ちゃん向いてるよ、リーダー」

「穂乃果はそれで良いのですか?」

「え、何で?」

 この反応……。穂乃果先輩、大丈夫か?真面目にリーダーを変えた方が良いのか?でもそれだとμ'sにとっては良いかもしれないが、俺にとってはあまり良くない。いや、全然良くない。むしろヤバい。

「悔しくないのですか⁉︎リーダーの座を奪われるのですよ⁉︎」

「あー……まあ、いいかな」

「良くないですよ!センターじゃなくなるんですよ⁉︎」

 身を乗り出す花陽。これだけ花陽が熱くなるのだ、普通のアイドルにとっては大問題だろう。

「なるほど……」

 考え込む穂乃果先輩。どうか思い直してくれ。リーダーをやりたいと、リーダーであり続けたいと。

「……まあ、いっか」

「「「「「「えええええ⁉︎」」」」」」

 ……マジか。穂乃果先輩をリーダーのままでいさせるのは骨が折れそうだ。

「じゃあリーダーは海未ちゃんということで!」

「ま、待ってください!わ、私には無理です……」

 恥ずかしがり屋の海未先輩にはリーダーは無理。よし、これで候補は1人消えた。

「いいかい、海未ちゃん……」

 穂乃果先輩が海未先輩に何やら囁く。何を言っているんだ?まあ、何を言おうと彼女がそう簡単に意見を覆すわけ……。

「ア、アピール……接近……や、やります!」

 はい?やる?ダメだ、それは俺が社会的に死んでしまう!

「考え直してください海未先輩!」

 俺は海未先輩の肩を掴んで前後にグラグラ揺らす。

「な、なぜですか⁉︎」

「いいですか、海未先輩。先輩には表向きのリーダーは無理です。諦めてください」

 キッパリと言ってやる。海未先輩には悪いけど、ここで先輩にリーダーになられては困るのだ。何としても阻止せねばならないのだ。

「ど、どうしてそんな事言うんです……。あ、飛鳥は私のことが嫌いですか……?」

 目に涙を浮かべる海未先輩。立っている俺、椅子に座っている海未先輩。それすなわち、今の彼女は俺に対して上目遣いというものを使用しているわけで。よくわからない罪悪感のようなものが俺の胸に重くのしかかる。というか、ここまで海未先輩にリーダーをやりたがらせる穂乃果先輩の一言って?

「先輩⁉︎ちょっと、泣かないでください!別に嫌ってませんから!海未先輩は何でもそつなくこなすし、みんなをまとめることもできる真面目ないい人だと思ってますから!」

「じゃあリーダーをやってもいいじゃないですか!」

「ダメなんです!とにかく、何でもしますんで海未先輩はリーダーをやらないでください!」

「……仕方ないですね」

 ふう。何とか最有力候補を抑えることに成功した。ただ、悪魔に魂を売ったような気もしなくはないが。

「さすがに一年生がやるわけにはいかないしな」

 一年生にも釘を刺しておく。手抜かりはない。

「じゃあ誰がリーダーをやるのよ」

「仕方ないわね〜」

「ことり先輩は?」

「私?」

「いや、ことり先輩は副リーダーって感じだろ。リーダー向きではない」

 よし、これでまた候補を一つ潰した。しかし困ったことに契約上はにこ部長のサポートをすることになっている俺は彼女を自らの手で潰すわけにはいかない。自分の口から穂乃果先輩が良いと思うと言うわけにもいかない。困った。

「仕方ないわね〜」

「やっぱり海未先輩にしましょうよ」

「ダメだ、認めん!」

「何でアスが嫌がるのよ……」

「仕方ないわね〜」

「私は穂乃果ちゃんで良いと思うけどなぁ」

「仕方ないわね〜」

「私は海未先輩が良いと思うわ。先輩、やりたいんでしょ?」

「私がやっても良いのなら……」

「ダメです!」

「アスにゃん、さっきからどうしたの?」

「仕方ないわね〜」

「じゃあ投票で……」

『しーかーたーなーいーわーねー!』

 どこからか拡声器を取り出して言うにこ部長。このままじゃ埒があかない。仕方ない、

「話し合いで解決できないなら、戦うしかないですね」

 俺は財布を取り出し、中身を確認する。……少し痛いけど、問題ないだろ。結構バイト代が高くて助かっている。そしてそのバイトを継続するため、俺の社会的地位を保持するためにも何としても穂乃果先輩にはリーダーになってもらわないと困るのだ。

「カラオケに行きましょう!」

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