365日の魔法   作:アンパン食べたい

44 / 59
μ'sのリーダーは

「なるほど、オーラね。飛鳥にしてはなかなかいい思いつきじゃない」

「でも、だからってチラシ配り……?」

「いいじゃん!面白そう!」

 あの後、学校へ行き大量のμ'sのチラシを持って帰ってきた俺は、一定時間のうちに誰が最も多くのチラシを配ることができるかという勝負を提案。これならことり先輩の圧勝は目に見えている。そしてこのリーダー決定戦は引き分けで終戦。我ながら素晴らしいシナリオだ。

「歌も下手。ダンスも下手。だけどなぜか人を惹きつけるアイドルがいる。それはすなわちオーラ!人を惹きつけてやまない何かを持っているのよ!」

 相変わらず人の意見をさも自分が考えついたもののように語るにこ部長。いや、彼女の持論か何かなんだろう。あれだけアイドル好きな彼女のことだ、これくらい常日頃から考えているのだろう。

「わ、分かります!なぜか放っておけないんです!」

「ですが、だからといってチラシ配りをしなくたっていいじゃないですか!私は嫌です!」

「ほら、ファーストライブ前もよくやってたじゃないですか。人前に出る練習として。だから今回もその練習を兼ねてやるんです」

 俺は1人ずつにチラシの束を手渡す。もうそろそろ夕方、早めに終わらせて暗くなる前にメンバーみんなを返した方がいいだろう。

「準備はいいですね?よーい、スタート!」

 各々にチラシを渡しに行くμ'sのメンバーたち。しかし、海未先輩だけはまだここに残っている。

「飛鳥、私がこれを苦手だと知っていて選んだのですね?」

「違いますよ」

 そういえば、海未先輩はこういうことは苦手だったような。以前はチラシの全てを花陽にあげて終わりにしていたような。

「あ、いいことを思いつきました。今から私が飛鳥に何でもしてもらえる権利を使いましょう」

「何をしてほしいんです?」

 海未先輩は頭を下げてチラシの束を俺の前に差し出す。まさか。

「これをすべて受け取ってください」

「いやそれはズルいですよ⁉︎」

「ふふっ、冗談ですよ」

 不意に顔を上げてクスリと笑う海未先輩。いつもは見せない海未先輩の茶目っ気のある行動に、俺はドキッとさせられる。

「それにこの権利をこんなことに使ってしまうのはもったいないですし」

 にこっと笑う海未先輩に再びドキッとさせられる。しかし今度は恐怖から。俺はいったい何をさせられるのでしょうか……?

「あ、懐かしいですね、あのガチャガチャ」

 海未先輩が指さしたガチャガチャ。ああ、あの時の。そういえばあの時は俺は金がなくてガチャガチャを回せていなかったな。よし、今回すか。

 財布から百円玉硬貨を2枚取り出して投入。レバーを一回転させる。コロッと出てきたカプセルの中身を確認。

「あ、レアのが出たみたいです」

「私のと同じですね。今筆箱につけているんです」

 へえ。そうなのか。たしかにレアなだけになんか可愛いな。そしてさりげなくモノマネをしてみたつもりなのにスルー。寂しい。

「俺もつけようかな……?」

「お、お揃いですか。な、何だか恋人みたいですね……」

 顔を少し赤くしながら海未先輩が言う。たしかに同じものを筆箱につけるなんて恋人みたいだな。あ、もしかして嫌なのか。そうだよな、俺みたいなやつと恋人と思われるなんてやだよな。

「じゃあ、やめますね」

「なぜですか!」

 今度は海未先輩に怒鳴られた。こっちがなぜだと言いたい。解せぬ。

「「「おおーーー!!」」」

 遠くで歓声が上がっている。どうやらことり先輩が配り終えたらしい。よし、俺の期待通りだな。これでだいたいみんな同じ結果であり、この勝負を無効にすることができるはず。

 

 

 

 雨が降り始めてきたため、近くのファストフード店に来た俺ら。今日はなぜか俺と穂乃果先輩でレジに並んでいた。これは穂乃果先輩が自ら志願したのである。

「ねえ、アスちゃん。聞いていいかな」

「何です?」

 混んでいてなかなか進まないレジに並びながら、穂乃果先輩が尋ねてくる。彼女の顔にはいつもの明るさはなく、サイドポニーも萎んで垂れているように見える。

「アスちゃんは誰がリーダーになったらいいと思う?」

「俺ですか?俺は穂乃果先輩がいいと思いますよ」

「またまた〜。お世辞はいいから本気で答えてよ」

「俺は本気ですよ?」

 これは本気である。脅迫とは関係なく、何となくそう思える。具体的な理由を挙げよと言われたら少し考えなくちゃならないけど、直感的に誰がいいかと言われたらこう即答できる。まあ、脅迫されてるってのも一つの理由にはあるんだけども。

「どうして?」

「うーん、どうして何ですかね」

 どうして穂乃果先輩がリーダーに適任だと思えるのか。それが簡単に言えるのなら、今こうしてリーダー争いをすることもなかったのかもしれない。そうしたら、俺がお金を浪費することもなかったに違いない。……なんだか悔しくなってきたな、絶対に言葉に表してやるぞ!

「私は他の人みたいに何かに優れてるわけじゃないんだよ?真姫ちゃんや花陽ちゃんみたいに歌が上手くないし、凛ちゃんみたいに運動神経があるわけでもない。ことりちゃんみたいに器用でオーラがあるわけでもなければ、海未ちゃんのようにしっかりしてない。にこ先輩と比べてもやっぱりアイドルへの情熱で負けてる。私は、リーダーには、センターには向かないんだよ」

「俺はそうじゃないと思います」

 それは違う。穂乃果先輩には他のメンバーのように突出している部分がないわけではない。

「先輩は誰よりも明るいです。そして他の人をを引っ張っていける。自分がこうだと思ったことに迷うことなく突っ走っていくことができる。μ'sを始めたのだって穂乃果先輩じゃないですか」

 廃校を阻止したい。最近スクールアイドルが流行っているらしい。よし、じゃあそれで学校の人気を上げよう。思慮の浅い、短絡的な判断なのかもしれない。むしろ学校の評価を下げてしまう、軽率な行動だったのかもしれない。

 それでもだ。

「俺は先輩のそういうまっすぐなところに惹かれたんです。何かを全力で頑張る、そんな先輩に憧れたんです」

「私に……?」

「そうです。じゃなかったら、指を噛まれた時点で絶交ですよ」

「あはは……ごめん」

 本当にあれは痛かった。穂乃果先輩や他のμ'sのメンバーじゃなかったら許していなかっただろう。

「俺をマネージャーにしようとしたのもただ占いの結果、それが吉と出たからなんでしょう?その当たるも八卦当たらぬも八卦の占いを信じて俺をマネージャーにしたんでしょう?だったら、今は俺を信じてください。俺の言葉を信じてください。俺はμ'sのリーダーには穂乃果先輩がなるべきだと思います。これはμ'sのマネージャーであり、ファンであり、μ'sが好きな俺の本音です」

「アスちゃん……」

 それに、こんな楽しい学校生活を送れているのは穂乃果先輩のおかげだと思っている。入学式の日、パンを口に咥えた穂乃果先輩とぶつからなかったら、俺はμ'sのマネージャーになっていなかったかもしれない。あの日穂乃果先輩とぶつかったからこそ、屋上での会話に繋がったのだと思うのだ。

「俺は先輩と会えて良かったと思ってますよ」

「あ、え?それって……?」

「お次にお待ちのお客様ー!」

 お、いつのまにかレジが空いたらしい。結構話してたのかな。

 全品注文し終わったところで、穂乃果先輩がやってくる。遅いですよ。

「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

「あ、あとスマイルください」

「アスちゃん!」

 穂乃果先輩に呼ばれて振り向くと、突然彼女は俺に笑いかける。太陽みたいに眩しい笑顔なんだけど、ちょっと意味がわからない。

「えっと……?」

「スマイルのプレゼントだよ!」

「え?あ、ありがとうございます?」

 何がしたかったんだ?

 

 

 

「それで?結局どうするのよ、リーダー。みんな同じような成績なんでしょ?」

「はい」

 俺はテーブルの上に手帳を開く。まあ、俺がそういう結果になるように最終戦を選んだりしたしね。

「じゃあじゃんけんでもするかにゃ?」

「じゃんけん大会?私たちはどこぞの48じゃないのよ?」

「はい!」

 と、勢いよく手を挙げる穂乃果先輩。あ、もしかして俺の説得を受けて自分がリーダーをやると立候補するのか?

「なくてもいいんじゃないかな、リーダー」

『えええええ⁉︎』

「何でですか⁉︎」

 穂乃果先輩の一言に全員が驚く。リーダーなし?そんなアイドルグループ聞いたことない。そんなんで統率がとれるのか?というか、俺のさっきのくさいセリフによる説得は⁉︎

「あのね、他のスクールアイドルの動画を見て思ったんだ。みんなが順番に歌うことができたら素敵だなって」

「順番に?」

「うん。そんな曲作れたらいいな、って思うんだ。無理かな?」

 穂乃果先輩が海未先輩を見る。

「まあ、歌は作れなくはないですが」

 次に真姫を見る。

「そういう曲、なくはないわね」

「ダンスはそういうのできないかな?」

「ううん。今のμ'sならできると思う!」

「じゃあそれが一番良いよ!みんなが歌って、みんながセンター!」

 やっぱり俺は間違っていなかったみたいだ。μ'sのリーダーは穂乃果先輩、彼女が適任なんだ。こうしてその時々の一番の解決法を見つけ出し、実行へ移せる。それができるのは穂乃果先輩しかいない。

 残っていたポテトを全て食べ終えると穂乃果先輩は椅子から立ち上がる。一度自動ドアから外を確認した彼女は嬉しそうな顔をして戻ってくる。

「よ〜し!雨も止んだし、早速神田明神で練習だ!」

「では、私たちは少し曲を直してから参加しますね」

「うん!じゃあ先に行こう!」

「あ、穂乃果先輩待ってよ!かよちん、行こ?」

「う、うん。わ、私も歌うんだ……!」

「ことり、私のパートはかっこよくしなさいよ?」

「了解しました♪」

 穂乃果先輩に続いて凛、花陽、にこ部長が店から出ていく。残ったのは海未先輩、ことり先輩、真姫。

 しばらく作業をしていたところ、ことり先輩が不意に呟く。

「でも本当に良かったのかな、リーダーなしで」

「何言ってるんですか、ことり先輩」

「そうですよ、ことり。もう決まってますよ」

「不本意だけど」

「何にも囚われないで一番やりたいこと、面白そうだと思うことに怯まずまっすぐに向かっていく。それは穂乃果にしかないものかもしれません」

 穂乃果先輩は何も俺だけに慕われているわけではない。こうして他のメンバーにも尊敬されている。まさにリーダーにぴったりじゃないか。

 それにしても。

「へえ〜、"不本意"?もしかして真姫、センターやりたかったの?」

「なっ⁉︎ち、違うわよ!」

「え〜?本当に〜?」

「う、うるさい!」ペチャッ!

 真姫にハンバーガーの包み紙を投げられた。そして、その包み紙についていたケチャップが俺の髪に。ああ、俺の髪が赤くなってる……。ん?赤い髪?

「真姫、おそろ「バンッ!」……ごめんなさい」

 今度はプレートで叩かれた。鼻が痛いです。

「飛鳥が真姫を茶化すのがいけないのですよ?私は作業が終わりましたが2人は?」

「もう少し時間がかかるかな」

「私は大丈夫。そこまで変えるところなかったし」

「では、私と真姫は先に行きますね。ことり。焦らなくて大丈夫ですから、じっくり考えてくださいね」

「うん、ありがとね海未ちゃん」

 真姫と海未先輩が神田明神へと向かっていった。残りは俺とことり先輩のみ。うん、このまま座ってても気まずいし、ナプキンを取ってきて髪を拭こうかな。

 席を立ったらことり先輩が顔を上げる。

「アスちゃん、ありがとう」

「えっ?何がです?」

「穂乃果ちゃんがリーダーになるように色々とやってくれたから」

 ああ、その話ですか。そうそう、本当に苦労したんだよね。って、

「脅迫しておいて何言ってるんですか!」

「きょ、脅迫?な、ナンノコトデスカ?」

 白々しい!白々しいですよ、ことり先輩!たしかに口調は脅迫のような感じではなかった。『お願いできないかな……?』って感じだった。けれど!その手に俺のメイド服姿の写真を持ってたら明らかに脅迫ですよね⁉︎

「早くあの写真を出してください!処分します!」

「だ、ダメ!あれは大切なの!」

 ことり先輩の鞄の奪い合いを開始する俺たち。くっ、鞄の口は開いているんだ、あとは手を突っ込んで写真を取るだけ!あ、あれか!もらったり!

「「あっ」」

 その時、鞄が宙に浮く。きっと俺が写真を取るために片手を離したせいで力の均衡が崩れたのが原因だろう。そのまま宙に浮いた鞄から飛び出した写真はタイミングを見計らったかのように開いた自動ドアの外へ。

 ドサッと音を立てて落ちたことり先輩の鞄。ドアの外を見つめる俺らが見たのは、風に飛ばされる一枚の写真。ああ、俺の黒歴史ががが。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。