365日の魔法 作:アンパン食べたい
「ねえ、アス」
「ふあ?真姫?」
寝ていたところを誰かに起こされた。顔を上げてみると真姫。真姫の後ろに見える時計で時刻を確認してみるとどうやら放課後になったっぽい。最後の授業から寝ていたので、ホームルームはまるまる寝ていたということか。よく担任に起こされなかったな。さすがはこの席だ。
6月になり、席替えをした。俺の座席は廊下側の一番後ろ。いい席をゲットした。さらにはお小遣いも入って気分はハイ。なんか最近ついてるな。まあ、それはさておき。
「何か用?」
俺の前の席になった真姫に用件を聞く。わざわざ寝ている人を起こしたのだから、それなりの話があるはずだ。なかったらどうなるかわかってるだろうな?どうもしないけど。
「その、相談したいことがあるの」
「相談?悩みか?」
コクリと頷く真姫。なぜ俺に、とも思ったが、やはり先輩ではなくて同級生の方が相談しやすいこともあるのだろう。でも同級生だったら凛や花陽でも良くないか?まあ、μ'sのマネージャーとして話は聞くけども。
「よし、相談してみなさい」
「何でそんな上から目線なのよ……。まあいいわ。実は、最近ストーキングされてるっぽいの」
「は?」
ストーキング?ストーカーか?またか。まさか今回もどこかの部活のツインテールの部長が犯人とか言わないよな?
「具体的には?」
「見られてる気がするのよ。外を歩いていると視線を感じるの」
「真姫ほどの美人ならそりゃ男の視線の一つや二つくらい集めるだろ」
「ほ、褒めても何も出ないわよ!」
顔を赤くする真姫。なんだ、まだ褒められるのに慣れてないのか。スクールアイドルなんだからそれくらい慣れないと。にこ部長なんてよく自画自賛してるし。しかもなんだよ、まるで俺が何かのご褒美を期待してるみたいじゃん。……してないよ?してないからね?別にありがとうって言う真姫の笑顔が見たかったとか思ってないよ?
「別に期待してないけど」
「……少しはしなさいよ」
ポーカーフェースを見せつけると真姫がボソッと呟く。声が小さくてうまく聞き取れなかったが。ただ、そのジトッとした目つきから俺の悪口を言われたのはわかる。ニュアンスでわかるんだよ!
「まあそれはおいておいて。俺にどうしてほしいの?犯人をとっ捕まえろとかは無理だよ?」
「……なんか軽いわね。ことり先輩が襲われたって聞いた時はもっと焦ってたじゃない」
真姫に睨まれる。なんで?悩み相談を受けてあげてるんだけども?もう少し感謝というものをだな。
「ねえ、アスってもしかしてことり先輩が好きなわけ?」
「はい?いや何でだよ」
「だってよくことり先輩のこと見てるでしょ?それにな〜んかことり先輩の機嫌を取ってる気がするのよね」
「そんなわけ……」
ない、とは言い切れない気がしてきた。ことり先輩のご機嫌をとることは多々ある。だって弱みを握られているんだもん、仕方ないよね。
「って、そこまで知ってるってことは真姫は俺のことをよく見てるんだな。まさか俺のことを好きなの?」
「そ、そんなわけないじゃない!ふざけないでよ!」
だよね……。そんな即否定されるとすごい悲しい。
「それよりもそうね。アスがどうしてもって言うなら応援してあげるわよ?」
「待て。なぜ俺がことり先輩に好意を抱いている前提で話が進んでいる。おかしいだろ」
「違った?」
「ああ、違う」
「絶対?」
「もちろん」
何度も念入りに確かめる真姫。何をそんなに疑っているんだか。ただ、もう満足したようで口元が綻ぶ。
「そう。ことり先輩のことを好きじゃないのね……フフッ」
「そうだよ。だからはい、話を戻そうか。誰かにつけられてるんだっけ?」
頷く真姫。その顔に先程までのにやけ顔はなく、真剣な表情になる。その様子を見るに、だいぶ深刻な問題のようだ。俺も気を引き締めねば。
「具体的にはいつ頃から?」
「日曜あたりからかしら」
日曜か。日曜日って何かあっただろうか。午前中は神田明神で練習、その後μ'sのメンバーとともにいつものファストフード店で昼飯。午後は学校の屋上にて練習。特に何の変哲もない日曜だったな。では、それより前に?
土曜日。学校にてPVの撮影。その後μ'sのメンバーはみんなで打ち上げを行ったらしい。俺は師匠の稽古があったので行ってないが。あ、わかったぞ。
「土曜日の打ち上げで調子に乗りすぎたんだよ。それで目をつけられた!」
「そうかしら……?」
あまり納得していない様子。たしかに少し無理やりだったか?
「あの日の打ち上げ、あまり盛り上がらなかったのよね。アスがいなかったから」
「俺?」
なぜ俺がいないと盛り上がらないのか。あ、もしかしてからかう人がいなかったからとか?よかった、行かなくて。師匠に感謝しなければ。
「でもそれじゃないとしたら何だろうな」
他に何があった?土曜日、土曜日、土曜日……。ダメだ、ゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。
「まあ原因は何でもいいの。とにかくアスには……」
そこまで言いかけて俯く真姫。何度も顔を上げて口を開けてはまた俯く。相当迷っているようだ。俺に何をしてほしいんだ?
「い、一緒に帰ってほしいの」
「何だ、そんなことか。いいよ別に」
「そ、そんなことって……。私がどんな覚悟をして頼んだかわからないの?」
だってなぁ?ことり先輩や海未先輩の見送りはよくやらされていたし。
「それに今からよ?今日は私、ちょっと用事があって早く帰るの」
「問題ないよ。今日は火曜だろ?俺はいつも火曜日には予定が入ってるんだ。まあそうと決まれば早いとこ帰ろうぜ」
パパッと荷物をまとめて椅子から立ち上がる。と、花陽がちょうど廊下に出るところだ。ちょうどいいな、先輩たちへの連絡を頼もう。
「ごめん、花陽。俺と真姫はちょっと用事があるから今日は練習休む。先輩たちに伝えといてくれ」
「え?用事?飛鳥君と真姫ちゃんが?」
「ああ、そうなんだ。よし、行こう真姫」
真姫の手を掴んで廊下へと出る。すると、後ろから「ゔぇえ!」という声が聞こえた。
「どうした?躓いた?」
「な、何でもない……」
顔を赤くしてそっぽを向く真姫。あ、躓いたんだな。それで素っ頓狂な声を上げてしまったのが恥ずかしいんだな?可愛いなぁ、真姫。
「そう。ならいいんだ」
そういうことなら気付いていないフリをしておいてやろう。なんて優しいんだ、俺。
昇降口で靴を履き替えた後、俺と真姫は校門の側までやってきた。ここからが肝心なポイントだ。もし本当にストーカーがいるなら学校を出た瞬間からつけてくるはず。なので真姫が学校を出る前に俺が周囲の確認をしようという作戦。
ゆっくりと校門から学校の外へ出て、周囲を確認する。いるのは音ノ木坂の生徒が数人と他校のセーラー服の人が2人ほど。音ノ木坂の生徒はペチャクチャおしゃべりを楽しんでいるのに対し、セーラー服の他校生はスマホを片手にしきりに音ノ木坂学院の校舎の時計で時間を確認している。音ノ木坂に通う友達待ちか。他には人はいないし、これなら大丈夫だろう。厚手のコートにサングラスをかけ、マスクをつけた某部長もいないっぽいし。
近くの木陰に隠れさせた真姫に左手でOKサインを送り、右手で手招きをする。
恐る恐るこちらへとやってくる真姫。そして彼女が校門から出た瞬間、動き出す人がいた。セーラー服の2人組だ。くそっ、まさかそっち系の人だったのか⁉︎てっきりストーカーは男かと思っていた!
「あ、あの!」
「えっ?」
「写真良いですか?」
「いや、えっと……」
これは。急いで駆け寄ったけど、どうやらストーカーではなかったようだ。
「じゃあ俺が撮るよ」
「アス?でも……」
真姫がチラリとセーラー服の人を見る。スマホをギュッと握りしめて真姫を見つめる女の子。どこからどう見ても真姫のファンだ。そうか、土曜日。これからのSomedayの動画をアップしたっけか。
「……1枚だけなら」
「やった!」
「良かったね!」
喜ぶ真姫ファンとそのお友達。うん、良かった良かった。
「撮るよー。はい、チーズ!」
真姫のファンの子にスマホを借りて写真を撮る。その子はとびっきりの笑顔でピースをしている一方、真姫は当惑した表情。おいおい、これじゃあどっちがアイドルかわからないぞ?真姫はファンサービスを覚えたほうが良いかもな。それこそ海未先輩みたいに笑顔の練習をしてみるとか。
「ありがとうございます!」
ファンの子にスマホを返してあげる。しかし本当にこれでいいのか?真姫は全然笑ってなかったけど。
「あ、えっと」
「どうかした?」
と、その真姫ファンの友達に声をかけられる。
「そ、その。写真を一緒に撮ってもらってもいいですか……?」
「俺?」
「は、はい!」
そうかそうか。彼女はどうやら俺が推しメンらしい。……ええええええ⁉︎ま、まじで⁉︎ついに俺にもモテ期到来か⁉︎
「もちろん!よし、じゃあ早速撮ろう!」
「ありがとうございます!」
女の子と肩を並べて写真を撮る。いや〜、なかなかに嬉しいものだね、モテるって悪くない!中学時代に付き合ってたやつら、リア充爆発しろとか思ってて悪かった、ごめん!
「よ、よかったら連絡先も……」
「ああ、い「お断りします!」真姫⁉︎」
今度は俺が真姫に手を掴まれて引き摺られていく。しかもかなり手荒い。怒ってる?何で?というよりなぜ真姫が断る?君って俺のマネージャーだったっけ?違うよね?
「なあ、真姫。怒ってる?」
「怒ってない!」
怒鳴る真姫。怒ってるじゃん。それを怒ってるって巷では言うんですよね?
しばらくして、真姫が手を離す。
「あんなにヘラヘラして情けない……!」
「ご、ごめん」
とりあえず謝っておく。なんか俺の態度が気に食わなかったみたいです。
「でも、良かったよ。ストーカーじゃなくてただの出待ちで」
「えっ?」
キョトンとした顔をする真姫。あれ?俺、なんか変なことでも言ったか?
「も、もしかして私の心配をしてくれてたの……」
何をいまさら。
「当たり前だろ?俺はμ'sのマネージャーなんだからメンバーの心配くらい普通するだろ」
「……でしょうね」
今度は深いため息を吐く真姫。もしかしなくても俺がなんか変なことを言った?うーん、女の子には何と言ったら良いのやら。