365日の魔法   作:アンパン食べたい

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大変なことになりました

「それにしても昨日は驚いたな。出待ちだぞ、出待ち」

「そうね」

 俺の提供する話題に興味がないのか、髪をクルクルと指先で弄びながら生返事を返す真姫。が、俺はめげない。しょげない。ドラゲナイ。

「しかも俺にもだよ?いや、出待ちではないんだろうけどさ。あー、連絡先聞いとけば良かったなぁ〜」

 そうすれば俺だってリア充の仲間入りかもしれなかったのに。

「……バカ」

 小さい声でボソッと言われる。声量は出てないのに、言葉はハッキリとしている。そこはさっきみたいな生返事でいいんだけどな〜。じゃないと俺が傷つくんです。泣いちゃうよ?俺は石のリボンをつけた子ほど強くないもん。

「真姫ちゃん!飛鳥君!」

 と、そこへ花陽が階段を駆け下りてやってきた。何やらお急ぎの様子。

「大変なの!とにかく部室に来て!……ってまた2人一緒?もしかしてできてる……?こ、これも一大事です……!」

「で、できてないわよ!」

「ん?何の話?」

「アスは知らなくていい!」

 え、俺だけ蚊帳の外?まあ、とりあえず部室に行ってみればわかるだろう。たぶん。

 部室へ走って行った花陽を追いかけて俺と真姫も部室に。中にはにこ部長以外のメンバーが揃っていた。

「ら、ラブライブ!が!ラブライブ!が開催されるんです!」

「ええ⁉︎ラブライブが⁉︎」

 驚く穂乃果先輩。へえ、ラブライブ!ってそんなにすごいものなのか。

「花陽ちゃん、ラブライブ!って何?」

「って知らないで驚いてたんですか⁉︎」

 思わずツッコんでしまった俺は悪くないはず。だって知らないのに驚くとか、どんな知ったかぶりだよ。ただの知ったかぶりだけど。

「じゃあアスちゃんは知ってるの?」

「いえ、知りませんけど?」

「し、知らないの⁉︎」

 花陽に詰め寄られる。近い近い。もう少し離れてください。興奮している花陽の荒い鼻息が俺の顔にかかる。生温かい風が肌を撫でる。

「お、教えてくれる?」

「いいでしょう!」

 部室のパソコンの前に移動した花陽はそれを立ち上げる。そして高速のブラインドタッチで素早くネットからラブライブ!のホームページを開く。すごいな、俺なんて最近Sの位置を覚えたばかりなのに。これで佐々木の佐々までならブラインドタッチで打てるぞ!どうだ、すごいだろ!……全然すごくないな。

「スクールアイドルの甲子園、それがラブライブ!です!」

 花陽の説明によると、エントリーしたスクールアイドルの中からランキング上位20グループまでがライブに出場、No. 1を決める。それがラブライブ!らしい。ちなみに今回が第一回なのだが、開催決定前からアイドル好きの間ではかなりの噂になっていたとか。ということはにこ部長ももうすでに知っているのかもしれない。

「へえ〜」

 うんうんと頷く穂乃果先輩。あのボタンがあったら何回も押しそうである。何だっけ、べえーボタン?何その舌出しそうなボタン。違うな。

「たしかにスクールアイドルは全国的に人気ですからね」

「今の上位20組となると、1位のA-RISEは出場として、2位、3位は……!ああ、まさに夢のイベント……!」

 たしかにそれはすごいな。全国の人気のスクールアイドルが一堂に会するイベント。それはもう話題沸騰だろう。

「チケット発売日はいつでしょうか?初日特典は⁉︎」

「って花陽ちゃん。見に行くつもり?」

 穂乃果先輩の素朴な疑問に花陽がパイプ椅子から立ち上がる。

「当たり前です!これはアイドル史に残る一大イベントですよ⁉︎見逃せません……!」

 アイドルのことになると饒舌になる花陽。1年生の俺たちにとっては見慣れた光景である。

「アイドルのことだとキャラ変わるわよね」

「凛はこっちのかよちんも好きだよ!」

「俺も好きだよ!」

『え?今なんて?』

 なぜか花陽以外の人に冷たい目で見られる。え、何で?凛と同じことしか言ってないじゃないか!

 やがて穂乃果先輩が花陽に向き直り、

「な〜んだ、てっきり出ようって言うのかと思ったよ」

「ええええ⁉︎そ、そんな私たちが出場するなんて畏れ多いです……」

 急にもじもじし始める花陽。まあ、これも俺たち1年生は見慣れているのだ。

「キャラ変わりすぎ」

「凛はこっちのかよちんも好きにゃ〜」

「俺も好きかな」

「ええ⁉︎わ、私を好き⁉︎す、す、す、好き⁉︎で、でも飛鳥君って真姫ちゃんと付き合ってるんじゃ……?」

「はい?」

「ゔぇえ!」

「ふ〜ん」

「にゃ?」

「へえ〜」

「ほう。飛鳥、詳しく聞かせていただきましょうか」

 ゴゴゴという効果音が似合いそうな形相でこちらへと一歩ずつ近づいてくる海未先輩。しかもその後ろの穂乃果先輩と凛の顔も少し怖い。あれがゲス顔というやつか。そんなに俺が海未先輩にやられるシーンが面白いのか?ってか、何で俺だけ?真姫は?花陽は?全ての元凶はあの……。

 花陽を見る。海未先輩の今の状態を見て部屋の隅で縮こまっている。ま、守らなきゃ!俺が海未先輩を食い止め、

「飛鳥」グイッ

 肩を掴まれた。痛いです、先輩。指が食い込んでます。全然止まりません。

「な、何でしょう?」

「事情を説明してもらいましょうか?」

「あー、これは、その」

 冷や汗が止まらない。だんだんと肩に加わる力が大きくなってきているのは気のせいだろうか、いや気のせいではない。反語な。……どうでもいいから誰か助けて!

 ガチャッ

「みんな!聞きなさい!重大ニュースよ!」

 そこへにこ部長がやってくる。おかげで俺の肩から海未先輩の手が離れる。よかった、助かったぁ。

「今年の夏、ついに開かれることになったのよ!スクールアイドルの祭典、」

「ラブライブ!、ですか?」

「……知ってたの?まあ、なら話は早いわ。出場するわよ!」

「そうね!スクールアイドルやってるんだもん、目指してみるのも悪くないかも!」

「っていうか、目指さなきゃダメでしょ!」

 穂乃果先輩のツッコミ。珍しいこともあるもんだ。一大事だな。

「そうは言っても、道は険しいわよ?」

「ですね。たしか先週見たときはそんな上位を狙える順位ではなかったような……」

 パソコンを操作してμ'sの順位を調べる海未先輩。ふっ、これはもう完全に先ほどの件は忘れているとみた。俺の勝ちだな。ナイスアシストです、にこ部長!ことり先輩!

「あっ!穂乃果、ことり!見てください!」

「すごい!」

「順位が上がってる!」

「嘘っ⁉︎」

「本当ですか⁉︎」

「どれどれ〜?」

「やっぱりこのにこにーが入ったおかげかしらね」

 たしかに順位が上がっている。これならもしかしたらラブライブ!に出場することができるかもしれない。

 

 

 

 というわけで、生徒会室の前。ノックをしようとした穂乃果先輩を真姫が制止する。

「どう考えても、答えは見えてるわよ」

「学校の許可ぁ?認められないわぁ」

 凛が生徒会長のモノマネをする。……ご本人に告げ口しようか?

「なあ、花陽。凛って昔からあんな感じなの?」

「え?うーん、どうだったかな……?」

 凛って結構毒舌というか、そういうところがあるよな。俺も何度ダメージを受けたことか。

「でも今回は確実に生徒を集められるとおもうんだけど……」

「そんなの、あの生徒会長には関係ないでしょ。私らのことを目の敵にしてるんだから」

 そうなのだ。あの生徒会長は何やらμ'sに恨みがあるらしい。俺も何度レポートを出せと言われて生徒会室に拉致られたことか。あ、関係ないか。いや、もしかしてそれが原因なのか⁉︎俺に対する怒りをμ'sに八つ当たりしているということなのか⁉︎

「どうして私たちばかり……?」

「はっ!もしかしてこのにこに学校の人気を二分されるのが怖「それはないわね」ツッコミ早っ⁉︎」

 真姫とにこ部長が何やらコントを繰り広げている。よし、俺もこの流れに乗じてそれはないと否定してもらおう!

「まさかレポートをなかなか提出しない俺に対する怒りをμ'sに八つ当たりして⁉︎」

「あー、そうかもにゃー」

「そうね、それが一番考えられるかしら」

「なぜ⁉︎なぜ俺のときにはつっこまないの⁉︎ボケたのに⁉︎」

「でも飛鳥君、前に怒ってる生徒会長に生徒会室に連れて行かれてたよね?」

 は、花陽まで……。

「これで生徒会長が私たちに敵対する理由はわかったわけね。なら学校の許可を取らないで勝手にエントリーすればいいんじゃないの?」

「それはダメだよ。ラブライブ!のエントリーの条件に学校の許可を取ることって書いてあるもん」

 やっぱりスクールアイドルというは学校のアイドルというわけだから学校の許可なしに活動するのは良くないらしい。

「じゃあ直接理事長に頼んでみるとかしたらいいじゃない」

「そんなことできるのか?」

「たしかに、部の要望は原則生徒会を通すようにとありますが理事長のところに直接行くことが禁止されているわけでは……」

「でしょ!何とかなるわよ、親族の人もいることだし」

 全員がことり先輩を見る。えっ?ことり先輩って理事長の親族なの?初耳だ。あ、そうか。南という苗字に聞き覚えがあったのはそういうことか。

 

 

 

 所変わって理事長室の前。その重々しい扉の前に穂乃果先輩が立つ。しかし先ほどよりも緊張しているようである。

「さらに入りにくい緊張感が……」

「そんなこと言ってる場合?」

 真姫がさらりと言うが、なんか冷たくない?でもよかった。穂乃果先輩に対しても冷たいんだね、俺だけじゃなくて。

「わかってるよ!」

 意を決して穂乃果先輩が理事長室の扉を叩こうとした、その瞬間。扉が中から開けられた。

「あれ、お揃いでどうしたん?」

「東條先輩」

 なぜか中にいた東條先輩。ということは、やっぱり、

「あなたたち……」

「うわあ、生徒会長」

「……タイミング悪っ」

 東條先輩の後ろから現れたのは金髪のポニーテール、生徒会長。

「何の用ですか」

 俺たちに問いかける生徒会長。真姫はそれを無視して中に入ろうとする。

「理事長にお話があって来ました」

「待ちなさい。部活動の理事長への申請は生徒会を通す決まりになっているはずよ」

「誰も申請とは言ってないわ、ただ話があるの!」

「真姫。相手は上級生、しかも生徒会長だ。にこ部長とは違う」

「ちょっと、どういう意味よ!」

「にこ部長は特別ってことですよ」

「と⁉︎特別⁉︎……ふ、ふーん。まあ今回はそういうことにしといてあげるわ。……特別……ふふっ」

 不気味に笑うにこ部長。なんか少し怖いな、話を戻そう。

「生徒会長、そういうわけです。理事長と話をするくらいなら別に構わないでしょう?」

「でも、「コンコン」?」

 誰かが扉を軽く叩いた。そこに立っていたのはスーツを着た大人の女性。この人が理事長、ことり先輩の親族の方か。たしかに、似ている。主に髪が。あれ?髪型って遺伝するものなの?

「どうしたの?」

「お母さん!」

 え?お母さん?親族って、え?従姉妹違とか叔母とかじゃなくて、母親?そうだったの?

「あら飛鳥君、久しぶりね」

「あ、はい。お久しぶりです」

 実は高校に入学する前、というよりここに引っ越してきてすぐに、理事長とは一度会っている。何でも、我が母親の旧友だとか。大学で知り合ったんだと。しかしまさかことり先輩の母親だったとは。

「お母さん、あのね」

「まあまあ。ここで話すのもあれだから中に入って?」

「私たちも話を聞いて構いませんか?」

 理事長に尋ねる生徒会長。その目には苛立ちのようなものが見て取れた。コネが気に入らないのか?

「ええ、いいわよ。悪いけど、一年生のみんなは外で待っててくれるかしら?理事長室もそこまで広くはないのよ」

「お気になさらず」

 先輩たちと理事長が部屋の中に入り、扉が閉められる。俺らはすぐに扉に聞き耳をたてる。

「へえ、ラブライブ!ねえ」

「はい。ネットで全国的に中継されることにもなっています」

「もし出場できれば学校の名前をみんなに知ってもらえると思うの」

「私は反対です」

 μ'sの先輩たちの意見に、すかさず生徒会長が反対と言う。

「理事長は学校のために学校生活を犠牲にすべきではないと仰いました。であれば」

「そうね。でもいいんじゃないかしら、ラブライブ!にエントリーするくらいなら」

「本当ですか!」

「ええ」

 やった!俺はガッツポーズをする。凛と花陽はハイタッチをし、真姫も少しだけ顔が弛む。

「ちょっと待ってください!どうして彼女たちの肩ばかり持つんです⁉︎」

「別にそういうつもりではないのだけれど……」

「だったら、生徒会も廃校阻止のために独自に活動させてください!」

 しばらくの沈黙の後、理事長がはっきりと言う。

「それはダメよ」

「どうして……?」

 なるほど。生徒会長が不機嫌だった理由がわかった。俺らがここに来る前にも同じことを頼んだのだろう。そして、同じように断られた。

「簡単なことよ?」

 ああ、簡単だな。理事長が学校のために学校生活を犠牲にすべきではないと言ったのなら。つまり、義務感とか責任感とかを理由に廃校のために活動するなということなのだ。生徒会とμ'sの差はそこだ。μ'sはあくまで俺たちがスクールアイドルをやりたいから、スクールアイドルが好きだからやっているのだ。しかし生徒会長は自分が生徒会長だからやらなければならないという義務感の元に行動している。そこが決定的に違う。

「失礼します」

 生徒会長はそれに気付かないのか?だとしたら随分とめでたい頭をしてい、

 バンッ!

「痛っ⁉︎」

 いきなり開かれた扉が俺の顔にクリーンヒット。いつの間にやら扉から離れていた凛たちが吹く。教えてくれたっていいじゃん!

「あら、ごめんなさい。気付かなかったわ」

 本当、めでたいな。

「でもラブライブ!へのエントリーが認めてもらえてよかったにゃー」

「ただし、条件があります。学生たる者、学業を疎かにしてはいけません。もし、次の試験で赤点を取るようなことがあれば、ラブライブ!へのエントリーは許可できません」

「なーんだ、そんなことか。条件って聞いて身構えて損し「ドサッ」た?」

 足元で音がしたので下を見る。そこには床に手をつき、項垂れる凛の姿。……まさか。

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