365日の魔法 作:アンパン食べたい
「大変申し訳ありません」
「ません」
部室にて、並んで丁寧に頭を下げる穂乃果先輩と凛。なんか姉妹みたいである。そんなこと言ってる場合ではないんだけど。ラブライブ!へのエントリーがかかっているのだ。
「小学生の頃から知っていましたが、穂乃果……」
「数学だけだよ〜!ほら、小学生の頃から算数苦手だったでしょ?」
その数学だけでも問題なのだが。しかし算数が苦手だったってどれくらいなのだろうか?少し計算が遅いとか?もしくは図形が苦手とか?
小声で隣の花陽に話しかける。
「なあ、穂乃果先輩に何か算数の問題出してよ」
「えっ?何で私?」
「俺がすると馬鹿にするなって怒られそうだから。な、頼む!」
一方的に頼み込んだ後、俺は前を向きなおる。観念したらしい花陽は穂乃果先輩に問題を出す。
「えっと、
なるほど、九九か。さすがに九九のできない高校二年生はいるまい。
「……26?」
「……かなりの重症ですね」
それでいいのか、和菓子屋の娘。九九くらいできなくてどうする。
「よく受かりましたね、高校」
「でしょ!もうすっごく勉強したんだから!」
胸を張る穂乃果先輩。意外と大きかったそれを直視できなかった俺は目を逸らす。すると、海未先輩と目が合った。彼女は俺や真姫の方に顔を寄せると、小声で囁く。
「定員割れだったんです」
「「ああ……」」
たしかにこの年々生徒数が減少している音ノ木坂ならありそうな話だ。ということは、きっと凛もなんだろうな。
「凛ちゃんは?」
「凛は英語!あれだけはどうしても肌に合わなくて」
俺は鞄から紙の切れ端とシャーペンを取り出すと凛の前に置く。
「"英語"って英語で書いてみて?」
さすがにこれくらいは書けるだろう。今や小学生だって書けるレベルだろ、これ。
「えっと……こう?」
『Eπgurisshu』
「……絶望的だな」
「ええ⁉︎アスにゃん酷い!」
いやだって事実そうでしょ。英語とローマ字表記は違うんだぞ?しかもなんかギリシア文字が混ざってるし。むしろすごいよ。
「む、難しいよね、英語」
「そうだよ!第一、凛たちは日本人なのにどうして英語を勉強しないといけないの⁉︎」
花陽、無理にフォローしなくてもいいんだよ?そしてついに我らがμ'sの秀才が立ち上がる。そろそろ堪忍袋の緒が切れたっぽい。
「屁理屈はいいの!まったく、これでテストが悪くてエントリーできなかったら恥ずかしすぎるわよ!」
「そ、そうだよね……」
真姫の説教に凛はタジタジ。しかし、問題の人物はもう1人いるらしいんだよな。さっきから教科書を逆さまに持っている人が1人いるんだ。ピンクのカーディガンを着た先輩。
「にこ部長」
「そ、そうよー。せっかく生徒会長を突破したのにあ、赤点なんか絶対取っちゃダメよー」
上ずった声で後輩へ忠告するにこ部長。本当に取らないですよね、赤点?
「にこ先輩、成績は?」
「ににににこ⁉︎ににににっこにっこにーがああ赤点なんてとと取るわけないでしょー?」
「動揺しすぎです……」
「なるほど、テストの点数は常に25点と」
「はあ⁉︎ば、バカにしないでよね⁉︎そんな25点なんて取ったこと、……に、2、3回?くらいしかないわよ!」
「……そうですか」
ダメだ、これ。本当にラブライブ!にエントリーできるのか?
「とにかく、試験まで私とことりは穂乃果の、飛鳥と花陽、真姫は凛の勉強を見て弱点強化をなんとか底上げしていくことにします」
「それはいいけど」
まあ、それしかないよな。しかしやはり問題となるのはこの人。
「でも、にこ先輩は?」
「だ、だから言ってるでしょー。にこはー、うっ」
にこ部長がひるむ。たぶん今、にこ部長のことをみんながジト目で見ているに違いない。少なくとも俺はそうしている。
「わ、わかったわよ。それじゃあ飛鳥。私の勉強を見なさい」
「え、俺?」
「だ、ダメだよ!アスにゃんは凛と勉強するの!」
凛が俺の左腕を掴む。
「はあ?あんたには真姫がいるんだから別にいいでしょ?飛鳥はにこがもらうわ」
にこ部長が俺の右腕を掴む。やばい、左右から引っ張られて体が半分に引き裂かれそうだ。
「えー?じゃあ真姫ちゃんをにこ先輩にあげるよ!凛はアスにゃんがいれば十分!」
「はあ⁉︎いらないわよ!」
「ちょっと⁉︎いやないって何よ!」
「ええ⁉︎2人ともずるいよ!穂乃果もアスちゃんと一緒に勉強したい!」
穂乃果先輩が俺の襟を引っ張る。く、首が絞まる!
「いい加減にしてください!飛鳥はあなたたちのものではありません!」
海未先輩が俺の頭に手刀を落とす。脳天に衝撃が走る。な、何で?ふざけてたの俺じゃないよね?(涙)
「海未ちゃん、宣戦布告かな?『飛鳥は私のものです!』って?」
「こ、ことり⁉︎別に私はそういうつもりで言ったわけでは!」
うろたえる海未先輩が可愛いと感じる。あ、もしかしてさっきの手刀で俺は錯乱してるのかな?
「にこ先輩と穂乃果先輩はアスが先輩たちに勉強を教えられると思ってるわけ?」
「そうですよ。俺に高2や高3の内容を教えろって無理がありますよ」
「でも、それならどうするの?」
ガチャッ、その時誰かが部室の中へと入ってきた。
「任せとき。にこっちはウチが教えてあげる」
「いいんですか?」
「の、希。私は大丈夫よ。赤点なんて取らないから」
「にこっち?ワシワシするで?」
「ひっ⁉︎」
何やら手を開いたり閉じたりしている東條先輩。それを見たにこ部長は顔が引き攣る。そんなに怖いのか、ワシワシって。いったい何をすることなのだろうか?
「お、お願いします……」
「よろし」
あっといまににこ部長を説得(脅迫とも言う)した東條先輩。よっぽどワシワシというのは怖いらしい。
「よし!じゃあアスにゃん、今から凛と図書館に行こう?そこで一緒に勉強するにゃ」
「ああ、いい「ダメです。ここでやってください」」
「えー?」
海未先輩は厳しいな。別に俺は凛を逃したりなんかしないのに。もう少し俺を信用してもいいんじゃないか?
「もう飽きたにゃ〜」
ペンを机の上に放り投げる凛。しかしその台詞、その仕草には俺ももう飽きた。昨日からずっとそうやってるのだ。始める前のあのやる気はどうしたんだ。
「アスにゃんはいま何してるの?」
「レポートだよ」
実は今日は木曜日。つまり、生徒会にレポートを提出しなければならない日なのだ。これももう飽きた。
「ねえ、じゃあ凛のこの英語の教科書と交換して?」
「馬鹿言わないの、早くやりなさいよ」
凛を嗜める真姫。彼女は何やら難しそうな参考書を読んでいる。さすが医学部志望。勉強熱心だな。
「もう少し頑張ろう、凛ちゃん」
花陽は凛と同じ教科書を読んでいる。凛のやる気を上げさせたいらしい。上がってないけどね。
「あー!白いご飯にゃー!」
「ええ!どこ?どこ?」
突然、適当な方向を指差しながら凛が言う。凛の苦肉の策、けれども引っかかるのは花陽のみ。すかさず真姫に頭をチョップされる。
「引っかかると思ったわけ?」
「うう……」
まあここに引っかかっている人はいるんだけどね。もしかしたら昔から花陽と勉強する時に使っていた手段だったのかもしれない。ま、花陽といえどもすぐに正気に、
「おーい、花陽?」
「炊きたてなのか?炊きたてなのか?」
……かなり有効みたいだ。なるほど、凛が勉強をできなくなった原因の一つを垣間見た気がする。
「まあ俺はレポートを書き終わったから生徒会室に行くよ。真姫、よろしくな」
「アスにゃん行くの?なら凛も、」
「あんたは勉強しなさい!」
「にゃあああああ!アスにゃん助けてにゃー!」
見ると真姫に英単語帳を顔に押し付けられている凛。とりあえず、心の中で合掌しておいてやろう。そしてもう今日はこのまま帰ろう。いつまでもここにいたら頭がおかしくなりそうだ。
「なら私も弓道部の方へ行ってきます。ことり、穂乃果はお願いしますね」
「わかった!……穂乃果ちゃん、起きて〜!」
え、寝てるの?よく海未先輩の目と鼻の先で寝れたな。もし俺がそんなことしたら即行で叩き起こされるぞ。目覚ましビンタを喰らうこと間違いない。海未先輩は格闘タイプだからタイプ一致、俺はノーマルだから効果は抜群。さらに寝ていた状態への一撃。オーバーキルだな。あれ、何の話だっけ?
「にこっち、ここの答えは?」
「えっと……にっこにっこにー?」
「ふふ、お仕置きが必要みたいやな」
「や、やめて!胸だけはやめて!」
胸?その東條先輩の指の動き、もしかしてワシワシってそういう卑猥な行為なの?でもにこ部長みたいな貧、慎ましい人にそんなことしても面白いのか?別に大きいのが大好きというわけではないが、揉みしだくなら東條先輩のような巨、ゲフンゲフン。何でもないです。
とにかく、今の部室の状態はひどい。こんなところで勉強なんて本当にできるのか?昨日凛が言ったみたいに図書館にでも行った方が良いのでは?あ、他者の迷惑になるから無理なのか。
「「はぁ」」
海未先輩と同じタイミングでため息を吐く。気が合うな。真面目な人間は損をするってこういうことなんだな。……違うな。え?俺は真面目じゃない?あ、あいきゃんとあんだーすたんどじゃぱに〜ず。いんいんぐりっしゅぷり〜ず?