365日の魔法   作:アンパン食べたい

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ハラショーな女の子

 コンコン

「どうぞ」

「失礼します」

 生徒会室に入る。中には生徒会長1人。やっぱり生徒会って2人で活動してるの?いつも生徒会長か東條先輩しかいないんだけど。

 俺が中に入った途端、生徒会長は机の上のパソコンを閉じて、慌ててボールペンを握る。怪しいな。また何かμ'sに嫌がらせでも行おうとしているのか?

「これ、レポートです」

「ありがとう」

 ボールペンを置き、レポートを受け取った生徒会長。普段はキッと引き締まっているその顔は少しやつれているようにも見える。きっと生徒会長って多忙なんだろうな。よし、少しリラックスさせてあげるか。

「あー、痛いなー。昨日理事長室の扉にぶつけた額が痛いなー」

「保健室の場所を教えましょうか?」

「……いえ、結構です」

「そう」

 一度俺の方に顔を向けた生徒会長は再びレポートに目を落とす。何だ?随分と鈍感なんだな。もう少し具体的に言った方がいいのか?

「あー、昨日誰かに扉をぶつけられたなー。誰だっけ?」

「そう、それは災難だったわね」

「……ええ、まあ」

 わざと知らないふりしているのか?気付かないふりをしているのか?……もう一度アタックをかけてみよう。今度はさらにわかりやすく。

「昨日理事長室の前の扉で3年生の先輩に扉をぶつけられたんだけど、誰だったかな?」

「クラスで聞いてみましょうか?」

「……もういいです」

 ふっ、最後までシラを切るつもりか。今回はなかなか口の固い奴が相手じゃないか。しかしこの落としの名人と呼ばれたことのない俺が絶対に貴様の口を割ってみせる!

「たしかその人は金ぱ「もしもし?」……電話ですか」

 誰かから電話がかかってきたようである。まさか電話しているふりではないよな?さすがにそこまでして俺との会話を拒絶しているわけではないよな?もしそうならさすがに泣きますよ?

「ええ、今行くわ。……じゃあ悪いけど私、もう帰るから」

「あ、はい。お勤めご苦労様です」

 残された俺は数秒の間だけただ立ち尽くす。せっかく生徒会長をリラックスさせてあげようと思ったのに。いつまでもここに残っていても意味はないし、俺も帰るか。

「あれ、これって」

 机の上にはボールペンが一本置きっ放しになっていた。もしかしなくても生徒会長のだろう。さっきまで持ってたし。届けてあげた方がいいのだろうか?うん、生徒会長に恩を売っておくのも悪くはないしな、そうしよう。べ、別に生徒会長ともう少し話してみたいとか思ってないんだからね!

 ペンを取ると急いで昇降口に向かう。彼女はまだそこを出たばかりみたいだ。

「生徒会長!」

「何かしら」

 走って彼女に追いつくと、ペンを見せる。

「忘れてましたよ、これ」

「えっと、気持ちはありがたいのだけれど。でも私がわざと置いてきたとは考えなかったのしら?」

「へ?」

 わざと置いてきた?……たしかに、ペンなんて何本もあるだろうから一本くらい生徒会室に置きっ放しにしても問題はないな。なるほど、置き勉とか置き傘みたいな感じで置きペンか。まだまだ俺の思慮は浅かったわけだ。

「じゃあ今から戻しに、」

「いえ、いいのよ!そこまでこだわっているわけではないから!ほら、頂戴」

「すみません」

 生徒会長は俺からペンを受け取ると鞄の中の筆箱にしまう。踵を返した生徒会長は、一歩歩いた後にこちらを振り向き、少し悪戯っぽく微笑む。

「ところで、盗み聞きをして開く扉に衝突した人は誰だったかしらね」

「あ、それは俺で、って!覚えてるじゃないですか!」

「そうだわ、急がないと!」

「無視ですか⁉︎」

 早歩きで校門へと向かう生徒会長を俺も早歩きで追いかける。すると、校門には2人の人影があった。

「飛鳥!」

「海未先輩?そちらの女の子は?」

 1人は海未先輩。背中に弓道の道具一式を背負っている。そしてもう1人。薄い金髪にセーラー服を着た美少女。どこかで見たことのあるようなないような。でもこんな可愛いこと知り合いなわけないし。誰?

「亜里沙」

「お姉ちゃん!」

「「お姉ちゃん?」」

「はい!私は音ノ木坂学院生徒会長の絢瀬絵里の妹、絢瀬亜里沙です!」

 

 

 

「まさか生徒会長だったなんて」

 学校からしばらく歩いた先の公園。そのベンチの両端に座る海未先輩と生徒会長。まだまだ日が暮れるまでは時間があり、公園内では多くの子供が遊んでいる。俺は海未先輩のそばに立ちながらそれを眺めていた。すると唐突に海未先輩が話を切り出す。たぶんファーストライブの動画の話だろう。

「どうしてそれを?」

「亜里沙さんが教えてくれたんです。聞いてください、飛鳥。実は」

「ファーストライブの映像を撮ったのは生徒会長だった、ですよね?」

 海未先輩が驚いた様子で俺を見る。

「知ってたのですか?」

「まあ」

「どうして教えてくれなかったのです!私たちが誰が撮ったのだろうと話し合っていたことは知っていたでしょう?」

 生徒会長を一瞥する。彼女には覚悟あるのか?いや、ないわけはないだろう。でなければあの時に言った言葉はただの陰口じゃないか。

「生徒会長、海未先輩に言えますか?あの時と同じ言葉を、本人の前で」

「ええ」

「飛鳥?あの時の言葉とは?」

「私が言うわ。私はあなたたちμ'sのダンスや歌がいかに人を惹きつけられないか、活動を続けても意味がないかを知ってもらおうと思ってやったの。だから、今のこの状況は想定外」

 自然と手に力が入る。どうしてそこまでμ'sがダメだと言える?どうして彼女たちが人を惹きつけられないと思える?前回は東條先輩に遮られたが、今日は彼女はいない。今頃にこ部長と仲良く(?)勉強中のはず。問い詰めるべき。

「あなたは!」

「お待たせしました!はい、どうぞ」

「あ、ありがとう」

 と、飲み物を買いに行っていた亜里沙ちゃんが戻ってくる。渡された缶を見て俺は拍子抜けする。なぜか"おでん"と書いてある。いや、中身がおでんだからなんだろうけど。俺だけかと思って海未先輩の缶も確認すると、やはりおでん。

「おでん?」

 疑問に思っていると、生徒会長が説明してくれた。

「ごめんなさい。向こうでの暮らしが長かったから、まだ日本に慣れてないの」

「向こう?」

「祖母がロシア人なの」

 ああ、なるほど。クオーターってやつね。だから金髪だったりするわけか。

 亜里沙ちゃんに向き直る生徒会長。その表情には先ほどまでのトゲトゲした感じはなく温かく亜里沙ちゃんを見るそれは、優しい姉そのものだった。へえ、生徒会長もこんな顔するんだな。

「亜里沙、これは飲み物じゃないの。別のを買ってきてくれるかしら?」

「ハラショー!わかった!」

 は、はら?はらしょー?(原マルチノ+伊東マンショ)÷2みたいな?でもジュリアンとミゲルは?

「飛鳥、悪いですが」

 生徒会長の方を見ながら海未先輩にそう言われる。なんとなく言いたいことは察した。これからの話、あまり亜里沙ちゃんには聞かせたくないのだろう。だから彼女を自販機のところで引き留めろと。その任務、承りました。

 公園から出て自動販売機の前まで来る。亜里沙ちゃんはコインを投入した後、どれを選ぶべきか迷っていた。

「あ、飛鳥さん。飛鳥さんはどれがいいですか?」

「俺はこれかな」

 迷わずオレンジジュース(缶ver)を指差す。

「美味しいのですか?」

「いや。特には」

「?」

 戸惑っている亜里沙ちゃん。ふっふっふっ、悩め悩め。そうして時間を潰すのだ!きゃー、アスちゃんなんて悪い子!

「海未さんはどれがいいんでしょうか?」

「ああ、彼女なら……」

 自販機のラインナップを確認。普通に考えたら緑茶とかでも選べばいいのだろうが、ここはあえて違うのを。ほら、よく言うだろ。常識を打ち破れ!

「これがいいんじゃないかな」

「ハラショー!ありがとうございます!」

 うん、ハラショー。この言葉、ロシア語かな?使い方はよく分からないけど、とりあえず感嘆詞として使えばいいかな?

「ハラショー!」

「どうしたの?」

 突然隣で亜里沙ちゃんがハラショー。あ、動詞としても使えるかも。いや使えないか。まあそれはどうでもよく、亜里沙ちゃんはおでんの缶を開けて驚いていた。

「本当に飲み物じゃない!」

「そうだね」

「でも、どうして何でしょうか?カレーは飲み物なのに」

「え、そうなの?」

「はい。テレビで言ってました!」

 ああ、あれか。よく大食い芸人が言うやつね。なんかこんなことも素朴に信じる亜里沙ちゃんって可愛い。

 公園の方の様子を伺う。まだ2人は話し続けている。もう少し時間を稼いだ方が良いだろう。

「ところで、亜里沙ちゃんはμ'sが好きなんだよね?誰が一番好き?」

「園田海未さんです!」

「どんなところが好きなの?」

「全部です!」

 うーん、会話が続かない。俺がコミュ障なのか?

 それはともかく、亜里沙ちゃんって素直でいい子だな。姉とは大違いだ。なんか俺の周りの姉妹って似てない人たちが多いよな。高坂姉妹といい、絢瀬姉妹といい。

「あ、そういえば!飛鳥さんって"へんたい"なんですよね?"へんたい"って何なんですか?」

「え?」

 ごめん、ちょっとうまく聞き取れなかった。俺がへんたい?変態?おかしいなぁ、亜里沙ちゃんは純粋無垢な子だと思ったんだけど。あ、もしかして入れ知恵?

「えっと、亜里沙ちゃん?それはいったい誰が言ってたのかな?」

「雪穂が言ってました。あ、雪穂って知ってます?」

「……うん、知ってるよ」

 雪穂ちゃん?君は何を吹き込んでいるんだい?たしかに俺は君のバスタオル姿とか下着姿とか見てるけども。……あれ、変態かも。

「それでへん、んっ?」

 俺は彼女の口を口に人差し指を当てる。

「いいかい、亜里沙ちゃん。女の子がそういう言葉を連呼するのは良くないんだ。わかった?」

「は、はい」

 教育完了。まったく、雪穂ちゃんめ。次穂むらに行った時にどうしてやろうか。覚悟しておきなよ?

「亜里沙、帰るわよ」

 生徒会長がこちらへと来る。その後ろから海未先輩が追いかけてきて、

「あなたに、あなたに私たちのことをそんなふうに言われたくはありません!」

 しかし生徒会長はそれを無視して歩き出す。これは亜里沙ちゃんを引き留めておいて正解だったかもしれない。

「飲みますか?」

 亜里沙ちゃんが海未先輩に缶を渡す。それを見た海未先輩は眉をひそめる。

「おしるこ?」

「はい!飛鳥さんが、海未先輩にはこれが良いと」

「……そうですか、ありがとうございます」

 亜里沙ちゃんに笑いかける海未先輩。何だろう、急に寒気がしてきた。もう日が暮れるからかな?

「飛鳥さん、今日はありがとうございました!もうへんたいって言わないようにしますね!あ、言っちゃった!」

 てへっ、と舌を出す亜里沙ちゃん。天然の悪魔ですね、彼女。その可愛げな仕草で爆弾を残していくとは。

 亜里沙ちゃんが去った後、背後に人の気配。首筋がピリピリする。

「さて、飛鳥。変態、どういうことでしょうか?」

「待ってください、海未先輩!これには山より深く、谷より高い理由が!」

「……動揺しすぎです」

 ため息を吐く海未先輩。あれ?怒らない?いつもなら『言い訳なんて見苦しいですよ、飛鳥!』とか何とか言いながらすぐに拳が飛んでくるのに。それどころではないということか。何その奇跡、ハラショー!

「飛鳥、今すぐ希先輩と会えないでしょうか?」

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