365日の魔法 作:アンパン食べたい
「にっこにっこにー♪」
「にこっち、次ふざけたらワシワシMAXやって言ったやん?」
もう完全にやばい人の顔で両手を開閉する東條先輩。にこ部長は冷や汗を額に浮かべる。
「ち、違うの!これはふざけているんじゃなくて!こうすると答えが思いつくの!」
「本当に?」
んなわけあるか。ただつっこむような野暮なことはせず、このまま展開を見守ることにする。べ、別ににこ部長がワシワシMAXされるのを見たいわけではないからね!
「そうなのよ!キャラチェンジすると脳が活性化されるっていうの?にこでーす♪今日はこの問題を解いちゃおうかなー♪」
痛い。痛すぎる。そして問題を凝視したまま固まっている様子を見るに、解けないんだろう。
「海未先輩、ポテトでも食べます?」
「お願いします」
俺と海未先輩は東條先輩とにこ部長がこのファストフード店で勉強しているという情報を得て、そこへやってきた。勉強、というよりかはにこ部長が東條先輩に遊ばれてるとしか見えなかったが。
「ご注文は」
「ポテトのM、あとスマイルください」
「……めんど」
バイト店員がわかりやすい作り笑いを1秒だけ浮かべる。おい、そんなんじゃ失格だぞ!笑顔はもっと優しく明るく元気よくだろ!伝説のメイド、ミナリンスキーを見習え!
「早く支払い」
何だこのバイトは。クレームつけてやろうか。そんな度胸ないけど。代わりにわざわざ千円札で支払いを済ませたあと、(え?万じゃないのかって?持ってないんだよ)俺はポテトを持って先ほどの座席へ。しかし、そこには海未先輩も東條先輩もおらず、自分の体を抱いて震えているにこ部長しかいなかった。
「あれ?東條先輩はどうしたんです?」
「あ、飛鳥。希なら海未と一緒にどこか行ったわよ?」
ちょっと海未先輩?人にポテトを買うように頼んでおいてひどくないですか?千円札崩したんですよ?あ、これは海未先輩関係なかった。
「何してるんだか、あの人は」
ポテトの載ったプレートをテーブルの上に置き、スマホで電話をかける。数回のコールの後に海未先輩が出る。
『飛鳥?どうかしました?』
「海未先輩⁉︎何普通に出てるんです⁉︎俺を置いてどこか行っちゃうなんて!」
『は!すみません、完全に忘れてました……。つい、生徒会長のことが気になってしまって』
いや、連れを忘れるってどうなのよ。まあこのことについていつまでも怒っていても仕方ない。逆ギレされたら怖そうだし。
「もういいですよ。それより今どこです?ポテト持って向かいますよ」
『ポテト?えっと、私は今ちょうど神田明神に着いたところです。希先輩と一緒にいます。来れますか?』
「ええ」
『では、お願いします。……ポテト?何のことでしょう?』
最後、電話を切ろうとして聞こえた海未先輩の声。俺がポテトを持っていくと言った意味が理解できないらしい。まさか海未先輩、あの時ももうすでに心ここにあらずだったんですか?……なんで俺はポテトなんて買ってしまったんだろう。返せ、250円!
「海未先輩?まさか頼んだ覚えはないとか言いませんよね?」
『えっと……。す、すみ、きゃあっ⁉︎な、何をするんです⁉︎や、やめてくだ』プツッ
突然切られた電話。……えっ?う、海未先輩が襲われた⁉︎だ、誰に⁉︎いやそれよりも早く神社に行かなきゃ!
「ポテト、あれ?」
が、テーブルの上のポテトは空。耳を澄ませば、モグモグという音が聞こえる。
「……にこ部長?」
「ふぁ、ふぁひ?」
確定ですね。犯人を発見。口一杯にポテトを詰め込んだにこ部長。俺が電話している間に急いで食べたからか、その口のまわりには塩が付いている。子どもじゃあるまいし。
手を伸ばして彼女の頬についた塩をとり、舐める。うわ、しょっぱい。
「まったく。もう高3なんですからそんな汚い食べ方、ってにこ部長?」
彼女は真っ赤になってボーッとしてる。目の前で手を振っても反応を示さない。どうしたんだろう。そこまでほっぺたに塩が付いていたのが恥ずかしかったのか?にこ部長の可愛らしい一面を発見である。
「って!こんな場合じゃない!」
慌てて俺は店を飛び出す。待っててください海未先輩!今こそ師匠との特訓の成果で強姦を追っ払います!
「海未先輩!」
全力で走ってきた神田明神。その境内の片隅にいた海未先輩は、どこか放心状態のように見える。今遠くから呼んでも何の反応も示さなかった。
「海未先輩!大丈夫ですか!」
近くまで駆け寄ってもう一度呼ぶ。今度は気付いたようで、海未先輩はこちらを見る。
「飛鳥?そんなに慌ててどうしたのです?」
「ど、どうしたって!だって電話で襲われてたじゃないですか!俺はてっきり海未先輩がレ……」
「レ?」
「いえ、何でもないです」
なんかこれを言ったら海未先輩が『破廉恥です!』とか言いながら俺を叩いてきそうだったのでやめる。それにしてもなんか変だな。いくら海未先輩が初心だとしても、強姦を知らないわけはないだろうし。つまり何もされてない?ではなぜあんな放心状態だったのだろうか?
「何かあったんですか?」
「電話の時の話ですか?まったく、酷いですよ、希先輩は!」
「ごめんな〜」
「東條先輩?」
巫女姿の東條先輩が俺らへと近付いてくる。
「海未ちゃんもまだまだ発展途上やね」
「発展途上?いったい何の話です?」
海未先輩を見る。顔を赤くした彼女は唐突に東條先輩から離れる。その腕で自分の身体を庇いながら。
「ああ、むn「破廉恥です!」ごめんなさい!」
手が飛んでくる前に謝る。そうか、そこか。たしかに海未先輩は2年生の先輩たちの中では一番小さいな。東條先輩と比べればその差は歴然。
「……にこ先輩の気持ちが少し理解できました」
要するに、東條先輩にワシワシをされたということか。何だ、紛らわしい。
「まったく、東條先輩も電話中にそういうことをしないでくださいよ。するなら俺の目の前でやってください」
「了解や。それじゃあ今からやる?」
「な、何を言ってるんですか⁉︎やめてください!」
「冗談やん。それじゃ、ウチはバイトがあるから」
慌てて後退りする海未先輩。東條先輩の言うとおり、冗談ですよ、冗談。三割くらい。
「そんなことより大事な話があります、飛鳥」
大事な話?も、もしかして告白⁉︎……それこそ冗談ですよね、ええ。わかってますよ。100パーセントあり得ませんもんね。
「これを見てください」
海未先輩に一つの映像を見せられる。その映像では、金髪の小さい子が華麗に舞っていた。この髪、もしかして
「生徒会長、ですか?」
「はい。希先輩が教えてくれました」
その踊りはすごかった。バレエのことをほとんど知らない俺でも感動し、いつまでも見ていたいと思えるくらい魅力的な踊り。こんな踊りを踊れるのだったら、たしかにμ'sなんて大したことないのかもしれないと思わざるを得なかった。
「納得させられました。彼女が私たちを認めない理由を。A-RISEすら素人にしか見えないと言っていた理由を」
そんなこと言ってたのか。でも、頷けてしまう。このレベルの技術を持っている生徒会長からしたら、スクールアイドルなんて所詮、学校に入学してから練習を始めた素人。人前で踊るのが愚行に見えるほどに不慣れ。
「私は、自信を失いました。μ'sはこのレベルになれるのでしょうか?生徒会長に認められる日が来るのでしょうか?」
「そんなの」
来るに決まってる。そう言おうとして言葉が喉につっかえる。分からなかった。絶対にこのレベルに到達できるという自信はなかった。その代わりに別の言葉が出そうになった俺は慌てて口を閉じた。
「いい?穂乃果、凛」
「わかってます、にこ先輩!行くなら今しかありません!」
「凛もそう思います!」
「そう。部室になぜか心ここにあらずな状態の飛鳥しかいない今しか、私たちが屋上に行くチャンスはないの!この地獄から抜け出すには今しかないのよ!」
「「おー!」」
穂乃果先輩、にこ部長、凛が部室から出ていく。赤点回避のために昼休みも部室で勉強となっていたのだが、にこ部長の言っていたようになぜか今この部屋には俺しかいない。その俺も、勉強など頭にはなかった。
昨日見せられた生徒会長の映像。華麗に舞う幼き日の生徒会長の姿が脳裏に焼きついて離れない。これじゃあまるで俺が生徒会長に恋してるみたいじゃないか。いや、実際にその映像の中の少女に恋しているのだろう。俺は彼女の踊りに惹きつけられている。一時も忘れられないほどに。これはまさに恋だろう。
「あれ、佐々木君しかいないんやな。他の人たちは知らない?」
「屋上だと思います」
「へえ〜、ありがとね」
誰かが部室に来て俺は質問に答えた。ただ、考え事に集中していたために確認は取らなかった。その人も見なかったし。まあ問題ないでしょう、たぶん。まさかの幽霊じゃあるまいし。
それよりも、μ'sはこれからどうしたらいいのだ。どうしたら、生徒会長のレベルまで上達できる?
「少し刺激が強すぎたみたいやね。……こっちもね」
しばらく悩んでいたところ、再び部室に人が入ってくる。その時になって初めて顔を上げる。東條先輩がにこ部長、穂乃果先輩、凛の3人を引き連れて部室に入ってきたところだった。その後ろには海未先輩が見える。しかし、彼女の表情は暗い。たぶん、俺と同じ理由で。
「希?教材が何もないんだけど?」
「うーん、そろそろ届くはずや」
その時、ドアを開けて残りの人たちが入ってくる。花陽、真姫、ことり先輩はそれぞれ大量の問題集などを抱えている。
「お待たせしました!」
「これ、重すぎ」
「よいしょっと。ふぅ、重かったぁ〜」
「今日のノルマはこれね!」
東條先輩が指し示したノルマ。それは花陽、真姫、ことり先輩が運んできた問題集に参考書、教科書。机の上に積まれたそれは、ゆうに高さ30センチは超えているのではないだろうか。これを1日で?ご愁傷様です。
「こんなにできないにゃ〜」
「そうよ!希、もう少し減らしなさいよ!」
「あれ〜?まだお仕置きが足りない子がいるみたいやな〜」
身を乗り出し、ワシワシの構えをする東條先輩。それを見た凛やにこ部長は顔を引き攣らせる。
「ことり、穂乃果を頼みます」
「海未ちゃん?」
唐突に海未先輩が部屋から出ていく。
「もしかして穂乃果先輩のあまりのバカさ加減にもう付き合ってられないということ?」
「アスちゃん⁉︎それどういう意味⁉︎」
「そのまんまですよ」
「もー!バカにしすぎだよ!これでも「46×36ええっ⁉︎え、えっと……」
まあ違うだろう。おそらくは勉強のことではなく、昨日の生徒会長のことだろう。本人に聞きにいくつもりなのだろうか?
「わかんないよ!アスちゃん、答えは?」
スマホを取り出す。えっと……あった。
「46×36は、1656ですね」
「電卓⁉︎ズルくない⁉︎」
穂乃果先輩が何やら騒がしいが気にしない。答えが知りたかったんでしょ?別にいいじゃん。
「ちょっと俺、追いかけます」
「待って」
椅子から立ち上がると、東條先輩に止められる。
「ウチが行く」
「先輩が?」