365日の魔法   作:アンパン食べたい

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やり過ぎには注意

「ここが凛の家?思ったより普通ね」

「真姫?何を基準に判断してるの?一応言っておくと、君の家は普通じゃないからね?」

 俺らの前に立っている建物には星空という表札がある。そう、凛の家だ。ここに来るのは凛を送った時以来である。普通って言ったって、一軒家である時点で俺の住んでるボロい集合住宅よりずっと豪華だと思う。

「なあ、本当にいいのか?」

「凛が良いって言ってるんだから良いでしょ。インターホン押すわよ?」

 ピンポーン、

「ほら!早く入るにゃ!」

 インターホンを押すとすぐに凛が玄関を開けて出てきた。凛が俺の腕を引っ張る。いや、だから待て。

「やっぱり俺は帰るよ、うん。それが一番良い」

「良くないの!」

 俺は強引に凛の家に引きずり込まれた。その後ろから真姫もくっついて入ってくる。玄関には猫の人形が飾られている。

「花陽は?」

「もう中にいるよ」

「あ、飛鳥君。真姫ちゃん」

 すでに凛の家のダイニングテーブルに座っておにぎりを食べている花陽。さすがは幼馴染。随分と寛いでますね。真姫の家に行った時はあんなに緊張していたのに。ああ、もしかしたら親がいないからかもしれない。親がいない。

「いや、やっぱり俺が泊まる(・・・)のはまずいって!」

「そうかにゃ?」

「そうだろ!考え直すんだ、凛」

 さて、なぜ俺が凛の家に真姫や花陽と一緒に泊まることになったのか。それを説明するにはあの昼休みまで時間を遡らなければならない。

 

 

 

 東條先輩が海未先輩を追って部室を出ていってから数分。やがて二人は戻ってきた。出ていく前と違っていたのは海未先輩の表情。その瞳は強くて悩んでいる様子はなく、何かを決心したみたいである。

「穂乃果!」

「海未ちゃん?」

「今日から穂乃果の家に泊まり込みます!」

 へぇー、泊まり込みか。そこまでして教えるなんて随分と熱心だな。ただ、穂乃果先輩はあまり歓迎していないみたいである。

「ええ⁉︎海未ちゃん本気⁉︎」

「もちろんです!穂乃果、頑張って赤点を回避しましょう!」

 部室を出る前と違ってかなり生き生きとした顔をしている海未先輩。何があったんだろうか。

 東條先輩を盗み見る。俺が見ていることに気付いた東條先輩は微笑む。彼女が焚きつけたのか。

「あ、それいいにゃ!」

「凛ちゃん?」

「凛たちも勉強合宿しようよ!ちょうど凛の家は今日は誰もいないし!」

 凛はそこまで勉強したいんだ。感心だな。……まさか勉強合宿と称して遊ぶわけではあるまいし。違うよな?

「ね、いいと思うでしょ、アスにゃん!」

「いいんじゃないか?それじゃあ花陽、真姫。凛は頼んだぞ」

「何言ってるの、アスにゃん。アスにゃんも来るんだよ?」

「……は?」

 

 

 

「なあ、やっぱり帰るよ」

「ダーメ!それは凛が許さないよ!」

 別に凛に許されようと許されなかろうとどっちでも構わないのだが。問題はそこではない。

「倫理的に認められないだろ。こんな年頃の男女が同じ家で寝るなんて」

「大丈夫!凛はアスにゃんのことを信じてるから!」

 誰か教えてください。俺は信用されていることを喜べばいいんでしょうか。それとも遠回しにヘタレだと言われているのを怒ればいいんでしょうか。或いはこれほどまでに無頓着な友人に呆れればいいのでしょうか。たぶん全部だな。

「ほら、ことり先輩に迫られてた時も何もしなかったでしょ?」

「ちょっと待って!迫られたってどういうことよ、アス!」

 なぜか真姫が食いついてきた。すると、凛が真姫に何やら耳打ちする。

「真姫ちゃん、順番の時の話だよ」

「っ!あの先輩!油断も隙もないわね!」

 その後も二人で何やら話し合っていたので、手持ち無沙汰になった俺は凛の家を見て回る。

 様々な可愛らしい猫のグッズがいたるところにある。さらにリビングにはたくさんの本が散乱していた。これ全部料理本か?『2分50秒クッキング』に『初心者のための料理ブック』、『好きなあの人の胃袋を掴め!』なんてのもある。凛に好きな人っているの?

「なあ、凛。凛の好きな人って誰?」

「にゃあああ⁉︎そ、それは別に凛のじゃないから!」

 俺から料理本を奪い取る凛。他にもそこら中に散らかっていた本を拾い集めると台所の電子レンジの上に置く。

「別にアスにゃんに調理実習でバカにされたからとかそんな理由で料理の練習なんてしてるわけないにゃ!」

「さいですか」

 そんなに俺より料理できなかったことが悔しかったのか。そりゃ悔しいか。でもそんな見られたくないんだったら俺らが来る前に片付けておけば良いのに。

「それより早く凛の部屋に行こう!」

 先頭を切って廊下を走る凛。案内された二階の凛の部屋。リビングと違って物が散らかっていない。あ、でもよくよく見てみると棚に無理やり詰め込まれた形跡がちらほら。どうやら俺らが来る前に急ピッチで片付けたみたいだ。そっか、それでリビングを片付ける暇がなかったのか。

「はい、これ!」

 凛に手渡されたのはテレビゲームのコントローラー。あれ、勉強は?

「ちょっと凛!どういうつもりよ!」

「まずは息抜きからにゃ〜」

「私はやらないわよ!それよりも凛!勉強しなさいよ!ラブライブ!のエントリーがかかっているんだから!」

 小さめのテレビの電源を入れる凛。振り向いた彼女はその顔に不敵な笑みを浮かべる。

「あれ〜?真姫ちゃん勝つ自信がないのかにゃ〜?」

 おいおい、まさかあの真姫がそんな安っぽい挑発に乗るわけ、

「な、何言ってんのよ!そんな訳ないじゃない!見てなさい、私の本気!」

「お!いいねいいねー!じゃあ4人で対戦しよ!」

 ……チョロすぎだろ。まあ少しくらいはゲームしてもいいだろう。最近は学校では休む間もなく勉強し続けていたわけだし。30分かそこらくらいなら。

 こうして、戦士達の戦い(soldier game)が幕を開けた。

 

 

 

「化け物か……?」

 俺は床の上に座りながら愕然とする。まただ。てか、足痺れた。どうして俺だけ床なの?

「ふっ、私の勝ちね」

 凛の机の椅子に腰掛けた真姫が得意そうな顔をする。

「あー!悔しい!もう一回にゃ!」

 ベッドの上に花陽と並んで座る凛が足をばたつかせる。子どもじゃないんだから。

「これで凛ちゃんが50勝、真姫ちゃんが51勝、私が3勝、飛鳥君が……」

 申し訳なさそうな顔をして俺を見る花陽。

「ぜ、0勝かな?」

「弱いわね、アス」

「真姫と凛が強すぎるんだよ!」

 おかしい。この二人はおかしい。最初の方は凛が全戦全勝だったのだが、途中から真姫が勝ち始める。たぶん彼女はこのゲームのプレイは今日が初めてなのだろう。それにも関わらず、のみこみが早すぎる。

「ねえ、もう一回!」

「イヤよ。もう何時だと思ってるわけ?11時よ、11時!」

 そう。30分くらいのつもりが数時間にわたってプレイし続け、今はもう午後11時。さすがにそろそろやめたほうがいいだろう。まだご飯も食べてないわけだし。

「そう言って、真姫ちゃん勝ち逃げするつもり?そんなの凛が許さないにゃ!」

「いいだろ、たかがゲーム。そんなムキになるなって」

「勝ちなしは黙ってて!」

「な、凛!ちょ、やめ、つあああ!」

 ベッドの上から凛が足で俺の足をつつく。足が痺れている俺には効果抜群である。本当、やめてください(切実)。

 しかし勝ちなしと馬鹿にされるのは腹立たしい。俺だってまともな奴とやれば勝てる。

「花陽との一対一だったら負けない!」

「そう言って3回負けたじゃん」

「あ、あれは偶々だ!」

 実は花陽の3勝というのは、全て俺とのタイマンによる結果である。どうしても勝てない俺と花陽の優劣をつけるために、特別に行われた3本先取の5本勝負。あっけなく俺はストレート負け。仕方ないじゃん!あの花陽が『ど、どうしよう……』とか、『お、お願い、攻撃しないで!』とか言うんだよ?そんなの、攻撃できるわけないじゃないか!必然的に負けるしかないんだよ!……あれ?偶々じゃない?

「とにかく、腹減った。早く夕食にしよう」

「はあ?意味わかんない」

 真姫が呆れたようにため息を吐く。いいじゃんか、腹減ったんだ。

 グゥ〜

 と、誰かの腹が鳴る。俺ではない。発生源はベッドの上のショートカットの女の子。

「も、もう!しょうがないにゃ〜、アスにゃんがそう言うならご飯にしよう!今日は凛が作るにゃ!」

 顔を赤くしてそんなことを言う凛。立ち上がると急いで部屋を出ていく。残った3人で顔を見合わせ、笑みがこぼれる。凛も可愛らしいよな。

「って、ちょっと待てよ⁉︎今凛が作るって言ってたか⁉︎」

 思い出されるのはめためたに刻まれた魚。あれと同等のものを食えと?そんなの腹を壊すに決まってる。

 慌てて部屋を飛び出し、キッチンへ。

「なあ、凛「パチッ」?」

 その時、何かの音がした。凛が手に持っているのは電気ケトル。おれか、俺は『あっ!』って言えばいいのか?するとその後にティフ……まあ、そんなのはどうでもいいや。

「あと3分待って」

「カップラーメン?」

 凛が作っていたのはカップラーメンだった。これなら不味くはならないだろう。そういえば、調理実習の時にカップ麺をよく作ると言っていたな。得意料理らしい。いや、料理じゃないけど。

「てっきり本当に料理するのかと思ったよ。ほら、料理本こんなにあるし」

「だ、だから!これは凛のじゃないって!」

 そんなこと言って。親が料理初心者なわけないだろ。何年料理作ってるんだよ。

 ただ、凛は頑張っているのだろう。やっぱり女の子としては男子よりも料理ができないのは悔しいみたいだ。凛も十分女の子らしいじゃん。よし、励ましの言葉でもかけてやるか。

「まあその、なんだ。頑張れよ。凛の手料理、楽しみにしてるから」

「え?」

 ぽかんとする凛。いや、そこは『了解にゃ〜』とか明るく返してよ。穴があったら入りたいくらい恥ずかしいんだけど。

「えっと、あり「ピピピピピピ!」あ、もう時間だね!」

 凛は四つのカップラーメンをダイニングテーブルへと運ぶ。同時に箸も用意する。

「凛ちゃん、カップラーメンなの?」

「う、うん」

「……体に悪そうね」

 一階に降りてきた花陽と真姫。しかし真姫よ。冷凍食品の解凍しかできないお嬢様が何を言ってるんだ。君の得意料理(料理とは言わない)も大差ないぞ?

 全員が席に着くと、凛が音頭を取る。

「いただきまーす」

『いただきます』

 しばらく、麺を啜る音だけが部屋に響く。みんながみんな、特に喋ることもなく黙々と食べる。それだけみんな疲れているんだろう。本当、ゲームのやりすぎ。

 やがてみんなが食べ終わった頃に凛が、

「明日は何して遊ぶ?」

「勉強かしらね」

「わ、私もそれがいいと思うな」

「えー?勉強ー?」

 不満げな凛。あのね、覚えてる?このお泊まり会って元々勉強合宿だったんだけど?

「ねえ、アスにゃんは遊びたいよね?」

「そうだな、勉強するか」

「でっしょー!」

「真姫?」

 うん、あまりにも疲れすぎてるみたい。キャラ崩壊かな?……まさかこれが素なの?まさか。

「凛は勉強したくないにゃ〜」

「今日はもう遅いから、明日決めればいいんじゃないかな?」

「そうだねー」

 花陽が妥協案を出す。凛はそれに同意。なるほど、さすが幼馴染。扱いに長けている。

「凛たちはお風呂入るね。アスにゃんは食器洗いでもしとくといいにゃ」

「え?」

 結論が出るや否やすぐにダイニングを出ていく3人。まあ食器洗いは構わない。どうせ箸だけだし。ただ、俺の脳内にはあの天使と悪魔がやってくる。

『おい、飛鳥。覗け覗け!チャンスだぞ、チャンス!』

『ダメだよ、飛鳥!決して欲に負けないで!』

 じゃあ俺はどうすればいい、佐々木エル。

『ここは凛のために何かするべき。そう、部屋の掃除がグッドだね。洗面所なんか掃除s』

 お前も悪魔じゃねぇか!

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