365日の魔法   作:アンパン食べたい

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時間が経つのは早い

「あいつら、怒ってるかな」

 にこ部長との遭遇により予想以上に、いやかなり時間がかかってしまった。もう昼前である。凛の家の玄関の前に立って俺は心配になる。あいつら、相当腹空かして待ってるんだろうなぁ。

「よし!早く作ってやろう!」

 出る前に借りておいた鍵で玄関を開け、中に入る。

「ただいま!」

「……」

 しかし、何も返ってこない。腹が減りすぎてダウンした?そんなわけないか。大方二階の凛の部屋で勉強でもしているんだろう。

 階段を上って凛の部屋へ。ドアの隙間からは明かりが漏れている。やっぱりこの部屋か。ドアに手をかける。

「ただい、「飛鳥君、助けて〜!」花陽?」

 ドアを開けた瞬間、泣き顔の花陽に助けを求められた。誰だ、花陽を泣かした奴は!凛か?真姫か?

 部屋に入ると、テレビの前に張り付く二人の女の子。その手に握られたコントローラーがカチャカチャと軽快な音を鳴らしている。むしろ喧しいくらいに。

「くらうにゃ!凛の必殺技!」

「そんな攻撃がこの私に通じるとでも?」

 昨日のあのゲームに熱中する二人。3人で対戦をしているはずなのに、花陽のキャラだけがすでにもうゲームオーバー。二人によるタイマン状態である。つまり、どっちもだった。

「って、何でゲームなんかしてるんだよ⁉︎」

「真姫ちゃんがやりたいって言ったんだにゃ」

「な、何で私が!凛でしょ!」

「えー?そうだっけ?あ、かよちんかも!」

「ええっ⁉︎私⁉︎」

「間違いなくお前だろ、凛!」

 こちらを向いて、ぺろっと舌を出す凛。あ、でもそんなことをしていると、

「もらったわ!」

「にゃああああ⁉︎」

 テレビの画面に映る2P WINの文字。勝負に決着はついたみたいだ。

「アス、ご飯はまだなの?」

 コントローラーを片しながら真姫が尋ねてくる。

「まだだけど?今買い物から帰ってきたところだし」

「早くしなさいよね」

 ……あのなぁ。お前らが勉強していたのならまだしも、ゲームしていたんだろ?何でそんなふうに言われないといけないんだか。

「真姫ちゃんもう一回!」

「いいわよ。まあ何度やっても同じでしょうけど」

「言ったにゃ〜!後悔させてやるにゃ!」

 まだゲームを続けるらしい彼女たちを部屋において俺は一人で階下へ。買ってきた食材をテーブルに並べて眺める。なんか作る気が失せたな。なぜあんなにゲームをしている奴らのために朝食、いやもう確実に昼食の時間だが、を作らなければならないんだか。

「あの、飛鳥君」

 花陽が一階に下りてきた。どうしたんだろう?またあいつらか?一言ガツンと言ってやるか。

「良かったら、一緒に作ってもいいかな?」

「ぜひお願いします!」

 花陽が降臨()りてきていた。さすが天使です!俺の脳内にいるエセとは違う!

「私は何をすればいいのかな?」

「そうだな、ご飯を炊いてくれるとありがたい」

 花陽と一緒に朝食(時間的にはもう昼食)作り。やばい、テンションが上がる。だってほら、新婚夫婦が祝日に一緒に料理してますみたいな感じがするじゃない?大した料理作らないけど。

「なんだか夫婦みたいだね」

「そ、そうかな?そう見えるかな?」

 俺から顔を背けて炊飯ジャーと睨めっこを始める花陽。あれ、あまり嬉しくないのかな?あ、俺みたいな普通の人と夫婦みたいと言われて喜ぶ人なんていないか。少しショック。

 俺はフライパンを取り出すと、目玉焼きを作る。しっかりと熱したフライパンに卵を投入。少し水を入れてから蓋を閉じる。俺は完熟派。中途半端は嫌いなのだ。

 その間に電気ポットでお湯を沸かす。生タイプのインスタント味噌汁のためだ。えっ、手作りじゃないのかって?ごめん、手間かかるから朝食にはちょっと。まあ、時間的には(ry

「何作ってるのー?」

「ふーん、味噌汁以外にも料理できたのね」

 二人が一階に下りてきた。ふっ、それくらいできなければご飯大好きな花陽の婿にはなれないだろ。そもそも俺がなれるとは思えないが。というより、この程度で感心しちゃうの?目玉焼きしか作ってないけど?

 凛と真姫はそのままテーブルにつく。おい、手伝え、いややっぱりいいや。上達しているのかもしれないけど、それでもやはり危ない橋は渡りたくない。朝食で腹を壊したくなんかない。もう昼だけど。

 レタス、キュウリ、トマトなどの野菜を水で洗ってから適当に切る。それを適当に盛り合わせて塩をかける。はい、生野菜サラダの完成。え、手抜き?なんのこっちゃ。

「ご飯炊けたよ〜」

 花陽が炊飯ジャーを持ってくる。ぱかっとそれを開けると中には炊きたての白米が溢れそうなくらい入っている。あれ、でもそれ何合?たしか1合が茶碗2杯分とかだった気がするから、2合あれば足りるはず。でも明らかにそれ以上入っている。

「5合炊きました!」

「誰が食べるの⁉︎」

「私が!」

 ああ、そういえば花陽は大食漢だったっけ。鎌倉でコロッケを五つも買わされた覚えがある。あれ、でも大食漢って男の人に使う言葉だっけ?まあどっちでもいっか。『うつりゆくこそことばなれ』って誰かも言ってたし。

 食卓に並べられた朝食、ただし時間的には(ry、を見て真姫が一言。

「質素ね」

 悪かったな、君みたいな裕福な家庭育ちじゃないんだ。これよりもさらに簡略化されたものがうちの朝食なんだよ。

「嫌なら食べなくていいんだぞ」

「た、食べるわよ!アスが作ったから、じゃなくてお腹空いたの!」

「そうかい」

 まあそりゃ空くだろう。もう昼だし。

 各々がごはんを盛って、食べ始める。まずは目玉焼きを一口。うん、完全に中まで熱が通っている。ばっちり。

 次に、サラダを食べようと思って箸を伸ばす。が、そこにはなぜか緑色しかない。あれ、トマトは?もしかしてもう全部食べちゃったの?気になって他の人の茶碗を見る。

 凛。特になんの特徴もない。強いて言うなら茶碗に描かれた猫が可愛い。

 花陽。大盛りだ。いや、特盛。茶碗の2倍はあるんじゃないかというくらいのごはんが盛られている。ただし、トマトは見当たらない。

 真姫。ごはんの上に赤い山ができている。トマトの山積み。

「お前か!」

「別にいいでしょ。早い者勝ちよ」

「あー⁉︎真姫ちゃん独り占め⁉︎凛も食べたいにゃ!」

 凛がテーブルの上に身を乗り出し、真姫の茶碗から箸でトマトを取ろうとする。それを自分の箸で防ぐ真姫。

「第二ラウンドにゃ!」

「ゲームで勝てないからって、ここでやるつもり?まあいいわ。受けて立とうじゃない!」

「あ、あの、食べ物で遊ぶのは……」

 花陽の消え入りそうな忠告もむなしく、二人の壮絶な攻防が始まる。ああ、埃が舞う……。

「花陽、向こうで食べよう」

「そ、そうだね」

 自分と花陽のご飯の入った茶碗と炊飯ジャー、サラダの皿を持ち、小さめのテーブルに移動する。花陽も後からついてくる。

「器用だね」

 花陽に言われて手元を見る。右脇に抱えた炊飯ジャー。右手には箸。一方、左の手首にはサラダの皿。左手には茶碗が2つ。ああ、無意識にやってたけど結構すごいのかも。

「まあ、慣れてきたからな、ば」

「慣れて……?」

「あ、いや。何でもない。さ、食べようぜ」

 危ない危ない。もう少しでバイトのことを話すところだった。あのメイド喫茶で食器洗いとかの仕事をしているうちに、曲芸じみたことをできるようになってしまったのだ。

「おいしいね」

「ありがとう」

 ほんの二言三言交わしただけで、あとは黙々と食べる俺たち。まるで老夫婦みたいだ。いつの間に歳をとってしまったんだろう。あ、さっきかぶった埃が実は玉手箱の……何をわけのわからんことを言っているんだ、俺は。

 食べ終わったところで、炊飯ジャーを覗いてみる。すでにほぼ空。本当にあれだけのごはんを食べたのか。失礼かもしれないけど、太らないのだろうか?

 花陽の体型を見る。少しぽっちゃりしてるかな?でも、大きいのは腹ではなくてその上。まるで栄養分がみんなそこに集められたかのように、

「あーーーー⁉︎何を考えてるんだ、俺は!煩悩退散、煩悩退散!」

 椅子に昨日と同じ箇所を打ち付ける。ジンジンとした痛みがやってくる。

「あ、飛鳥君?ど、どうしちゃったの?」

「ごめん、花陽」

「な、何が?」

 そろそろ出血するんじゃないかというタイミングでやめる。さすがに出血すると凛の家にも迷惑がかかるし。でも、頭が痛くてクラクラしてくる。あれ、花陽が2人に見えて……。

 

 

 

「痛え……」

 ズキズキと痛む額に手を当てる。すると、冷たい何かに触れた。氷の入った袋だ。

 体を起こすと俺は今朝と同じソファに寝ていたことがわかった。あれ、でも俺は朝食、ただし(ry、を食べていたはずである。

「あ、アスにゃんが起きたにゃ!」

 俺が起きたことに気付いた凛が駆け寄ってくる。その手にはトランプが数枚。どうやらトランプで遊んでいたらしい。勉強は?

「アス、頭は大丈夫なの?花陽から聞いた話だと奇行に走ったらしいけど」

「真姫、その言い方だと俺の頭が狂っているけど大丈夫なのか?みたいな意味に聞こえるんだけど」

「自覚症状ありね」

「おい」

 別に俺は頭が狂っているわけではない。ただ、変な妄想が止まらないだけ……あれ、もしかしておかしい?

「その、よかったらうちの病院に入院させてあげるわよ?そうしたら私が」

「俺は精神的に何かを患ってないから!」

 人を何だと思っているんだか。病院に入院とか勘弁してほしい。

「飛鳥君、本当に大丈夫なの?」

 優しく聞いてくれる花陽。どこかの誰かさんとは違うな、うん。

「大丈夫。ちょっと血迷ったというか何というか」

「良かった〜。私が何か嫌なことをしちゃったんじゃないかな、って思ってて」

 そんなことを気にしていたのか。花陽のすることを俺が嫌だと思うわけないじゃないか。

「全然そんなことないよ。むしろ花陽と一緒にいると楽しいよ。ずむといたいくらい」

「えっ、それって」

 花陽に気にしないようにしてもらおうと思って言った言葉。しかし場が凍る。俺、何か言ってはいけないことでもいった?

「よ、よーし、じゃあアスにゃんも一緒にトランプするにゃ〜」

「え?勉k「そうね。それがいいわ。アスのせいで変な空気になっちゃったし」あれ?」

 トランプの山が置かれたテーブルへと向かう凛と真姫。ちょっと?勉強は?もいうか俺のせいって何?

「あのね、罰ゲームがあるらしいんだ。負けた人はみんなにジュースを奢るんだって」

 花陽が説明してくれる。でも、うん。べ(ry

「かーよちーん!アースにゃーん!早く来るにゃー!」

 凛が椅子から身を乗り出して俺らを呼ぶ。楽しそうな彼女を見ていると、何だか勉強しなくていっか、みたいな気持ちになってくる。仕方ないな。

「俺は強いぞ?」

 まだ昼過ぎ。1日は長いのだ、この後勉強すればいいだろう、うん。

 

 

 

「ただいまー」

 両脇に数本のオレンジジュースを抱えてマイハウスに帰宅。玄関を蹴り開けて中に入ると、顔面パックをしたアラフォーのおばさ、

「誰がアラフォーじゃい!」

 蹴り飛ばされた。人にやられたくないことは物にもやっちゃいけないみたいだ。

「どうしたの、そのジュース」

「ああ、ちょっと賭けで」

 あれ以降続いたトランプは俺の圧勝。昔からトランプは得意なのだ。よく知人と2人で永遠とやっていたりしたし。

 その戦利品のオレンジジュースを冷蔵庫にしまう。しばらくは毎日一本ずつ飲めそうだ。

 楽しいお泊りだった。ゲームもした、ご飯も作った。それにしても、何かをし忘れたような気がする。

「勉強はどうだったの?」

「あ」

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