365日の魔法   作:アンパン食べたい

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前日ですが

「明日だ……」

「明日にゃ……」

「明日にこ……」

 参考書から目を上げると、3人の女子が机の上でぐったり気味。原因は明日にある。

「何をしているのです、早く勉強をしてください。テストは明日なのですよ?」

 3人に注意する海未先輩。日曜日にバイト先でことり先輩に聞いた話だと、穂乃果先輩の家でみっちり穂乃果先輩と勉強したらしい。それ以降、穂乃果先輩は海未先輩を見るたびに"判別式D=b^2−4ac"とまるで呪文のように唱えるようになったとか。いったい何をしたのか。

 それにひきかえ。

「凛ちゃん、頑張らないと」

「かよちんは元気にゃ〜。凛はもうダメかも」

「り、凛ちゃん。日曜日も遊んじゃったんだから今日こそは勉強しないと!」

 勉強しなかった勉強合宿の翌日、日曜日。凛と花陽は一緒に勉強をしようとしたらしい。ただ、花陽がうまくのせられて全く勉強をしなかったらしいが。

「みんな疲れてるんやね」

 深刻そうに考え込む東條先輩。

「そうですかね?凛なんてまったく疲れてない気がするんですけど」

「そんなことないよ!」

 飛び起きた凛はフシャーッ!とか言いながら俺に飛びかかる。見るからに元気が余っている。

「お前は猫か」

 あ、そういえば凛の家には猫がいなかったな。これだけ猫が好きなら飼っていそうなものだけど。

「希ー。息抜きがほしいんだけどー」

 すでに休みながら息抜きを求めるにこ部長。彼女には妹のことを他のメンバーには言うなと念を押された。なぜ他の人には言わないのだろうか。気になる。

 けど、それ以上に俺的にポイントなのはにこ部長に借りを作ったという事実。ふっふっふっ、これがあれば何でもできちゃいそうだ。こういう時は体の要……ちっ、使えねえ。

「飛鳥。今失礼なこと考えたわよね?」

「イエナニモ?」

 なぜばれたし。その幼い顔と体には似合わず推理力は高いとか?どこの少年探偵団だよ。

「佐々木君、そういうことを白昼堂々と考えるなんて度胸がついてきたんやない?」

 ニヤニヤしている東條先輩に肘で小突かれる。ああ、そうだった。スピリチュアルなこの先輩は俺の思考を読み取ってくるんだった。

「でも、たしかに息抜きは必要かもしれませんね」

 顎に手を当てて考え込む海未先輩。うわ、美人。考え込むその横顔が大人っぽい。

「飛鳥?私の顔に何か付いてますか?」

「いや、何でもないです」

 キョトンとする海未先輩。普段のキリッとした海未先輩とは違う表情、これは可愛い。これがいわゆるギャップというやつなのか?すごい効果だ。あの怖い海未先輩がこうも魅力的に見えてしまうなんて。

「……何か失礼なことを考えてませんか?」

「イエナニモ?」

 なぜば(ryしかしにこ部長と違って海未先輩がそういうことに鋭いというのは納得がいく。海未先輩は勉強もできて賢いし。

「話を戻しましょう。希先輩のおっしゃった通り、息抜きも大切ですので少し休憩時間を、「解散でいいんやない?」解散?」

 東條先輩が提案した解散。それって、今日は勉強会をおしまいにするということ?

「前日ですよ?」

「だからやん。早めに切り上げて、あとはリラックスするのもいいと思うな。他には神頼みとか」

「「「そうしよう!」」」

 問題の3人がその話に食いつく。本当に大丈夫なのだろうか?特に凛。この週末、まったく勉強していないのに。

 結局解散が決定し、一目散に問題児たちが帰宅していく。他の人もみんな部室から出ていき、残ったのは俺と東條先輩。

「いいんですか?」

「言ったやん?あとは神頼みすれば大丈夫」

 神頼み。たしかに東條先輩ならそれでもいいのかもしれないけど。彼女たちにはスピリチュアルパワーなんてないんだから。

「だから。この後一緒に神田明神に来て?」

「俺が?」

 あとでねと言い残して先に部室を出る東條先輩。なぜ俺が一緒に行くのか理解できないが、いつまでも部室にいても仕方ないのでそこから出る。外では戸締りのためか海未先輩が待っていた。でもどこか不機嫌。

 若干乱暴に鍵をかけながら、海未先輩が話しかけてくる。

「そういえば飛鳥、土曜日は凛の家に行っていたんですよね?」

「そうですけど?」

「稽古の件はどうしたんです?」

 あ、忘れてた。

「師匠、怒ってます?」

「そうですね、普段よりも鍛錬に力が入っていました」

 怖い。それって俺をやっちゃおうってこと?次に行った時にコテンパンにされちゃうの?それは困る。例えば、ただでさえフツメンの顔が傷ついたら一生彼女ができなくなる。……困る理由それかよ。

「海未先輩、一緒に謝りに行ってください」

「なぜ私が」

 俺が思うに師匠は親バカだからだ。ことあるごとに海未先輩のことを褒めている。やれ海未は美人だの、海未は家事もできるだの、いい嫁になるだの。まるで俺に売り込むみたいじゃないか。海未先輩の気持ちを無視してそんなふうに俺みたいなのに売り込んでも意味ないのにね。

「自分で謝ってください。私は知りません」

「冷たくないですか?」

「当たり前です。女子の家に泊まりに行って浮かれている飛鳥に優しくする義理はありません」

 べ、別に浮かれてなんかないし?遊ぶためじゃなくて勉強……してないな。やっぱり浮かれてたのかも。

「それよりも。ここにいて良いのですか?希先輩とデートするんでしょう?」

 あ、デートか。たしかにそうも見えなくもない。デート、良い響きだなぁ。東條先輩とデート。悪くない。

「……気持ち悪いですよ?」

 おっと、どうやらニヤニヤしていたみたいだ。気を付けないとな。

「飛鳥は希先輩が好きなのですか?」

「違いますけど?」

「ではなぜそんなに嬉しそうなのです?」

「美人の海未先輩には理解できないかもしれませんが、モテない男にとって女子とデートというのはそれだけで嬉しいものなんですよ」

 たぶん。少なくとも俺は嬉しい。だってデートとかしたことないし?したことないんだよ、爆ぜろリア充!

「そうですか」

 やはり顎に手をあてて何かを考え込む海未先輩。うん、これからこのポーズは考える海未先輩と名付けよう。

 それはともかく、東條先輩を待たせているのだから早く行った方がいいだろう。デートに遅れる男なんて最低だしな。……デートではないんだけど。なんか悲しい。

 

 

 

「テストで誰も赤点を取りませんように!」

 両手を合わせて祈る。どうか、凛や穂乃果先輩、にこ部長たちが赤点を取りませんように。ラブライブ!にエントリーできますように。……あわよくば彼女ができますように。

「随分と長いんやね。何をお願いしているのかな?」

 一通り神頼みをした後、振り向くと巫女さんの格好をした東條先輩が竹箒を持って立っていた。

「それはもちろん、誰も赤点を取りませんようにって」

「本当にそれだけなのかな〜?」

 怖いくらいにニコニコした笑顔で聞いてくる東條先輩。その顔には、『もう分かってるから正直に白状しな?』と書いてある。やっぱりこの人に隠し事はできないみたいだ。

「あわよくば彼女ができますようにと」

「本気で気付いてないんやね……」

 呆れたようにため息を吐いた東條先輩は俺の横に立つと手を合わせて目を閉じる。何をお願いしているのだろう。祈願が終わり、目を開けてこちらへと振り向いた彼女に聞いてみた。

「東條先輩は何をお願いしたんです?」

「うーん、何やろ?」

 とぼける東條先輩。俺に教えるつもりはないらしい。俺は教えたのに、何か損した気分。まあ、言う前からバレてたっぽいけど。

「あの日を思い出すね」

 東條先輩の言うあの日。それはたぶん、俺が初めてここに来た時のことだろう。

 

 

 

 あれは俺がここに引っ越してきた日。特に何の目的もなく街をぶらついていたところ、迷子になった。初めての街だし、当たり前か。

 とりあえず、迷った俺が辿り着いた場所が神田明神だったのである。

「神社かぁ。参拝してみようかな」

 財布から五円玉を取り出し賽銭箱に投入、しようとしたところで後ろから肩を叩かれた。

「見かけない顔やね」

 白い巫女さんの服を着た小綺麗な女性。美人なうえに、大きい。何がとは言わないけど。

 今日引っ越してきたばかりで。そう答えようとして口を開いたが、声がかすれてしまって出なかった。思えば、親以外の人と会話をするのは久しぶりである。しかも美人。たぶん卒業式の日に、友達にはならなかったあいつに転校を告げて以来。

 軽く咳払いをして仕切り直し。

「今日引っ越してきたばかりで」

「なるほどな〜。この町は気に入った?」

 頷く。この町はすごい。こういう神社みたいな古い歴史ある建物があると思えば、人が大勢練り歩く電気街まである。俺の住んでいた場所は電車が一時間に一本しかないような田舎だったからな。

「どうして引っ越してきたん?」

「それは……」

 どうしてだろうか。なぜか初めて会ったこの人に話そうとしていた。ただ、やはり初対面の相手に話すことではない。だから静かに口を閉じる。

「音ノ木坂学院の共学化のためのテスト生でしょ?」

「知ってるじゃないですか!」

 母さんの学生時代の友人が理事長を務める高校が廃校の危機に瀕しているのだ。実を言うとそれだけではないのだが。って、

「なんで知ってるんです⁉︎」

「なんでやろな?」

「真面目にやっ、誤魔化さないでください!」

「佐々木君が1人でやってるだけやん」

 そうでした。俺がバカをやり始めたんでした。

「いや待って⁉︎俺の名前を知ってる⁉︎」

 これが東京か、都会なのか。個人情報なんて簡単にあっちいったりこっちいったりしてしまうのか。怖い。怖すぎるよ、東京。地元に帰ろうかな……あっ、無理か。だって。

 俺は賽銭箱にお金を投げ入れて願い事をする。友達がほしい。

「友達が作れるか心配なん?」

「……なんでわかったんですか」

「似たような気持ちを抱いていた人を知ってるんよ」

 気づけば巫女さんが隣で同じように何かを祈っていた。

「何をお願いしてるんです?」

「うーん、何やろ?」

 

 

 

「あの時、何をお願いしていたんです?」

「何やろね?でも」

 東條先輩は一度言葉を切る。

「もうすぐ叶うかも」

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