365日の魔法   作:アンパン食べたい

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飛鳥、ピンチ!

「以上で授業を終わりにします」

 チャイムが鳴り終わると同時に、教室を出ていく英語教師。茶髪のクールな先生は中々にかっこいい。アラサーくらいかな。

「アス、どうだった?」

 生徒たちが一斉に立ち上がる中、俺の前の席の真姫は後ろを振り向き話しかけてくる。他に話す人はいないの?あ、友達が少な……いや、何でもない。だからそんな怖い目で見ないで!

 真姫は紙を持っていない手で俺の頬をつねる。

「無視しないでよ!」

 どうやら俺の心を読んだわけではないらしい。とりあえずひと安心。痛いけど。

「わかったわかった。点数を言えばいいんだろ。97だよ、97」

 先ほど返却された英語のテスト。俺の点数は97。凛の英語の勉強に付き添っていたらいつの間にやらこんな点数を取れるようになっていた。これならさすがの真姫でも負けたんじゃないか?

「真姫は?」

「ふふっ、どう?」

 真姫は得意げな顔をして紙を見せつけてくる。書かれていた数字は3桁。まじですか。よくよく考えれば俺と一緒に真姫も凛の英語の勉強に付き添っていたな、うん。

「私の勝ちね。テストの点数ならそ(ry」

 聞き飽きた文句はカット。まただ。数学を除く全教科で真姫が俺より上。いいもん、数学だけは俺の方が少しだけ高かったから!

「アスにゃん!見て!」

 嬉しそうにこちらへと走ってきた凛は隣の席の空いている椅子に座ると俺にテスト用紙を見せる。45点。点数は低いけど、赤点回避。

「頑張ったな、凛」

「でしょでしょ!」

「昨日、あの後も勉強したんだもんね」

 凛の後ろから来たのは花陽。心配はしてないけど、一応確認。

「花陽も大丈夫だったんだよね?」

「うん。さすがに真姫ちゃんや飛鳥君みたいな点数は取れなかったけど」

「よく頑張ったな、2人とも」

 花陽と凛の頭を撫でる。ああ、撫で心地が良いな。これが女の子の、は⁉︎これってセクハラ⁉︎

 慌てて手を離すと、こちらを睨む真姫が目に入る。ですよね、ええ、わかってます。以後気をつけます。

「んんっ、これでみんな赤点なしね」

 そうなのだ。これで少なくとも1年生は赤点なし。後は先輩たち次第でラブライブエントリーが決まる。

 ガラガラ—

「ホームルーム始めっぞー」

「また後でね!」

 自席へと戻る凛と花陽。こちらに手を振る2人に手を振り返していると、顔に紙を押し付けられた。

「フガッ⁉︎」

「私の方が高いの!」

 押し付けていた紙を見せつける真姫。100点のテスト。

「知ってるけど?」

「わ、わかってないでしょ!私の方が凛や花陽より高いの!」

「身長が?……いや、わかってるよ、テストの点だろ?」

 でもそれがどうしたというのだろうか。あ、もしかして撫でて欲しいの?え、撫でていいの?

 じっと動かずに待っている真姫。恐る恐るその頭に手を伸ばして、

「おい佐々木、西木野。イチャつくなら後にしろ」

「「せ、先生⁉︎」」

 俺は慌てて手を引っ込める。目の前の真姫は顔が真っ赤である。俺もだろうけど。

「お前ら付き合ってんのか〜?」

「だ、誰がこんな奴と!」

 ニヤニヤしながら聞いてくる担任に真姫が即答。まあわかってるけどさ。わかってるけどさ、そんなすぐ否定しなくても。しかもこんな奴って。ちょっと悲しい。

「まあいいや。付き合ってる2人は放っておいて「付き合ってません!」はいはい、わかったわかった。学園祭の出し物を決めるぞ」

 そうか、もうそんな時期か。この音ノ木坂学院では夏休み前に学園祭をやるらしい。あと一ヶ月。テストが終わった今、学園祭の準備に全力を注げるわけだ。

「んじゃあ、何かやりたいことがある奴は挙手しろ」

 次々と生徒が手を挙げ、順に意見を述べていく。それらをまとめてみると、

 ・お化け屋敷(佐々木飛鳥のガイド付き)

 ・ホストクラブ

 ・執事カフェ

  etc

「よし、じゃあこの中から多数決で」

「おい、教師!おかしいでしょ!」

 俺は立ち上がり異議を申し立てる。明らかに俺に何かをやらせようとしている。しかも恥ずかしいことを。

「そんなことないだろ。みんなお前に期待してるんだ、うん」

 そうだろうか?俺にはいじめにしか見えない。自分たちのやりたくないことを嫌いな奴に押し付けるんだ。そうだ、そうに違いない。

 と、隣の席の三つ編みおさげをしたメガネ女子が手を挙げる。たしか彼女は放送委員だった気がする。

「私はメイド喫茶をやりたいです」

 グッドアイデアだな。メイド喫茶なら俺はきっと厨房担当かなんかだろう。そうすれば表に出なくて済む。

 ブーブー

「ん?メール?」

 授業中にメール。担任の目を盗んで俺はスマホを見る。送られてきたメールには写真が1枚添付されていた。それは、

「は⁉︎」

 思わず椅子から落ちそうになる。な、なぜだ。なぜこの写真がある⁉︎

 俺は急いで本文を読む。

『メイド喫茶になったら佐々木君にはメイドをやってもらうからね!』

 だ、誰だ!誰がこんなメールを送ったんだ!

 周囲を見回すと、隣の席の女子と目が合った。メイド喫茶をやりたいと言った子である。彼女は俺と目が合うと微笑み、口を動かす。"わ・た・し"と言っている。お前か!

 俺たちは小声で会話をする。

(どうしてこれを⁉︎)

(この間、街を歩いていたらファストフード店の前でたまたま拾ったんだよね)

 彼女から送られた写真。それは、俺とにこ部長が一緒に写っている写真。ただし、問題はそこじゃない。俺の服装だ。そう、メイド服。リーダー決めの時にどこかへと飛ばされた俺の黒歴史の証拠。まさかクラスメイトが拾っていたなんて。

(今すぐその写真を渡せ!)

(えー?どうしよっかなー)

(頼むからマジでお願いします)

 椅子から下りて土下座。本当にあれは処分しなければならない。真姫とか凛とかにバレたら大変まずいと思われる。主に俺の社会的な立場がなくなる気がする。

(でもタダで返すわけにはいかないよね〜)

 不敵な笑みを浮かべる彼女。四角いフレームの眼鏡の奥の瞳がギラリと光っている気がする。お、俺は一体何をされちゃうんでしょーか。

 

 

 

「なんでメイド喫茶なのよ、意味わかんない」

 部室へと向かう途中、真姫が俺を睨みつけながら苛立ちを隠さずに言う。実はあの後、俺がメイド喫茶が良いと一言言っただけでクラス中の女子が賛成。出し物はメイド喫茶に決まったのだ。しかも俺もメイドをやるらしい。まあ、あの写真をばら撒かれるよりは良いだろう。あれはやらせじゃないからな。

「だってほら、真姫のメイド服姿が見たいな〜、なんて」

 もちろん嘘。いや、見たいのは嘘じゃないけど。でもメイド喫茶をやりたいと言った1番大きな理由は脅迫である。放送委員さん、怖いです。

「うん、真姫ちゃんは可愛いから大丈夫だよ」

「べ、別に見たいなら見ても良いけど」

 花陽に褒められて照れているのかそっぽを向く真姫。これがツンデレというやつなのか。

「かよちんも可愛いから絶対似合うにゃ!」

「そ、そうかな?」

「俺もそう思うよ。メイド服の花陽は是非とも見てみたいな」

「飛鳥君がそう言うなら……」

 はにかむ花陽がすごく可愛い。ああ、メイドコスの花陽に尽くされたい、ご奉仕されたい。いやむしろ尽くしたい。花陽のためならもう一度自らの意志でメイド服を着ても……さすがにそれは無理でした。

「凛ちゃんも似合いそうだよね」

「凛が⁉︎むりむり、凛には似合わないよ!ほら、凛はあまり女の子っぽくないから!」

「まだそんなこと言ってるのか。凛は十分可愛いんだからもっと自信を持てって」

「にゃ⁉︎」

 元気付ける意味合いを込めて凛の背中を軽く叩く。すると、凛は茹蛸のように顔を真っ赤にさせる。

「気安く触るにゃー!」

「痛い痛い痛い痛い!やめろ、凛!引っ搔くな!」

 凛は怒ったようで、爪を立てて俺を攻撃する。そりゃ女の子に気軽に触ったのは悪かったけどさ、何もそこまでしなくていいだろうに。半袖の夏服になって露出している腕中が傷だらけである。

 これ以上やられ続けるわけにもいかないので、全力で走って部室へと逃げ込む。

「飛鳥!テストの結果は?ちなみににこはちゃんと赤点を取らなかったわよ」

 中では穂乃果先輩を除く先輩たちが勢ぞろいしていた。全員が全員心配そうに俺を見ている。いや、俺はそこまで勉強できない奴ではないですけど。

「安心してくd「ガチャ」」

「みんな赤点回避にゃー!」

 部室に飛び込んできた凛と、その後ろから花陽と真姫。その際凛が勢い余って俺と衝突しかけたのはわざとではないはず。……違うよね?

「凛。そうですか、良かったです。これから寒気が流れ込む気がしたので」

「海未先輩?さりげなく俺をdisってません?」

「あとは穂乃果ちゃんだけだね」

 みんな椅子に座って部室のドアを見つめる。しばらくしてドアが開いた。若干ぼーっとしていた穂乃果先輩は全員に見られていることに気付き、少し怯む。

「どうだった?」

「今日で全教科返ってきましたよね?」

「穂乃果ちゃん!」

「もっと良い点が取れると思ったんだけど……」

 みんなに注目される中、鞄の中を漁り、テスト用紙を取り出す穂乃果先輩。そして、

「じゃーん!」

 53点。一応言っておくと、別に自慢できる点ではないけど。それでも、赤点を回避できたということには違いない。

「どう、アスちゃん?穂乃果すごいでしょ?」

「え?あー、まあ」

「じゃあ撫でて撫でて〜」

「撫で⁉︎」

 俺の前に立つ穂乃果先輩。撫でるって、頭を?なんか似たような光景をさっきも見たような気がするけど、ゆっくりと手を伸ばし、

 パシッ

「穂乃果。早く練習をしましょう。ラブライブへのエントリーが決まったのですよ?」

 海未先輩が俺の腕を掴んだ。心なしか、力が強い気がする。なぜ?

「仕方ないな〜。よーし、練習だー!」

 言うが早いか制服を脱ぎ、練習着へと着替え始める穂乃果先輩。いや、ちょっと待って⁉︎

「穂乃果先輩⁉︎何を考えてるんです⁉︎」

「へ?」

 俺の声に反応して顔を上げた穂乃果先輩。脱ぎかけのワイシャツの下から覗くのは綺麗な肌。そして少しだけ見える布。布?ああ、ブラ、

「飛鳥」

 絶景を、ゲフンゲフン、俺の視界を遮ったのは俺の腕を掴んだままの海未先輩。頭の中で警告が鳴り響く。この後の展開はもう予想済みというか、お約束というか。ただ、一つだけ言わせてもらうと、

「俺は何もやってな、ゔ⁉︎」

「問答無用です」

 ぼ、ぼーりょくはんたい。

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