365日の魔法   作:アンパン食べたい

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なぜ俺はここに

「失礼しまーす」

 ドアを開けて部屋の中を覗く。しかし電気の点いていないその部屋には誰もいない。あれ、誰もいないの?

 とりあえず明かりを付けて部屋の中へと入る。そこには書類が散らかっており、学生鞄も置いてある。どうやら少し前まではいたっぽい。じゃあここで待つか。

 火曜、水曜と行われた定期テスト。そして木曜に返却。もうお分かりだろう。俺が今いる部屋と、そこに来た目的が。

 それにしても腹が痛い。いつも以上に強い正拳突きに襲われた俺の鳩尾は今もズキズキと痛む。そろそろ海未先輩を傷害で訴えようと思うんだけどどうかな?

「暇だ」

 生徒会長はどこへ行ってしまったのだろう。もうこの辺にレポート用紙を置いておいてさっさとμ'sの練習に参加しても良いだろうか?

 生徒会長のデスクに五分で仕上げたレポートを置く。踵を返そうとした時、ふと一枚の紙が目にとまった。

「オープンスクール?」

 その紙によれば、再来週の日曜日に学校を公開、中学生たちに見学に来てもらうらしい。その際に、部活動のアピール等もできるとのこと。へえ、アイドル研究部も何かやったりするのかな?

「あ、もう一枚ある」

 その紙を手に持ってみたところ、後ろにもう一枚重なってあった。ついでにそれも読んでみる。何々、『オープンスクールでの学校の評価によっては廃校を正式に決定する』?

「ええええええ⁉︎」

 それってかなり事態が切迫していないか?再来週には学校の存続が決まる?であれば、廃校を阻止するために活動できる期間もそれだけしかないわけだ。

 いや、ここであれこれ考えていても時間の無駄だ。早くこれをみんなに知らせないと。

 その書類を机の上に放り投げ、俺は生徒会室のドアを目指す。ドアノブに手を伸ばした時、ドアがひとりでに開いた。

「あ、生徒会長」

 ドアを外から開けたのは生徒会長だった。疲れた顔をしている彼女は、たぶん理事長室にでも行ってきたのだろう。

「あなた……」ガシッ

「痛っ!」

 突然、俺の腕を掴む生徒会長。彼女は海未先輩に掴まれて少し痣になっているんところをピンポイントで掴んでくる。生徒会長は思わず声を上げた俺を不思議そうにみる。

「あなた、そんなに貧弱なの?」

「そんなわけないじゃないですか。それより、何の用でしょう?」

「責任を取りなさい」

「はい?」

 それってよく小説とかである展開で、責任を取って結婚しろって……なわけないですよね、ええ。わかってますよそれくらい。ほんの冗談ですよ。少しくらい美人と結婚するという夢見たっていいじゃないか!

 

 

 

「これより、生徒会は独自に動きます。何とかして廃校を食い止めましょう」

 生徒会室には現在、6人の生徒が集まっている。生徒会長と副会長の東條先輩、あとは2年生の書記、会計、広報の人。そして俺。生徒会って5人だったのね。初めて知った。

 その2年生の人たちが顔を見合わせる。何か共通する思いがあるみたいです。ついでに彼女たちは俺も見る。うんうん、俺もそう思う……じゃないね、うん。どうせこいつ誰?とかなんでここにいるの?とか思ってるんでしょ。俺も知りたいわ。

「彼はテスト生よ。佐々木飛鳥、一年生。アイドル研究部に所属」

「どうも、佐々木飛鳥です。一応μ'sのマネージャーを」

「すごい!本物だ!」

 席を立ち、俺の周りに群がる先輩たち。ペタペタ身体中を触られる。俺は近所で飼われているペットか何かか。

「へえ〜、海未の言ってた通りだ」

「海未先輩が?何と言っていたんです?」

 まあ、あの先輩のことだからな、どうせ俺は弱いとか変態だとか言っていたのだろう。あれ、なんか目から汗が。

「話が進まないから席に戻ってくれないかしら?」

「「「す、すみません!」」」

 生徒会長が少し目を吊り上げただけで俺の周りにいた先輩たちは慌てて自席へと戻る。彼女たちにとって、生徒会長は相当怖い存在らしい。

「エリチ、どうして佐々木君が生徒会の活動に参加してるん?」

 ここで、みんなが気になる疑問を東條先輩がぶつける。もちろん俺も気になっていた。なぜ俺は生徒会室にいるのだろう。

「彼がテスト生なのにその自覚がないからよ。廃校に対する危機感が薄い気がするの。例えばレポート。今日のもひどい出来だったわ」

「だからって俺がここにいる理由には」

「あなたがもっとしっかり共学化に向けて意欲的に活動してくれていれば今回のような決定はされなかったかもしれないのよ?だから今回のことは佐々木飛鳥、あなたの責任」

 無茶苦茶じゃないか。たしかにレポートとかは適当に書いていたりしていたけれども。でもそれだって生徒会長がそれで良いって言ってた気が……。

「それでは何か意見はありますか」

 中々に威圧的な態度の生徒会長。そのせいか、他の生徒会役員の人たちが尻込みしている。口を開こうとしては、やっぱりやめて。その繰り返し。

 それに東條先輩も気づいたようである。

「言いたいことがあるんやったら言ってみ?」

「は、はい。あの、これって学校を存続させるためにどうするかって話し合いですよね?」

「ええ」

「だったら、もっと楽しいことを紹介しませんか?たしかに、学校の歴史や先生の紹介もいいと思うんですけど、なんだか堅苦しい感じがして」

 一理あるな。たしかにこの生徒会は堅苦しい。後輩が先輩に対して言いたいことを言えないというのもその例の一つである。ということは、μ'sも堅苦しいのか。俺はよく海未先輩に言いたいことを抑制されている。……なんか違う気がする。

「具体的には?」

「例えば、ここの制服って可愛いって言ってくれる人が多いんです!」

「それ良い!そういうのをアピールしていきましょうよ!」

 真面目な顔付きで話を聞く生徒会長。よし、俺も自分の意見を、

「俺はμ'sをアピールしたら良いと思います!」

「たしかに!スクールアイドルって人気あるよね!」

「いいね!μ'sに頼んでライブやってもらおうよ!」

「よし、じゃあ俺は早速リーダーと話を「他には!」」

 眉を吊り上げている生徒会長。あー、怒らせてしまったみたい。たしかに生徒会長とμ'sは犬猿の仲ともいえる関係である。これは地雷を踏んでしまったかもしれない。

「えっと、他には……」

 他にこの学校に誇れるものなんてあっただろうか?うーん、他に……。

 

 

 

「こ、これは?」

「アルパカです」

「メエエエエ」

 アルパカ。音ノ木坂学院で飼われている動物。あのことり先輩が『モフモフしていて可愛い〜』と言いながら抱きついていた動物である(花陽談)。しかも花陽が熱心にお世話をしている動物である。羨まし、ゴホン。きっと他の生徒にも好かれるに違いない。俺?丸焼きにしてやりたいほど憎いけど何か?

「結構他校の生徒にも人気なんですよ?」

 生徒会の人の説明。そうなんだ。だったらその他校に売り飛ばそうぜ。ことり先輩と花陽の愛情の受け皿とした貴様は不適切なんだ!……とか言っている俺が一番不適切だな、うん。ごめんね、アルパカ。

「メェ?」

「ちょっとこれでは……」

 少し否定的な態度の生徒会長。それにニュアンスで気付いたのか、アルパカのうち一頭が動いた。

「ンメェェェェ!」

 ペチャッ!

 

 

 

「あれ?生徒会長?」

「あー!アスにゃんもいるにゃー!」

 生徒会の人たちが懸命に生徒会長の服や顔についたアルパカの唾を拭き取っている最中、飼育委員の花陽とその付き添いと思われる凛がやってきた。練習着を着ているので、練習の途中で抜けてきたのだと思われる。

 それにしても、生徒会長に唾がかかった状態は少しあれだった。やっぱり三年生は違う。このぼんきゅっぽんの先輩にそれはマズイって。たぶん東條先輩でも同じなんだろうな。さすが三年生。えっ、部長?いえ、知らない子ですね。

「あなたたち……!」

「あ!μ'sだよね!」

「は、はい」

「ねえ、なら今度のオープンキャンパスでライブを「待ちなさい!まだ何も決まってないでしょう!」……はい」

 二年生の生徒会役員さんが権力に気圧される様子を眺めていると、凛が小声で話しかけてきた。

「これ、どういう状況なのかにゃ?」

「えっと、オープンキャンパスで何を紹介するかなんだけどさ。あの二年生の人たちはμ'sを推しているんだけど、生徒会長が反対をしているんだよね」

「テスト生。勝手な解釈をしないでくれるかしら?私はただ単にまだ何をどうするのか決まっていないという事実を言っているだけよ」

 生徒会長に睨まれる。しかし、反発したくなるのが人の性で。

「どうですかね。あなただってネット上でのμ'sの人気ぐらい知っているでしょう?だったら、μ'sにライブをやってもらうのになんの躊躇があるんです?」

「飛鳥君、生徒会長だよ?」

 心配そうに俺の袖を掴む花陽。俺はそれを振り払う。花陽には悪いが、ここはきっぱりと言わせてもらう。

「あなたの認めたくない、ただそれだけの理由でμ'sにライブをさせないんですか?それでも本気で廃校を阻止したいと思っているんですか!」

「言わせておけば!」

 パシンッ!

 頬に鋭い痛み。右手を上げた生徒会長の姿から、平手打ちをされたと判断するのにそう時間はかからなかった。

「エリチ!」

「アスにゃん大丈夫⁉︎」

「大丈夫。凛は下がってろ」

 立ち上がる。ヒリヒリする叩かれた頬を軽く撫でる。この程度、海未先輩に比べれば大したことない。東條先輩が生徒会長を宥めようとしているが、生徒会長は構わず俺に一歩近づく。

「手を出すんですか。図星だからですよね?」

「あなたに何がわかるの?ぽっと出のあなたがこの学院にかける想いと、私の想いは違うの。理解なんてできるわけない!」

「いいや、できます。俺だってこの学院の生徒なんです。この学校をを廃校にしたくないんです!それは俺だけじゃない!」

 後ろの二人を見る。この気持ちは俺だけじゃなく、μ'sのみんなが持っている。

 いや、μ'sだけじゃない。μ'sに協力してくれる人たち、生徒会の人たち、理事長。みんな学校がなくなるなんて嫌なはずである。それなのに、どうして生徒会長はそれを一人で解決しようとするのか。

「前にも言ったわよね?」

 しばらく睨み合っていると、生徒会長が切り出した。

「あなたたちのレベルは素人よ。そんな下手なパフォーマンスを大事なオープンキャンパスで晒すわけにはいかないわ」

「えっ……」

 後ろで、小さい声がもれた。花陽か凛かはわからない。けれども。

 ら拳を握り締める。あんたの話し相手は俺だろうが。その会話中に他者を、μ'sを馬鹿にするなんて。それも本人たちが話を聞いているのに。そういうのはムカつく。ふざけるな。

「あんたは!」

 カッとなり、勢いで生徒会長の胸ぐらを掴む。しかし、俺の怒りはそこで途切れた。生徒会長の後ろに立つ女子、彼女のその表情が目に止まる。

 東條先輩。時折深刻な顔をするも、基本的に彼女は少しおどけた様子でいたと思う。けれども、今はその彼女が沈痛な顔で立っていた。その顔が目に焼き付く。

 生徒会長の胸ぐらを掴んでいた手を離す。生徒会長は手で軽く払う。

「すみませんでした」

「次はないわよ」

 生徒会の面々を連れて立ち去っていく生徒会長。最後に軽く頭を下げた東條先輩に俺らも会釈を返す。

 

 

 

「ねえ、アスにゃん」

「凛?どうした?」

「アスにゃんって凛に怒ったことある?」

「あるよ。パシられた時とか、俺が財布にされた時とか」

「胸ぐら掴んだ?」

「いや。掴んでないね」

 いきなりどうした。俺が生徒会長の胸ぐらを掴んだからか?生徒会長のm……。

「……変態」

 いや違うから!決して邪な気持ちはなかったから!

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