365日の魔法   作:アンパン食べたい

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物事は勝手に決められてしまうものだ

 月曜日がやっときた。今日の放課後こそ西木野さんのピアノを聴くのだ。今は放課後目前のホームルーム中。そこで、結構重要な話が出た。

「今週の土曜日、1年生は校外学習に行く。目的はクラスメイトとの親交を深める、といった感じだな」

 えっ、そうなの?初めて知った。周りを見てみると、みんなさほど驚いた様子ではない。むしろ既に一緒に行こうねという話をしている。あれか、中学生向けの説明会とかでそういう話があったのか。

「そこで、班別活動をしてもらうので四人組を組んでくれ」

 予め知っていたからか、あっという間に女子たちが四人組を作っていく。やばい、組めなかったらどうしよう?まさか一人で行動とか?

「アスにゃん!凛たちと組もう!」

 おお!!今は凛が天使に見える!この間荷物持ちにされたけど!喫茶店の代金払わされたけど!……あれ、こいつ本当に天使?

「でももう一人必要だよ、凛ちゃん」

 花陽が凛に心配そうに言う。もし一人で溢れている人がいなかったらどうなるんだろう?三人で組むのか?いや、一人そうなっていそうな人を知っているんだが。主に髪の赤い人。

「あ、いたにゃ!あの子誘ってくるね!」

 教室内を見渡していた凛がどこかへ行き、戻ってくるときには一人の女子生徒を引き連れていた。予想通り赤い髪の女の子、西木野さんだった。

「それじゃあ班長を決めて班名簿を作成。職員室にいる先生に提出するように。以上でホームルームを終わりにするぞ」

 先生が教室を出ていった後、どの班も班長を決める話し合いを始める。しかしうちの班は。

「私、班長パス」

 それだけ言うと西木野さんは教室を出ていってしまった。今日も音楽室か。俺も行きたいのだが。

「早く班長を決めないか?」

「校外学習かぁ、楽しみだにゃ!どこ行くんだっけ?」

「それより班長を決めないか?」

「鎌倉だよ、凛ちゃん」

「分かって良かったな、凛。それじゃあ班長をだな……」

「そうそう鎌倉!……って何があったっけ?」

 ……こいつら、わざとやってるのか?いやそれはないか。だって花陽はいい子だし。凛?えっと、悪魔のこと?

「大仏とかあったよね」

「お二人さん?先に班長をですね」

「もう、さっきからうるさいよ、アスにゃん」

「お前らが無視するからだろ。まあいいや。早いとこ班長を決めよう」

「凛はやりたくないからアスにゃんがやって」

「俺⁉︎嫌だよ、何で俺が班長なんてやらなくちゃいけないんだ。花陽は?そういうのやらないの?」

「わ、私はそういうのは……」

 このままだと埒があかない。仕方ないな、こういう時は相場は決まっているんだ。

「西木野さんにやってもらうしかないな」

「「うわぁ……」」

 なぜか凛と花陽にひかれた。どうして?俺なんて中学校の時はよくその場にいなかったからという理由でこういうのを押し付けられたんだが?

 時計をちらっと見る。もうだいぶ時間が経つ。早くしないと今日も聴けない。あっ、そうだ。西木野さんを連れてくるという理由でここを抜け出せばいいんじゃないか?名案だな。さっそく実行に移そう。

「悪い。俺、ちょっと西木野さん探してくるから!」

 凛と花陽の返事を聞かずに俺は教室を飛び出す。今ならまだ西木野さんはピアノを弾いているかもしれない。入学して一週間、やっと彼女のピアノが聴ける。

 全力で廊下を疾走し、音楽室の前までやってきたのだが、ピアノの音は聴こえない。まだそんなに遅い時間ではないはずなのだが、もう帰ってしまったのだろうか?

 音楽室の扉を開ける。中には西木野さんがいた。なぜか変な顔をして腕立て伏せをしている。笑ってるのか?そしてもう一人。

「何してんの?」

「ゔぇえ!」ゴンッ

 俺に驚いた西木野さんが顔を床にぶつける。うわぁ、痛そう。

「あ、アスちゃん!」

「高坂先輩?どうしてここに?」

 高坂先輩が足元を見る。俺もそっちに視線をずらすと、先ほどまで腕立て伏せをしていた西木野さんが座っていた。

「西木野さんに私たちの曲を作ってもらおうと思ったんだ」

 へえ。西木野さんって作曲もできるのか。待て、それはつまり、

「高坂先輩は西木野さんのピアノを聴いたことがあるんですか⁉︎」

「うん!すっごい上手だったよ!それにね、歌も上手なんだ!」

 歌も⁉︎西木野さんって弾き語りができちゃうの⁉︎

「すごいね、西木野さん!」

「別にそれくらい」

「アスちゃんも聴きたいよね?」

「はい!」

 それはもうもちろん聴きたい。というより今まで一週間、彼女のピアノを追っかけてきたんだ。アイドルの追っかけみたいに。もう俺は西木野さんのピアノの熱狂的なファンなんだ。まだ一回も聴いたことないけど!

「盛り上がってるところ悪いけど、弾かないわよ?」

「え?何で?」

 立ち上がった西木野さんが俺の正面に立つ。相変わらず背が高いな。俺と目の高さが同じなんだもんな。心なしか鼻が赤い。鼻血が出ないか心配だ。

「別に私は誰かに聞かせるために弾いてるわけじゃないわ。それからあの腕立て伏せ。あれに何の意味があるっていうのよ」

「アイドルってみんなが思っている以上に軽くないってこと。はい、これ。歌詞だよ」

「……私の気持ちは変わらないわよ?じゃあ、帰るから」

 高坂先輩は西木野さんに紙を手渡してから彼女に何かを囁く。高坂先輩が手渡した紙、歌詞って言ってたけど誰が書いたんだろう?いや、それどころではないな。なんかこのままだと西木野さんのピアノが聴けなさそうじゃないか。

「えっと西木野さん。そこをなんとかピアノを聴か「じゃあよろしく頼むよ、西木野さん!よしアスちゃん!今日こそ海未ちゃんを説得してアスちゃんを私たちのマネージャーにしよう!」え?ちょっと待ってください!俺は西木野さんの!」

 強引に俺を引っ張っていく高坂先輩。なぜだ。なぜ俺はここまで来て西木野さんのピアノを聴けないんだよ!今日はオレンジジュース持ってないのに!あれか、やっぱりあれはラッキーアイテムだったってわけか、ちくしょう。

 

 

 

「海未ちゃーん!」

「遅いですよ、穂乃……なぜあなたがいるんです」

 高坂先輩に連れてこられたのは屋上。そこでは園田先輩と南先輩が練習をしていた。

「なぜと言われましても、高坂先輩に無理やり連れてこられたとしか」

 深いため息を吐く園田先輩。なんか申し訳ないです。

「さあ、海未ちゃん!今日こそアスちゃんを私たちのマネージャーとして認めさせるよ!」

「認めません。いいですか、穂乃果。まず私たちがやるべきなのはいち早く楽曲を用意することです。マネージャーなんて絶対いないといけないというわけではないのですから、そんなもののために労力を使わないでください」

 あれ?高坂先輩、さっきまで西木野さんに作曲を依頼するために音楽室に行ってたんだよね?園田先輩、誤解してる?これは高坂先輩のためにも誤解を解いておいたほうがいいのでは?

「違うよ、海未ちゃん。その曲を持ってきてくれるのがアスちゃんなんだよ!」

 ……えっ?どういう意味だ?それは俺に作曲しろということですか?無理ですよ?

「佐々木さんは作曲できるのです?」

「いえ」

 怪訝な顔をする園田先輩。俺もわけがわからないので、高坂先輩を見る。

「アスちゃんが作曲するんじゃなくて、作曲できる子を説得してくれるんだよ!」

「ええ⁉︎無理ですよ!どう西木野さんを説得しろと⁉︎」

 俺の反応を見て園田先輩が呆れたような表情をする。

「どこからどう見たって、たった今穂乃果が作った出鱈目な理由ではないですか」

「じゃあこうしたらどうかな?アスちゃんが一週間以内に西木野さんを説得できたらアスちゃんを私たちのマネージャーにする」

 ここで話に入ってきたのは南先輩。……というか、南先輩もアスちゃんと呼ぶんですね。

「本気で言っているのですか、ことり⁉︎今から一週間後といったらライブまであと二週間しかないじゃないですか!もし彼が失敗したら……」

 え、そうなの?それってもし俺が失敗したらそのライブってのに間に合わなくなるってこと?いや、そもそも二週間の時間で曲を歌って踊れるようになるのか?

「大丈夫だよ、海未ちゃん!アスちゃんならきっとやってくれる!」

「高坂先輩⁉︎何を根拠に⁉︎」

「占いだよ!」

「「占い?」」

 俺と園田先輩の声がハモる。占いってそんなに信用できるものなの?明らかに根拠になってませんよね⁉︎

「海未ちゃん、アスちゃんを信じて!」

「信じないでください!」

「海未ちゃん!」

 冗談じゃない。なぜ俺がそんな責任重大な任務を遂行しなければならないのだ。ここは園田先輩の常識的な判断に期待するしかない。

「そ、そこまで言うのなら……」

「いや、信じないでくださいよ!」

「よし、じゃあ私たちは神田明神に基礎練習に行こう!」

 とっとと屋上から出ていってしまう高坂先輩。それに続く南先輩。園田先輩もすぐ追いかけるのかと思いきや、彼女は俺の前で立ち止まる。その目からはハイライトというものが見られない。背筋がゾクッとする。

「いいですか?もし失敗したらその時は……」

 その続きを言うことはせずに、彼女は屋上を立ち去った。どうしよう、足の震えが止まらないんだけど。彼女、剣道とか弓道とかできそうな感じだよね?

 どうやら俺のハイスクールライフはハードモードに突入したらしい。

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