365日の魔法   作:アンパン食べたい

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寝不足です

 翌日。どうやったら西木野さんを説得できるか、一晩かけて悩み続けた俺は寝不足。西木野さんを落とす前に自分が夢の世界に落ちそうだった。

 重い足取りで辿り着いた教室。中に入ると、凛が飛びかかってきた。「班長おはようにゃ!」

「凛、おはよう……え?」

 今彼女は何と言ったか。班長?俺が?

「昨日アスにゃんがどこか行っちゃったまま帰ってこなかったから罰としてアスにゃんを班長にしたんだよ」

 何それ?いや、待て。俺以外にもいなかった人がいたはずだ。

「西木野さんは?彼女もいなかったよね?」

「来たよ、アスにゃんがどこか行っちゃった後、すぐ」

 気が滅入って一瞬ふらつく。やばい、なぜか色々とやらなければならないことが積み重なっていく。というより、何ちゃっかり教室に戻ってるんだ、西木野さんは。

「まあ、がんばるにゃ〜」

 凛は自席、というか俺の隣の席へと戻っていった。おかしいなぁ。俺がその場にいなかった西木野さんを班長にしようとした時はひいてた気がするんだけど?なぜです俺にはペナルティが発生しているんだ?

 頭が痛む状態で席に着くと、同時に眠気が襲ってくる。このままだと授業中に寝てしまいそうだ。寝てしまったら高坂先輩と同じじゃないか。何とか起きていないと。

 斜め前の席の西木野さんを見る。後ろからなのでその表情はわからないけど、頬杖をついた状態で微動だにしない。何をしているんだろうか?

 隣の凛を見る。落ち着きがなく、足をブラブラさせている。ゆらゆらゆらゆら……はっ⁉︎ダメだダメだ、これじゃ催眠にかかって寝てしまいそうだ。

 目の前の席では花陽が読書をしている。そうだ、花陽の髪の本数でも数えてみるか。1本、2本、3本……zzz。

 

 

 

「ねえ」

 誰かに肩を叩かれた気がする。あれ、花陽の髪は何本まで数えたっけ?思い出せないや。というより目の前が真っ暗だ。

「とりあえず、顔上げたら?」

 ああ、俺は顔を机に伏せていたのか。どうりで暗かったわけだ、あはは……は⁉︎寝てしまった⁉︎

 慌てて顔を上げる。目の前には特徴的な赤い髪をクルクルと弄っている西木野さんがいた。というより、教室には他に誰もいない。

「みんなは?」

「体育の時間。今日は外でやってると思うけど」

 体育か。ということは今は四時間目か。もしかして俺はその間ずっと寝てたのか?ってか、誰も俺を起こして行かなかったんだな。

「あれ?西木野さんはなぜここに?」

「私は体調が悪いから見学。保健室に行くところだったのよ。そしたら教室で寝てる人がいたから」

「起こしてくれたのか、ありがとう」

「別にいいわよ」

 俺の不思議そうな視線に気付いたのか、彼女が説明してくれた。体調が悪いらしい。その割には元気そうだが。

「寝不足なのよ」

「へえ。俺もだよ」

「そう。ならアスも一緒に保健室に行く?」

 そうしようかな。今から体育に出るのも少し気が乗らないし、そもそも体育は俺だけ別メニュー。はっきり言って面白くない。だいたいいつも陸上競技くらいしかやらないんだもんな。って、今彼女は何と言った?

「アス?それって俺のことだよな?」

「?……ダメだったかしら?」

「いや別にいいんだけど」

 なにせ、今まで言われたあだ名がアスにゃんとか、アスちゃんだもんな。アスなんてまともなあだ名で呼ばれたのは久しぶりだ。それにしても、西木野さんは積極的だな。ほとんど会話したことのない男子を名前の呼び捨てならともかく、あだ名をつけて呼ぶなんて。

 しかしどこか彼女に違和感を覚える。あれか、目の下にクマができているからか。そのせいで彼女の綺麗な顔が台無しだ。いや違うな。もっとこう内面的なことのような気がする。

「なら早く行きましょう。いつまでも教室にいたら、サボりだと思われるわよ?」

 それもそうだな。西木野さんに続いて教室を出る。立ち上がったら少し頭が重かったので、彼女に相談してみた。

「当たり前よ。数Ⅰの先生が教科書でアスを何度も叩いてたもの」

 数Ⅰ?うちのクラスの担任だな。最初の自己紹介の時もそうだけど、あの先生にはやられっぱなしだな。いつか仕返ししてやろう。

「顔、酷いわよ?」

 西木野さんに手鏡を渡された。酷いって、そりゃイケメンじゃないけどさ。

「……何これ?」

 なぜか俺の両頬に猫のヒゲのようなペイントがされている。某猫型ロボットか。まあ犯人は特定できた。あとは昼休みまで待つだけだな。今に見てろよ、凛。

「落としてくるから先に保健室に行ってていいよ」

 彼女と別れて俺は水道に向かう。これ、水性だよな?油性じゃないよな?もし油性だったらどうしよう。……フリじゃないからな!

 

 

 

「失礼します」

 保健室のドアを開ける。中にいた先生に体調が悪いと言い、ベッドで寝る許可をもらう。ペイント?落ちたよ、水性だった。

 隣のベッドにはカーテンがかかっていた。たぶんこの先に西木野さんがいるんだろう。彼女は今寝ているのか?……西木野さんの寝顔か、見てみたいな。いやだってあの西木野さんだよ?あれだけ顔立ちが整っている女の子なんだよ?……睡眠不足で頭がおかしくなっているのかもしれない。寝よう。

 ベッドに潜り込み、目を閉じる。しかし、なぜか眠れない。西木野さんの違和感が気になるのだ。仕方ないから西木野さんに覚える違和感について考えてみることにした。といっても、俺は西木野さんに関して何も知らないわけで、考えることもほとんどない。いや、優秀な探偵はどんな少ない情報からでも答えを導き出すのだ。ならば答えを出して見せようじゃないか!

 朝、彼女は頬杖をついて動かなかった。寝不足だと言っていたから寝ていたのだろうか?あれ、それって珍しいな。西木野さんが教室で寝るところなんて見たことない。よっぽど眠かったんだな。

「……ダメだ、全く思いつかない」

 やはり俺には探偵は向いてないのか。

「いや、これは俺などの見習いには難しすぎる問題だったんだ、うん。そうに違いない。このレベルの問題は名探偵でも悩むんだよ、きっと」

 そんな難問じゃ俺のようなヒヨッコには無理なわけだ。だって情報が少なすぎるんだもん。普段話さないし。西木野さんって特に誰とも話さないよな。……ん?誰とも話さない?

「あああああ⁉︎」

 気付いてしまった。ついに違和感の正体に気付いてしまった。それは……

「静かにしてね、ここ保健室だから」

「あ、すみません」

 カーテンを開けて保健室の先生が注意をしてきた。申し訳ないです。

 では、気を取り直して。西木野さんの違和感、それは彼女が俺に話しかけてきたということだ。普段は誰とも話さない彼女が俺に話しかけてきた、これは前例がない話だ。

 では、次だ。なぜ彼女はいつになくフレンドリーだったのか。しかも人への気遣いがしっかりできている。あれ?でも気遣いができるなら授業の前に俺を起こす?まあその辺はおいておいて、理由を考えよう。うーん、睡眠不足で頭が少しおかしくなったとか?……それは俺のことでした。

 じゃあそのフレンドリーな彼女が素なのか?いつもは冷たいけど、時々フレンドリー。ツンデレみたいな感じ?いやデレとは少し違うか?

 もしかして、今の状態の彼女なら作曲の依頼を受けてくれたりするのか?いけそうな気がする。今なら吟遊詩人になれそうな気が(ry

 自分のベッドのカーテンを少し開けて、隣のカーテンを見る。さすがに寝ているところを起こしたら怒られるよな。彼女が起きるまで待つか。

 真上の天井を見上げる。何の装飾も施されていない真っ白な天井に、一点だけポツンと付いている火災報知器。何となくその火災報知器を眺めていると、それが二つに見えた。

「あれ?」

 目をこする。もう一度火災報知器を見る。一つだ……あれ、二つ?輪郭がぼやけていてはっきりしない。やがて、白い天井がだんだんと暗くなっていく。もしかして、停で、ん……zzz。

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