365日の魔法   作:アンパン食べたい

9 / 59
黒くなければ歴史はいいものだ

「凛は食べ歩きしたいをしたいかにゃ〜」

「わ、私は海を見たいです」

「別に何でもいい」

「いやさ、せっかく古都鎌倉行くんだったらどこか寺社に行きましょうよ。歴史ある街だよ?いい街だよ?何でみんなしてそういうところを望むわけ?というか、何でもいいが一番困るんですけど」

 木曜日、放課後。俺たち校外学習第四班は現在、教室にて作戦会議中である。各々の机には俺からの差し入れということでオレンジジュース。しかし、会議はまったく進んでいない。

 机の上に広げられた複数の雑誌。図書館にあった奴は全て他の班が使っていたので、昨日わざわざ中古本屋に行って買ってきたのだ。おかげで財布がだいぶ軽くなった。

「じゃあアスにゃんはどこ行きたいのー?」

「銭洗弁天!」

 何を当たり前のことを。この軽くなった財布を再び重くするために是が非でも銭洗弁天で金を洗わねば。金運アップ、金運アップ!

「ふふっ」

「西木野さん⁉︎今鼻で笑ったよね⁉︎」

 何がそんなにおかしいんだ。こちとら真剣に金運アップを望んでいるのに。君はお金持のお嬢様だとでもいうのか。あ、たしかにそれっぽい。こう、品があるというかなんというか。

「あ、そうだ!凛ね、大仏の中に入ってみたいにゃ」

 なるほど。たしかにそれはいい案かもしれない。

「決まった?私早く帰りたいんだけど?」

「西木野さんは本当にどこでもいいの?」

 西木野さんは立ち上がって頷く。そしてそのまま教室から出ていこうとする。

「待って!西木野さん、頼みが」

「お断り!いい加減しつこいわよ?」

 即答。まだ内容も言ってないのに。まあ昨日と今日の二日間で彼女の耳にタコができちゃうくらい何回もお願いしたんだけどね。その度に彼女に睨まれたり、怒られたり。ということで、この程度ではへこたれない!

「そこをなんとか!」

「それ以上しつこくするんならストーカーで訴えるわよ!」

 と、彼女の後ろに誰かが立った。あ、生徒会長。相変わらずスタイルが良くて腰に手を当てて立っている姿勢が絵になっているな。しかしその顔には青筋を立てている。何かに対して激怒しているようだ。

「悪いけどいいかしら?」

「誰よ……す、すみません」

「ぷっ」

 生徒会長に対して無礼な態度をとった西木野さんが睨まれる。思わず吹き出してしまう。今度は俺が睨まれる。

「そこの笑ってる男子、あなたに用があるのだけれど」

「俺ですか?」

「おお!告白かにゃ?」

「り、凛ちゃん!」

 生徒会長相手に、しかもあの不機嫌そうな顔をしている人相手にちゃちゃを入れる凛。すごい度胸だな。

「あなたは今日が何曜日かわかっているの?」

 そしてそれを華麗にスルーする生徒会長。さすが、クールですね。それにしても曜日か。たしか木曜だったよな。あれ?木曜?

「気付いたかしら?」

 ……気付いちゃった。今日は木曜日、レポートの提出日じゃないですか。

「さて、今すぐ生徒会室に来てレポートを作成してもらおうかしら?」

「いや、でも。今はちょっと手が離せなくて」

「大丈夫だよ!凛たちに任せて!」

 笑顔を見せる凛。しかしその笑顔はいつかみたあの悪魔のような笑顔。いや待て。嫌な予感しかしないぞ。全然任せられない!

「良かったわね、頼れる友達がいて。さ、行きましょう」

 俺の腕を引っ張る生徒会長。ただ俺もそのまま連れ去られるわけにはいかず、全力で抵抗する。

「いや、良くないでしょ!明らかにあの顔は何か企んでる!」

「なーんにも、凛は企んでなんかないにゃ〜」

「ほら、企んでないって言ってるじゃない」

「会長⁉︎」

「え、えっと佐々木君。なるべくまともなものになるように善処するね?」

 うっ。花陽、そんな目でこっちを見ないでくれ!思わず任せようと思っちゃうじゃないか。いやもういいや、任せよう。

「よし。頼んだ、花陽」

「えー⁉︎何で凛はダメなのにかよちんはいいわけ⁉︎差別にゃ!」

 席を立った凛がこちらに飛びかかってくる。猫のようにしなやかに動く彼女は俺の顔を引っ掻く。

「痛い痛い!やめてくれ、凛!」

 思ったよりすぐに離れる凛。

「わかったよ、まともなのにする。西木野さんも一緒に考えよ?」

「そうね。アスがいないなら」

 西木野さん?まあここは突っ込まないであげておこう。せっかく西木野さんが他の誰かと作業をするわけだしな。俺ってなんていい人なんだろう。感激して涙が出そうだ。……別に悲しいわけじゃないんですよ?

「じゃあ行きましょう、生徒会長」

 俺は生徒会長と一緒に教室を出た。とっととレポートを書いて早く話し合いに参加し直そう。

 階段のところまで来た時、教室の方からタイミングを見計らったかのように声が聞こえた。

「じゃあとっておきのコースを考えるにゃ!銭洗弁天は廃案!」

 ……当日休もうかな。

 

 

 

「だるい……」

 握っていた三色ボールペンを机の上に投げ出す。どうも、生徒会室に缶詰めにされている作家のササキアスカです。現在、今日〆切である共学化テスト生のレポートを頑張って書いています。金髪ポニーテールのスタイル抜群な編集者と部屋に二人きりです。少し、いやかなり緊張しています。それにしてもこの間のおさげの先輩はいないのだろうか?

「先週はもう一人いましたよね?今日はいないんですか?」

 生徒会長のデスクに座ってパソコンを操作している生徒会長に聞く。何の作業をしているんだろう?統計?

「希のこと?希は今日は神社でバイトがあるらしいから帰ったわ」

 神社でバイト?巫女さんか何かか?あ、そういえば家の近くに神田明神っていうところがあったな。引っ越してきた日に一回だけお参りに行ったっけ。そうそう、あの時に会った巫女さんがスピリチュアルがどうたらこうたらって、

「あー⁉︎あの時の巫女さんが希先輩なのか⁉︎」

 なるほど、だから先週会った時既視感があったのか。うん、納得。

「どうしたのよ、いきなり大声なんて出して。書き終わったの?」

「まだです」

 先ほど投げ出したボールペンを握り直す。しかしなあ。毎週毎週レポートを出せと言われてもそんなに書くことないんだよな。まだ2週目だけど。

「そんなに深く考えなくてもいいのよ?2行、3行程度のものでも大丈夫よ。どうせ誰も見ないんだし」

 生徒会長、あなたがそれを言ったらおしまいでしょうが。まあ、お言葉に甘えさせていただきますけど。

『スクールアイドルのμ'sが結成された。そういうものがあると、男子からも人気が出るかもしれない』

 こんなんでいいだろ。よし、生徒会長に提出。

「どうぞ」

「どうも」

 生徒会長にレポート用紙を渡した時、パソコンの画面が見えた。映っていたのはスクールアイドルのサイト。音ノ木坂学院アイドル部μ's。

「あ、生徒会長も知ってたんですね。というよりこういうスクールアイドル専門のサイトなんてあったんですね。応援しているんですか?」

「……私はただこの学校の生徒会長として生徒の活動を見守っているだけよ」

 そういうと生徒会長はパソコンを閉じて鞄にしまった。

「彼女たち、ライブやるんですよね。楽しみです」

「私は彼女たちが上手くいくとは思えない」

「なぜです?」

 彼女の言葉に、一昨日のことを思い出す。彼女もアイドル研究部の先輩と同じように、μ'sを認めないと言うのか?

「そんな思いつきで行動して成功できるのなら、どんなに楽なことでしょうね」

 カッカしてくる頭をなんとかコントロールする。一昨日の二の舞じゃダメだ。冷静に、落ち着いて言葉を交わせ。

「でも、彼女たちμ'sは努力しています」

「努力が必ず報われるとは限らないんじゃない?いくら努力したって、失敗するものは失敗するのよ」

「でもそれはやってみてからじゃないとわからないですよね?結果が出る前に決めつけるものではありません」

「だったら成功という結果を見せてほしいわね」

 何を上から。生徒会長のくせに、廃校に対して何か手をうとうとは思わないのか?さっきもレポートを適当でいいみたいなことを言って。

 心の奥であの何かが動き出した。

「だったら見せてやりますよ。結果を、廃校阻止という結果を。そうすればあなたは認めるでしょう?」

「なぜあなたが?あなたはμ'sの一員じゃないでしょう?」

「俺は、俺はμ'sのマネージャー(仮)ですから」

「……はあ?」

 人を呆れたような目で見てくる生徒会長。その顔には狂ったのかしら、とはっきりと書いてある。今に見てろ、吠え面かかせてやるからな!

 俺は踵を返してまっすぐ部屋の外へ。こうしちゃいられない。またしても西木野さんに作曲してもらわなければならない理由が増えたのだ。早く家に帰ってプランを練るぞ。

 俺は全力ダッシュで帰宅した。

 

 

 

 余談だが、その日は新たにできた黒歴史に悶え、とてもじゃないがプランを練ることはできなかった。誰だよ、マネージャー(仮)とか言った奴。馬鹿だろ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。